序章
―――――――月夜の海岸。
ストレートロングの金髪を海風に靡かせる。
砂浜は、石灰成分が豊富なのか、真っ白。青白い月光を一心に受け、輝く。
美しい…
砂浜だけは…
海は濁った緑色。かつて…もう何百年も前の話だが、この海は透き通る蒼だった。
久方ぶりに来て、変わり果てた海を見つめる美女。
眉間が小刻みに動くのは、悲しみからか、或いは怒りか…
海風の吹き抜ける音が響く。
塩の香りも、どこか濁っているようで、美女は今にも泣き出しそうな、それでいて凛とした表情を表した。
だが、眼は逸らさない。現実を受け止めなければならない。
何かの気配を感じて、ふと横を見ると、端正な顔立ちの少年がたっていた。
今の今まで気が付かなかった自分自身に、美女は少しだけ目を見開いた。砂浜を歩く音すら聞こえなかった。
(常に警戒はしているのだが…やきがまわったか…)
少年の黒いコートは闇夜に溶けるようで、どこか存在が希薄だ。
ダークブラウンのセミロングの髪がやはり海風に靡いている。
海をただ見つめる…
16~17だろうか…だが、醸し出している雰囲気が、さらに年上に見えさせる。
少年は、美女に気付いていないのか、単に無視しているのか。視線が当たっているはずなのに、全く反応を示さない。
そのうち、少年はトサリと砂浜に座り込んだ。鳴き砂だったのか、砂が軋む。
(何なんだ…こいつは…)
少年はどこから持ってきたのか、小石を波に向かって投げる。
チャポッと軽い音を立てるが、波紋を広げることはなく、波に飲まれて、消える…
美女は、立ち去ろか、去るまいか考えていたが、突然少年が呟いた。
「嫌な海だな…」
美女は、少年を凝視する。
濁っているといっても、ここは海水浴場。ヒトが…泳ぎたくて来る場所だ。
それを嫌とは…変わっている…
「あんたも、そう思ってるんだろう?」
何と大胆な少年だ。明らかに自分より年上の美女に敬冠詞もつけずに話しかけるとは。
しかし美女はさして気にするでもなく、ただ、あぁ、と頷いた。
しばらく沈黙が訪れる…少しだけ、潮の香りが澄んだ気がした。
ふと気が付くと、少年は消えていた。
またもや気配もさせずに…
それがヒトならば、幻覚かと疑うこともあるだろう。だが、少年の座った位置は、確かに窪んでおり、孫藍を証明していた。
美女は別段不気味にも思わなかった。不思議には思ったが、何故か清々しい気分になれていた。
縦に裂けた瞳孔が瞳の中で輝く。
月は既に傾いていた。
月に向かって手を伸ばす。大地に近づく月は大きく、近く、掴めるような気さえする。
我らに、月の加護があらんことを…
美女も砂浜を出ていった。
奏でられようとする演奏の序曲
まだ、本編に入ってすらいない
小夜曲は長い
多々の楽器が奏でるセレナーデ
ヴァイオリンのソロは終わりだ
これから、次々に楽器が加わる
さぁ、はじめよう…