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若さ故の一時の過ち!?兜蟹、「時渡り鳩」を矢で落とす!

 時は現代、私は鳩である。


 はじめまして、な気がするな。私はレース鳩の「P・ジョン」という者である。私が慕う飼い主様の下で、日々レースの為の鍛錬に励む若鳩だ。む、レースとは装飾の為の布の事ではないぞ?所謂いわゆる競争のことである。



 ・・・しかしてその実態は只の鳩という訳ではなく。旧約聖書のハト、知らない人にも分かり易く教えれば。「世界の生命を滅ぼした大洪水の中、自分の家族と全ての種類の動物のつがいたちと共に「箱舟」に乗ったノアという人物に洪水の終わりを教えた」ハトの。その末裔である。


 もう一度言おう。私は旧約聖書の「創世記」。そこに記されたハトの子孫であるのだ。つまりは誇り高い・・・ん、品種が違うとかそういう突っ込みはなしだぞ?まあ、あれだ。所謂「隔世遺伝」というやつだ。たまーにいるんだよなあ、そういうスーパーアニマルが。人間?知らんがな、ノアの子孫とか。


 まあご主人様がノアの子孫なのかどうかは知らんがな?というか、ご主人様は日本人だ。驚くほどの「平たい顔」である。せめて鼻くらいは高くして欲しかった・・・神というのは不公平だな。

 まあでも雨が降れば私たち鳩を小屋に呼び戻し。それぞれの餌の配分にまで気を遣ってくれる。そんなご主人様のことを私は慕っているのだが・・・


 「ハアーッツ!!ハアーーッッッツ!!」


 見てのとおり、ご主人様が死にそうだ。私は窓の外からしか見ることが出来ないがな。触れてやることも出来はしない。

 ああ、小屋からは出ようと思えばいつでも出られるんだ。「そういう風に飼い慣らされた」私たちはな。そういうつくりの小屋なんだ・・・上の方に簡単な「扉」がある。猫は勿論、蛇も侵入出来ないゾ。


 さて、そうしている内に私は思い出していた・・・ご主人様がいつか話していた、「万病に効く、今は絶滅した日本の薬草」の話を。それがあればご主人様は助かるのだ・・・と。私は密かに決意を固めた。


 実は私には特別な力がある。それは空を飛び、そして時を駆ける力・・・即ち「時渡り」の能力だ。しかし、その力を受け継ぐものは。神からその扱いについて指導されている・・・「見聞を広めたりする分にはいいけど、絶対歴史を変えるようなことをしたりしちゃダメだからネ。」と。


 だが、敢えて私は神に逆らう!何故なら神は近頃ろくに仕事をしないからだ!


 神とは違う、私の主!その人の為。私は―


 ―歴史を変える!


 「ポッポドウワーーッツ!ポッポドウワーーッツ!!」


 ヤマバトともレース鳩とも違う様な奇妙な鳴き声を発した後。P・ジョンはきりもみ回転をしながら空に舞った。


 するとなんの前触れもなく空が歪み。虹色のゲートの下に現れたシャボン液の歪みのような所をくぐり。P・ジョンは時空を跳躍した・・・


 「違う!跳躍ではなく飛行である!」


 そうそう。時空を飛行したのだ。






 「うおおおお!!うおおおおおお!!」

 時は戦国、俺、農民!

 俺は農民の息子、大兜武蔵太おおかぶとたけぞうた!誰も知らねえ無名が一人だ!ん、でも何で農民が雄たけびを上げながら山を駆け巡って猟師の真似事してるんだ、って?そりゃあ農民だって獣を狩りもするかもよ・・・

 

 って、いやいやそうじゃねえの!そうじゃねーんですわ!


 実はこの俺、傭兵志望!いつか傭兵になってこの名と給料を上げる為、武芸の訓練をしてるのさ・・・我流だがな!金もなければ師匠もいねえ!まあ上手くいけば今日の晩飯に一品加わる実益を兼ねた趣味なのさ!晩飯じゃなくて明日の食卓かも知れねえがな、肉が並ぶのは。

 ・・・皮算用?んだよお、皮とか別にいらねえぜ?肉くれ肉。


 まあ、本音を言うと俺は肉が食いてぇんだよ、肉がな。


 「んあ~~~~~まーーー適当~~~にあそこの枝に止まってる鳥でも射ってみっかな~~~あ?」

 「・・・えいやっ~~~あホオゥ!!」


 しかし俺の放った矢はまるで見当違いの方向に飛んでいき、枝に止まってた鳥は逃げていきやがった。ま、しゃあねえな。それにどうせ小鳥なんざぁ小骨ばっかなんだろ?


 しかしその時奇跡が起こった!


 「ん?なんだ・・・虹?あ、消えた」

 兜蟹が放った弓が描く孤の先に、何故か一羽の鳩が現れた!


 「ポッポドウワーーッツ・・・!?ポッポドウワーーッツ!!?」

 その鳩はまぎれもなく時空を越えてきたばかりのP・ジョンそのものであった。

 そしてP・ジョンのハトムネに弓、命中!

 

 「ドウック・・・ドウワーッツ!!!」

 そしてP・ジョン・・・落下!



 「おっ、何だ?なんかあたったぞ!ラッキーだなこりゃあ!」

 「ドウックドゥ・・・ドゥック・・・・・・ドゥ。。。」


 鳩は森の木々の隙間を抜け、背の低い草むらの中に落ちた。

 「キジみてーな羽の鳩だなあ・・・これで飾りでも作れば売れっかなあ?うへへ、母ちゃん喜ぶぞ!」

 自分の手の中でみるみる力が弱まっていく「見たこともない鳥」をその手に収め、兜蟹はその日の「練習」を終わらせて引き上げることにした。


 「ところでこの足の輪っかはなんだ?漢字に・・・象形文字?学がねえからわかんねえ!」

 それはレース鳩に付けられた、住所や連絡先等を記す輪っかであった。これがあればレース鳩が迷いバトとなってしまった際に、その鳩がレース鳩であることを知って捕獲した人物が飼い主の元に鳩の所在地を伝えてくれるのだ。





 

 「中々筋肉質じゃないのこのハト。いけるいける」

 「獲物はこれきりだったがな!いけるぜ!」

 「昔かっぱら・・・もとい、貰ってきた軍鶏しゃもに似てるのう。うまいな」

 その夜、P・ジョンは大兜家の食卓に並んでいた。

 自分の主人の運命と歴史こそ変えられはしなかったものの、食卓に大きく華を添えたP・ジョンであった。

 羽から骨身の内の肉部分までを。毟り取られる一羽の鳩あり。






 その頃―

 「うーん、すっかり腹の調子もよくなったわい!」

 その日一日、そして前日を床に伏して過ごしていた白髪で鼻の低い老人。彼は食あたりから立ち直り、すっかり快復して。小屋までハトの様子を見に行った。

 この二日、しっかり餌をあげられなかった、と心配しているのだ。

 言うまでもなくここは現代。しばらく前までP・ジョンの居た時間軸である。


 「あいつ、帰りが遅いなあ・・・」

 と、老人はP・ジョンの身を案ずる。


 「・・・まーたどっかでカラスなんぞとやり合ってるのかねえ?あいつは強いからなあ・・・」

 しかし、P・ジョンがどこに行き何をしたのか、そして誰の為に何をしようとしたのかということは。流石にこの老人には分かりはしなかった。


 若さゆえの過ち。ひとときの過ち。それは誰にでもある。

 それをP・ジョンは彼自身の命を以って。我々に教えてくれたのだ・・・


 無闇に歴史を、或いは正しくあるべきものを変えようとしてはいけない。それが我々が学ぶべき教訓である。


 ・・・ところで、レース鳩は捕まえても食べちゃあいかんよ?ああ、公園のハトも食べちゃあダメだ・・・

 多分な。余程死にそうなら仕方ねえよ。そうでなけりゃあ、食っちゃあいかんぞ。

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