右も左も死の香り!?兜蟹、刀で真っ二つ!
ここは戦場、俺、無策!
そしてやっぱり馬もねえ、農民上がりは大抵歩兵からのスタートだ。だけどやっぱりウズウズするねえ、黒色火薬とむせかえるような人の香り。法螺貝の音にやかましい鬨、そして馬の蹄と無数の兵士の足音が地面を地鳴りのように揺らす音のせいで。頭の歩脚がワシワシしてるぜ。
さて、俺は傭兵になる為に旅立った訳だが。それから色々な紆余曲折と縁あって。「真黒田の悪党」っつー新進気鋭の傭兵集団にスカウトされたって訳だ。何でも平安時代から鎌倉時代、そして南北朝時代も何とか「服部なんとか」ってー奴の庇護下に入って生き延び。しかしてその後伊賀から離散して。再び「黒田の悪党」を旗揚げし、この戦国の世に生きてるって話だ・・・まあそんなことは今はどうでもいいよな。その辺の事はまた今度語るとして・・・
俺の尻尾はビンビンだ。これが人生で二度目の戦になる・・・へへ、歩脚の震えが止まらねえぜ?
ビビってるんじゃねえよ、武者震いだぜ。・・・まあ最初の戦のときは本当にビビって震えてたがな。最初の戦はほとんど「見学」みてえなもんで終わっちまったが。その時の悔しさをバネにして少しの間ではあるが鍛錬を積んだ俺は一味違うぜ、男子三日会わざればなんとやら、ってな!前の戦場でこっそりくすねたこの大刀を、揮ってみるのが楽しみだ!
さーて、やってるやってる・・・鬨が、掛け声がやかましいなあ。今日は首級でも狙ってみるかね。
でも焦るなよ。馬に乗ってる奴はともかくとして、鎧を着てる奴とか、槍持ちの奴も避けたほうがいいな。いや、動きは少しは鈍くなるだろうがそれでも鍛えてる奴は鎧着てても動けるだろうし。槍はリーチが厄介だ、全部揃えば役満だ。・・・つーわけで、俺と同じく騎と鎧と槍、そうでない奴。騎でなし、鎧なし、槍なしの。足軽を狙ってみるとするかねえ。ああ、俺もまだまだ見習いなのよ。だから手柄を上げなくちゃーな!
そして丁度いいのが居やがった!ガタガタ震えて、挙動不審で辺りを見回す痩身の若い奴・・・大方初陣ってところかねえ。沢山、首級は必要だろうが。名もない奴の首ならな・・・先ずは手始めにこいつを斬ってみるかね。
そして、昨日までの俺にサヨナラだ!
「うおおおお!!うおおおおおお!!」
「ひ、ひいっ!?ぎゃーっつ!!」
そうして俺は真っ二つになった。剣道よろしく真っ直ぐ振り下ろされた、上段からの数打ち刀。初陣君のその一太刀でな・・・おそらく。まだ誰も斬ってなかったから切れ味が抜群によかったんだろうな。日本刀ってなー。切れ味こそいいが数人斬るとすぐ切れ味が鈍るらしい・・・
ま、所謂ビギナーズラックってことだよな。そしてこの俺は左右半々に真っ二つだ。
「ぎゃーっ!ぎゃーっつ!!!・・・ひえぇっ。。。」
おいおい、そんなに騒ぐなよ。サルじゃあるまいし・・・お前は俺に勝ったんだ。さあ、さっさと首を持っていきな・・・。そして俺は真っ二つに、繋がることなく綺麗に縦方向へ二分割された体で。
その両手親指をサムズアップして。「おめでとう、見事だ」と賛辞を述べたんだ。
「・・・ぎゃわあああっつ!!?ひっ、ひっっひぎぃ・・・つ!うばわぼォ!!!」
するとそいつは更に驚き。腰を抜かして。芋虫みたいに地面を這って逃げてったんだ。いや、ゲジゲジくらいには速かっただろうか・・・おいおい、一騎討ちに勝った奴のすることじゃねえだろがまったくよ。相手に恥をかかせるなよな?
そしてその後、俺の体は。本のページが開くように左右二つに分かれて倒れ。そのまま身動きが取れず這い蹲ってるところを馬に何度か蹴られたな。右脳側の体が二回、左脳側が一回だったかな・・・まったく、これじゃあ色んな意味で「半人前」だっつーの。アイテテ・・・
それから、合戦が終わり、ひとまず兵が退いたところで。仲間の傭兵が俺の体を拾い上げて両端をくっつけてくれた。泥をしこたま巻き込んで体内が泥臭い・・・帰ったら、風呂で泥抜きしてえなあ。
ちなみに今回は敵側が退いたので。俺達の雇い主側の勝利だってよ。おめでとう。