表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1500  作者: さわ
6/7

分かれ道

 ポン、ポン、とボールの跳ねる音が響いていた。

 空は真っ暗で、校舎の中も外も人の気配がない時間。そっと体育館の中を覗き込む。


彰人(あきと)、何してんの」

 部活も一緒でよくつるんでいた友人が、ひたすらボールを頭上に投げていた。落ちてきたボールが、ポンと音をたてる。

「上にボールが引っかかっちゃって」

 彰人は眉間に皺を寄せ、ひたすらに天井を睨んでいる。

 天井の梁の部分にボールが乗っかっていた。後輩たちに指導するなり一緒に練習するなりしていたならば、乗らないだろうところに。真剣な顔でやっているが、大方ふざけて乗せてしまったのだろう。

 現に、部活に励んでいたはずの後輩たちの姿はない。


「交互に投げるぞ。早く帰らないと先生にどやされる」

 足元に転がってきたボールを拾い上げ、天井へと投げる。久しぶりに持ったボールは重く、狙いより逸れて遠くへ落ちていく。

「手首、もう大丈夫なの」

「痛めたの一年前だし、とっくに治ってるよ」

 そうは言っても、投げる手首には違和感がある。

 手首の痛みが酷くてうまく投げられなくなったのは、ちょうど一年ぐらい前、三年生に上がる直前のことだった。みんなが自分の引退時期を決め始めた頃、俺は医者にしばらく安静にするように告げられた。

「でも、それがなかったら、最後の試合一緒に出られたよなあ」

 寂しげに彰人がこぼす。

 手首が治るのを待たずに、俺は引退して受験勉強に力を入れた。クラスが違うこいつと会うことも減り、点を決めたときのにかっとした笑顔もずっと見ていない。


「俺じゃ、試合に出られなかったよ」

 彰人のボールは天井をかすめるが、もうちょっとのところで当たらない。俺のボールは梁にすら届かない。

 手首の怪我はきっかけに過ぎない。自分の実力を、身の程を、知っているつもりだ。

「それに、一緒にコートに出ることだけが一緒にやるってことじゃないだろ。マネージャーも、監督も、ベンチで応援とばす控えも、一緒に戦ってくれるだろ」

 内心謝りながら、ボールを足で蹴り上げた。

「大学、スポーツ科学部にいくんだ。トレーナーになりたいと思って」

 投げるよりもずっと力強く上がったボールは、梁の真下にぶつかって落ちてくる。

「俺は裏方にまわるけど、また一緒にやろうぜ」

 梁の上のボールにも衝撃が伝わり、ぐらりと揺れて落下する。

 走って避けた俺とは裏腹に、彰人は一度大きく跳ねたボールを捕まえにいく。そして、ボールを抱え込んで、にかっと笑った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ