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1500  作者: さわ
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猫はこたつで

ツイノベデーの11月のお題、「コタツ」をもとに書いたツイノベ(下記)を掌編にふくらませたものです。


「お前は大きな猫を飼っている」本音と建前だとか処世術だとか反論が浮かんだが、どれもぶつけることはなかった。ただ甘いもの好きの居候の顔が浮かんで、ケーキを大人買いして帰って、でも居候は眠っていた。こたつで丸くなって。たしかに大きな猫を飼っているかもしれない。


「お前は大きな猫を飼っている」

 意を決したような、どこか緊張した面持ちを彼はしていた。眉間に寄った皺を見ながら、わたしはただ、もっとストレートに言えばいいのに、と思った。

 大きな猫を飼っている、だなんて。そういうまわりくどいところは、あまり好きじゃなかった。

 猫をかぶっているだとか、裏表が激しいだとか、形容する言葉はいくらでもある。どれも使い古しだけれど。あんなまわりくどい言い方をされたのは、初めてかもしれない。

 言い回しがどうであれ、わたしの性格を悪いようにしか見られなくなってしまったということは、もうここで終わりなのだろう。それははっきりとわかった。

 また明日も会うかのように彼と別れて、夕方の値下げが始まったスーパーを素通りして、マンションの前のコンビニに寄った。

 ごはん、と思っておにぎりを眺めるけれど、立ち止まらずにふらふら別のところへ。自炊ばかりしているから、どれも値段が高く見えてしまう。別に買わなくたっていい。昨日の残りが冷蔵庫にあるし、一食くらい抜いたって平気だ。

 でも、たぶん、抜いたら怒られるのだろう。健康に悪い、と。

 同棲している彼女にふられた、とあいつが転がりこんできたのは先月のことだ。

 話し合おうとはしたが最終的に不満のぶつけ合いになり、派手に喧嘩をして家を飛び出したらしい。ろくに荷物も持たないまま、捨てられた子犬のような目で見てきたので、仕方なく家に入れてあげた。

 正直、最初は厄介だと思った。けれどきちんと居候という身分はわきまえているし、家事をこなしてくれるし、自分以外の人の気配があるというのはなかなか心地よいものだった。……いつの間に一ヶ月も経っていたのだろう。

 ふと、お菓子のコーナーで足を止める。あの居候は甘いものが好きだ。

 チーズケーキ、プリン、ティラミス、モンブラン、目についたものをカゴの中に入れていく。ゼリーに、みたらし団子も。これなら怒られるどころか、喜んでもらえるだろう。ちょっとあきれられるだろうけれど。

 わたしは甘いものが好きじゃない。でも、今日はあいつと一緒に食べてもいい気分だった。


 ただいま、と玄関からかけた声に返事はなかった。靴の有無でいるかどうかは判断できない。あいつは整理整頓が大好きで、すぐしまってしまうから。元彼女に愛想をつかされたのは、そういうところが一因だろう。

 いないのかもしれない、と思うと、買い物袋が重みを増した気がした。

 でも、あいつはいた。一人用の小さなこたつから、頭だけ出して眠っていた。

 狸寝入りだったりしないだろうか。正面にまわって、カーペットの上に座り込む。

 自分の家みたいに、無防備に眠りこけている。うらやましいくらいさらさらの髪の毛が顔にかかっていたから、髪をどけるついでに指どおりを楽しんだ。

 それでやっと起きたらしい。まぶたが一度開いて、でも焦点が合わなくて、ごしごしと手で目をこすっている。

 猫みたいだ。

 プリンを袋から取り出して、目の前に置く。数度のまばたきの後に、彼はプリンの上に手をのせた。ねぼけているのか、自分のものだとでもいいたいのか。

 たしかにわたしは、大きな猫を飼っているのかもしれない。

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