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後編 3


 男は言った。ある、特別な人形を作ってもらいたい、と。

人形師は首をかしげた。確かに自分は一流の人形師だという自負はあるが、技術だけならこの男は決して劣ってはいない。むしろ自分より優れている部分、たとえば、その得体の知れない執念とか、があるだろう。

 人形師の疑問もこの男にはお見通しだった。


『ただの人形ならここに、掃いて捨てるほどある。だが、私が欲しいのはそんなモンではない』

「では、いかような人形が?」

『生きた、人形が欲しいのだ。』

「は、」

人形師は失笑して切り捨てる。だが、男は本気だった。

『金ならいくらでもだす。だから、』

「生きた人形など、笑止千万。そのような神をも恐れる業など私は持ってはいない」

人形師は全く取り合わない。しかし男は退かない。

『少しばかり、調べさせてもらった。なにやら君の家には代々伝わる禁術の類があるそうだな•••?』

「•••禁術などない。父の代で途絶えた」

『この私相手に、その程度の嘘が通用すると思っているのか?』

「無いものはない。少なくともそれを書したものは残ってはいない。」

『だが、君はそのために世界中を旅してまわっていたのだろ、失われたその術を取り戻すために。』


 人形師は黙る。全てこの男にはお見通しというわけだ。

「••••••その人形で一体なにがしたいのだ?生半可の理由では力はかせん」

『言ったはずだ、私だけの町が欲しいと。その町を、未来永劫、見守る存在を私は所望する』

「それを為すのが、禁術で作り上げられた生きた人形というわけか。なら別に人形でなくともいいのではないか?その町に住む人々にまかせれば良いのではないか」

『それは出来ない。私の町に住むのは、私と私が作った人形達だけだからだ。それに、町といえば聞こえはいいがようは私の墓だ。墓守がいて欲しい、ただそれだけだよ』

「悪しき方向には使わないと誓えるか」

『神に誓って』

「わかった、ただ一度訳あって失われた業だ。完全には復元できてはいない故、どこまで出来るかわからん」

『最善を尽くしてくれ。それ相応の対価は用意しよう』



 それから町の建造が急ピッチで進められた。多種多様な人材資材が集められ、地下に建築物が次々と建てられていく。一体いくらの金と時間が費やされたか詳細な情報は今は残ってはいないだろう。全て男が厳重に管理し、最終的にはその多くを処分したからだ、書類から人まで。ただ莫大な宝が眠っているという噂だけがまことしやかに流れた。


 その間、人形師は持てる技術を全て注ぎこんで男の要望を満たす人形を制作していた。様々な技術的困難が彼の前に立ち塞がったが人形を作るという一点においては彼は天才以上であり次々と課題をクリアしていった。一見、二人の町づくりは順調に見えた。


 しかし、町も人形も完成する前に男を病が襲う。奇しくも、はるか昔に自分の領地を覆った伝染病に男はかかったのだ。病と戦う男にそれからすぐ朗報が届く。彼の町もとい墓が完成したのだ。早速、男は人形師を連れて町へとむかう。

  

 町の中央、白塗りの家に男は人形師の肩を借りて入る。家のなかにはふたつの人形が立っていた。一つは女、片方は子供のものだった。男をテーブル近くの椅子のうち一つに座らせた。しかし、男は苦しそうながらも立ち上がり、ふたつの人形を抱えて一つを台所に子供のほうは抱きかかえたまま椅子に座った。


 人形師は、全てを悟る。この男は一般的な家庭と平安が欲しかったのではないのだろうか?

この男の過去を多少なら人形師は知っていた。王から領地をもらいながらも、それは荒廃していまい。最愛の妻と間には子をなすことができず、家族を伝染病でなくした。そして、今自分の子供にみせた人形を抱いて微笑んでいるのだ。


『頼んだ人形はできそうか?』

 子供の人形をあやしながら男は人形師に言った。

「完成はもうすぐだ。しかしいいのか、君の遺産を全て私がもらいうけても」

『死んだら私には、そんなもの無価値だからな。君が使ったほうが価値がある』

「わかった」

『私の死後のことは、部下に任せてある。君は人形づくりに集中してくれればいい』

「わかった」



 それから男は数日の内に死んだ。男の遺言どうり男の亡がらはあの白塗りの家に安置され、ふたつの人形も男の望むどうりに設置された。男の部下達は大変優秀で次々と後始末をつけていった。人形師は男の望んだ生きた人形を完成させ、町に置いた。しばらくして人形師はまたアテのない旅を再開した•••




『•••••••••と、まあこんな話だ。人形師のその後の行方は誰も知らない』

「あなたはその話はどなたからお聞きになったのですか?」

『人形師本人さ、私を完成させてから話してくれたよ。』

「人形師の行方などどうでもいいです。それより、大富豪の遺産は!?」

『さ、さあ、人形師が全て持ち去ったのではないのか』

 助手のあまりの気迫に人形もたじたじになる。助手は人形の言葉を聞いて落胆する。彼女はまとまったお金でしばらく優雅なバカンスの旅にでて、お金持ちの男を漁るつもりだったのだ。


「そもそも大した物も残ってはいなかったのではないでしょうか、これだけの規模の事業です。いくら中世最大の大富豪とはいえいくらも遺産など無かったと僕は思いますけどねえ」

『ここまで来てもらって申し訳ないのだが、そういうことになるな。あと、非常に頼みにくいのだが一つお願いしたいことがある』

「なんでしょうか。出来る限りのことはしましょう」

『有り難い。この、哀れな男の墓を外の世界に暴かないでいただきたい』







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