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後編 1

『ふむう、関係とな•••』

男の人形は不器用に腕を組んで、唸り声をあげる。

「ええ、例えば自分の創造主、とかです。もしくは••••••自分自身とか。もしかして話すことに気が進みませんかな?」

『いやいや、そういうわけではないのだが、ちと長い話になる。構わないか?』

「こちらからお願いした次第、全く構いません」


 博士はそういうが、チラリと助手の方を見る。助手は左腕の腕時計を見て、まだ日没まで時間があることを博士に伝える。

『•••では了承をお二人から頂いたようだから、ある哀れな男の昔話につき合っていただこう』

 男の人形の長い独り口上が始まる。





 なにも、彼は最初から大富豪だったわけではなかった。彼が生を受けた家はとある名家の家系であった。一人息子として生まれた彼には生まれながらにして定められた生き方があった。

家を継ぐために日々なされる英才教育を苦ともせずに彼の才覚は徐々に頭角をあらわした。数学者でも解法を導くのに三日は要する問題でも五分で解いてみせ、いちどペンを持たせれば誰もが泣き笑う物語を書いてみせた。両親はいたく彼を可愛がった。神童とも、百年にひとりの天才、とも呼ばれた彼は成人するころには誰もが認める立派な跡取りになっていた。戦でも手柄をたて王様から立派な領地もらい、男が町で一目惚れした美しい貴族の娘ももらい、まさに順風満帆の人生と呼べた。


 しかし、彼にはどうしても解決しなくてはならない問題を抱えていた。結婚していくら年月を経ても全く子をなすことができなかったのだ。医者の見立てによれば原因は妻ではなく、男の方にあるという。焦った男はありとあらゆる治療法を試した。焦るのも当然である。子孫をつくれぬ男など不名誉も甚だしいからである。妻も両親も内心気にはしていたが、男を励まし続けていた。

 そんな中、彼の領地を続き様に悲劇が襲う。不作が続き、正体不明の病が流行った。ばたばたと人が倒れ、そのほとんどが死んだ。豊かな彼の土地は荒れ果てていった。勿論、彼の周りの者も例外ではなかった。使用人が一人また一人と消えていき、父が血を吐き、母が倒れ、ついには妻までその命を落とした。絶望の淵にいた彼にとどめをさすかのように、隣国からの侵略に遭う。 


 なんとか、撃退の成功するも彼が失った物はあまりに大きく、多かった。彼は失意の底に落ち、やせ衰えていった。そして、十年の時日が流れる••••••





『••••••とまあ。ここまでが前半部分だ。久しぶりに喋るとなかなか疲れる』

「そんな体でも疲れるのですか?」

『正確には、そんな気がする、なんだがな。ところで、お二人はいかなる理由でこんな物寂しい場所に来なさったのかな?』

「ふむむ、僕の本業は某大学で考古学の授業をすることなんですが、趣味で宝探しをしていまして。中世最大の大富豪のお宝を求めて

彼の墓までやってきた次第です」

『ほう、中々豪快な趣味をお持ちで。と、すると外では随分な月日が流れたようだな。ここに籠ってからは時間の概念をどこかに置いてきてしまってな』

「心中お察しします」

『そこの婦人も博士殿と同じ理由でこられたのか?』

突然のふりにも助手は即答する。

「いえ、大富豪の財産目的ではありますが博士のように道楽ではありません。私にはどうしてもお金が必要なものですから」

『•••••••、そうならばここから先の話はちと残念なものになるかもしれぬ』

人形の言葉に助手は露骨に目を細める。

「それは、どういう意味で•••」

助手をさえぎって、人形のひとり語りが再開される。


『あれは、いつだったか定かではないが•••確か、とある冬の夜だった•••男は一人の人形師に出会ったのだ』








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