中編
不思議の国のアリスよろしく(爆薬で開けた)穴を抜けた先には、二人には信じられない光景が広がっていた。まるで日中のごとくの明るさのなか、無数の人々が一つの町で生活している。そんな馬鹿げた光景がそこにあった。二人はしばしば、自分がいる場所が地下数十メートルにある男の墓であることをわすれた。
「これは、一体•••」
助手はなんとか、言葉を捻りだす。が、困惑を全く隠しきれていない。
「ふむ•••」
反対に博士は既に、いつもの落ち着きを取り戻していた。
「とりあえずだねえ、すこし調査してみようか」
からくりにはすぐに気がつく事になった。人々はすべて、人形だった。だが、ソレ以外はすべて現実の町となにも変わらないものだった。家々すべてがちがうデザインをしており、扉を開ければなかには、つい数秒前まで生活していたかのように様々な表情の人形が設置されていた。町には、警察署から病院まで完備されていた。現代の町や建物と比べれば、大きさこそふたまわり程小さいがこんな場所にあることは、十分におかしなことだった。
助手には到底信じ難い光景だった。異常なまでに現実に忠実なこの人形の町に、最早狂気まで感じる。
「博士、」
「気分が悪そうだねえ、こんな宝の山なのに!!」
逆に博士は興奮気味だ。
「数百年前の等身大の人形が、こんなにたくさんあるんだよ。それだけじゃない当時の家屋から公共物まであるなんて、夢のような話だねえ!!」
柄にも無く大声をあげる
「本当に、ここは大富豪の墓なんでしょうか•••?」
「それは、そうだね•••町の中央に向かってみようか。もしお墓なら墓碑のひとつでもあるかもねえ」
「先導します」
「頼むよ、僕は方向音痴だからねえ」
からから、と笑って上機嫌な博士を尻目に助手は肩にかけていて自動小銃を構える。
「•••狂気を感じます。ここには」
石畳の道路を歩き、生臭くない魚市場を抜けて二人はこの町の中央にむけて黙々と歩く、道中しょっちゅう寄り道しそうになる博士を助手は諌めながらではあるが。
「ひとつ、わかったことがあるよ」
「•••なんですか、博士?」
博士がつぶいた。助手はまわりを警戒しつつ返事する。
「いや、なんでこんなに明るいかわかったよ。地上にいくつもの穴•••たとえば煙突とか井戸とか探したら沢山見つかると思うよ、でたくさんあけてここまで光を通すんだ。鏡をつかってうまく反射させて一カ所に集める。上を見てご覧よ」
言われるがままに助手は博士が指差す方向を見上げる。そこには、太陽と形容してもいいような光を放つ球体があった。
「大型のミラーボウルのようなもので、集まった光を反射しているんじゃないかなあ」
「数百年前とは到底考えられない技術力ですね」
「そこらへんも含めて大発見になるかもねえ」
町の中央に二人はたどり着く。『太陽』らしき物の真下に、一件の家。ほかの家とは違うものなど特に見当たらない。だが、どこか特別のにおいを二人は感じとる。助手はその家のドアノブをまわして、ゆっくりとドアを引く。
ほかの家と造りにおおきな差は見られない。現代でいうリビングと台所が一緒になったそういうタイプの家だ。
台所には美しい女の人形が食事の準備をしていて、食卓には一瞬でも目を離したらしゃべりだしそうな男の子がナイフとスプーンを持ってくるはずのないご飯をまっている。そして、その隣の席には、仕立てのいい服を着た白骨が子供のほうを向いたまま鎮座していた。
「どうやら、見つけたみたいだねえ」
「そのようです」
博士は手をあごにあてがってうなる。
「いや、しかし、よく分からないお墓だねえ•••」
「ひとつ、わかることがあります。この男は、」
『哀れだろ?』
突然の声に助手は反射的に声の方向に自動小銃の銃口をむける。安全装置を外し、引き金に指をかける。さっきまでいなかったはずの入り口に一人の男が立っている。
「どなたかな?」
博士が聞く。
『それはこちらの台詞だ。この家の主人は私だ。』
「笑えない冗談ですね」
「•••、いやあながち嘘でもないかもねえ」
家に入り口に立ち、寒々しい微笑みを浮かべるその男は、人外に間違いは無かった。なぜならば、よく見れば一一一
「人形•••、です、かね」
「僕にも、そう見えるよ。いやびっくりだねえ、世界広しとは言えまさか喋る人形があるなんてねえ」
『いささか無礼ではあるが、せっかくの客人だ。もてなさせてもらおう」
男の人形はぎこちない動きで食卓の空いた席に腰を降ろす。
『どうだ、座りたまえ』
博士はその言葉の通りに食卓の空いた席にすわる。が、助手は博士の背後にたったままだ。
「僕の名前はA、博士とよばれています。うしろの女性は僕の助手でBです。」
『ふむ、どうしてB婦人はたったままなのかな•••?』
「彼女は武人ですので、座るより立っているほうが、落ち着くのです」
『成る程、承知した。••••••しかし、もてなすとは言っても特に何もないのだがね』
「では、ひとつ質問しても良いですかな?」
『無論』
「貴方の隣に座る人物との関係を教えて頂きたい」
つづく!!!