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06-王子の想い人?

 福太郎の不意打ちを受け、美晴みはるがしなくてもいいリアクションをしてしまった日の翌朝。

 美晴がいつもの時間に教室に入ると、室内にいたクラスメイトたちが一斉に美晴へと振り返った。


「────?」


 いつもなら、こんな反応はない。

 クラスでも目立たない方である美晴が教室に入っても、自分の席の周囲から二言三言朝の挨拶をされるぐらい。

 それなのに、なぜ今日に限ってクラス全体が美晴が教室に入った途端反応するのか。

 内心で首を傾げつつ、美晴は自分の席へと腰を下ろす。

 途端、彼女の所へやって来たのは真琴まことであった。いや、このクラスでわざわざ美晴の所へ来る者など、彼女以外にはいないのだが。


「いやふー、みはルン。昨日は楽しかったねー」


 真琴のその言葉に、クラスの中にざわりとした気配が沸き立つ。

 その事に更に首を捻りつつも、美晴は目の前で楽しそうに微笑む真琴に「まあね」とだけ簡素に答えた。

 確かに昨日は楽しくなかったと言えば嘘になる。

 あの後、美晴たち四人は駅近くのファミレスに入り、そこで他愛もない無駄話に興じた。

 思わぬポカをしでかしてしまった例の件については、福太郎はそれ以上突っ込んだ話をしてこなかった。

 それが不気味といえば不気味だったが、純粋に楽しかったのもまた事実。

 互いの小学生や中学生の頃の話、最近興味のある事、学校のとある教師に関する愚痴など、ありふれた高校生らしい会話の数々。

 高校に入学してから、いや、中学生時代にも殆どなかった友人との交流。実に些細なそんな事だが、やっぱりそれはとても楽しい一時だった。

 そんな時間を一時間程過ごした後、あまり遅くなってもと福太郎が言い出して四人はファミレスを後にした。

 そして別れ際、各自の携帯のアドレスや番号を交換し合った。

 美晴にとって家族以外の始めてのアドレスや番号。登録したそれらをちょっぴり浮ついた気分で眺めていた彼女の耳に、福太郎の「家族やバイト関係以外で初めて女性の名前を登録しましたねぇ」という呟きが耳に入った。

 そしてその呟きに素早く反応したのは真琴だった。


「うそっ!? 福太郎くんの携帯、今まで女の子の名前登録してなかったの? てっきり、百人ぐらい女の子の名前が登録してあるとばっかり思っていたよ?」

「真琴さんが僕をどのように見ていたのか小一時間程問い詰めたいところですが、まあ、今まではその必要もありませんでしたしね。クラスの男友達なら何人か登録してあるんですけど」

「そういや、俺も女の子の名前は登録してないなぁ。そもそも、今までそんなに親しい女の子の友達っていなかったしな。だから俺も真琴ちゃんや伊勢ちゃんが初めてだな」


 玄吾の言葉に、福太郎が頷いて応える。


「へー、以外だにゃー。私はてっきり福太郎くんや玄吾くんは女友達がたくさんいるんだって思っていたよ」

「そうでもないぜ? クラスでもあまり女の子は俺たちに話しかけてこないしな。俺たちが話をするのはいつも野郎ばかりだよ」


 真琴ではないが、美晴もこれは以外だった。

 タイプは違えども見た目も人当りも良いこの二人。美晴は二人には同性異性問わず多くの親しい人物がいるとばかり思っていた。

 だが、冷静に考えればそれも理解できる気もする。

 いくら同じクラスとはいえ、特別親しくもない女子生徒たちからすれば、この二人に気軽に声をかける事は躊躇われるのだろう。

 彼らに何の躊躇いもなく気安く話しかけている真琴の方が、どちらかと言えば例外なのだ。

 そもそも真琴は、誰とでも気軽に付き合えるタイプらしく、クラスで孤立していると言ってもいい自分にまで気安く話かけてくる程なのだ。

 そういえば、いつの間にか三人は名前で呼び合っているな、と美晴はこの時になって気づいた。

 そしてその後、四人は帰路につく。

 電車を利用する福太郎と玄吾は駅に、徒歩の美晴と真琴はそのまま歩き出す。

 同じ徒歩の美晴と真琴だが、家の方角が逆のため歩き出した方向は正反対。

 駅前からすぐのアパートにはあっという間に着き、美晴は夕食を自分で準備してそれをテレビを眺めながら食べた。

 そして明日の予習でも、と机に教科書やノートを広げた時、ふと机の上に投げ出してあった携帯電話が目に入る。

 何げなくそれを手にとり、電話帳を開いてそれをぼーっと眺める。

 そこに家族以外の名前がある事が、ちょっぴり気恥ずかしく、でもやっぱり嬉しくて。

 美晴はくすりと小さな笑みを零した。




「ところでさ、みはルン?」

「なに?」

「何かさ、教室の雰囲気、いつもと違くない?」

「今頃気づいたの?」

「んー、今日、私が教室に入った途端、何かざわって感じになって……で、さっきみはルンが入って来た時も同じようにざわってなったね。これはやっぱりあれかなー?」


 腕を組んでうーむと唸る真琴。そんな真琴に、クラスメイトの一人が近寄って声をかけてきた。


「ちょっと、真琴と伊勢さん、あんたら何やったの?」

「はえ?」


 どうやらそのクラスメイトは真琴とは親しいらしく、今朝のこの雰囲気の原因を説明してくれた。


「あんたたち二人が、昨日王子と騎士ナイトの二人と楽しそうにお茶してたって噂が流れてるけど……本当なの?」

「うん。確かに昨日、ひょんな事から福太郎くんと玄吾くんとは親しくなってね。その場の流れで駅前のファミレスでお茶したよ?」

「ま、真琴っ!? あんた今、王子と騎士の名前を──っ!?」

「えへへー。昨日、話している内にお互いにそう呼ぶようになったのだー。それに携帯のアドレスだって交換したんだー」

「あ……あんたのその軽いノリが時々恐ろしくなるわ……」


 ひらひらと自分の携帯電話を振りながら笑う真琴と、頭を押さえて呻くクラスメイト。

 美晴にはそのクラスメイトの気持ちがとてもよく理解できた。しかし、それは単なる勘違いだったとすぐに美晴は悟る事になる。

 頭を押さえていたそのクラスメイトがふと顔を上げた。

 そしてその口元がにやりと意味ありげに歪められていたのを、美晴ははっきりと見た。

 次の瞬間、クラスメイトは真琴の手をがっちりと握る。


「今度、私も王子と騎士に紹介してね!」

「おーけー。まーかせて!」


 今度は美晴が頭を抱える番だった。




 それから時間がいくらか過ぎて。

 昼休みに今朝真琴に声をかけたクラスメイト──浅尾あさお留美るみは、美晴や真琴と一緒に弁当を食べながら改めて更なる詳細を教えてくれた。


「昨日から王子についに本命ができたって噂が広がっていてね。そこへあんたたちがその王子と騎士と仲良くお茶していたのを見たって女の子がいたもんだから、あんたたちのどっちかがその王子の本命なんじゃないかって話になってんのよ」

「へー、そんな噂が広がっていたのかー。でも、私じゃないよ?」

「そりゃ、私だって王子の相手が真琴だとは思っていないわよ」


 と、ここで自然と真琴と留美の視線が美晴へと向けられた。


「わ、私でもないわよ!」

「うーん……伊勢さんには悪いけど、私も伊勢さんじゃないと思うなぁ。こう言っちゃ悪いけど、伊勢さんと王子が並んで立っているところが想像できない」


 自分だってそう思う、と美晴は心の中で呟く。

 客観的に見てもぱっとしない外見の美晴。それが芸能人顔負けの容姿を誇る福太郎の横に並ぶ姿など、逆立ちしたって自分でも想像できない。


「そうかにゃー? 私は福太郎くんの本命はみはルンだと思うけど?」

「はあっ!? どうして私なんかを幸田くんが……っ!?」

「ほほう。で、その根拠は?」


 突然とんでもない事を言われて慌てる美晴をよそに、なぜか面白そうな顔をしている留美に問われて真琴は答える。


「福太郎くんは女の子を外見基準で選んだりしないと思うよ? 私もみはルンも昨日聞いたんだけど、福太郎くんや玄吾くんって、女の子で親しくしている友達って殆どいないんだって。もし外見で選ぶようなら、今頃とっくに誰かと付き合っているか、そうじゃなくても綺麗どころの女の子の友達がごろごろしてそうじゃない?」


 言われてみればそうかもしれない。

 美晴は知らない事だが、真琴や留美はこれまで何人もの少女たちが福太郎に告白して玉砕したという噂を聞いている。

 その中には、学年どころか学校中でも指折りの美少女と言われる女生徒が含まれていた。

 そんな少女たちをこれまでことごとく拒否して来た福太郎。もしも彼が付き合う異性を決める要素に外見が大きく影響するとすれば、そこまで彼が告白を拒否する筈がない。


「じゃあ、王子は何を基準にして付き合う相手を選んでいるの?」

「さあ、そこまでは私にも判らないけど……」


 宙を見詰めながら呟く真琴。その視線がつうと美晴へと流れる。


「きっと、例の『魔法のコトバ』はそれに関係しているんじゃないかにゃ?」




 そして更に時は流れ。

 放課後となり、帰り支度を済ませた美晴が鞄を持って教室を出ようとした時。

 教室の出入り口に立ちはだかるように一人の女生徒が現れた。

 その女生徒は一度無遠慮に美晴を見ると、ふんと侮蔑の篭もった息を零した。


「あんたが伊勢美晴?」

「そうだけど……?」

「で、堂上真琴ってのはどいつ?」


 女生徒が教室全体に聞こえるような声量で問う。


「はーい! 私が真琴だけどー?」


 ぶんぶんと両手を振ってアピールする真琴を、その女生徒はどこか馬鹿にしたように一瞥する。


「私は三組の小笠原おがさわら孝美たかみって言うんだけど、二人ともちょっと私に付き合ってくれない? そんなに時間はかからないから」


 それだけを言い捨てるように告げると、小笠原と名乗った女性とはさっさと踵を返して歩き出す。

 そのただならぬ雰囲気に飲まれかけていた美晴の肩を、いつの間にか背後まで近寄って来ていた真琴がぽんと叩く。


「取りあえず着いて行ってみようよ。まさか無視してこのまま帰っちゃうわけにもいかないっしょ?」

「そ、そうだけど……」

「ま、一応保険はかけておいたから。そんなに心配しなくても大丈夫だと思うにゃー」


 そう言って笑う真琴に背中を押され、美晴は一度席に戻って鞄を置くと、小笠原という女生徒の後をゆっくりと着いて行った。



 『王子と付き合う魔法のコトバ』更新。


 えー、本日の更新を持ちまして、年内の更新は最後となります。

 年末年始は私事で執筆できなくなると予想されるので、次回の更新はおそらく1月10日以降になると思います。

 来年も引き続きよろしくお願いします。

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