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04-生徒会長

 去って行く美晴(みはる)の背中を眺めつつ、玄吾(げんご)は隣に立つ腐れ縁の男(しんゆう)に尋ねる。


「いいのか? 追っかけなくてよ?」

「どうして追いかけなくてはいけないのですか?」


 それに対して、福太郎は実に淡々とそう応えた。

 そんな福太郎に振り返り、玄吾はまじまじとその顔を見詰める。


「どうしてって……おまえ、あのの事、気になるんじゃねぇの?」

「気にならないと言えば嘘になりますがね。別にここで追いかけなくても明日以降幾らでも顔を合わせる機会はあるでしょう。なんせ隣のクラスなんですから」


 福太郎と玄吾の一組。そして美晴の二組は合同授業など何かと一緒になる機会が多い。今までは入学間もない事もあってそれ程その機会も少なかったが、これからはどんどんその機会も増えるだろう。


「ま、おまえがそれでいいなら俺は何も言わねぇけどよ。しかし……」


 玄吾は今はもう見えなくなった美晴が立ち去った方へと視線を向ける。


「何か地味だよな、あの娘」

「玄吾。それは彼女に対して少し失礼ですよ?」

「それはそうだけどよ」


 口ではそう言いつつ、玄吾は今日二度程見かけたあの伊勢美晴という女生徒を改めて思い返す。

 洒落っ気の全くない黒縁の眼鏡。しかも前髪を若干伸ばし気味にしてそれが顔を隠すような感じになっている。

 その髪も左程手入れしているようには見えず、無造作に大きく三つ編みにされていただけ。体付きだって身長も並みだし、プロポーション的にも特に秀でている箇所はないように見受けられた。

 持っていた鞄にもアクセサリーらしきものは全くない。

 福太郎同様、これまで何度も異性から告白を受けた経験のある玄吾からすれば、美晴の容姿は地味としか言いようのないものだった。


「さて、では僕たちも帰りますか」

「そだな」


 校門へ向かって歩き出す二人。そんな二人をずっと遠巻きに眺めていた女子生徒たちから失望の声が若干上がる。

 そんな女子生徒たちに、律儀にもわざわざぺこりと頭を下げる福太郎。玄吾はと言えば、美晴にしたようにひらひらと手を振ってやる。

 そして改めて二人が歩き出した時、その背中に声をかける者がいた。


「あら、福太郎と玄吾じゃない。今帰り?」


 鈴を転がすように澄んだ、それでいて良く通る凛とした綺麗な声。

 その聞き覚えのある声に二人が振り向けば、そこには予想通りの女子生徒が一人立っていた。

 肩甲骨辺りで切り揃えられた、やや外側に跳ね癖のある艶やかな黒髪。

 黒曜石のような輝きを見せる大きな黒瞳には、溢れるような知性の煌めき。

 シャープな頬から顎にかけてのラインと可憐な花弁のような桜色の唇。

 身長こそ160センチ前後と平均的なものだが、その容姿はまさに美少女と呼ぶに相応しいその少女。福太郎を学園の王子と称するならば、彼女を学園の姫と呼んでも誰も文句は言わないだろう。

 少女は親しげな雰囲気で、遠慮する素振りもなく福太郎と玄吾に歩み寄る。


鳴海なるみさん。あなたも今から帰りですか?」

「おっす、鳴海先輩」


 少女の名前は沢村(さわむら)鳴海(なるみ)。神無月高校三年生にして現生徒会長でもある人物である。

 彼女と福太郎たちとの付き合いは結構長く、中学時代からの付き合いがある。

 鳴海は中学でも生徒会長の役職に就いていた事があり、福太郎はその際も彼女の補佐役として副会長を務めていた。

 その時の経緯から、高校でも生徒会長となった鳴海は入学間もない福太郎を早速副会長に任命したのだ。


「こんなところで何していたの?」

「いえ、知り合いとばったり会ったので、ちょっと立ち話を」

「知り合い? もしかして女の子?」

「ええ、まあ。女性には違いないですね」

「ふーん……」


 そう言った時、鳴海の瞳が若干細められた。

 そして福太郎と玄吾を置いて歩き出すと、そのまま背中越しに語りかける。


「さ、帰るわよ」


 鳴海はそのまま、振り返る事もなく歩を進める。

 福太郎と玄吾は、一度だけ顔を見合わせて肩を竦めると、そのまま鳴海の後を追いかける。

 そんな三人をじっと見詰めているだけだった周囲の生徒たち。

 中には福太郎や玄吾、鳴海とそれなりに親しい者もいたが、三人が作り出す雰囲気に声をかけるどころか近寄る事さえできないでいた。




 最初こそ福太郎と玄吾より先行していた鳴海だが、歩幅の違いからあっという間に二人に追いつかれ、今では三人並んで歩いていた。

 並び順は右から玄吾、福太郎、鳴海。この時の福太郎と鳴海の間の距離は、玄吾との距離に比べると若干近しい微妙な距離だった。


「じゃあ、その女の子は例の「魔法のコトバ」が理解できたの?」

「まだ確証を得たわけではありませんが、十中八九理解しているでしょうね」

「ああ。ありゃ間違いねえと思うぜ?」

「ふーん……そうなんだ……」


 どこか嬉しそうな福太郎に、鳴海の表情が若干曇る。

 やがて三人は駅に着く。福太郎と玄吾は定期券を使って自動改札を抜けるが、そこで二人は鳴海の姿がない事に気づいた。


「ありゃ? 鳴海先輩は?」

「おや……? あ、あそこのようです」


 見れば、鳴海は自動販売機で切符を買っているところだった。

 二人が首を傾げて見守る中、鳴海は買った切符で改札を抜ける。


「どうして切符を? もしかして、今日は定期を忘れでもしたのですか?」


 足早に二人のところにやって来た鳴海に、福太郎は問いかけた。


「別に忘れたわけじゃないわ」

「では、どうして?」

「今日は福太郎の家に行くからよ」

「家に……ですか?」

「ええ。もう徳二郎さんには伝えてあるわ。で、久しぶりに今日は私が晩御飯作ってあげる」


 にっこりと笑う鳴海。そんな鳴海に、福太郎も笑顔で返す。


「それは楽しみですね。鳴海さんの料理は美味しいですから」

「ええ、大いに期待していなさい。あ、玄吾も来る?」

「ん? 俺もいいのか?」

「構いませんよ。それに今に始まった事でもないでしょう」

「じゃ、お言葉に甘えてゴチになりまーす」


 わざとらしく大きな仕草で頭を下げる玄吾に、鳴海も彼に会わせて大仰に胸を張る。


「任せなさい。それから、お礼なら徳二郎さんに言いなさいよ? 食費を出しているのはあの人なんだから」

「もちろん、徳二郎さんには後で直接伝えるさ」

「絶対よ? あ、それから帰りに食材を買うから。荷物持ちはお願いね?」

「判りました」

「それぐらいならお安いご用さ」


 三人はホームに滑り込んで来た電車に乗る。

 そして福太郎の家の最寄り駅で降りると、そのまま駅近くのスーパーで買い物をする。

 この時、福太郎と玄吾というタイプの違う美形な青年を二人も従えて買い物する鳴海の姿は、まるで美貌の従者を引き連れたどこかの美しい姫君のようだったと、買い物をする主婦たちの間でしばらく噂になるのだった。




 翌日。登校した美晴は、予測していた通り真琴の奇襲を受けた。いや、予測していたので奇襲とは呼ばないかもしれない。


「ね、ね、ね、聞いたよ、聞いたよ、みはルン。昨日は王子とランデブーだったんだって?」

「そんなんじゃないって。ただ、偶然に会っただけ。あと、「ランデブー」なんて単語、未だに使うものなの?」


 期待に目を輝かせる真琴に、美晴は淡々と事実だけを告げる。


「でも、私が聞いたところによると、校門で王子がみはルンをずっと待っていたって」

「あれは別に私を待っていたんじゃなくて、つんつん頭の友達を待っていたところに私が通りかかっただけよ」

「つんつん頭? ああ、騎士(ナイト)の中山玄吾くんの事だね」

「はあ? 騎士ぉ?」


 日常的に聞き慣れない単語に、美晴の眉が盛大に寄せられる。

 そもそもが、「王子」とか「騎士」とか日本では馴染みのないものの筈なのに。どういうわけか、最近変な単語が身の回りに多い気がする。


「王子の傍にいつもいるから。ほら、あの二人っていっつも一緒でしょ? だから、王子を守るために傍に控えている騎士。ぴったしだって評判だけど?」


 どこの評判か知らないが、美晴には頭痛しか感じられない。第一、騎士が傍に控えて守るのは王子ではなく姫ではないだろうか?

 その事を真琴に告げれば、彼女の顔にいつものにまにま笑いが浮かぶ。


「そう、それそれ。姫といえば、昨日、王子と騎士と姫が三人揃って下校していたって話もあるよ?」


 再び彼女の口から飛び出した非日常的な単語に、美晴の顔にはうんざりとしたものがありありと浮かぶ。

 「王子」に「騎士」に「姫」と来た。いつからここは日本ではなくなったのだろう?

 だが、「姫」という単語に好奇心が刺激されたのも事実であり。


「王子と騎士は判ったけど、その姫ってのは誰?」

「この学校で姫といえば、三年の沢村鳴海さんの事に決まっているっしょ?」

「沢村鳴海……ねぇ。どっかで聞いた事があるような……」

「沢村先輩はこの学校の生徒会長だよ。入学式の時、挨拶していたでしょ?」


 ああ、あの美人か。なるほど、確かにあれなら姫って呼ばれているのも納得だ。

 美晴は入学式の時、壇上で見かけた人物を思い出した。

 真琴の言葉通り、入学式の際に在校生代表の挨拶のため、壇上に上がったのは生徒会長だという女生徒だった。

 その生徒会長が、遠目に見てもかなり美人だった記憶が確かにある。

 そして、その時に生徒会長が名乗った名前が、沢村鳴海だった事を美晴はたった今思い出した。


「それで? その王子と騎士と姫が一緒に帰ったからって私たちに何か関係があるわけ?」

「いや、別に何もないけど。ただ、私としては三人が一緒にいるところを見てみたかったなぁ、と」

「だったら、生徒会室にでも行ってみれば? きっと美人で姫な会長と、美形で王子な副会長が揃っているから」

「あン、もう。みはルンったら相変わらず冷たいなぁ」

「だから私を『みはルン』って呼ぶなっ!!」


 王子だろうが騎士だろうが姫だろうが、そんなものは所詮他人事。

 それこそドルクスとランプリマぐらいかけ離れている。

 この時の美晴は気軽にそう考えていた。

 遠くない将来、自分がその王子や騎士や姫と深く関わり合っていく事を、この時の美晴はまだ知らなかった。



 『王子と付き合う魔法のコトバ』更新。


 美形の生徒会副会長とくれば、当然会長は美人さん。というわけで、今回は美人な生徒会長さんの登場。

 この会長さん、これから先で福太郎と深く関わり合いになる人物です。どのような関わりになるのかはここでは秘密という事でひとつ。

 

 それでは、次回もよろしくお願いします。

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