表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/27

17-美晴の過去-1



 伊勢家の近くのスーパー。

 そこに、仲良く並んで買い物する福太郎と美晴の姿があった。


「ごめんね? 荷物持ちなんかさせちゃって……」

「いえいえ、気にしないでください。夕飯を御馳走になるんですから、逆にこれぐらいの事はさせてもらわないと」


 と、にっこりと微笑む福太郎。

 その笑顔に周りの買い物中の主婦たちが何人も彼にぼうっとした視線を向ける中、二人はとりとめもない事を話しながら買い物を続ける。


「後、必要なものは?」

「ん、もうこれで最後。会計を済ませてくるから、幸田くんは店の外で待っていてくれる?」


 選んだ商品を買い物カゴに入れながら、美晴が福太郎に告げた。

 その言葉に頷いた福太郎は美晴から離れ、一旦は言われたように店の外へと足を向けたが、ふと思い出したように再び美晴の元へと戻ってきた。


「済みません。少々寄り道してきますので、会計が済んだら先に外へ出ていてください」


 そう言う福太郎に内心で首を傾げたものの、その進行方向から彼がどこへ行こうとしているのかを悟った美晴は、くすりと微笑みながら一人ごちた。


「あ、トイレね」


 もちろん、福太郎だって人間である以上トイレぐらい行く。

 そんな事は美晴にも判っているが、足早にトイレへと向かう彼の後ろ姿が、なんとなく可愛く思えてしまったのだ。

 福太郎の名誉のため、敢えてその事には触れないようにしようと心に決めながら、美晴は一人レジへと向かった。




 会計を済ませ、スーパーの外へと出た美晴。そこで辺りを見回してみるが、福太郎の姿はない。


「私の方が早かったか……ま、ここにいればすぐに来るでしょ」


 美晴はスーパーの玄関横の柱に背中を預けた。携帯電話を取り出し、時間を確認していみる。

 レジが思ったより空いていたので、思ったより早く会計を済ませる事ができた。そのため、福太郎より先にここに着いたようだった。

 美晴は手の中の携帯を操作し、何気なく写真のデータを呼び出してみる。

 そこには思いの外多くの画像データがあった。

 そこに写っているのは、真琴や玄吾や鳴海といったいつものメンバー。その中でも一番数が多いのが福太郎の画像だった。

 家元を離れ、見知った者が誰一人いない高校に入学した美晴。

 その当時は、まさか自分の携帯にこれほど多くの写真が収まるなんて思ってもいなかった。


(これも全部、君のおかげ……かもね)


 携帯の中で眩しい微笑みを浮かべる福太郎にそっと心の中で告げる。

 だが突然、横合いから手が伸びてきて、その微笑みが携帯ごと誰かにひったくられた。

 驚いて手が伸びてきた方へと振り返る美晴。

 そこには濃い目の化粧を施し、背中まである髪を茶色に染めた派手な印象の人物が自分の携帯を覗き込んで、驚きの表情を浮かべていた。


「ちょっと、誰、コレ? すっげー美形じゃん! どうしてアンタがこんなイイ男の画像なんて持ってんの?」

「あ、綾花(あやか)……」

「ねえ、コレ誰よ? あ、もしかして、これって盗撮? じゃなきゃ、アンタがこんなイイ男の画像持っているハズないもんねぇ」


 きゃははは、と笑い声を上げる綾花と呼ばれた少女と、その少女を見て表情を陰らせる美晴。

 その後も、綾花は勝手に美晴の携帯を操作し、画像データを閲覧する。


「うわ、こっちの髪の毛つんつんさせた男も美形じゃん。一緒に写っているツーテールの女はアホそうだけど。ったく、こんな美形の画像一杯持っているなんてイモムシのくせに生意気だっつーの」


 イモムシ。

 その一言が、美晴の心に過去を甦らせた。

 綾花から目を逸らし、俯く美晴。その足元に、ぽたりぽたりと幾つかの雫が落ちる。

 そんな美晴の様子を見て、綾花は一人勝ち誇った表情を浮かべる。しかし、不意に近づいた人影が、綾花の手から美晴の携帯電話を再びひったくった。


「勝手に他人の携帯を操作するなんて、プライバシーの侵害として訴えられても文句は言えませんが?」


 携帯をひったくった人物──福太郎は、俯いた美晴を抱き寄せるようにやや強引に引き寄せると、その手に彼女の携帯を握らせた。

 突然現れた福太郎に呆然とする綾花。だが、目の前に現れたのが先程まで見ていた携帯の画像の人物と同一だとようやく理解する。


「へ、あ、さ、さっきの画像の男! な、なんで? あれって盗撮じゃなかったの?」

「盗撮なんかじゃありませんよ。彼女──美晴さんは僕たちの了承を得て写真を撮ったのですから」


 綾花の疑問に、淡々と事実のみを告げる福太郎。綾花はと言えば、福太郎の言葉が今一つ理解しきれないのか、何度も福太郎と美晴を見比べる。


「ちょ、ちょっとイモムシ! あ、アンタ、その男とどういう関係?」


 イモムシという言葉に、福太郎は僅かに眉を動かすも、すぐに平静を取り戻してわざとらしく美晴の腰を──肩ではなく腰を!──抱き寄せた。


「もちろん、この人は僕の大切な人です。それより帰りましょうか、美晴さん。今日の夕食はもちろん美晴さんも作るの手伝うのでしょう? 美晴さんの手料理、楽しみですねぇ」


 綾花に聞こえるように、わざと意味深な言葉を連発する。

 ぽかんとする綾花を後目(しりめ)に、やはり同じように呆然とする美晴の腰を押しながら、福太郎たちはその場を後にした。




 伊勢家に戻り、夕食の準備に取りかかる美晴と聖美(きよみ)

 先程の事などなかったかのように振る舞う美晴だったが、僅かな違和感に気づかない彼女の両親ではなく。


「幸田くん。美晴に何かあった?」


 夕飯の準備を進める美晴と聖美の親子に、ショップの生体がもう一度見てみたいと告げて福太郎は「すたっぐ・B」へと再び来ていた。

 美晴の僅かに違和感に気づいていた明義(あきよし)もまた、福太郎と一緒にショップへと降りる。

 その明義に問われ、福太郎は買い物の時に出会った少女の事を話した。


「そうか……それはきっと綾花ちゃんだろうね」

「美晴さんの友人……ですか?」


 友人と呼ぶには余りにもな態度だった少女を思い出すが、それでも明義を気遣って敢えて先程の少女を友人と呼称した。


「……元友人……と、言うべきなんだろうかね……」


 ふうと溜め息と共に、明義はそんな台詞を吐き出した。


「ねえ、幸田くん。君は美晴から中学時代の事は聞いているかい?」

「いいえ……ですが、大体の事は想像がついています」


 美晴と出会って数ヶ月。最初の頃の美晴は、真琴でさえも近づけないようにしていた事に福太郎は気づいていた。

 敢えて実家から遠く離れた高校へと入学し、それでいて友人を進んで作ろうとしなかった美晴。

 何が彼女をそうさせたのか、その理由が福太郎にはある程度予測が立っていた。


「そうか。では、僕の口からは何も言わなくてもいいね」

「はい。詳しい話はいずれ美晴さんが話してくれるでしょう。それまで待ちますよ」


 躊躇いもなく宣言する福太郎に、明義の顔に笑みが浮かぶ。


「娘のことはよろしく頼む。あれで気の弱い所のある子だからね。もしも何かあれば支えてあげて欲しい」

「大丈夫です。今の美晴さんには、僕以外にも頼りになる友人がいますから」


 福太郎は笑顔で明義にそう告げると、上に戻ると付け加えて一旦店舗の外に出る。すると、店舗を出た少し先の角でこちらを窺うように覗いている人物がいる事に気づいた。

 その人物もまた、福太郎が「すたっぐ・B」から姿をみせると、ぱたぱたと足早に駆け寄って来る。


「ねえねえ、ちょっと。話があるんだけど少し付き合ってくれない?」


 近寄って来たのは先程出会った綾花という少女。

 彼女は馴れ馴れしく福太郎の手を取ると、そのまま先程まで彼女が隠れていた角まで福太郎を引っ張って行く。

 福太郎も思うところがあり、敢えてそれには逆らわずに引っ張られるままに任せる。

 そして角を曲がったところで、福太郎はおや、という表情になった。

 なぜなら、そこには綾花以外にも三人の少女がいたのだ。


「うわっ!! 本当に凄い美形っ!!」

「綾花の言った通りだったねっ!!」

「本当にこんなかっこいい人が、あのイモムシの彼氏なの?」


 口々に騒ぐ少女たちを無視して、福太郎は綾花に視線を向ける。


「で? 話があるとの事ですが?」

「そう。単刀直入に聞くけど、あなた、本当にあいつと付き合っているの?」

「詳しくはご想像にお任せしますが、僕と美晴さんは決して他人ではありませんよ?」


 笑顔のまましれっとそんな事を言う福太郎。見知らぬ自分たちを前にそこまで言ってのける彼に、綾花を始めとした三人は感心するやら呆れるやら複雑な表情を浮かべている。

 やがて気を取り直したのか、綾花がにやりとした表情で口を開いた。


「止めといた方がいいわよ? あいつが中学時代に何て呼ばれていたか知ってる?」


 綾花の表情に潜んでいる侮蔑に気づかぬ福太郎ではない。それに気づいたからこそ、彼は逆に綾花に言う。


「イモムシ……でしょう? 先程からあなたたちが何度も彼女をそう呼んでいましたよね?」

「そう。あいつってば、イモムシを平気で素手で触るような変な女なのよ? それもイモムシを見てにやにや笑っているし……気持ち悪いったらないわ。あなたもそう思わない?」


 にたにたと意地の悪い笑みを浮かべる綾花。他の三人も、くすくすと笑う声を隠そうともしていない。


「悪いコト言わないから、あいつと付き合うのは止めた方がいいよ? 変わりといったらナンだけど、はい、これ。私のアドレスあげるからさ。暇な時にメールしてよ」


 綾花はポケットから取り出したメモを福太郎に握らせる。他の三人も、私も私もと我先にメモを差し出した。

 この時になって、初めて福太郎は綾花をじっくりと観察した。

 背は同年齢の中では高いほうだろう。おそらく、170センチはないものの165センチは超えている。

 派手な化粧と髪色の映える、美少女と言っても差し支えない容姿。プロポーションもまた、衣服の上からでもその発達具合が用意に感じ取れた。

 綾花もまた、自分の見た目にはそれなりに自信があるのだろう。それも合わせて、福太郎が自分の言う事を聞くと思い込んでいるようだ。

 他の三人だって、みな平均以上の容姿の持ち主である。

 だが、福太郎はふっと笑みを浮かべると、手に握らされたメモを綾花に突き返した。


「お返しします。僕にはこれは必要ありませんので」


 簡潔にそう綾花に告げると、福太郎はその場で少女たちに背を向けた。

 そして背中越しに鋭い視線を少女たちへと向ける。


「正直、今の僕はかなり腹が立ってイラついています。次にあなたたちの顔を見たら、何をしでかすか判らないぐらいに、ね。ですから、二度と僕の前に現れないことをお薦めします。では失礼」


 その視線と言葉に含まれた怒気に、少女たちは思わず立ちすくむ。

 そんな少女たちに二度と目を向けることなく、福太郎は伊勢家へと足を向けた。



 『王子と付き合う魔法のコトバ』ようやく更新できました。


 随分と間が空いてしまいまして、申し訳ありません。

 特に連休中には子供を遊びに連れていったり、かと思えばその子供が体長を崩したりで全く執筆できませんでした。

 もっとも、休みの日は基本的に執筆はしないのですが。ええ、子供に邪魔されます(笑)。

 さて、本編は美晴の過去のエピソードへと。それが終われば、この『王子と付き合う魔法のコトバ』もゴールは間近となります。

 次回の更新がいつになるとは明言できませんが、気長にお付き合いいただきたいと思います。


 では、次回もよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ