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11-幸田邸訪問 その1

 午後最初の授業は体育である。一年一組と二組の合同授業で男女別。

 授業内容は、男子は体育館でバスケットを、女子は校庭でソフトボールを行っていた。

 そして今、目の前で繰り広げられている素人丸出しの拙い攻防をぼんやりと眺めながら、現在攻撃側のチームに属している美晴は、ベンチに腰を降ろして先程の昼休みの事を思い出していた。

 なぜ、福太郎と鳴海はあんなに親しげなのか?

 確かにあの二人には生徒会の会長と副会長という接点がある。親しくしていても不思議ではない。

 だが、美晴にはあの二人の立ち位置の近さが、単に生徒会の役員同士であるだけとは違ったものに感じられた。

 あの二人が互いに信頼し合っているのは確かだろう。

 しかし、少なくとも鳴海は福太郎に対して、それ以上の何かを抱いていると美晴には思えるのだ。

 そして気にかかることはもう一つ。

 福太郎と鳴海の今日の弁当のおかずが同じだったことも、彼女の気になる点だった。

 同時に、彼女は自分でも気づいていない点もある。

 それはどうして二人の事が必要以上に気になるか、ということ。

 そのことに彼女自身、現時点ではまるで気づいていないのだった。




「どしたの、みはルン。何か難しそうな顔してるよン?」


 美晴と同じチームに属する真琴が、ベンチに座る彼女の隣の空きスペースに腰を降ろした。


「その様子じゃ、私のさっきの打席は見ていなかったね?」

「あ、ご、ごめん。で、どうだったの? 打席の方は」

「そりゃーもー、見事で豪快な三球三振だったにゃー」

「自慢する事かっ!?」


 にゃははーと笑い、ご丁寧にVサインまで提示して自らの痴態を自慢する真琴。

 そして真琴は、その笑みを消すことなくさらっと美晴の核心に触れてきた。


「その様子だと、福太郎くんと会長さんのお弁当のおかずが一緒だった、ってことが気になって仕方ないって感じだねー」

「んぐっ!! あ、あんた気づいて……?」


 とーぜん! と胸を張って答えた真琴の笑みが、俄に「にゃははー」から「にまにま」へと変化する。


「これはみはルンもいよいよかにゃー?」

「な、何よ、いよいよって」

「うふふー。こりは楽しみが増えましたよン」

「だから、あんたは人の質問に答えなさいって!」

「しかしまあ、随分と親しくなったもんねぇ、あんたたちも」


 溜め息交じりに二人の間に入って来たのは、最近美晴たちと一緒に行動する事の多い留美だった。


「それより早くしなさいよ」


 突然そんな事を尋ねる留美に、美晴はきょとんとした顔で応える。


「打順。美晴の番なんだけど?」


 あっと思って美晴が視線を動かせば、バッテリーと審判役の女子生徒がじっと美晴を見ている。


「ご、ごめん!」


 顔を真っ赤にさせた美晴は、慌ててバット片手にバッターボックスへと駆けて行く。

 ちなみに。

 この時の美晴の打席の成績は、決して真琴の事を笑えないものだった事を付け加えておこう。




「あー、王子と姫ねぇ」


 体育の授業が終わった後。更衣室にて体操着(ジャージ)から制服へと着替えている美晴たち。

 そこで美晴と真琴は、留美が例の二人と出身中学が同じということで、中学時代のことを尋ねてみた。


「確かに、中学時代にもあの二人の噂は色々あったわね。特に三年前、姫が中三で王子が中一の時は」


 その極めて整った外見から、中学時代から二人は異性にかなり人気があった。

 特に鳴海が生徒会長、福太郎が副会長を務めた時期には、二人でいることが多かったこともあり、それはもう数多くの二人に関する噂が流れたらしい。


「姫のファンは王子を、王子のファンは姫を、それは親の仇のように思ったそうだけど、なんせほら、二人ともあの外見でしょ? 二人で並ぶと絵になりすぎているもんだから、誰も強く言えなかったらしいわ」


 留美の説明に、美晴と真琴は思わず納得する。

 あの二人が並び立つと、まさしく絵画を見ているような気にさせられる。

 並んだあの二人の間に割り込むには、並みの芸能人クラスの外見では間違いなく見劣りしてしまうだろう。

 正に王子と姫という呼称がぴったりな二人。

 そんな事を考えていた美晴に、留美は更なる追加情報をくれた。


「そういや当時から、姫が頻繁に王子の家に出入りしているって噂もあったわねぇ」




 そして時は流れてその週の土曜日。

 この日は、美晴と真琴が福太郎の家を尋ねる約束の日だった。

 前もっての打ち合わせで、集合場所は福太郎宅に最寄りの駅のロータリー、集合時間は午前十時と決めた。

 駅までは福太郎と玄吾が、美晴と真琴を迎えに行くという約束だ。

 電車のダイヤの関係上、集合時間より少し前に駅に到着した美晴。

 ロータリーが見える駅構内のベンチに腰を降ろし、何気なく携帯を弄る。

 今日の彼女のいでたちは、飾り気のない黒の長袖Tシャツの上に濃い色目のデニムのオーバー。ボトムもオーバーと同色のデニムパンツに赤いスニーカーと活動的なもの。

 その他には小物を入れるための小さなバッグを肩からかけており、いつもは大雑把に三つ編みにされている髪は、今日はそのまま流されている。いつもの三つ編みの癖かそれとも天然か、腰まである黒髪は緩やかなウェーブを描いていた。

 美晴が携帯を弄っていると、ロータリーに入ってきたバイクの音が耳についた。

 ふと顔を上げてそちらを見れば、二台のバイクが美晴から見える場所に止まり、ミラーシェイドのヘルメットをかぶったライダーたちがバイクから降りて何事かを話しているようだった。

 バイクのうち、一台座は丸っこいながらも洗練されたイメージの青いバイクだが、もう一台はダークオレンジの平べったい、バイクというよりソファみたいなバイクだった。

 バイクに詳しくない美晴は、一般的なイメージのバイクではなく、まるでおばさんたちが買い物に使用するスクーターを大きくしたようなバイクだなと思った。

 やがてもう少しで集合時間の十時となりそうな時、真琴がやって来た。

 今日の真琴はオフホワイトのシャツの上に淡いパステルイエローのパーカー。

 アンダーは美晴よりも遥かに色の薄いデニムのショートパンツに、パーカーに合わせたライトイエローとライトオレンジの縞柄のオーバーニーと白のスニーカー。

 背中には小さなリュック型のバックを背い、いつもはツーテールにしている髪も下ろされて、右サイドに一房だけカラフルな髪ゴムで纏めていた。

 普段制服姿ばかり見慣れた美晴には、私服姿の真琴はなかなか新鮮だった。


「いやふー、みはルン。待った?」

「それ程でもないかな。私は電車の都合でちょっと前に着いちゃっただけ」


 真琴は美晴の横の空いたスペースに腰を降ろすと、さっとロータリーを一望する。


「福太郎くんたちはまだみたいだにゃー」

「そろそろ来るんじゃない? なんとなくだけど、あいつって時間にはきっちりしてそうだし」


 そんなとりとめもない事を真琴と喋っていると、美晴は先程のライダーたちがじっとこちらを見ている事に気づいた。

 もしや所謂ところのナンパか?

 一瞬そう思うものの、自分のような地味な女に声をかける奴なんていないだろうと、その考えを否定する。

 だが、自分の隣には真琴がいる事を思い出した。

 真琴も取り立てて美少女というわけではないが、それでもいつも元気一杯の彼女は見る者によっては魅力的に写るだろう。


「どしたン、みはルン? もしかして、これから福太郎くんの家に行くから緊張してる?」


 馬鹿なことを言ってくる真琴に返事もせず、美晴はこっそりと例の二人組のライダーを指差して真琴にその存在を知らせる。


「……なんか、あいつらがさっきからこっち見てるのよ」

「ふぇ?」


 真琴が美晴の指差した方に目をやれば、問題の二人組がゆっくりと美晴たちへと歩み寄って来るところだった。


「み、みはルン。あの二人、なんかこっち来るよ?」

「え?」


 言われて美晴が振り向けば、例の二人組はもうそこまで来ていた。

 二人ともラフな服装で、上はライダージャケットに下はデニムジーンズ。足元はライダーブーツで固められており、背丈などから大学生ぐらいかと推測される。

 更に不自然な事に、二人組はなぜかバイクを降りた時のままヘルメットを脱いでおらず、そのため顔が確認できない。

 これはまさか、ナンパどころか下手をするとひったくりや強盗では?

 だが今更露骨に逃げる訳にもいかず──逃げると犬のように余計に追いかけてきそうで恐い──、美晴と真琴は内心でびくびくとしつつも、それでも外面は冷静を装って二人組から必至に視線を逸らしていた。

 するとそこへ、最近すっかり聞き慣れた声が響く。


「お待たせしました」


 二人がほっと安堵しつつ辺りを見回すが、声の主の姿が見えない。

 あれだけ目立つ外見をしているのだから、例え人込みの中にいても判らないなんてことはないだろう。

 加えて、今の駅構内にはそれ程人は溢れていない。

 更に加えて、例の二人組のヘルメット姿たちが、目の前まで来てしまった。

 思わず互いの手を握り合い、恐怖のあまり逃げ出そうと美晴たちが腰を上げた時、目の前に来た二人組がその場でヘルメットを脱いだ。

 もちろん、そのヘルメットの中から現れたのは、美晴と真琴がよく見知った顔である。


「やっぱり気づいていませんでしたね?」


 そう言ってにやりとどこか黒い笑みを浮かべるのは、間違いなく福太郎だった。


「なぁんだぁ……福太郎くんたちだったのかぁ……」


 ほっとして力が抜けたのか、真琴がずるずると再びベンチに腰を降ろす。釣られて美晴も座り込んだ。


「おや? どうかしましたか?」

「へ、ヘルメットを脱ぎもしない不審者が近づいて来たら、普通はこうなるわよっ!!」

「それは申し訳ありませんでしたね」


 きっと睨み付ける美晴に、福太郎は素直に謝罪した。


「ちなみに、少し驚かせようとか言い出したのはコウフクだからなー。俺は無実だぞー」

「いいえ、きっぱりと同罪です! お詫びとしてジュースを私たちに奢りなさい!」


 福太郎と同じようにヘルメットを脱ぎながらそう告げた玄吾に、腰に手を当てて立ち上がった真琴が断罪の言葉を放つ。

 その言葉に従い肩を竦めた福太郎と玄吾の二人は、真琴に告げられた判決に従って、手近の自販機で二人に飲み物を買ってやる。




「しかし、二人ともバイクの免許持ってたんだねー」


 二人に買ってもらったジュースを飲みながら、真琴はロータリーに止められた二台のバイクを見る。


「あれって、青いのがスズキのスカイウェブで、ダークオレンジがヤマハのマグザムだよね? 250ccの」

「へえ。バイクに詳しいのか、真琴ちゃんって」

「まーねー。私のお兄ちゃんが二輪免許持ってないくせにバイク好きでねー。家に雑誌とかあるからたまに見るんだー」

「でも、確かうちの学校ってバイク禁止じゃなかった?」


 首を傾げながらの美晴の言葉に、福太郎と玄吾の二人は互いに顔を見合わせて苦笑する。


「なーに、ばれなきゃいいんだって」

「そのために、二つ隣の町の教習所までわざわざ通いましたからね。乗っている時も顔が判別できないようにミラーシェイドのヘルメットを着用しますし」

「…………それでいいのか、生徒会副会長……」


 がっくりと肩を落として溜め息を吐く美晴。そんな彼女に予備のヘルメットを渡しながら、福太郎はどこか嬉しそうに言う。


「さあ、そんな事より、そろそろ僕の家に行きましょうか」



 『王子と付き合う魔法のコトバ』更新。


 今回は平日の福太郎たちのお話。本当なら幸田邸に到着するまで書くはずだったのに、駅前で集合したところで終わってしまった。どうしてこうなった?

 ところで、バイクって免許取ってすぐダンデムして良かったっけ? 以前、免許取って一年はダンデムしちゃいけないって聞いたような……ま、見つからなければいいよね(←オイ)。


 では、次回もよろしくお願いします。

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