兵士の欲しいもの
「切り裂いてやる!このケダモノがァァァァァァァ!」
俺はケダモノのように走ってくる占い師を切り裂くべく、刀へと変えた十字架を構えて突進していく。
馬鹿なことかもしれないけど、それが俺の戦い方だ。
「そこをどけ!悪魔ァァァァァァ!」
占い師の女がその端正な顔を台無しにするほど、顔を歪ませて叫んでいる。
勿体ねえなあ。
占い師は地面を四つんばいで走ってきて、俺に向かってその大きな爪をつきたてようとする・・・瞬間の事だった。
俺は反射的にポケットから数枚の札を取り出し、彼女の身体へと張り付ける。
「あ、あの札は・・・!」
シャルが息を呑んだかのように俺の手元を見ている。
なんだ?知ってるのか?
なんなら、説明は早いや。
破魔札。
名の由来は「その力で以って魔を破り捨てる」。
破るを「倒す」、「千切る」とかけているのはいいと思う。
・・・まあ、盗んできたものだけどね。
【王国】から。
「な、なんだと!?破魔札かっ!こんなもので・・・、こんなものでわっちを倒せると思っているのカッ!」
占い師さん、激昂。
まあ、気にしちゃおしまいさ。
ただ、切り裂けばいい。
札で動きを止めて、俺は躊躇無く切り裂いた。
「おのれ、この悪魔がアアアアアアア!」
だが、どうやら札が効果をなさなかったらしい。
残念なことに。
ガッカリでしかねえ!
誰だよ!
コレを「聖なるもの」って扱ってた【王国】の気が知れねえ!
がっかりだよ!(二度目)
ヤバイヤバイ。
いくら、聖なる力とはいえ、効いてなくちゃ意味が無い!
「レイたん!レイたんは私が助けるから、私のものになりなさい!」
雹だった。
占い師の四肢の動きを空気中にある水分を使って、凍てつかせたのである。
「何をするッ!化け猫に向かい、このようなことをするとは!」
・・・ああ、コイツ。
化け猫だったのか。
吸血鬼が支配してる世界だから、てっきり狼男とかいるんじゃないかとか思ってたけど。
「じゃ、おつかれさん」
俺は化け猫(元・占い師)の額に左手で殴りつける。
すると、卒倒。
「な、なんだ・・・?」
「すごいですよ、クロス様!」
シャル、大喜び。
何に喜んでるんだろう・・・。
「貴方の『悪魔』としての力は『魔を殺す左手』と『自分以外の全てを癒す右手』らしいんですけれど、まさか、それが本当だとは私達も信じられなかったんです!ということで、ご褒美です♪」
シャルは嬉しそうに俺に手袋を渡してくれた。
それは、指の無いタイプの手袋。
はめてみた。
左手に。
「わああ、可愛いですっ!クロス様♪」
がばっ、と俺に抱きつくシャル。
あんた、本当に一国の女王様なんですかい?
ビックリしちゃうぜ。
吸血鬼ってことは、俺より年上のはずだよな?
不老不死らしいし。
ていうか、十字架下げてるのにいいのか?
まあ、今は刀の形態だけど・・・って戻ってるよ!
滅茶苦茶だ。
「そういえば、いつ、わたしから奪い取ったのです?チョーカー」
そういえば、シャルの首には十字架が下げられていない。
はっきり言いましょう。
俺も知りません。
「レイたん!駄目だよ、私を無視しちゃ!」
俺が切り裂いた化け猫の惨殺された後の死体。
それを平然とした顔で雹は踏みつけて、俺のほうに来る。
なんで、踏み潰すんだよ・・・。
「いつ、俺が無視した?」
「私のものになって、って言ったのに返事聞いてない」
「・・・」
返す言葉も無い。
当たり前だ。
こんな場所で返せたモンじゃねえし。
「オイ、そこのお前。」
後ろの方から声がする。
「なんだよ?」
ちなみに、今の俺の姿はブレザーではない。
裾がボロボロの羽織とズボンだ。
いつの間にボロボロになっていたのやら。
「占い師のべヒモス・アンクレラを殺した容疑でお前を連行する」
どうやら、王国の兵士のようだ。
ていうか、ここは街並みとか完全に日本だってのに。
法律まであるのか?
「嫌だといえば?」
シャルに待って、と合図を送り俺はポケットから数枚の破魔札を取り出す。
相手が吸血鬼ならば、効くと思ったからだ。
どうやら、この世界でも俺は一国を相手取りそうだ。