覚醒の兵士
「ハア?俺は占いなんて、信じねえよ」
『占いは信じない』。
俺は神に抗ってきたのだから。
踊り子のような占い師は、ニッコリと笑った。
・・・いや、笑っているように見えるのか。
ヴェールを被っているからな。
占い師の女は、店から俺のほうに向かって歩いてくる。
なにか、用なのだろうか?
「兵士さん、そんなこと言わないで♪あちしの話を聞いていかない?」
なんで?
俺が聞かなきゃいけない?
「わーったよ。」
「クロス様!?」
「レイたん!?」
シャルと雹は驚きを隠せないようだ。
それもそうか。
ききたくねー、からの答えだしな。
「・・・で、どんなのを聞かすつもりなんだ?」
「とりあえず、あちしの店に来てよ。」
そう来るか。
占い師は俺の手を引いて、自分の店へと連れて行く。
ときおり、獣の尻尾のようなものが見えるのは、気のせいか?
少し透けた衣装から見えるんだが。
・・・いや、見てるわけじゃないんだけどな。
シャルと雹が付いてくる音がする。
店の中に入り、シャルと雹が入り終わった後、占い師は鍵をかけた。
「これで、全員ね?それにしても、可愛い兵士さん♪」
占い師は俺の手を触る。
さわさわ。
「オイ、なにしてんだよ・・・。」
「だってさー、気持ちいいんだよ?兵士さんの」
兵士。
それは、俺の本名である。
クロスとか、レイドとか、木間派とかって呼ばれてるけど。
「早く教えろ」
「そうよ、早く教えなさい。じゃなきゃ、凍てつかせて殺すわ」
雹は手のひらの上に、氷の結晶を作り出した。
しかし、若干赤いのはどういうことだ・・・。
イチゴシロップをかけたかのような、そんな感じ。
「あはは、かわいい彼女さんね。」
占い師はヴェールを脱ぐ。
頭から現れたのは、獣耳。
マントを脱ぐと、ボディラインが明らかになった。
オイオイ。
お前、それで占い師かよ?
踊り子みたい。
格好もそうだけど。
「彼女みたいなものよ。そのものと言ってもいいわね。」
「あの、雪女さん。わたしは、クロス様の主なのですよ?貴方なんかに負けません!」
麦藁帽子をくいっ、と上げて雹に喰いかかるシャル。
牙も剥いてます。
吸血鬼だしねっ!
萌えるぜ!
「へー、女王様が主なんてね。」
占い師はぷくく、と笑う。
「笑わないでください!クロス様の首にあるんですからね!わたしの所有物である証が!」
シャルは、俺の十字架のチョーカーをくいっと上げる。
どうなってんだ?
「ス、聖痕・・・!」
占い師は驚きを隠せないようだ。
つか、驚きすぎだろ。
「フフフ。わたしのチカラを思い知りましたか。わたしは吸血鬼の王。
出来ないことなんてないの。わたしの最凶にして最悪の使い魔。この子が居れば、わたし達は戦争を終わらすことが出来ます。わたしの手の甲にもありますよ」
シャルが袖を捲くる。
そこに描かれていたのは、歯車の結晶に酷似した模様。
六角形の中に描かれた、角を持つ髑髏。
「そ、それは・・・!」
憎き【王国】の紋章。
高揚する、俺の感情。
「てめえか、蛆虫共の総大将は・・・!」
俺に感じるのは、妙なまでの力の上昇。
首からかけた、十字架の姿の変貌。
奴隷商から雹を奪い取った時と同じ、刀。
だけど、そのときと何かが違う。
柄に描かれているのは、小さく【VersusDarkuness】と彫られている。
「アハハハハアハハハハハ!女王様じゃ、兵士さんを止めることは不可能ね!あちしなら、あちしならば、兵士さんの異能をコントロールできる!」
猫耳で獣の尾を生やした占い師は、両手を広げる。
占い師は、姿を一瞬で変えた。
・・・いや、元の姿に戻ったというべきだろうか。
ハイエナをイメージさせる、動きやすそうな戦闘装束。
それだけを見れば、コスプレにも見えるのだが、生々しく生える一目で見ても、付けているようには全く見えない、長い爪。
「貴方を殺して、異能を奪う!そして、その後は愛玩動物にしてあげるわ!」
獣のように四つんばいで走ってくる。
俺はシャルに刃を向けるのではなく、占い師もといケダモノに刃を向ける。
俺の今の服装は、学生服のブレザーを改造したようなもの。
左胸ポケットの描かれている、『VampireKiller』の文字。
このとき、俺は二ヤリと笑ったような気がする。
そして、目の前の敵に向かって言い放つ。
「よう、ケダモノ。・・・さあ、裁きの時間だ!」