婿候補
俺は、目を覚ました。
「ここは、どこだ?」
みると、怪我は完全に治っており、服も汚れが多い作業着ではなく、綺麗に洗われた赤いカッターシャツ。
ズボンには、高そうなベルトが巻かれている。
ネクタイを首にしているようだが、外見から予測できたのだろう。
かなり、緩くなっている。
鏡の前に立ってみると、見間違える。
「服、気に入りました?」
声がするほうを振り返ると、あの戦場に居た、あの女が居た。
雪のように白い肌で、長くて真っ黒な黒髪、血のように赤い目。
なにより、最も異様さを匂わせたのは、八重歯だった。
真っ黒でリボンで留められた、ドレスの下からは真っ黒なニーソックスを履いた足が伸びている。
豊満な胸の上にあるのは、紛れもなく俺の十字架のペンダント。
「まあな。・・・つーか、俺って死んだんじゃねえのか?」
思った疑問を彼女にぶつけてみる。
彼女は、ニッコリと笑い、とんでもないことを言いやがった。
「ええ。貴方を悪魔にしました。わたし達の技術では、人間を蘇らせるわけには行かなかったもので。」
言ってくれるじゃねえか。
そのことについて、言ってやろうと思ったが、面倒になった。
天井を見上げると、シャンデリアが光っている。
「なあ、アレってさ、お前のモンなんだよな?」
「ええ。わたし、この城のモノを全部所有してますから♪むろん、貴方もですよ?だって、だってー、わたしが召喚したんですからね。ねえ?じいや」
すると、扉が開いて老人が入ってきた。
「はい、そのとおりでございます、女王様」
「ハア?お前、女王だったの!?」
呆れるしかねえ・・・。
一国の王様があんな場所にいたなんて。
「しかし、感謝しますぞ、クロス殿。」
老人は両手で俺の手を握る。
げえっ、気持ち悪い。
男が俺の手を握るんじゃねえ!
「なんでだよ。」
ていうか、よくみてみると、俺の手の爪が異様に長かった。
しかも、犬歯、少し長くなってねえか!?
「もう、クロスはかわいいなあ・・・」
女王は俺の頭をわしゃわしゃ、撫でて後ろから抱きつく。
うおっ。
凄いやわらかい。
しかも、俺より背が高いってどういうことだよ・・・。
「では、シャギーリュ様、ごゆっくり」
「わかったわ、じいや。おやすみ」
シャギーリュって言うんだな、コイツ。
つーか、まだ昼じゃねえか。
ヴァンパイアかなんかなのか?
扉の前で老人はお辞儀して、部屋から出て行った。
「さあ、座ってくれる?クロス」
「どこにだよ?」
「もちろん、ベッド!」
かなり、シャギーリュは嬉しそうだ。
ベッドに座ると、シャギーリュは俺の隣に座った。
よくみると、尻尾まで生えてるじゃねえか。
どういうことだよ・・・。
もう、悪魔じゃねえか。
「そういえば、お前、シャギーリュって言うんだな。」
「うん。でも、クロスにはシャルって呼んで欲しいかな。そういえば、クロスの姓名は何?」
姓名?
なんだ、それは。
保険の事か?
「あはは、面白いね。違うよ、苗字の事だよ」
「ああ、苗字な。確か・・・、木間派だったかと」
俺が悩んでる時、なんかしらねえけど、すごくシャルに見られてる気がした。
「き、木間派?」
「ああ、木間派。それがどうかしたのか?」
キマハ。
それは、後で聞いたことだが、シャルが女王をしている王国での言葉で『将軍』をあらわすとかなんとか。
「そっか・・・。じゃ、貴方をここに呼び寄せた理由を話すね。」
いつの間にか、タメ口だったけど木にすることはねえや。
うん。