終わりと始まり
あれは、確か俺が傭兵として戦っていたときのことだった。
戦線は劣勢。
敵は350人と二人乗りの抹殺機が15機。
対して、味方はと言うと。
兵士は15人。
抹殺機が5機。
これじゃ、勝てるわけがない。
俺は現在、5人の仲間と敵地に乗り込んでいる。
相手の目的?
相手の目的は、『歯車の結晶』とかいう奴だ。
相手―――つまり、王国側は歯車の結晶の廃棄命令を出した。
理由はたった一つ。
『歯車の結晶には、選びとった持ち主に最高の魔力を与える』という、伝説を信じているからだ。
俺らはそんなことは全然、信じていない。
城下町の連中ならどうだかはしらない。
だけど、辺境の町に住んでる俺らはそんなことは信じていない。
俺らにとって、歯車の結晶は生活には欠かせない。
王国の連中にくれてやる気はねえよ。
残念ながら、な。
8本足の蜘蛛を思わせる、抹殺機はガチャガチャ、と鋏を打ち鳴らす。
「うぎゃああああ!」
ガシャンガシャン!
抹殺機が仲間の一人を食い殺す音がする。
抹殺機は生きている兵器で、王国が聖獣としている、『オオガラスパイダー』を改造して、王国の兵士が乗り込んでいる。
俺達、レジスタンス側の抹殺機は形が違う。
狼型で直立二足歩行しているタイプで、王国側と違い、牙を剣の代わりにして使う、剣術が得意。
だけど、それが仇となっている。
基本的に、牙には充電時間が存在していて、二人乗りでしかも、魔力を大量に消費する。
魔力の低い奴らなら、一時間もかからず、魔力を抹殺機に吸われてしまう。
戦争開始時には、優勢だった俺達。
『レジスタンスよ!投降せよ!これ以上、無駄な争いをしていても意味がない。繰り返す!レジスタンスよ!投降せよ!これ以上、無駄な争いをしていても、意味がない。繰り返す・・・』
「うわあああああ!」
ガコンガコン!
抹殺機が巨大な身体を引き摺るようにして、一人、臆病風に吹かれ、走り出した奴を捕まえた。
その巨大な鋏で、肉を引き裂く。
耳を覆いたくなるくらい、気味の悪い音だった。
「畜生、全ッ然動けねえじゃねえか・・・」
俺と行動を共にしている、アルフレッドは柱に凭れながらも、不満を漏らす。
それもそうだ。
昨日から何も食べてないのだから。
「どうすりゃいいんだ?なあ、レイド?」
「しらねえよ」
そのときだった。
アルフレッドは、柱の影から出てしまったのである。
「おい、アル!死ぬぞ!」
俺が必死に忠告しても、アルフレッドは笑うだけだった。
「オイオイ。何泣き言言ってんだよ、レイド。絶対零度のレイドの名前は伊達かよ?」
アルフレッドは、光線剣を最大出力にすると、俺に笑いかけて抹殺機に向かって、走り出した。
「うおおおおおおおおお!」
どうやら、王国側も投降を呼びかけるのをやめたらしい。
俺らレジスタンスを騙そうたって、無駄だからな。
お前らに何度、騙されたことか。
ガシャアアアアアアン!
鉄鋏の音がする。
ま、まさか!?
アルフレッドが・・・捕まった?
俺は、その辺に落ちていた鉄パイプを拾い、柱の影から出た。
抹殺機を興味深そうにみている、一人の女がいた。
「おい、なにしてんだよ!」
彼女は何もいおうとしない。
ったく、あぶねえってのに。
動いてないだけマシだけどな。
「ちょっと、来い」
アルフレッドは捕まっちまった。
コイツを避難させていても、追いかけれるだろうな。
俺は彼女の手を引き、柱に連れ込む。
・・・いや、深い意味はねえけどな?
そこ、重要だから。
「お前、なんであんなところに居たんだよ?危ないだろ、ここ戦場なんだぞ?」
「なんというか、始めて見ましたもので」
彼女は優雅に笑っている。
その動作の一つ一つには、気品が漂っている。
ふと、彼女は俺の首を見た。
なにかついてんのか?
「ああ、いえ。なんで、十字架のチョーカーをしているのかな、と思いまして。」
首からかけている、十字架のチョーカー。
幼いとき、アルフレッドが俺を見つけたときから、俺は首にしているらしい。
この十字架にあやかって、俺はアルフレッドや他のレジスタンスに十字架と呼ばれている。
『お前らの仲間はみな、我々が捕獲した!残り一人、柱に閉じこもっているのは分かっている!』
王国の抹殺機はガシャーン、ガシャーンと動いて俺を探している。
あいかわらず、みつけんの早いよな。
「じゃ、行って来るわ」
「え?」
「あの蜘蛛野郎をぶっ飛ばすってんだ。・・・ってことで、これお守りな」
俺は彼女の首に十字架のチョーカーをかけてやる。
神は信じたことはない。
だけど、この女は守りたいと思ったんだ。
俺はな。
だからよ、カミサマさんよ。
俺はどうなろうが、関係ねえ。
せめて、こいつくらい守ってやってくれねえか?
無理ってんなら、俺はあんたを許さねえ。
俺は柱から飛び出した。
加速機能付きのサンダルを加速させ、抹殺機の目の前で光線剣の出力を最大限にする。
『ここで、戦ってもお前に勝機はない』
「さあな?どうなんだか、わかんねえぞ?」
俺は光線剣を左手に持ち替え、地面を強く蹴る。
狙うは、コックピット。
俺が光線剣を振り下ろそうとした、同じ瞬間。
抹殺機が鋏を伸ばして来て、俺の身体を貫いた。
辺りに飛び散る、真っ赤な血。
徐々に薄れる、意識。
ここで、死ぬのか。
俺は目を閉じた。