8. エピローグ・秘密の想い
※最終話です。
※2026/1/29 一部追加修正済み
✧─ VOL8 ─✧
✧エピローグ・ 私の心の秘密 ✧
茂、正直に話してくれてありがとう。
あなたの気持ちはよくわかった。
そうか、あなたは一年前から私と別れたかったのね。
うん、そうよね。
私もずっと分かっていた、
なぜなら私たちの出会いは、初めからジ・エンド。
必ず終わりがあるって信じきってたから。
だから──。
七年間、私は茂に一度も『結婚して欲しい……』とは言わなかった。
ふふ、茂、あなたもそうでしょう?
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七年の月日は瞬く間に過ぎ去っていったけれど。
いつも無意識に茂から別れを切り出せるように、私はどこかで仕向けていた気がする。
この一年くらい映画のサイトに協力しなかったのも多分、これがもう一つの理由。
茂、私たち最初からゴールインなんて不可能だもんね。
あなたのお母さんとは、結局一度も合わせてくれなかったし。
わかってる、若いあなたにとって私は結婚対象外の女。
正直、あなたの本心がどこにあったのかは、私にはわからない。
少しは愛してくれたと信じていいよね。
だから七年もつきあってくれたんだもんね。
そう思って素敵な思い出に変えていく──。
多分、茂の本音──
『年上女だし少し遊んでもいいかな。見た目は若いし外見もいい』
とか思ってたのかも。
そうだよね──。
多分、茂は私とつきあい初めは軽い気持ちだったんじゃないかな。
茂と私は映画もアニメの趣味も一緒、笑っちゃうのは干支まで一緒!
同じ うさぎ年。
ただ茂より十二も年上なんて、若いイケメンが本気で相手にするわけがない。
出逢った時、茂は二十五歳。 私は三十七歳。
七年目の秋、茂は三十二歳。 私は四十四歳。
そうだ、私たちはどこまでいっても平行線。
いや違う──。
男と女は平行線じゃない。
時間がたてばたつほど、もっともっと拡がっていくんだよ。
私が還暦のおばあちゃんになっても、茂はまだ四十八歳の男盛り。
シゲル君、あなた私の年を考えた事が一度でもあった?
私、いつも若くみせてたけど、とっくに四十代なのよ。
レトロのファミレスで、お腹が一杯になれば真夜中だもん、疲れて寝ちゃうのは仕方ないでしょう。
徹夜で映画鑑賞なんてもう無理よ。
体がだるくて起きあがれない、朝食を作りたくない時もあった。
ちょっと早い更年期がきてるみたいなの。
でも、そんなこと一言もあなたに相談できないし、私もオバサンと思われたくなくて話さなかった。
✧ ✧
茂、お互いまだ顔も知らない、メール交換してた頃のこと覚えてる?
私が自分の年齢を正直にいったら、茂は驚いたけど返信してくれた。
『ツルミンさんと僕の年、一回りも違うなんて意外でした!』
『うん、そうですよね。おばさんでごめんね』
『いえいえ、とっても文面が可愛いからてっきり同じ年かと!』
『エヘヘ、精神年齢が若いだけだよ!』
『そんなことないですよ。洋画も邦画も精通してるし、こんなに気が合う人僕初めてです !(^^)!』
あ、そうそう。茂の顔マークは決まってこれだ。!(^^)!
『どうです、一年もメル友した仲だし、一度あなたと直に会ってお話したいなぁ』
『私と?』
『はい、嫌ですか?』
──うあああ、どうしよう?
迷いに迷ったけど京都の清水寺の舞台から飛び降りる気持ちで、覚悟を決めて茂と会った。
お互い好きな映画くらい、たまに一緒に観に行けたらいいな。
若い映画の友達ができたらいいなって、ただそれだけだった。
✧ ✧ ✧
茂、あなたは知らないでしょうけど、私、あなたと恋人になった初めてのあの夜、人生が最高に輝いたの!
あれ以上最高の日は、多分この先、永遠にないと思うよ。
それまでの私は女を捨てていたから。
三十過ぎても恋愛らしい恋愛をした記憶がなかった。
毎日、ただ仕事との往復だけで、休日はアニメや映画ばかり見てるオタク女子。
出会いがないといえばそうだけど、自分から男性に話しかけることもできない意気地なし。
学生の時から男子が苦手で、女子高という狭い環境の中でいつも女子の輪に隠れていた。
気付けばあっという間に三十代になっていた。
恋愛なんてアニメや映画だけの世界。
奥手で引っ込み思案、何事もなく、このまま年を重ねていくだけ。
恋も知らないオバサンなるだけの運命だった。
そしたら突然、私の目の前に若いイケメンの王子さまが現れた。
ネットで知り合った好感度抜群の、シゲル君。
初めて私を見つめたあなたの反応は意外でびっくり。
それはそれは嬉しそうに頬を染めながら、私に照れ笑いをしてくれた。
初めて茂の家から帰宅した時、私の携帯に愛のメッセージをくれたの。
『千鶴さん、もう家に着きましたか。今夜、僕は初めてジョン・レノンがオノ・ヨーコを愛した気持ちがわかりました』と。
生まれて初めてもらったラブメール。
茂のメッセージは本当に嬉しかった。
めちゃくちゃ感激して帰りのタクシーの中、携帯の文字を何度も見ながらひとり泣いたの。
今もプリントして大切に取ってある。
あの時の私は、まるで昔みた洋画の『僕の美しい人だから』のヒロインのノラ嬢みたい。
生まれて初めて映画のヒロインになった。
中年のノラはエリート広告マンのマックスと知り合う。ノラはウェイトレスをしてて貧しくて、おまけに彼より十六も年上だった。
映画は紆余曲折あったけど、最後はハッピーエンドだったね。
この映画もあなたの部屋で観た。
見終わった後、茂は何も言わずに私を抱きしめてくれた。
あの深夜のビデオタイムは本当に楽しかったなぁ。
ありがとう茂──。
素敵なシーンをたくさん私に与えてくれて。
本当にありがとう。
これまで7年間もつきあってくれた。
もう十分だよ。
最初、私は絶対一カ月で、二人の関係は終ると思ってた。
七年間、私にとってかけがえのない思い出ばかり。
キラキラ光る宝物みたいな時間だった。
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「千鶴、千鶴、聞いてるかい?」
茂の優しい、いつもの甘い声が聞こえた。
長い長い沈黙の中、私は走馬灯のように二人の七年間を思い出していた。
「あ……ごめんなさい」
我にかえった私は、スマホを前にようやく口を開いた。
「茂、あなたの気持ちはよく分かりました。お手数ですが私の荷物は全部捨ててください」
「え、捨てちゃっていいの? 千鶴の荷物たくさんあるけど……」
茂は驚いた。
「うんいい、全部捨てて。本当に今まで長い間、私と付き合ってくれてありがとう。そして映画サイトの事もお役に立てなくてごめんなさい。──私、とってもとっても幸せで楽しかった、茂、どうか幸せになって、いつまでも元気でね!」
「千鶴……ありがとう。そしてゴメンな……こんな電話口でほんとに、すまな……君も……元気で……」
あ、茂がまた泣き声になりそう……
「うん、さよなら」
最後の挨拶をいって、私はそのまま静かにスマホの終話キーをタップした。
──完──
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※【参考資料】
※『ヒア・カムズ・ザ・サン』(Here Comes the Sun)はビートルズの楽曲。
1969年発売11作目のアルバム『アビイ・ロード』に収録。
※『僕の美しい人だから』1990年製作/アメリカ
マックス役=ジェームズ・スペイダー
ノラ役=スーザン・サランドン




