4. 苦手な料理もがんばる!
※ この回は茂のために料理苦手な千鶴が奮闘します。
✧─ VOL4 ─✧
付き合い始めてから一カ月もたたない内に、私たちは《茂》,《千鶴》と呼び合うくらい親しくなった。
週末のデートはもっぱら茂の部屋が多い。
茂の仕事は平日は残業が多いらしく、アパートには寝に帰るだけだという。
彼のアパートは結構広々としていた。
ダイニングキッチンの他に寝室はベッドと洋服ダンスのみ。映画サイトを作る作業部屋には資料棚とTVと映像オーディオ機器くらいしかなく、部屋はがら~んとして広かった。
逆に私のマンションはシングル専用でワンルーム。
やたらと物がごちゃごちゃあって、茂を招いて食事や寝泊まりできる環境ではなかった。
第一私のベッドはシングルサイズで小柄な私一人しか寝れない。
もし長身の茂が一緒に寝たら、ベッドの骨組みがガクッと折れそうだ。
間違っても二人で寝るのは無理だろう。
一方、茂の寝室のベッドはセミダブルでけっこう大きかった。
私が茂のとなりに寝てもだいぶ余裕がある。
茂はにやにや笑って
『寒い冬は千鶴が、僕の抱き枕になってくれるから温かいんだよな』
と本音とも冗談とも取れるように呟いた。
私は黙って苦笑した。
茂は外見と違って、むっつりスケベだとこの頃は分かってきたのだ。
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それでも毎回、茂のアパートにただで泊まるのは気がひけたので、私は送迎のお礼も兼ねて二人分の食事を作ると約束した。
『無理しないでいいよ。千鶴の出来る範囲でいいからね』と茂は私の頭をそっと撫でた。
──くう……茂、あなたってどこまで優しいの!
私は茂の涼しげな笑顔を見て心が蕩けそうになった。
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実をいえば私はそれまで料理らしい料理はほとんどしていない。
ひとり暮らしだと、いつしか手抜きでスーパーでお惣菜を買ってレンジでチンして簡単にすませちゃうのだ。
それは茂も同じで、私以上に食事には無頓着でほとんど外食だった。
最初、初めて茂のアパートにいった時、大型冷蔵庫を開けたら牛乳とコーラと、ミネラルウオーターだけだった。あとはど真ん中にケチャップとマヨネーズだけ。それもケチャップは蓋をきちんと閉め忘れていて、赤いケチャップが棚にベッタリとくっついていた。
──げっ、何この空っぽ冷蔵庫は?
さすがの私もこれには卒倒した。
もう一つ意外だったのは、茂は家ではお酒を飲まなかった。
元々お酒は仕事のつきあいくらいでアルコールが弱いんだって。
そうだったんだ──。
付き合いだすとお互い、まだまだ知らないことが沢山でてくるね。
茂はふだんの朝食も食べないか、食べてもパンとミルクか珈琲のみという。
だから私が休日の朝食は『何が食べたい?』と聞くと茂は『ごはんが食べたいな』と即答した。
『うん、わかった!』
私も空っぽの冷蔵庫を見て腹を決めた。
せめてスーパーのお惣菜ではなく簡単でもいい、何かしら自分で手を加えようと。
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ほかほかのごはんとお味噌汁──。
おかずは焼き鮭、塩モミのきゅうりと大根。納豆。塩とマヨネーズの卵焼き。
これは私が初めて茂の家で朝食で作った献立だ。
料理といっても多忙な男性でも、いや誰でもできそうなものばかりだった。
『おお、千鶴、食卓が豪華だなぁ。まるで魔法の絨毯みたいだ!』
遅い朝食に目覚めた茂は開口一番、目を大きく見開いて私を褒めた。
『魔法の絨毯て何?……茂、褒めてるの? 大袈裟ね』
『いやいやゴージャスって意味だよ、食パンと珈琲だけの食事ばかりだったからね』
『いいから、早く席について。温かいうちに食べましょう」
私は気恥ずかしくなってエプロンを外して席につこうとした。
『あ、まって千鶴、そのエプロン姿のままでいてよ』
『え、なんで?』
『だって、その“スローバックス”の緑のエプロン姿が良く似合うから、もう少しそのままでいて!』
『は?』と呆気にとられてる私に、茂は目を細めてニコニコと笑った。
『あ、ありがとう』
私は慣れないエプロン姿を褒められて内心嬉しかった。
何気ない魔法の言葉をかける茂こそ、シズニーのアラジンみたいだよって私は思った。
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私が茂に良く作ったのは上記のお料理の他には、茂の好物はチーズだったので、チーズ入りオムレツやチーズリゾットも作ると喜ばれた。
単品料理はオムライス、カレー、餃子やハンバーグ、たまに頑張って、エビとかき揚げの天ぷら。
冬はおでんやしゃぶしゃぶなどの鍋物と。
誰もが出来る簡単な料理だが、私にはけっこう大変だった。
時々、実家に帰って母から教わったり、料理本とにらめっこをしながら餃子やハンバーグ、ビーフシチューなど初めての料理も挑戦して作ったりもした。
時には焦がしたりぺちゃんとなったりと失敗した事もあった。
それでも茂は『千鶴が作ってくれた手料理なら何でも美味しい』と笑って、いつも残さず食べてくれた。
そんなニコニコした茂の顔を見ると、料理は誰かに食べさせる為に作るんだと実感した。
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茂の部屋には壁一面に大きなスクリーンがあって、両脇にはサラウンドスピーカも設置してあった。さながらホームシアターだ。
こんな真夜中に大音量で映画を観ていいのかと驚いた。
私が『近所迷惑にならないの?』て聞くと、
『大丈夫だよ』と茂はあっさりいう。
実際、私の知る限り一度も苦情はなかった。
これはとても不思議だ──。
私のマンションなら壁が薄くて、隣から怒鳴り込まれるに違いない。
私は隣が気になって仕方がなかった。
ある時、茂がいない時に私は隣人と繋がってる壁に耳を押し付けたが、シーンと物音ひとつ聞こえなかった。
──あ、もしかして空き家なの?
こうして私と茂の週末のデートはさながら半同棲のようだった。
いつしか茂の部屋には私の衣服も、小物もどんどん増えていった。




