【第37話:決意】
町外れの宿の一室。
八十郎は机に広げた図面の上で、慣れた手つきで部品を組み立てていた。
金属の音がコツコツと響き、薬品の匂いが漂う。
「何を作ってるの?」とリーナが覗き込むが、八十郎は視線を上げない。
「敵は“町”を丸ごと支配している暗殺集団だ。
正面からぶつかっても勝ち目はない。
だから、こちらの目と耳を増やす必要がある」
八十郎の手元にあったのは、小型の魔石式探知機だった。
彼は町で手に入れた素材を使い、暗殺集団の動きを探る“索敵器”を作ろうとしている。
剣も魔法もなくても、頭脳で戦える――八十郎はそれを自分に言い聞かせていた。
一方で、トウマは灼牙の召喚魔法陣の前に膝をつき、じっと見つめていた。
何度呼び出しても、あの屈強な男に傷ひとつつけられなかった。
“力が正義”と信じてきた自分が、その力を圧倒的に否定された瞬間だった。
「……もっと強い魔獣が必要だ」
トウマが低く呟く。
八十郎は手を止め、リーナと目を合わせた。
「トウマ、強い魔獣と言っても、そんな簡単に見つかるものじゃないわ」
リーナの言葉に、八十郎はふと過去の記憶を思い出す。
あの雷雲の下、言葉を話す飛翔魔獣と交わした会話。
ラグナス――。
「……一つ、心当たりがある」
八十郎は静かに言った。「以前、俺たちが出会った“言葉を話す魔獣”がいる。
ラグナスだ。あいつなら、手がかりを持っているかもしれない」
「ラグナス……?」
トウマが目を見開く。
八十郎は頷いた。
「俺たちが出会った中で、唯一、人の言葉を理解し話す魔獣だ。
あいつが協力してくれれば、強い魔獣と契約する方法も見えるかもしれない」
「行こう、八十郎」
トウマの目に光が戻る。「その魔獣に会わせてくれ」
リーナは二人の横顔を見て、唇を噛んだ。
自分は何もできない。ただの村娘だ。
戦うこともできず、何の役にも立てていない――そんな思いが胸を締め付ける。
「……私も、行く」
リーナの声は小さかったが、確かな決意が宿っていた。
「でも危険だぞ。暗殺集団の影がどこにあるか分からない」
八十郎がそう言うと、リーナは首を振った。
「アルマを連れ去られたのに、ここでじっとしてなんていられない。
私にできることは少ないかもしれないけど……それでも一緒に行くわ」
その目はまっすぐで、八十郎は小さく息をついた。
こうして三人は、再びラグナスを探す旅に出ることを決めた。
⸻




