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【第30話:再び歩き出す決意】

 町を包んでいた黒煙が、ゆっくりと晴れていく。倒壊した家屋の間から、助かった人々が顔をのぞかせ、兵士たちが消火や負傷者の救護に走り回っている。血と焦げた匂いに混じって、安堵の吐息が町全体から漏れた。


 八十郎は工具袋を肩にかけ、息を整えた。トウマはその隣で膝に手をつき、額の汗をぬぐう。

 「……はあ、久しぶりに全力で動いたな」

 「灼牙は派手にやるからな。こっちも頭フル回転だ」

 ふたりは互いを見て、思わず笑った。戦いの直後に笑えるのは、昔と同じだった。


 リーナが駆け寄り、心配そうに二人の腕をつかむ。「二人とも、無事でよかった……!」

 アルマは帳面を抱きしめ、小さくうなずいた。瞳の奥に、初めて見るような尊敬の色が浮かんでいる。


 八十郎は、瓦礫の中で肩を並べるトウマに視線を向けた。「……トウマとこうして並んで戦える日が、また来るとは思わなかった」

 トウマは一瞬黙ってから、にやりと笑う。「俺だってさ。昔はお前の考え方が甘いと思ってたけど……今は、悪くないと思う」

 「力こそ正義じゃない、協力もまた力だ。昔、君にそう伝えたかった」

 「……その言葉、覚えてる。たぶん俺は、あの時それがわかんなくて……」

 トウマは拳を握りしめ、目を伏せる。八十郎はその肩にそっと手を置いた。


 「もう過去のことだ。今からやり直せばいい」

 「そうだな……今度は一緒にやる。お前の知恵と、俺の力でな」


 その言葉に、八十郎の胸の奥でずっと燻っていたものがふっとほどけた。あの夜、言えなかった謝罪が、ようやく届いた気がした。


 リーナが笑顔で二人を見て、「じゃあ、これからは三人──いや四人か。アルマも一緒だし」と言う。

 アルマは一歩前に出て、ぎこちない笑みを浮かべた。「ワタシ……八十郎、トウマ、リーナと一緒ニ……旅、学ぶ……」

 その声に、三人とも自然と笑顔になった。


 夕焼けが町を染め、戦いの傷跡の上に新しい光が差し込む。

 八十郎は空を見上げ、静かに言った。「ここからが本当の始まりだ」

 トウマがうなずき、拳を差し出す。

 「行こうぜ、八十郎」

 八十郎はその拳に自分の拳を合わせた。「ああ、一緒に」


 彼らの影が長く伸び、町の外へと続いていく。旅の新しい章が、今ここに始まった。



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