【第29話:二人の共闘】
八十郎とトウマがようやく互いの素性を打ち明け、沈黙が落ちたその時だった。
町の北門の方から、甲高い鐘の音が鳴り響いた。続いて、逃げ惑う人々の悲鳴。空気が一瞬にして張り詰める。
「魔物だッ!」
遠くの石畳の向こう、黒い影が跳ねる。大きなコウモリのような翼に獣の胴体を持つ、異形の魔物が群れで町に雪崩れ込んでいた。屋根瓦を砕き、家畜を咥え、兵士たちが矢を放つが弾かれている。
風が逆巻き、血と焦げた匂いが鼻を刺す。
八十郎はアルマとリーナを後ろに下がらせ、懐から即席の煙弾を取り出した。
「まずは視界を断つ!」
白い煙が噴き出し、魔物たちの動きが鈍る。
トウマは一歩前に出て、右手を高く掲げる。炎のような紋章が掌に浮かび上がった。
「出ろ──灼牙!!」
叫びと共に、赤黒い炎の獣が地面から飛び出す。全身を炎で包んだ狼型の魔獣が、轟音を上げて魔物の群れに突っ込んだ。
「相変わらず派手だな!」八十郎が叫ぶ。
「お前は頭脳派だろ、さっさと策を考えろ!」トウマが返す。
八十郎は頷き、煙の流れを見極めながら金属筒を並べ始めた。「この筒は衝撃波を起こす! 魔物を灼牙の射程に押し出すぞ!」
トウマは灼牙に命じ、炎の壁を作らせて敵を狭い路地に追い込む。
八十郎が仕掛けた金属筒が一斉に爆ぜ、轟音とともに衝撃波が魔物を弾き飛ばす。
「今だ、トウマ!」
「任せろ──灼牙、牙炎連弾!!」
炎の獣が吠え、無数の火球が狭い路地に集中して魔物を焼き払った。悲鳴と焦げ臭い煙が立ちこめ、やがて町を覆っていた恐怖の気配が、少しずつ薄れていく。
戦いがひと段落すると、灼牙は霧のように消え、トウマは肩で息をしていた。
八十郎が歩み寄る。「さすがだな……やっぱり君は強い」
トウマは苦笑した。「お前もな。頭を使う戦い方は昔からだ」
火と煙の匂いの中で、二人の間にかすかな笑いが漏れる。
そこには、かつての旧友同士が並び立って戦っていた姿が、確かにあった。
アルマがそっと帳面を開き、震える手で書き込む。
『二人が力を合わせた戦い──記録開始』
その文字が、夕暮れに赤く照らされていた。
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