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【第25話:既視感】

 ラグナスに見送られ、八十郎たちは村を後にした。

 初夏の陽光が森の木々を縫うように差し込み、かすかな風が草の匂いを運ぶ。リーナは荷物を背負い、アルマはぎこちない足取りながらも楽しげに周囲を見回していた。


「ここから先が、街道に出る道ですね。魔物は少ないはずですが……」

 リーナが小声で言う。

「油断は禁物だよ」八十郎は手製の測定器を取り出し、周囲の反応を確かめる。「この辺り、魔力濃度が少し高い。もしかすると……」


 その瞬間、風が止んだ。

 森の奥から低く唸る音が響く。

 ――バサバサバサッ! 巨大な翼音。


「来るぞ!」八十郎が叫ぶより早く、茂みを割って異形の魔物が飛び出してきた。背中に鋭い刃のような突起を持つ、黒光りする鳥型の魔獣。

 アルマが初めて見る魔物に目を見開く。

「……初遭遇、戦闘モードに移行します」

 ぎこちなく体を構えるが、まだ動きは鈍い。


「リーナ、アルマを守って! 私は――」

 八十郎は懐から音響閃光弾を取り出し投げた。轟音と閃光が森を満たすが、魔獣は怯まず突進してくる。

 「くっ……効かないのか!」


その時、空気を裂くような叫び声が響いた。


 「──灼牙シャクガっ!!」


 地を割るような咆哮と共に、炎が奔った。

 木々の間から飛び出したのは、赤い鬣を揺らす狼型の魔獣。炎をまとった爪が魔物を弾き飛ばし、瞬く間に森を焦がす。


 「大丈夫か!」

 声の主は、若い青年だった。黒髪を後ろで束ね、戦い慣れた目つき。背には槍、足元には灼牙が構える。


 「……あなたは?」八十郎が思わず問う。

 「通りすがりだ。弱者を狩る奴は許せない。それだけだ」


 青年の瞳に宿る強い光。その言葉、その立ち姿──八十郎は胸の奥でかすかな記憶が疼く。

 かつての友トウマが、幾度となく言っていた台詞。「力こそ正義だ」と。


 「力がある者が、守るために使うのは当然だろう」青年が炎の残り香の中で呟く。


 八十郎は唇を噛む。

 ──この口調、この信念……まさか、そんなはずはない。


 リーナが小声で囁く。「八十郎さん、知り合いですか?」

 「……いや。ただ、昔のことを思い出しただけだ」


 青年は名乗らず、ただ炎を消し灼牙の頭を撫でる。

 「じゃあな。町まで気をつけろ」

 そう言い残し、森の奥へと消えていく背中。その名を八十郎はまだ知らない。



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