表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

20/41

【第20話:傭兵団襲来】

 隣村の残党が敗北し、公開謝罪と労役を課されてから二週間。村は焦げた屋根を修理し、田畑の手入れに戻り、表向きは平穏を取り戻していた。だが、八十郎はその“静けさ”が逆に不気味でならなかった。


 夜、研究小屋の灯火の下で、八十郎は水晶球に映る街道の映像を眺めていた。村から半日ほど離れた山道、往来の少ないその街道に、重装備の男たちが十数名、馬に荷を積んで休憩している。肩の紋章は隣村のものではない。外から雇われた戦闘集団――傭兵団だ。


 「やはり動いたか……」

 八十郎は顎に手を当て、考え込む。

 彼の脳裏には二つの選択肢が浮かんでいた。

①村の防御をさらに固めて籠城するか

②もしくは先手を打って街道上で迎撃するか


 だが今回の敵は前回のような素人ではない。彼らは「動物狩り」「村焼き」を生業にする冷徹な戦闘屋だ。数だけでなく、武装も統制も整っている。村に引き入れれば、犠牲が大きくなるのは必至だった。


 「リーナ、君はどう思う?」

 薬草を仕分けていたリーナは顔を上げ、目を細めた。

 「八十郎さん、今回の人たちは……違いますね。目が獣のようです」

 「そうだ。だからこそ、こちらも一段上の策を使わねばならん。前の罠はもう通じない」


 八十郎は棚から設計図を取り出した。複雑に絡む線は、避雷網と感知器、そして魔獣ラグナスとの連携を前提にしたものだった。

 「村を巻き込まない場所で、罠を張る。森と渓谷の地形を使って敵を誘導するんだ。そして、今回はこちらからラグナスに正式に協力を要請する」


 リーナは小さく息を呑んだ。

 「……本当に、ラグナスと一緒に?」

 「そうだ。ラグナス自身も、自分たちを狙う人間を憎んでいる。敵は卵を狙っているだろう。囮を使えば必ず乗ってくる」


 八十郎の声には迷いがなかった。リーナはその決意に心を打たれ、頷いた。

 「私もやります。薬草も、罠の材料も、何でも集めます」


 八十郎は微笑み、彼女の肩に手を置いた。

 「頼りにしているよ。君の知恵と勇気が必要だ」


 その夜、八十郎は山の稜線に立ち、空を仰いだ。雲間から稲光が一瞬走る。呼応するように、山奥から低い羽音と雷鳴のような咆哮が響く。ラグナスが現れ、暗闇に青白い光を落とした。


 「再び会ったな、人の賢者よ」

 「ラグナス、力を貸してほしい。今回の敵は、卵を狙ってきた者たちの残党だ。外から傭兵を雇って襲撃してくる。村を守るため、そしてあなたの巣を守るため、協力してほしい」


 ラグナスは静かに八十郎を見下ろし、角先で雷を散らした。

 「我が卵を狙う者たちか……良いだろう。人と魔獣、共に狩りをしようではないか」


 八十郎は深く頷く。

 「作戦はこうだ――街道沿いに囮の巣を作り、敵をそこに引き込む。森と渓谷の地形を利用して避雷罠を張り、ラグナスの一撃で戦意を粉砕する」


 リーナは一歩前に出て、地図を広げた。

 「薬草で敵の嗅覚を鈍らせ、煙幕を作ることもできます。八十郎さんの発明と合わせれば、敵の視界と動きを奪えます」


 ラグナスは大きく翼を広げた。

 「人間よ、そなたらの知恵、我は見届けよう。だが覚えておけ。卵を奪う愚か者は、雷火の裁きを免れぬ」


 八十郎はその雷光に照らされながら、冷静に作戦を練り続けた。

 今回の敵は、ただの盗人ではない。だが、この村で生きる人々の力と、八十郎の知恵と、ラグナスの威光を合わせれば、勝てると信じていた。


 ――嵐は、もうすぐそこまで迫っている。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ