【第16話:真相】
「ラグナス、あなたの巣や卵を狙っていたのは、この村の人間ではない。」
ラグナスの眼光が鋭く光る。「ならば誰だ?」
八十郎は懐から水晶球を取り出し、夜光の中でそれを掲げた。球体の中には、昨夜記録した隣村の人間の姿がくっきりと映し出されている。
「これが証拠だ。卵を奪い、あなたを挑発していたのは隣村の住民だ。私欲のため、金に換えるために魔獣を狩り、卵を盗んでいた。」
ラグナスは翼を広げ、低く唸った。青白い火花が角の周囲で弾ける。怒りとも、驚きともつかない音だった。
「……隣村、か。人間の貪欲はどこまで続くのか。」
しばしの沈黙の後、ラグナスは瞳を閉じ、深く息を吐いた。
「八十郎よ、リーナよ。おまえたちの言葉、偽りなきものと見た。ならば我は、おまえたちに委ねよう。巣を脅かす人間を探し出し、止めよ。さすれば我はこの村を襲わぬと誓う。」
八十郎は深く頷いた。「約束する。必ず止める。」
ラグナスの瞳にわずかな光が宿る。
「……ならば、我はしばし待とう。雷雲の向こうで、卵を護りながら。」
その声は先ほどまでの怒気を失い、どこか哀しげだった。
大きな翼が風を巻き起こし、ラグナスは空へ舞い上がる。青白い光を尾に引きながら、山の彼方へ消えていった。
八十郎はその姿を見上げ、リーナに向き直った。
「これで、時間ができた。あとは隣村に踏み込む覚悟を決めるだけだ。」
リーナは力強く頷く。
「はい、八十郎さん。必ず、止めましょう。」
夜の峡谷に残るのは、風の音と、二人の胸に燃える決意だけだった。
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