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七色の鱗

作者: 清水進ノ介

七色の鱗


 神々が住んでいる、雲の上の王国。その王宮の庭池に、七色の鱗を持つ鯉がいた。鯉は神々にエサを与えられ、池の掃除をしてもらい、何不自由のない暮らしを送っていたが、その心は満たされていなかった。鯉が思いをはせていたのは、池の外の世界。それも神々の住む雲の上ではなく、雲の下の人間界に、鯉は強く惹かれていたのだ。


「やぁ、鯉くん。今日も退屈そうな顔をしているね」

「こんにちは、コウノトリくん。今日も人間界の話を聞かせておくれよ」


 鯉の友達のコウノトリは、赤ん坊を人間界に運ぶ仕事をしているので、世界中の様々な場所を飛び回っていた。鯉はコウノトリから、人間界の話をたくさん聞き、いつかは自分の目でそれを見ることを夢見ていた。大海原や、砂漠や、熱帯雨林、そこにいる様々な生き物。人間がつくりあげた、個性豊かな建築物。コウノトリが語る、それら全てが、鯉の心を掴んで離さなかった。


「なぁ、コウノトリくん。神々がなぜ僕を大切に育てているか、知っているかい?」

「それはきみが、美しい七色の鱗を持っているからだろう」

「その通りさ。つまり僕は、神々を喜ばせるためだけにここにいる。奴隷と変わらないのさ。僕の人生に、自由なんてないのさ」


 鯉は水面の上にそっと顔を出し、周りに神々がいないことを確認してから、コウノトリにこう言った。


「コウノトリくん。どうか僕を連れ出して、人間界の空を飛んでくれないかい?」

「そんなのは駄目だ。水の中にいないと、きみは呼吸が出来ない。死んでしまうじゃないか」

「それでいいんだ。このままここで死ぬより、夢見た空の中で、僕は死んでいきたいんだ」


 コウノトリはしばらく迷ったが、鯉の願いを受け入れるわけにはいかなかった。コウノトリにとっても、鯉は大切な友であり、その命を奪う真似は、どうしても出来なかった。そこでコウノトリは、鯉に一つの提案をした。


「雨の日でもいいなら、きみを連れて人間界の空を飛んでもいい。それならきみも、死ぬことはないはずだ」

「雨の中じゃあ、あまりいい景色は期待できないね。でも分かった。僕のわがままで、きみに罪悪感を抱かせるわけにはいかないしね」


 こうして鯉は、人間界に雨が降るたびに、コウノトリと共に、世界中を飛び回るようになった。それ以来、鯉から剥がれ落ちた七色の鱗は、雨上がりに光を反射し、ほんの短い間、人間界に美しいアーチを残すようになったという。


おわり

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