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1-04-3 遭遇(2)

震える体、震える手、震える銃……何としてでもその憎たらしい顔をぶち抜いて仕留めたい。

……そもそもこのレーザー銃は試し撃ちしたのか?

もし威力が足らなければ何のダメージにもならなくて、殺されてしまうのでは?

そもそも銃程度のレーザーなんて効くのか?


手も思考も激しく震え、あろうことか銃を落としてしまった。


「あっ、あああああああああ…………。」

「見た感じガンナーなんだろうけど、接近を許しちゃったこともだけど、銃を落とすのはダメダメよ。ガンナーのような後衛が銃を落とすことは死と同等。」


鉄仮面に上下二つ丸いカメラを取り付けたような無機質な顔がズイッと顔に迫る。わたしの意識は天界へと逝ってしまった。


「気絶するかね、この子……おーい、まだ早いわよっ!! 起きなさーいっ!!」


殺戮兵器のビンタで現世に連れ戻された……こいつ、殺戮兵器の癖に殺さず楽しんでるみたいだし、マジで本当に何なんだ?


「あの……どうかされたんでしょうか。」


コハルさんが畑から戻ってきた。何という最悪な状況。


「あら、居たのね。」

「ジーナさまではないですか。お久しぶりです。」


はぁ? えっ、ちょっと待って……顔見知りなの?

殺戮兵器と顔見知りって一体どういうことなの???


ジーナと呼ばれた人の形をした鉄の塊は、コハルさんの顔を見るや否や両腕に付けられた鋭いブレードを引っ込めた。


「お久しぶりねぇ、それにしても泥だらけよ? また転んじゃったの?」

「はい。先ほどわたくしの体の調子が悪くなりまして……あっ、ルピナスさまにお助けになって貰いまして、もう大丈夫です。」

「へぇ、この子、ルピナスちゃんっていうのね。」


再びずずずいと無機質な顔を寄せる。本当にやめてくれ。

なんせ、今まで何度も敵として交戦してきた殺戮兵器だ。よく見ると、若干手を加えられてるのか、あんまり見ない型だけど、これに近い型は数百メートル先に居る事を確認した数秒後には目の前に来てるぐらいには素早く、且つ両手のブレードを巧みに使った攻撃は即死級。卓越した剣士でも躱しきれず、高位の騎士でも耐えきれず呆気なく殺される。

加えて感覚も非常に鋭く、シーフ系最上級職の忍者ほどに高度に隠蔽出来なければすぐに見つかってしまう。


「それにしても成程ねぇ、あの使い込まれたブリッツシューターは貴女のものなのねぇ。」

「……ブッ、ブリッツシューター?」

「あら、知らないで使ってたのね。あれ、あたいの国でも不人気で、物騒なぐらいに威力はあるけど反動が酷くて、燃費も悪くて、あなたも物好きねぇ。あなた以外にあんなにボロくなるまで使ってたの一人だけ知ってるわ…………あぁ、彼も行方不明になって長いのねぇ……あらごめんなさい、一人でベラベラと喋っちゃって。」

「い、いえ……あああああの、こここのれれれれレーザーららららライフルは、ひひ拾ったもの、ななななんですっ!」

「あら、そんなに緊張しなくてもいいのに。」


声からは然程でなくとも顔から物凄く圧を感じる。ただでさえ普段から言葉遣いが悪いけど今回ばかりは気を付けろとわたしの中の本能が叫ぶ。


「へぇ、それは何処で拾ったの?」

「えええええーっとそそそそその……きょっ、巨大ムカデがひひひ潜んでてごごごゴミ捨て場で……」

「うーん、よくわかんないわねぇ。とりあえず深呼吸しなさい。」


顔がずいっとまた一段階近づく。わたしは息を何度も吸い、何度も吐き出す。少しはマシになったが心臓のバクバクは収まらない。


「お話の内容からして確か、ルピナスさまと最初に出会ったところですね。そここからずっと北西の、捨てられたものがそのまま集積される所の一つなんです。」

「よくそんな言葉の断片で分かったわね。」


無機質な顔がようやく離れた。


「ふぅん。ルピナスちゃんはあのブリッツシューターをそこで拾ったってわけね。」


わたしは首を強く縦に何度も振る。


「もしかして、もしかするかもしれないわねぇ。彼、占拠されたゴミ処理場での制圧に出たんだけど、そこで行方不明になっちゃって、調べたら、そのゴミ処理場のゴミは、どういう仕組みか分からないけど。ここに転移させてたみたいなの。だからあたいもゴミ処理場のワームホールにシュートしてここに来たわけ。かれこれ三年ぐらい探してるけど見つからなくて。だけど、これで見えてきたわ。もし、彼の刻印があれば………………長くなっちゃったけど、あれをあたいに預けてくれない?」


ずずずずずずいと顔を近づけてくる。ただならぬ恐怖が閾値を超える。出る汗も普段のものとは違うように感じる。

手放したくはないけど拒否権は無さそうだったので首を何度も縦に振った。


「ありがとー!」

「えっ、えへへへ……。」


貴重な武器を失った。もう、こればかりは仕方がない。暫くはこのレーザー銃で攻めるしかないか。


「それで、コハルちゃんは集落に出ずにずっと畑仕事?」


無機質な顔をコハルさんの方にずいーっと近づける。怖くないんだろうか?


「はい。昨日の夜中にちょっと魔物に襲われまして、畑があんな状況でして……。」

「魔物? うわっ、クレーターが出来ちゃってるじゃないの。一人で大丈夫?」

「はい。問題ありません。ちょっと大変ですが、直ぐに元に戻します。」

「そうなの。で、ルピナスちゃんは?」

「えーっと、そっ、その…………。」


恐怖に負けて言葉が出ない。


「はい、ルピナスさまは偶然迷い込んだみたいでして、元の世界に戻る手がかりを探しています。なので、自由にさせてあげたいのです。」

「そうなのぉ、可哀そうね。うん、いいわ。ここはあたいが手伝うから、戻れそうなとこ探してきなさい。見つかるかどうかは分からないけどね。」


ずずずいと鉄の顔を近づける。


「それにしても、あなたねぇ、あたいみたいな量産機にビビっちゃって、戦えるの?」

「……ちょっ、ちょっと待ってよ。何十何百もの冒険者があんたの同型機に殺されたんだぞっ!」


人の形をして何の皮も被らない鉄の塊は顔を遠ざけ、大きなため息を付き、斜め右を向いて左手で髪を靡かせるようなポーズを取る。髪なんてポニーテールのようなケーブルの束以外無いが。


「ふーん、何だか腹立ってきたわ。あなた、一回死んどく?」


その左手の甲から鋭いブレードが飛び出た。わたしは咄嗟にレーザー銃を取り出して構える。こいつ、何逆ギレしてやがるんだ?


「二人とも、やめてください!!」


コハルさんの声と共に殺戮兵器のブレードが引っ込んだ。


「アッハッハッハッ!! 冗談よ、じょーだんっ!! カタギ相手にやるわけないじゃん。あたいと同型の子ならヤるかもしれないけどね。」


殺戮兵器の笑い声が響く。力が抜けて再びレーザー銃を落としてしまった。こいつの言った通り、銃だけが取り柄のガンナー職は死を意味する。


「はぁー……おもしろいわねぇ。気に入ったわ。えーっと? 確かあたいが怖いんだっけ。なら……」


鉄の塊はため息を付き、髪を靡かせる。


「あたいはこんな大人一人で一杯になるような狭い通路は苦手なのよね。同型の子も同じよ。だってあたい達の攻撃は大振りだもの。ダンスをするように戦うのよ。だから、あんな狭い場所では踊れない。貴女が銃士なら猶更、攻撃が直線的なんだから狭い方が狙いやすいでしょ。まぁ、もっとも、動けなくなったら顔のレーザービームで貴女を焼いちゃうから、一発で胸の動力源か頭を一発でぶち抜ければ大きな風穴が開いちゃうけどね。早口になっちゃったけど分かった?」


腕組みをして、再び左手で髪を靡くポーズを取る。

……弱点を喋ってもいいのか?


「多少なりの観察力があれば分かるでしょう? 狩人のように、これから狩るものをよく観察して、時には貴女と同じガンナーを観察して、よく研究しなきゃね。あたいなんて人じゃなくてロボットなんだから解りやすいもんよ。えっ? あぁそうね、貴女には敵意も欠片もないわ。だって可愛いし、こんなビビりさんが敵なわけない。ハハハハッ!!」


笑い終えたところで、ずずずずずずいと顔を寄せる。敵意が全くないと分かっててもまだ立てないでいた。


「あら、その銃……“ツヴィリング”の片割れじゃないの。」

「……この銃の事を知ってるんですか?」

「知ってるもなにも……とりあえず立ちなさい。」


人の形をした鉄の塊……ジーナさんは左手を差し出す。わたしはそのツヴィリングと呼ばれる銃を左手で拾い、右手でジーナさんの手を掴んで立った。


「膝、大爆笑ね。傑作だわぁ。生まれたばかりの珍獣ベヒーモスみたい。」


恐怖から苛立ちへと徐々に移り変わる。


「それで、この銃は遠い過去のとある国の言葉で双子座という意味なんだけど、その名の通り二つでワンセットでねぇ、これは祖国だとごく一部の名誉ある銃使いの騎士にしか与えられないんだけど凄く高性能で、反動は一切無いし音はほとんどしないし、エネルギーを限界まで収束させていて消費量の割には威力が高くて……とにかくいいわよそれ。両手で撃ちまくったら相手はシャワーヘッドになるわね。」


顔をずいっと近づける。

どうしても慣れなくてヒィッと声が漏れる


「そ・れ・で、これは何処で手に入れたの?」

「あっ、あの……その……ブリッツシューターを拾った所にありました……。」

「あれま、それじゃあ他にも来ちゃったんだろうねぇ。あたいみたいなのは特別製だから似てても敵意剥き出しだろうし、完全に壊れてたらいいんだけど、動けたら襲ってくるかも……。まぁいいじゃない、そんなに暗い顔しないの。女の子も度胸と根性。派手にやっちゃいなよ。ねぇ。」


わたしは左手で目と目の間を摘まみ俯く。


「あの子たちも一応あたい達とそう能力は変わらないから、見れる部分だけでも見ておく? どうせ、あたいの同型機と出会っても目合わせる余裕なんてなかったんでしょ。あっ、一応だけど目は上側でなくて下ね。上は見たものを分析したりとか、隠れてる相手を見つけたりとか、下は目とかレーザー砲とかで……大丈夫よ、見てる隙にレーザービームで顔に穴開けたりとかしないから。」


恐る恐る下の目と見る。ジーナさんの顔が少しずつ寄ってくる。


≪鑑定≫

名前:ジーナ・レーナ・ディアマンディ

保有属性:風属性(ランクA)


「バーンッ!」

「きゃあっ!!」


ゴキブリのような瞬発力で後退したおかげで壁で背中を強く打った。


「アッハッハッハッハッ!! 冗談に決まってるじゃん、おもしろいわねぇ。」

「あの、ジーナさま、やり過ぎです。」


体を震わせながら手で顔を覆い隠してゲラゲラ笑っている。わたしは顔を俯き、人の形をした鉄の塊を睨みつけた。


「アッハッハッハッ……はぁー……気に入ったわあなた……そんなに素早いんなら今度ダンス剣術を教えてあげるわ。」

「なっ、何なの、そのダンス剣術ってのは……?」

「あっ、そうそう、目のレーザーはチャージに十秒ほど掛かるし、なんせエネルギーを50%以上一気に使うから余程の事が無い限りは使わないわ。例えばそのツヴィリングで胸とか頭とかぶち抜いても、運悪く急所を外した時なんかは使っちゃうわね。チャージ中は動きが鈍くなるし、青白い光が見えるからよく観察してたら当たらないわ。うん、ここまで弱点を喋ったんだからねぇ、ほら、あたいの目を見るんだよ。」


人の話も聞かずによく喋る鉄の塊は、近寄れと言わんばかりに左手を差し出す。右手を差し出した途端にブレードが飛び出て手を串刺しにされかねないので、この位置からじっと相手の下の目を見つめる。


「何がしたいの?」

「あたいはね、出逢ったら即パーンッでいいの。要は鉄の装甲さえ貫けばいいのね。目なんて鉄の装甲に比べたら紙も同然よ。中身の耐久力なんてティッシュペーパーだわ。勢いでサラッと説明しちゃったけど分かった?」


何がサラっとだ。わたしにとっては物凄く長く感じた。こいつ、死という文字が人間の形をしたような存在だし、それだけで時間の流れが数万分の一になる。辛い、早く消えてくれ。


「まっ、理解したということで。じゃあ、コハルちゃん、何でも手伝うわ。」

「そっ、そうですか、では、あの、壁に大穴が開いてしまってるので修理をお願いしたいのですが、構いませんか?」

「大丈夫よ、板で塞ぐ程度ならやるわ。」


二人揃って和気あいあいと会話している間に出て行こう。

ジーナさんが居ればコハルさんも多分…………大丈夫だろう。この島から出られる手がかりを探しに行こうか。


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