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1-04-2 遭遇

ガラス片だらけの講堂を抜け、外に出る。

清々しいほどの青空から日光が燦々と降り注いでいるが、不思議な事にこの真上だけで、少し向こうは重たい雲が広がっている。ここだけが綺麗に円形に切り取られているような感じ。


「不思議な光景ですよね。本当にここだけですもの。」


ここが特別な場所なのか、それともコハルさんの潜在力なのか不明だが、いずれにしても余りにも不自然だが、太陽が見えるのは気分も晴れるから助かる。


畑の方に出ると想像以上に酷い有様で愕然とする。

巨大サソリが居たであろう畑の端の方はクレーターが生じ、それ以外もサソリにより踏み荒らされ無残な事になっていたり、散乱したサソリの部位であろう物体に押しつぶされている。しかし、一部の葉物野菜はピンとしていた。


「少し踏まれたぐらいのお野菜さまは、まだ治癒魔法で元気を取り戻しましたが……」

「野菜にも効果あるのっ!?」

「はい。お野菜さんも生物ですので効果はありますよ。」


あるのかよ……というか、属性が片肺なのに何でもかんでも治癒魔法を使うべきではない。


それにしても、あの滅茶苦茶な光源の下や月光の下では色が分かり難く辛うじて土だと分かる程度だったけど、ここは本当にちゃんとした茶色い土なんだな。ただの土で質は悪いけど、金属の破砕屑よりは遥かにマシだ。


「では、これを埋めて土を均しましょう。」


コハルさんは畑の脇に置かれた茶色い小さな立方体が山盛り入った大きな桶を

持ち上げ、クレーターの横に置く。


「こっ、これは何なの?」

「う〇ちの力を生成した時に生じる副産物のウンウンブリリウムです。肥料にいいんですよ。」


≪鑑定≫

名称:ウンウンブリリウム

ランク:A

排泄物を錬金すると生じる物質。最低ランクはGであり、錬金初心者でも大量に生成が可能。これは特に出来の良いものである。リンや窒素が豊富に含まれ、肥料として最適な物質である。なお、これには濃厚な闇属性を含有しているため、与えすぎると野菜が変質してしまう惧れがあるので注意すること。

≪以上≫


これが例の……。

まさに肥料というか、爆弾の材料というか。闇属性が含まれているのは、体内に蓄積し続けていて既に出てしまっているからだろうな。

コハルさんはその一粒を手に取って鼻に近づけ、犬か猫みたいに匂いを嗅ぐ。そしてとても気持ちよさそうな顔をする。


「いい香りです……………。」


試しに指でつまんで匂いを嗅いだら、見事なまでのう〇こだった。コハルさんには悪いが、畑の方に投げ捨てて手を教会の壁に擦り付ける。


「もう少し硫黄分があれば完璧でしたが、贅沢は言えませんね。ゆで卵を食べた後の香りは最高なのですが……。」


駄目だ、この人、業の極致だ。これ以上その方向に話しを持っていってはならない。聖女様像だった石膏の山が邪神像に再生成されてしまう。


「う~ん………………ペロッ」


………………。


……それにしても、巨大サソリに突かれた壁は大穴だな。塞がないと魔物に侵入されてしまう。何か塞ぐものがあればいいんだけど……っ!?


「うわっ、危ないっ!!」

「どうかしましたか?」

「こっ、この薙刀を物干し竿に使っちゃ駄目っ!!」


あろうことか、あの妖刀が変化した薙刀がY型の棒二本の間に架けられていて、誰のものなのだろうか、子供用の服が何着か掛けられていた。

幸いにも身長が低く、真上に下向きの鋭い刃があってビビっただけだが、絶妙な身長だとうっかりすると頭を切り裂く惧れがあるし、そうでなくとも重心は間違いなく刀身にあるから、何かの拍子で落ちてきたらぶっ刺さる。とんでもねぇトラップだ。


「申し訳ありません。ですが……昨日の件で物干し竿さんが真っ二つになってしまいまして仕方が無く……。」

「だからってこんな物を……危ない以前に、こんな危険物をこんな見えるところに置いといて不審者に盗られたらそれこそだわ。」


この先っぽが取れたらいいのにな……ってか、昨日の雷の避雷針代わりに使っちゃったけど、あれを食らって原型を保ってるのって、こいつ…………。


「あっ…………ほわぁ………。」

「えっ?」


コハルちゃんの顔色が急に悪くなり、ドミノが倒れるように直立姿勢のまますーっと後ろへ倒れ込んだ。


「ごっ、ごめんなさい、きゅっ、急に来ましたね。いっ、いいえ、いつものことですのでお構いなく……。」


激しく後頭部を打ったはずなのに喋れるなんて、跳んだ石頭だな……。つーか、お構いなくじゃない。これはどう考えてもヤバい。

……上の方向からシャラシャラと音がする。すると目の前にルナ何とかが飛来してこっちを向いたままホバリングする。


“………………?”


またあの方向性の無い声が聞こえる。ハッキリとは聞こえない、どこか深いところから喋ってるような、内容は分からないが確かに聞こえる。


“…………あー、あー、聞こえるかしら?”


「えっ!?」


“あっ、やっとチャンネルが合った。こんなに複雑なのは初めてだわ。それよりも、嫌な予感がしたと思ったら、やっぱりこの有様。”


「えっ? ……だっ、誰の声だ?」


脳内に直接語り掛けて来るような、不思議な声がする。さっきまでとは違って、はっきりと妙齢の女性の声が聞こえるが、一体誰が喋ってるんだ?


“目の前に居るでしょ。あと、ルナ何とかじゃなくてルナクローラー。数文字なんだからいい加減覚えなさい。”


「えっ、あっ…………えっ!?」


“狼狽えないの。わたしについて来なさい。”


到底あんな大きな甲虫が飛ぶ音とは思えない、楽器のような不思議な羽音を響かせ教会に入っていく。なっ、何なんだ、あの喋る虫は……?


“早くしなさい。あの子の体は暗闇に蝕まれて限界なの。”


虫の指示なんて釈然としないが、現にコハルさんが倒れてしまっている。ルナクローラーはわたしよりもずっとコハルさんの下にいたはず、それなら何よりもよく知っている。虫の指示だろうが何だろうが受け入れる他にない。


“聞き分けが良くて助かるわ。”


ルナクローラーはシャラシャラと羽音を響かせながら講堂を突っ切り、先ほどの台所に入って台の上に留まる。


“この下にさっきの天神樹の雫があるから出しなさい。それを飲ませるの。”


「てっ、天し……?」


“天神様の加護を受けた大樹の雫でね……って今はそれどころじゃないのっ!! オオカミの名を貰ってるのにトロくさい子ねぇ。”


何で虫に怒鳴られなければならないんだ?

……いや、今はそれどころじゃ……コハルさんが本当に危ない。下の戸を開けると、あの黄土色の液体が入ったビンが何本か入っていた。一番手前のを取り出して台の上に置く。天神が何とかは知らないが、この下にあってエリクサーであって、あの闇属性の気を祓えるのはこれしか無い。


“そう、それよ。だけど、一番出来の悪いのを取ったわね。まぁ臭いだけだからいいわ。早く持っていきなさい。”


ルナクローラーは翅を広げ、台所の外へと飛び出し、講堂の方へと向かう。

しかし、この液体、さっきのよりも茶色っぽく、相変わらず底から小さな気泡が立ってるけど、こんな瓶で爆発しないもんだな。わたしの手元で爆発しないでくれよ……?


“早くしなさいっ!!”


外から念話で怒鳴られた。本当に爆発したら最悪だし、細心の注意を払いコハルさんの元へ駆けつける。

その頃にはコハルさんは虫の息で、何とか目が開いている程度だった。一分一秒を争う状態、ルナクローラーに怒鳴られても当然か。


“開けなさい。早く。命令よ。”


「あっ、あぁ。分かったよ。」


硬く締めた例の液体の入ったビンの栓を力づくで引っ張って開封する。


「うわぁっ!!」


“我慢しなさい。”


先ほどと同じく、ビンからカルデラ噴火したかの如く泡と黄緑色のガスがブシューッと噴き出してわたしの手が泡塗れになった。そして嗅覚が無くなるほどの猛烈な臭気を伴う薄い黄色の霧が周囲に滞留する。いや、一体何なんだこの生物兵器は……コハルさんはさっき思いっきり飲んでたから今更だけど、こんなの飲ませて本当に大丈夫なのか?


“大丈夫、死にはしないわ。これでも薬だもの。”


死にはしないって……。確かに薬なんだろうが、この匂いで死んでしまいそうだ。


「や、やめてください、それだけは……っ」

「これはあなたの中にあったものを使って作った万能薬だろ? さっき自分で飲んでたし。だから、覚悟しろッ!」

「やあぁ…………ぐふっ!!」


涙目のコハルさんの口に黄緑色の蒸気噴く万能薬を突っ込む。少し噴いたが、無理やりにでも押し込む少し可哀そうだが仕方がない。


「少し我慢して、飲み込んで。」

「…………ゲホゴホ……ひ……ひどいですよ……わ……わたしのお腹の中、あんなに臭くないです……っ!」

「そんなの知らないよ……。」


何とか耐えて全部飲ませたが、その後、泡を吹いて気絶してしまった。大丈夫なのかこれは。


“……ちょっといいかしら?”


「なんだよ?」


“そういう状態の子に飲ませると十中八九窒息するわ。それに無理やりは余計に駄目。この薬の効果や臭いでは死なないけど、液体で死ぬわ。結果が良かったから100点満点中8点。”


「んだよこのクソムシが、やれっつったのはお前だろっ!?」


“さぁ、どうすれば良かったのでしょうね? それは一旦置いといて、さーて、オルビスにも効く最強の薬、どれぐらい除去できたかしら?”


≪鑑定≫

氏名:コハル・メランナ・プリマヴェーラ

不適格状態での治癒魔法行使による闇属性の蓄積量、現在75.21パーセント、安全圏に達しましたが、依然使用を控えることをお勧めします。

≪以上≫


これで5パーセント減か。あと何本飲ませればいいんだ?


“持ち直したわね。感謝するわ。”


「これで足りるのか? もう一本ぐらい飲ませた方がいい?」


“駄目。これ以上飲ませると体に害を生じるわ。この子が体調不良になっちゃうとね、説明は省くけど、あの子たちが困るの。”


ルナクローラーは穴の開いた壁の方を見る。わたしもそっちを向くと、壁穴の向こう、教会の裏手の方角からインチコガネが大きな羽音を響かせ何処かへと飛び去った。その脚に黒っぽい丸い何かがしっかりと握られていた。


“まぁ、説明は不要よね。”


……まぁ、それは一旦置いておこう。だけど、虹龍種ぐらいの最上位種級のドラゴンのブツでないといけないのに、なんでなんだろうか、気になるが、これは流石に聞けない。


“口に出さなくても聞こえてるわ。あの子はあの体だけど、魂は全ての龍族の頂点にあたる種族であり、この陸空全てを治める蒼天龍種、どういうわけかは分からないけどね。ついでに言うけど、あなたも体と魂が異なってるわ。”


「そっ、それはどういうことなの?」


“…………単なる勘よ。あら、そろそろ行かなきゃね。じゃあね。後はよろしく。”


何だよその間は……?

ルナクローラーは翅を開き、シャラシャラと空高く飛んでいった。

一体なんだったんだ、あいつは。


「ハッ、わっ、わたしは…………ゲホゲホッ……わぁっ!! なっ、何ですかこの口の中に残る風味はっ!!!?」

「ごめん、あの茶色いお薬、飲ませちゃった。」

「あっ、そういえば…………ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした。」


コハルさんはゆっくりと立ち上がり、改めて頭を深々と下げる。


「こちらこそ、無理やり飲ませてごめん。下手したら、いや、下手しなくても窒息死してた可能性があるし……。」

「いっ、いいんです。本当に申し訳ございません。」


何度も深々と頭を下げる。

……コハルさんが龍族? 龍族ってもっと好戦的で威圧的な種族の印象があったけど……あっ、もしかして、背後から感じる謎の威圧は龍族の……?


“コハルちゃんのそれはその子の意思じゃなく、自らが体の奥底で封じている重力属性が湧き出してきて不定形の背後霊みたいになってるのよ。どの程度ランクがあるのか見えないけど、少なくともXS以上ね。不完全とはいえ、あんなものよく封印を維持してるわよ、本当に。”


あっ、あいつ、何処から話しかけてきてるんだ?


“結構遠くまで、あなたの考えていることは読めるし、チャンネルさえ分かればあなただけに話しかけることもできるわ。ウフフッ、妙なことは考えないようにね。”


あの野郎……本当に一体……。


「あっ、お野菜さんの手直しをしないと……お野菜さんの方はわたくしの方で行いますので、ゆっくりしていって下さいね。」

「大丈夫なの? 休んでた方がいいと思うけど……。」


……しかし、さてどうしたものか。今後の事も考えると、コハルさんには寝てて欲しいけど、本人がやる気だし、やらせておこうか。これが育たないことには集落も本人も困るんだろうし。

しかし、ゆっくりしていってとは言うものの、あのサソリの件もあるし、コハルさん自身いくら強いとはいえ、一人にしておけない。


……そうだ、手にあの液体が付いたままだし、匂いがしみ込む前に手を洗わなきゃ。でも、何処で?


ふと後ろを見ると、昨日の水瓶があったとこの横に井戸があった。水瓶が無いし、ここからくみ上げて手を洗うしかないのか。

井戸を覗き込む。井戸の奥は当然ながら真っ暗で見えないが……何だか臭い。腐った卵のような匂いが上がってくる。ちょっと行けばあの土壌なので良からぬ液体が入り込んでいるのだろう。

…………そんな水で皿を洗ってもいいのか?


あの液体の匂いよりは遥かにマシなので、ロープ付きの桶を落とし、水を汲み上げる。汲み上げた水は色こそ透明なものの、やっぱり臭い。我慢して手を突っ込んであの液体を洗い、外に捨てる。幸いにもしみ込んでは無く、臭いもさっぱり消えた。あぁ、良かった。あのまま臭いが染みついてしまったら人権そのものが無くなる。孤児院に迷惑が掛かるから居れないし、ギルドも脱退だろう。最悪だ。


ズドンッ!!


背後で振動を伴う大きな音がした。


「あらいやだ、またドア壊しちゃったわ。」


心臓が破裂しそうになる。一定間隔で鳴り響く心音をBGMに、内ポケットのレーザー銃の片割れを手に壁に背を付けそろそろと玄関付近まで向かう。


「コハルちゃん、いるー? ……返事が無いわねぇ。あれま、物騒なものが置いてあるわ……ん?」


大人の女性の声、内容からして敵意がない、ドアを壊す程の力……。一体何なんだ?


「あら、可愛らしい子。」

「―――――っ!!!!」


腰が抜けて昨日から続けて三回目のケツ着地、心音の速度が上がる、汗が止まらない。


「びっくりするわねぇ…………。」


流暢に言葉を発するのは、黒に近い緑色の全身金属製で機械剥き出しの例の殺戮兵器。人型をしているが、両手の甲には鋭いブレードが取り付けられ、鉄仮面のような顔のカメラのような目は上下に二つで異質。

一応頭にポニーテルのようなケーブルの束に胸は機械が集中してるのか膨らみがる点では女性型か。その胸に軍のマークがあったのか、削り取られて赤錆びが出ている。


……そう、こいつこそが、あの、今までに相当な人数の冒険者を屠ってきたあの殺戮兵器だ。自爆特攻を推奨するような手配書の駆除対象もコイツ。


特級駆除対象。


遭遇イコール死。


クソッ、こんな所で終わるなんて……。コハルさんでも勝つのは無理、何とかして逃がしたいが……。


「なーによ、銃を下ろしなさい。あたいはカタギ相手に手出ししないわよ。それともなーに? アサシンか何かかしら?」


立てずにいるわたしにズイッと顔を寄せる。その無機質な顔はそのままビームでも撃ってぶち殺してくる感すらある。

こっ、こいつ…………一体何しにやってきたんだっ!?

震える手はこいつの急所を捉え切れない。クソッ、ここで終わっちまう……。



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