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1-14-12 それぞれの旅(12)

「ふわぁ~…………。」


“退屈だねぇ。”


一体あのクソダヌキはいつまで店番をさせる気だ?

寝ようと思えば酒臭い客が酔い覚まし寄越せだとか、泥酔したやつが入ってきて何か買うのかと思えばウザ絡みして追い返さなければならないし、何なんだこの店。

あぁ、ずーっとキューブパズルしてるだけのノアが羨ましい。


“あっ。”


「どうした?」


“地下深くで、もーんの凄い魔力を持った魔物が湧いた。”


「おい、それ大丈夫かよ?」


この地下、ヤベェもんばかり埋まってやがるな。もう驚きもしないが、だが、魔物が湧いたのなら長居もしてられない。


“……でも結構深くだから地上には出てこないと思う。それよりも、客だよ。”


「……酒くせぇな。また来やがったのか……。」

「おろろーっ? それが客に対する言葉かなぁ?」


……招かれざる客だな。ジョンさんの言うおチャラけた吸血鬼の野郎、確か名前は……。


「ポクちん、リアージュだよぉ。キャッハッハッハッハッ、ダチがアルコールに負けてねぇ、強ーい眠気覚ましと、ちょっとつよーいヤクあるぅ?」


“あんたに出す薬は無いわよ。”


「おろろーっ? 蝶が超喋ってるねぇ。蝶だけにって。」


“…………こいつ、何だかイラッとくるわねぇ…………ブチィ。あたし切れちゃった。ルピナスちゃん、こいつヤク漬けにしてスライムの餌にしちゃおうよ。”


「いや待てよ、なぁ、この眠気覚ましとこの精力剤をタダでくれてやるから、今日は帰ってくれないか?」


かかわりたくない。この8文字が今この全て。岩塩があったら投げつけたい。


「おぉ、いーね。ちょーいーねっ!! じゃあポクちんこれで帰る……おろっ!? キミちょーきゃわいーねっ!!」


このクソ野郎は部屋の隅に座って黙々とキューブパズルを弄ってるノアに向いた。


“ルピナスちゃんっ!!”


「分かってる。おい、この子に手出したら、分かってんだろうな?」


武器はいくらでも持ってる。とはいえ、まともに取り扱えるのはあの二丁拳銃だけだが。


「おろろーっ? ポクちんの邪魔するのぉ?」


凄まじい形相でわたしの顔に接近する。酒臭い、気持ち悪い、離れてくれ。


「じゃあさぁ、ポクに勝てたら、この子はポクの物ねぇ?」

「人を物呼ばわりするテメェには鉛弾がお似合いだな。」


鉛弾は出ないが。


“ルピナスちゃん、ここはあたしも加勢するわ。”


「いいねっ!! キャストが多いと燃えるねぇっ!!!!」

「ふんぬ。ではワシも参加しようかの。」


“ジョンおじいちゃんっ!?”


騒ぎを聞きつけたのか、ジョンさんが店に入ってきた。表情は険しく、顔にしわが寄り、全く別人のような顔になっている。


「キャストが多い方がいいんじゃろ?」

「いいねっ!!!! お爺ちゃんだろうが虫だろうが参加は大歓迎だっ!!!!」

「フンッ、こんな吸血鬼のガキ相手に本気は出したくはないがな。お三方は離れてなさい。こやつはワシ一人で充分だ。」


確かにジョンさんは只者ではないのだろう。だが、相手は吸血鬼。どんな攻撃をしてくるのかも未知だし、血を吸われてしまうとどうなるかも分からない。


“吸血鬼、あまり見ない種だからあたしにもさっぱり。”


「心配は要らん。吸血鬼との戦闘は心得ている。」

「おろろー? いいのかい? ポクちんを舐めてると痛い目みるよぉ?」

「この減らず口に喝を入れてやるわ。」



いつでも出れるようにわたしだけ外に出るつもりが、ノアも出てきてしまい、プラムもノアと共に来てしまったから結局全員で外に出ることに。

広場は観客で溢れ、中にさっきのお爺さんも混ざってた。


「おお、ボンソワール。」

「えっ、ぼっ、ぼん……?」

「あっちの言葉で今晩は。夜の挨拶じゃな。」

「あぁっ、そうなんだ……。」


興味ない。ここは極東の島国、一生に一度も行かない西方の国の言葉なんぞ知って何になるのか。しかし、もう全員出てきちまったんじゃないのか、これ。寧ろ避難させないと危なそうだけど。


「ふぉっふぉっふぉっ、しかし一騎当千のジョンと出自不明の吸血鬼との決闘か。これは面白い戦いになりそうだの。」

「そんなに悠長なこと言って大丈夫なんですか?」

「大丈夫じゃ。ワシは彼奴のことをよー知っとる。彼奴は強い。とんでもなく強いぞ。梨は要るか?」

「いえ、要りません。」


こんな時に梨食ってる場合か。


“あたし、いるっ!!”


「はい、梨じゃ。おっと、持つ者が居らんな。」

「チッ……ほら。」


“ありがと。梨汁ぢゅー…………あぁ、喉が潤うわ。”


「爺ちゃん、この広場でいいのぉ?」

「フンッ、何だテメェは。酔っ払いを加勢させて、そいつ等は無関係だ。引っ込めろ。」

「うーん? もっとキャスト欲しいのぉ?」

「チッ、話が通じねぇ。」


酔っ払いを数名連れてるが、酔っぱらった勢いとか、あいつに慕って参加したとかでなく……何だか様子が…………?


“チャーム。今物凄くチャームの気を感じた。”


「フォッフォッフォッ、あやつは特殊でな、単なる吸血鬼ではないみたいじゃの。」

「お爺さん、あいつを知ってるのか?」

「何度もこれと同じような決闘があってな、その時一度だけ魅了魔法を発動させているのを見たことがある。しかし、流石は蝶のお嬢さんじゃの、便利な体じゃな。」


“ウフフッ、ありがと。だけど、あんな高レベルのチャームはサキュバスやインキュバスとかの夢魔族の専売特許……。”


「ほーら、増えたゾ。」

「厄介な魔法を使いよって。それなら、ワシもカードを一枚使うかの。フンッ。」


観客たちが膨らむ見えない壁に押し出させるように広場の外へと追いやられた。

ついでに加勢した酔っ払いや観客も場外に押し出され、見せない壁をドンドンと強く叩いている。


“空間魔法。時空魔法の一つで、時空属性だけでも希少なのに……。”


「ふぉっふぉっふぉっ、彼奴の真骨頂はこれだけではないぞ。」

「おろろーっ!? キサマァ、ポクちんの眷属に何をした?」

「フンッ。場内に乱入者が居たら、戦えんじゃろ。それよりも、早く来い。貴様など老体でも数分もかからんわ。この混血種め。」

「ムキィィィィィィイイイイイッ!!!!!!」


リアージュは五体に増えた。分身か。


「キャストがいなければポクちんが増えればいいんだっ!!!!」

「そうか。ではカードをもう一枚。」


ジョンさんは何処からともなく、自らの背丈を超える非常に大きな両刃の大斧を召喚した。


“何あれ、時空魔法じゃなかった。何なの?”


「無属性特有のよく分からんマジックじゃな。フォッフォッ、あんまり人の事を喋るもんじゃないの。」


“無属性って、時空属性じゃないぐらいレアな神殺しの属性じゃんっ!!”


あー……無属性、わたしも持ってる。武器召喚か、いいなぁ。でもわたしそんなの使えない。


“えっ、ルピナスちゃん……。”


「長くなるからそれは後だ。」

「ひょえ~……そんなバトルアックスでナニしてくれるのかな~?」

「斧を…………ブン回す。」


ジョンさんはあの滅茶苦茶な大斧を用いた横回転切りで薙ぎ払った。分身は瞬く間に消え、リアージュは血飛沫を残して消え去った。

周囲はざわつく。余りにも一瞬のことで戸惑っているようだ。


「フンッ、まだ居るんだろう?」

「ポクちんに物理攻撃が効くわけないじゃん。ねぇ、他のカードを見せてよ。」


宙を舞い続ける血飛沫から声が響く。あの状態で生きてやがるのか?


「吸血鬼は、自身の体を無数のコウモリに分離させることが出来るんじゃ。魔力が高ければあのように血飛沫みたいに見える極小のコウモリへと変化させることが出来る、即ち、凄まじい魔力を保有しているという証拠じゃな。」

「場外の爺ちゃん、ポクちんのことよーく知ってるね?」

「そりゃあもう、ワシはモンスターの生態系に関する研究をよくやってたからの。」

「へぇ、モンスターねぇ。吸血鬼はモンスターじゃ無いゾ♡」

「ほう、そりゃ悪かったの。ついでに言うと、あの状態だと火属性に滅法弱い。ジョンよ、このまま己を秘匿し続けるのは危険じゃぞ。」


火属性か……。わたしの主砲だが、あれを見てしまった以上は危な過ぎて使いたくない。せっかく火属性がSランクになったのに、後衛で且つ、隠密状態を破るべきではないガンナーにとって巨大な魔法は足かせだ。

何より、クリティカルの発生によるMP大量消費が非常に危険。完全にランダムで、任意では発生させられないことが更にタチが悪い。MP使用は必要最低限に留めること、これもガンナーの鉄則だ。


“あなた、見た目に寄らずもんのすごいレアな体質なのね。Sランクだって別に初級魔法も普通に打てるから気にしなくていいのに。”


「あぁそうかい。普通が良かったよ、普通が。」


ちょっと前まで普通未満だったってのに……何が何でも飛躍し過ぎだ。


“ガンナーなんてやめちゃえばいいのに。この世には色んな職があるよ? 魔法職なら一発で宮廷魔術師とか賢者クラスよ。”


「うるせぇ。ガンナーが一番性に合ってるんだ。」


あぁ、加勢したいけど、加勢したくない……。


「一体どうするんだい? ポクちんのこの血飛沫、どう消し飛ばすんだい?」

「うぬ。貴様を舐めていたな。謝罪する。」

「およよよよよよぉー? 負けを認めるのかい?」

「カッ、誰がいつ認めたってんだ。」


ジョンさんは武器を何処かへ仕舞い、そして別の、自らの身長よりも長い大剣を召喚した。


「およよ、バトルアックスが大きな剣に変わっただけじゃないの?」

「ワシも縮んだの。この魔剣はワシよりも短かったはずだがな。だが、変わっておらぬ。」


新たな武器を、筋骨隆々な体のその片腕で持つ。

突き刺さった地面から炎が上がり、腕ごと炎に包まれた。


“お爺ちゃん、燃えてるっ!!!!”


「ワシは火属性強耐性だ。これしきでダメージなど負わん。」

「これはマズいよぉっ!!!!」

「フンッ、その感じではまだ奥の手があるようじゃが、いざ、血飛沫を焼き尽くさんっ!」


燃える大剣を片手で振る。それは横一文字に血飛沫を切り飛ばし、真っ二つにした。舞っていた血飛沫は消え、跡形もなくなった。


「ぎゃあああああああああああっ!!!!」

「フンッ、口ほどにもない。じゃが、気は抜けぬ。」


“ヤツの気配が下に移った。”


「下……地面の下か?」

「……ふぬ。仮に幻魔の混血だとしても、それだけでは説明がつかぬことを仕出かしそうじゃな。」

「……キサマ、まさか死霊術に手を染めたのではなかろうな?」


“勘の良いヤツは嫌いじゃないねぇ。寧ろ好き。”


周囲がざわつく。どこからでもない声が響いたのだ、無理はない。


「うわぁあああああああああっ!!!!」

「なっ、なんだこいつっ!!!?」


ざわつきが徐々に悲鳴に変わる。

……明らかに人ではない動きの何かが人混みに混ざっている。


「さぁ、この地面に色々細工してきたよ。いいねぇ、死に満たされた地は。ポクはもう限界だよ。代わりに無数の死体に相手してもらうよ。」


リアージュは酒場の屋根の上でしゃがみ、へら付きながらこっちを見ている。

今すぐにでも脳天をぶち抜き、焼き殺したいが今はそれどころでない。わたしの周囲にも骨や内臓が見える溶けたような体をしたアンデッドがやってきた。


“とんでもない禁忌よこれ。行使どころか、ネクロマンサーのお勉強をした時点で死罪になる国だってあるのにっ!!”


「うぬ。これこそ火属性が弱点じゃの。ジョンよ……およ?」

「フンヌッ、こんな木偶人形など拳で充分ぞっ!! 皆の者は急いで教会へ避難しろっ!!」


ジョンさんは片腕で二体横に並ぶアンデッドを殴り倒し、部位欠損させ無効化する。


「おろろ? 拳で殴り倒すなんてパワフルだねぇ。」


凄いな、ジョンさんは。元はと言えばわたしが原因だ。だけど、ここで火属性魔法は危険すぎる。初級ですら、こんな板張りの家など燃やし尽くしてしまう。

クソ…………何の役にも立たねぇ……。


「ギゴゴゴゴ…………べっ…………ベッピン……サンヤナァ……。」


“ルピナスッ!!!! アンデッドがノアちゃんに取り付こうとしてるっ!!”


ノアにアンデッドの魔の手がっ!!

…………なっ、なんだこいつ……頭に長いウサギの耳……ボロボロだが、カジノやバーによく居るバニーガールの衣装……体はどうみても男性のそれ……股間は……


“……このアンデッドは直視しない方がいいわね。見ただけで一ヶ月ぐらい寝込むわ。”


…………そんなことはどうでもいいっ!!!!


「うぬ、これは困った。」


“お爺ちゃんは逃げた方がいいよっ!!”


クソッ、押しのけようにも力が足らないし、そもそも押しても手がアンデッドの皮膚を突き破って内臓に触れてしまい気持ち悪い。腕をどかそうにもやはり力が足りない。

それよりも、この状況でノアはキューブパズルに夢中で意にも介さないのどういうことなの? 少しは拒否してよっ!!


「サッ…………サワラセテ…………クレヘンカナァ……。」


アンデッドは抱き着き、なおもキューブパズルを弄じっている、だが、アンデッドの手がキューブパズルに触れ、ノアの手から離れ地面に転がった。


「………………むーっ!!!!!!」


ノアの頬はパンパンに膨れ上がり、わたしの力では解けなかったアンデッドの腕は解けるどころか引きちぎられ、仰け反るアンデッドの顔へぶん投げた。


“し……心配要らなかったね。”


「要るわ。あんなのに触れさせたくも無い。」


続けてノアはアンデッドの顔をぶん殴って顔を吹き飛ばした。


「エッ…………エェコブシヤ…………ワイハシアワセモンヤデ…………。」


そしてアンデッドは崩れ落ち、ただの土の山になった。もう動かない……のか?


“こいつ、ドMなの?”


「そんなこと言ってる暇か。ノアを連れて丘の上まで走るぞっ!!」


もう皆は逃げ去り、わたしとノア、プラム、ジョンさんと屋根の上のクソ吸血鬼だけになった。


「わしも居るぞ。」


路地からひょこっと、あのお爺さんが出てきた。


「何で居残ってんだよっ!?」

「面白そうじゃし、事の最後まで見届けるのは礼儀じゃ。」

「……精々死なないようにするんだな……。」


ジョンさんは拳一つで次々と殴り倒していく。だが、物理攻撃だけでは一時凌ぎにしかならないのかまだ動いてる。だが、ノアはあのパンチでただの土の山にしてしまった。そっちはもう動かない。一体何が違うんだ?


“……ノアちゃんがぶん殴る時に一瞬だけ強い闇属性の気を感じたわ。死霊術は闇属性の一種で、闇属性の術式が死体の体内にあるの。ゴーレムと同じね。”


「………………あぁ、回路に大電流を流して壊すのと同じか?」


“そう。闇属性の術式にそれとは関係のない強い闇属性の魔力を注ぐと術式が破損するの。これはどの属性も同じ。それか、錬金術師の横で土属性の魔法を使ってはいけないという話と同じ、干渉ね。”


ということは、ここはノアの力が必要か。だが、ノアはまたキューブパズルに夢中だ。テコでも動きそうもない。


「光属性で代用出来るか?」


“あの血飛沫みたいに小さくなれるのなら魔力も相応で、死霊術もそのレベルで焼き付けられてるのなら、無理ね。”


「バーカ、お前には無理だよーっ!!」


…………殺す。


“集落が大炎上しちゃうから抑えて。”


チッ、今は目の前のアンデッドってか。


「フンヌッ……っと、この死霊どもは闇属性が効くのか?」


“そうだけど、お爺ちゃんは闇属性が使えるの?”


「ハッハッハッハッ、ワシを誰だと思っとる。さぁ、行くぞっ!!!!」


お爺さんの片腕は闇魔法を使用した時のように濃い紫色のオーラを纏う。腕全てを闇の帳で覆い、手は真っ黒なボクシンググローブのようになっていた。


“お爺ちゃん……何者なの?”


ジョンさんは再び次々とアンデッドを殴り倒し、次々と土の山へと変えていった。もはやジョンさんに敵無しの状況。もう一人で全部片付きそう。


「チッ……何アイツ。ウッザ。」


いいや、一人残っていた。だが、ヤツをどう始末すべきか。


「ふぉっふぉっ、もう終わりが見えてきたの。」

「爺さん、まだ居やがったのかっ!?」

「危険な試合こそ見ごたえがあるものじゃ。」

「…………まぁ好きにしろ。」

「じゃが、もうそろそろお暇させていただくかの。」


そういえば、最後まで見届けるのが礼儀だと言ってた気がするが……?


「礼儀など、この泥仕合には必要ないの。もう寝る時間じゃ、アデュー。」


爺さんは集落から離れることなく、自宅のある方向へ歩いて行った。

……つーか、帰りの道中でアンデッドに出くわしたらどうするんだっ!?


“あっ、ヤバイ、お爺ちゃんの後ろのアンデッドが……。”


ほら言わんこっちゃない。間に合うか…………?


「ワシに死角などない。」


お爺さんは持っていた杖の先でアンデッドの頭を叩くと、瞬く間に土の山と化した。


“……何も感じなかったけど、何かのマジックアイテム?”


アンデッドやゾンビに効く術式でも入ってるんだろうか。テルミナも魔石で色々やってるとか言ってたし、西方諸国には便利なものがあるんだろうな。

……なら最初から使ってくれと思うが。


「チッ、殴っても殴っても出てきやがる。」

「ケッ……ケハハハハッ!! ポクちんとの根競べになっちまったなぁっ!! こういうの嫌いじゃないねっ!!!!」


根競べ……?


「フンッ、根競べか。ならワシは負けんぞ。」


ジョンさんはこちらを見て、顔を一瞬だけあのクソ吸血鬼の方を向ける。

自らとの根競べということは術式のMPが尽きない限り勝手に動き続ける常設の死霊術ジェネレーターを大量に置いたのではなく、あいつ自身がアンデッドを生み出す術式にMPを供給し続けている可能性がある。


“そうだとしたら、あたしの眼には糸のようなものが見えるんだけど……あっ、もしかして、小さいコウモリを術式に置いて供給してるのかも。コウモリに分かれてもステータスは共有してるから、体のごく一部だけコウモリ化して術式に設置してるのかも。”


やっぱりあの本体を倒せば止まるのか。


「おい、そこのクソ吸血鬼。わたしが相手するっ!」

「キヒヒヒヒッ、へぇ、嬢ちゃん、ポクちんが暇なの察したんだねぇ。」


んなわけあるかこのゴミクソがっ!!

酒場ごと燃やしてやるわっ!!


Sランクの火属性魔法か……。Sランクともなれば自由にコントロールできる火の玉ぐらい出来るだろ。あの時も咄嗟に思いついた炎を地面から噴出させたり、光魔法で網目のようなレーザートラップを設置したり……出来ないわけがないっ!!


火の玉……揺らめく火の玉を……そういえばアンに読んであげた怖い本の中に、狐火という火の玉が出てくる話があったっけ。別名は確か鬼火だったかな。


“…………ちょっ、ちょっと、あたしまで燃やさないでよっ!?”


「あぁ? …………何だこれっ!?」


周囲には無数の青白い火の玉が浮かび、ゆらゆらと揺らめいている。それは指示を待っている使い魔というか、指示を与えたら一斉にその場所に飛んで行きそうな……。


「ヒッ、キヒヒッ……それを一体どうするんだい?」

「あのクソ吸血鬼を、リアージュ・キモータルを追いかけろ。」


予想通り、火の玉は一斉にクソ吸血鬼の元へ飛び立ち、追いかける。

屋根伝いで必死に逃げるも、火の玉は揃ってヤツを追いかける。途中で消えてなくなるものもあるが、確実にヤツを追い込んでゆく。


そういえば血飛沫みたいに細かくならないと火属性は弱点にならないとお爺さんが行ってたが、吸血鬼の状態でもあの慌てようだからあれでも弱点なんだろう。


「ウォラァッ!! もう一発ッ!! ゴルァッ!! ……フンッ、数を減らしてきたな。嬢ちゃん、やるじゃねぇか。」

「あっ、あぁ……そうだな。」


“ここはありがとうでしょ。まぁ、でも、あれでMPが尽きてくれるといいんだけど。”


「ワシも限界まで殴り続けてやるぜ。おっと、後ろから来やがったか。セリャアッ!!!!」


たった一つだけになってしまった火の玉は遥か遠くを漂っている。あれだともう集落の外か。この感じだとまだ倒せてないな。追加で出そうにも、本当にクリティカルが怖い。クリティカルしてしまうと本当に燃やし尽くしかねないほど出してしまいそう。


「クソうッ!! ポクちんの体がボロボロだっ!!!! お気に入りのタキシードもボロボロだっ!!!! もうお前、許さないぞっ!!!!」


戦闘になった原因はわたしにあるにしても、許すも許さんも死霊術で滅茶苦茶にしたお前の所為じゃないか。


“……酒好きの雑魚と高を括っておったが、死霊術とな。”


「おい、プラム、お前何か喋ったか?」


“んなわけないでしょ、あんな意地の悪そうな爺さん声なんか出せるわけないじゃんっ!! つーか、この声って……。”


「フンッ、この声は……老竜っ!! テメェ、引きこもってないで出てきやがれってんだっ!!」


“ハンッ、用があるのはこの吸血鬼だ。”


「あぁ? ポクちんになんの用があるんだぁ?」


“我が糧となれ。死霊術は貰い受ける。その雀の涙程度の魔力もな。”


禍々しい気配と共にクソ吸血鬼の周りに黒い手のようなものが生え、必死に抵抗するそいつの顔や腕、足や胴体を掴み、沼の底へと押し込むように連れ去ろうとしている。


「まっ、ままままままままま、マッ!!? マジでちょっ、まだ死にたく――――」


全身は沼の底へと消え、腕も地面へと消えていった。同時に出ていた全てのアンデッドは崩れ去り二度と動くことは無かった。


「……………。」

「……連れ去りやがったか。あの老竜、また肉体改造しようとしてやがるな。」


“肉体改造?”


「かつての姿を取り戻したいのだろう。フンッ、往生際の悪い。ヤツは干からびるまで吸いつくされるだろうな。さて、帰る前に呼び戻すか。嬢ちゃんたちはゆっくり休めよ。」


“手伝うよ?”


ジョンさんは教会の方に歩き出し、背を向けたまま片手を上げ手を振る。

…………豪快な爺さんだったな。時空属性に無属性に闇属性か……とんでもない人ばかりだ。


◇◇


…………。


『師匠、脱出出来そうですか?』


………………。


“動く気配が無いですね。困りました。雷が原因で幾つかのシステムが破壊されて操作が利かないみたいです。”


……コメットさん、あなた、他人事みたいに言わないでよ……。


“駄目ね、上から下まで飛んで見て回ったけど、階段室に繋がる全部のシャッターが下りてるわ。このアトリウムへは密室の状態ね。ダクト以外は。”


『ダクトを使って脱出って、映画みたいで面白そうっ!!』


“ダクトに入ると言っても、実際はダンパーとかファンとかの障害物があるからすんなり通り抜け出来ませんよ。”

“そうでもないわ。階段室を挟んで向こうにある機械室と繋がるダクトは間にはなにも無かったから余裕で通り抜けられたわ。ガラリは破壊する必要があるけどね。”


『よしっ、やってみようっ!!!!』


陽気な人たちだなぁ。あたしはもう、そんな元気無いよ……。


「あのー……。」

『コハルさま、どうしたのですか?』

「ダクトと言えば、高い所にあるのですよね?」


“そうね、ガラリまで5メートルぐらいあるかしら。”


「わたくしは……その……、皆さんのように空を飛べるわけでも物凄くジャンプできるわけでもないですので……。」


“……そうね。コハルちゃんのその高密度な鋼の肉体だと入れても底が抜けるかもしれないわね。”


コハルちゃんは頬を赤く染め、ゆっくりと首を縦に振る。


『うーん…………ハッ、乙女に向かって体重の話はご法度ですよっ!!?』


“なーによ今更ァ……。仕方ないわね。一回じゃ済まないかもしれないけど、シャッターを破壊するしかないわね。”


これ以上破壊して欲しくないけど……もうこれしか無いのかなぁ……。


…………。


――――――ッ!!


誰だっ!!!?

この建物を設計したのは誰だっ!!!?

このシステムを設計したのは誰だっ!!!?


『あたしだぁッ!!!!!!!!!』

『うわっ!! 師匠、どうしたのですかっ!?』

「そんなに激しく壁に頭を打ち付けてはいけませんっ!」


“ルーナディアさま……。”

“あなたがユーリアちゃんの事情を考慮しなかった上に威力も加減しなかった所為ね。後でしっかり心から謝るのよ。”

“肝に銘じます。”


…………もう分かった。


開き……直るッ!!!!!!!


◇◇


『師匠、大丈夫なんですか?』

『もう大丈夫だよ。開き直っちゃった。鯵の干物は開き直ってこそだもの。』

「……ちょっと意味は理解しかねますが……元気になられて良かったです。」


あたしにも分からない。鯵とは……鯵である。


“……まぁ、元気になったのは良かったわ。ところで、あのシャッターはわたしが入ってきた所だけど、壊せる?”


『……あたしに言ってる?』


“あなたの建物ですもの。それに、ご自慢の雷魔法ならシャッターに施された無駄に強力な防護魔法も破壊できるわ。どうする?”


どうするったって、今すぐに脱出するのなら、もう……


『破壊するしかないでしょッ!!!!』


このシャッターには複数の防護魔法術式を練りこんでカッチカチにしてある。これを打ち破れるのは一点集中で超威力な魔法のみ。


“魔王四属性。魔を束ねる者に必要な資質。光と闇、重力と雷。重力と雷は大いなる力、魔王たらしめる威光。ルーナディアさま、あなたの雷を見せつけるのです。”


だっ、誰に見せつけるの……?


“あら、あなたただの棒なのに、その辺の一般人が知らないようなこと、よーく知ってるわね。”

“こっ、これぐらいのことはその辺の冒険者でも一兵卒でも知っていることですが……?”

“知るわけないでしょ。それとは関係無いけど、後でお話、いいかしら?”

“………………………………承知しました。”


『師匠、見せつけられたいですっ!!』

『いやいや……コハルちゃんの雷の方が凄いから……。』


あのイカの時の威力は忘れられない。そもそも、あたしの雷属性はコハルちゃんから得たものだ。


「わたくし、ユーリアさまの雷が見たいです。ウフフッ。」


あー……あのイカの時、見せた気もするけど……。


“早く撃ちなさい。外はすっかり夜よ。ルピナスちゃんたちが待ってるわ。”


……真横に撃てる雷属性の魔法は、あれのみ。プロジェクタイル、何にしよう。


…………いいのあんじゃん。


「あの、何を?」


バッグの中にさっきのパソコンが……あった。良かった、これに差したあの如何わしいメモリーカード。それをぶっ放して弾にする。

ほとんどが非耐熱の樹脂部品だけど……耐えられるかな?


さて、雷魔法でメモリーカードを宙に浮かせる。手を並行にして長ーく伸ばして、先っちょを波動拳的にクイッと広げて、腕に雷魔法を集中させて……よしっ!!


『わっ、凄い……師匠っ!! 電撃に包まれてますっ!!』

『邪悪なメモリーカードよ、光となり雷となり、壁をぶち破れっ!!!!』


耳を貫通しそうなほどの轟音と共に、それは一条の光と化す。邪悪は浄化され、いかなる盾も風穴を開ける矛となった。


『師匠のビーム、いっけぇーっ!!!!』


“コハルちゃん、横向いてて。目がやられるわ。”


長いビームはシャッターに当たり、一瞬の轟音と強烈なフラッシュと共に全身のセンサーが麻痺した。


『……どうなったの?』


優秀な体なので麻痺は1秒程度で復旧した。

…………シャッターは…………壊れてないどころか無傷だ。


“弾が弱すぎたのね。音と光だけを残して防護魔法にかき消されてたわ。”

“ルーナディアさま、わたくしを弾にして下さい。さすれば、このような障壁など、粉微塵にして差し上げます。”


無茶苦茶を言う。むしろ、スライムを討った時の雷魔法を使ってほしい。


“馬鹿ねぇ、あなたには、大事な使命があるのでしょう?”


コメットさんは何も答えない。ローリエさんには何か見えているのだろうけど……コメットさんの使命って……何?


“選手交代ね。”


『わたしがやるっ!!』


“無理よ。火魔法を限界まで収束させてビーム砲みたいに出来る?”


『土魔法を限界まで細めた槍なら作れるっ!!』


“折れるわね。コハルちゃん、あなたのパンチで破壊しなさい。”


もはや属性も何も要らぬ純粋なるコハルちゃんの力……。絶対に逆らってはいけない。


「わたしの……ですかっ!?」

『コハルさまのパンチなら粉微塵どころかクレーターが出来ちゃうかも。』


“雷属性は乗せなくていいわ。乗せたら二次災害待ったなしよ。”


間違っても、あのトンデモパワーに雷を乗せたら全部が壊れてしまう。システムどころか物理的に崩れ、土に埋もれてしまう。災害級の力をコハルちゃんは持っている。穏やかで優しくて、本当に良かったよ。


“さぁ、よく見てなさい、コメット8000、いいえ、名前はさっき――――”

“分かりました。よく見ています。目に焼き付けておきますっ!!”


「ユーリアさま、あっ、あの、本当に……大丈夫でしょうか?」

『ひと思いにやっちゃっていいよ。あっ、でも、軽くね。雷乗せなくても二次災害になっちゃうから。』

「…………では、参ります。」


息をすぅーっと吸い込み、ゆっくりと拳を引き、そして――――


「せいっ!!!!」


ガラスが割れるような音と共に、地鳴りを伴う低い轟音が内臓を揺らす。


『なにこれ、ビィィンって、体がビィィンって振動してるっ!!!!』


“割れないように気を付けてね。”


シャッターの方を見ると、大きくひしゃげて、大人一人分の大穴が開いていた。


「これで通れますね。」

『頭がまだ振動してる。あっ、もしかしてウサ耳が音叉みたいになってるのかな?』

「そういえば、テルミナさまの耳がつっかえてしまいますね。押し上げましょう。フンッ!!」


シャッターは悍ましい悲鳴を上げて押し込まれた。中で潰れたか、降りてはこなかった。


“最初から上げてもらったら見栄えが悪くならなかったわね。”

“……なっ、なんですかこの力……。”

“悪いことは言わないわ。やめておきなさい。”

“…………それは……なりません。”

“そう。”


「通りやすいように、曲がった部分は折り曲げました。」

『コハルさま…………かっこいいですっ!!』


“さぁ、一階層上に上がって左に出たら出口よ。”



「……あのクソダヌキ、帰ってこねぇな。」


“……フフッ、タヌキだって……クスクス……”


もう店番などする気もなく、ノアを連れて薬品庫とは別の隣の部屋で椅子に座りぼーっとしている。教会に近いだけあって、澄んだ夜空に浮かぶ大きな月のお零れを与れる。これが遠く離れていれば雲に覆い隠され気が滅入っている。

これほど……何気ない景色がこれほどに美しいと感じたことはない。

はぁ……ここから出たいなぁ。


“難しそうな本の中に子供向けの絵本が挟まってる。”


「……あんなのがそういう本を好きそうには思えないけどな。」


大抵、カバーだけ挿げ替えた如何わしい本だと思う。


“「ウサギとカメとカメとカメ」……だって。”


…………カメ多くないか?

いや、多いだろ。ウサギ、どんだけのカメを挑発したんだ? カメだって異臭を発することしかできないクサガメから全属性無効で物理防御は言うまでもないフルアーマードラゴンタイマイまでいるんだぞ??

気になって本棚を見ると、どう見ても童話とは思えないほどの分厚い本が挟まっていた。


“怪しい厚さね。こういうのは八法全書とかデーツの医学書が定番なんだけど。”


蝶であるプラムはスプーン一つ持ち上げられそうにないが、重力魔法でも使えるのか本を浮かせ、棚から抜き、錬金台と思わしき机の上に置いた。


“あたしは風属性と緑属性しか使えないよ。これは風属性の応用。さーて、開いちゃお。”


「お、おいっ、怪しいなら開けるなよっ! 本型の魔物だっているんだぞっ!?」


“冗談よ。でも、その場合はあたしの風魔法で引き裂いてやるんだから。えいっ!! うわっ、かったーい、これぇ……。”


何というか、ユーリアにしてもテルミナにしても、クソダヌキにしても……一応コハルさんにしても、どうも緊張感の無いヤツばかりだな……。


……。


…………。


…………クッ、わたしもか……。


“やっと開いた。 …………これ、本型の箱だ。収納魔法が施されたロマン箱だっ!”


なんだよ、そのロマン箱って……まぁ、本を開けたら銃が入ってたとか、鍵が入ってたとか、指輪が入ってたとか……ロマンの一つや二つはあるけど。


“……ちょっと、この奥底から禍々しいぐらいの魔力を感じるわ。”


「おい、魔物が封印されてたりとかしないだろうなっ!?」


“ユーリアちゃんが入れたんなら、あたしも入れるわね。呪いとはいえこれも仮の器だし、ちょっと中見てくる。”


本ッ当に緊張感のねぇヤツらだな……。でも、相応に異常なまでの能力持ちばかりだから……いや、いくら強くてもノアに害が及ぶことはして欲しくない。


“ふわっ!! これ、もんのすごい数の魔石が奥でジャラジャラしてるっ!!”


「はぁ? ちょ、待て、単なる宝石じゃなく、確実に魔石なのかっ!?」


“あんなに濃い気なんて、凡百の魔導士でも感じ取れる。間違いなく魔石。幸いそんなに広くないからそう多くも無いけど……。”


いや、米粒大ですら暴走させたら王国一つ消し飛ぶと言われてるんだ。こいつ一匹入れる面積の数分の一でもこの星一つ消し飛ばせるには十分だ。

……とはいえ、その量をユーリアは生成してしまったわけだが。


「あくまで仮にだが、その本の中で爆発してしまった場合、その中では完結するのか?」


“こんな簡素な収納魔法じゃ、屁の突っ張りにもならないわ。月が一つ入る分入って、加えて何重もの防護魔法で壁面を覆い、更に重力魔法で内容物を覆う危険物用のストレージなら行けるかも。”


危険物用があるんだな……。確かに、これなら爆発しても重力でエネルギーを押さえつけて、抑えきれなくても防護魔法で最小限に留められるけど……一体何が入れてるのだろうか。軍用だろうけど、かつて全世界を滅ぼした核兵器なら笑えんぞ。


“……見なかったことにしましょ。”


「そもそも、なんであのクソダヌキの家にこんなものがあるんだ?」


“…………売るために置いてるのかも。”


この集落に居るいつ人に魔石を売ったって……ユーリアみたいに頭使って有効活用なんて出来るわけでもなく、間違いなく碌なことにならない。


「あいつを連れてきてガラス固化してもらおう。魔石のまま売られたんじゃ大事故に繋がる。」


“ガラス固化?”


「あぁ、お前は見てなかったけか。ユーリアの錬金術で――――」


ガンガンガンガンッ!!


「あぁ?」


“チャラついた男が慌てた素振りで何か言ってるわね。”


男は右手で上を指さし、左手で窓を叩き続ける。この窓、鍵がかかってやがるな。レバーか何か……何だか向かいの壁が薄っすら赤く……?


◇◇


あぁ、酷い目に遭った。というか、第三環境機械室のマシンハッチは開いたままだし、中には元から無かったであろう家具が雑に放り込まれてるし、外に至っては廃材を寄せ集めた家が建ってるんだが?

本当に何もかも…………これは一体誰の所為なの?


『えっ、何この生活感のあるゴミの山。気持ち悪ぅい虫湧いてそう。師匠、壊していい?』

『うん。バラバラにしていいよ。でも燃やすのは無しね。機械に引火したらマズいから。』


“このアバンギャルドな建築物は気にしないで。これでも彼等の力作だから。置いといてあげて。”


『だって。クソムシの趣味、おかしい。』


彼等って誰なんだよぉ……。


“ここは……砂漠の谷底なのでしょうか?”

“余りに植物が無さ過ぎるけど、ここは砂漠でもなんでもない人工の荒野。”

“人工の荒野……?”

“とりあえず、もう真っ暗だから立ち止まらずまっすぐ帰りましょう。コハルちゃん、照明魔法、お願い。”


「あっ、はいっ!」

『うわっ、まぶしいっ!!』


コハルちゃんの顔の辺りが凄まじく輝き、数千ワットの電球に手足胴体が付いて歩いてるみたいになってる。眩しい笑顔がビカァァ……。

表情わかんないけど。


“…………何かしら、この感じ……。”

“体の奥底がゾワゾワします。何なのでしょう……。”


魔力の強い方々は何かを感じ取ったみたいだけど、何も感じない。テルミナちゃんは立ち止まり、東の空を見つめている。


『あっちから轟音が聞こえる。』


“航空機のような音ですね。飛行場が近いのでしょうか?”

“廃墟しか無いわよ。だけど、流石はウサちゃんたちねぇ。”


たち?


『師匠、雲がうっすら赤くなってきたね。隕石だったら、最高の錬金材料だよ。』


コメットさんの言う通り、航空機のエンジンの音のようなものに加え、巨大な火球でも飛んできてるような異音もする。もしかして……。


“あら、大変。”

“…………何なんですか……?”


『…………師匠、大変。』

「そんな…………こんなことが……。」


空は真っ赤になり、そして北東の方角から炎に包まれた航空機が轟音を立て南西へと通り過ぎて行った。

…………どういうこと?


“全員、気を付けてっ!! あの航空機から何かが落ちてきた。幸いにも谷の向こうの崖上だけど、テルミナちゃん、構えてっ!!”


『オーケー、クソムシッ!!!!』


地面から作り出した大きな槍を構え、真っ白な体から凄まじい熱を発する。

コハルちゃんの光に照らされた谷の向こうの何かはよく見ると人の姿をしていた。


“あれは……アンデッドでしょうか……。”

“明らかに、あの燃える航空機から落ちてきたものよね……。”

“アンデッドは通常、個体関係なく共通して火属性に弱いはずなのですが、なぜあのような所から生きて落ちてきたのでしょうか。”

“いいえ、アンデッドだろうが何だろうが、あんなの今時自由にカスタマイズ出来るわよ。あれは……品種改良されたアンデッドってところかしら。アンデッド化の薬を投与された乗客をテロ目的で乗せたか、アンデッドそのものを運搬する際に事故を起こしたか……そもそも、この世界にまともな飛行場も動く航空機も無いわ。”


「ルピナスさまと同じ状況……飛行機ごと迷い込んだのですね……。」


……火に強いアンデッドがどれだけ乗ってるのか分からないけど、そのまま墜落したら、その異常なアンデッドがこの世界に放たれるわけで……。


“ルーナディアさま、追いかけますか?”


『……うん。でも、あっちはかなり速いし、あたしは飛べても追いつくのは無理だよ。』


“わたくしのこと、お忘れでしょうか?”


…………あっ、コメット8000、空飛ぶ箒だっ!!


“…………本当は違うのにねぇ。”

“まことに申し訳ありませんがそれは……。”


『あっ!!!! あいつ…………跳んだっ!!!!』


さっきまで四つん這いで何とか歩けていたアンデッドが、今見たらネコ科の動物みたいにシャキッとして目の前に四足で立っていた。人の姿をして、四足歩行で、グルグル唸っている。


“人型のアンデッドだと思わない方がいいのかもしれないわ。ここはユーリアちゃんとサンデ……コメットちゃんだけで先に行って。途中でルピナスちゃん居たら絶対に連れて行くのよ。”


『あっ、うっ、うん。ついでにコハルちゃんも教会まで送っていくけど、大丈夫?』


“重いでしょ。定員オーバーよ。”


身も蓋もない。


“あと、テルミナちゃんからは放さない方がいいわ。これでも騎士だしね。”


……教会だからって安全じゃないね。あのイカも変態も出たし、ゴーレムも出たし。


“…………行きますか?”


『……行こう。』

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