表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
41/42

1-14-11 それぞれの旅(11)

……なっ、なにコイツ……雑に着こなした赤黒いスーツにツンツン頭で目つきが悪くて、牙のような歯が出てて、宙に浮いてて……この人、魔物っ!?


『なにそのファッション、吸血鬼にでもなったつもりなの?』

「何を言う、我は誉れ高き魔族の、格式高き吸血族ぞ。」


”なーにが格式高きよ。血を求め無数の血吸いコウモリと化し、人々から吸血し、そして牙に付いた感染症を広めて伯爵領地一つ潰して、それで族ごと封印されたんでしょ?”


……聞いたことあるな。帝国の北の果てに隣接するディアマンド公国から更に北東、メテオリティスの北西の海岸沿いに確か、名前忘れちゃったけど漁業が盛んな小さな国が一つあったって聞いたことある。だけど、もう数百年前の話。国が存在した話も、滅んだ理由を知る人もほとんど居ない。


「フッ、フンコロガシ如きが人語を喋りおって。貴様は神獣か何かであろうか?」


”霊獣が一番近いのかもね。だけど、元から魔物に近い魔族が、より魔物臭くなったわね。堕ちるところまで堕ちたわねぇ。フフフッ。”


……何でそう煽り倒すのか。ほぼ魔物とはいえ魔族、まだ話し合いの余地があるというのに……。


「貴様、我を煽っておるのか?」


”いいや、わたしも吸血鬼の残党に血を吸われて死の淵を彷徨ったことがあるからね。人の血吸ったら歯を磨きなさいよ。血は糞よりも汚いんだからね。”


「フッ、それは済まなかったな。ところで、貴様等、厠の水を流しただろう?」

『あっ、ごめん、流したわ。』


コハルちゃんが目を瞑り頬を赤らめる。あぁ、そっち行っちゃったんだ。行っちゃったんだ……。


「御免の二文字で済まされる事態ではない。過去にも同様のことがあったが、原因はダークエルフが流した厠の水であった。」


”ダークエルフ…………ここを知っているダークエルフに思い当たるのは約一名だけど……。”


「あやつを知っておるのかっ!?」


”うん。あなたの左手に見える壁の上にあるダクトに入って、一つ目のガラリから出たとこの機械室にあの子の錬金ルームがあって、時々そこに居るわよ。あなただったら、多分、階段室に出入り口があるから、どうにでもなるんじゃない? 名前はアコニ。正確には――――”


「ぐぬぬぬぬぬ……今すぐにでも干からびるまで血を吸いつくしたい……。」


……そこまで他人の情報を流していいのか?

…………余程恨んでるか、口が軽いか……。


”なーにを、わたしの口は堅いわよ。カッチカチよ。あの子はね……強いから。こんな三下なんて血も残らないぐらい浄化してくれるわ。あっ、一応、わたしとあなただけの念話ね。”


この人にそう言わしめる程の強い人が、この世界に居るの……?

規格外にはもう慣れたけど……慣れたけどさ……。


”というわけで、情報料として、ここは許して?”


「……足りぬな。せめて清掃と消臭ぐらいはしてもらわないと困る。あと血もだ。だが、目の前には虫、謎の生物、頭に兎みたいな耳の付いた顔無し石膏人形……人間は一人だけか。それも龍の力を感じる。うむ、上物だな。」

「あの、わたくしで良ければ――――」


”コハルちゃん、避けてっ!!”


吸血鬼の男はコハルちゃんの話を完全に聞かず飛び掛かった。

……あの美しいフォルムの白い肌の下には……びっしりと詰まった鋼の肉体が……。


「フォォォォォォォォォゥッ!!!!!! この地に封印されて以来の上物だぁっ!!!!!! 我が、吾輩がもろうたぞっ!!!!! キヒヒヒヒヒッ!!!!!!」

『キモッ、急に本性を現したわねッ!! 主様はわたしが護るッ!!!!』

「キョヘェェェァァアアアッ!!!! この程度造作もないわっ!!!!」

『なっ、なにこのめっちゃくちゃ小さいコウモリッ!!?』


190ぐらいあった変態が親指サイズ大のコウモリに化けた。それも無数に。


”吸血鬼どもはね、色んなサイズのコウモリに化けられるのよ。魔力が高ければ蚊のようなサイズのコウモリにも化けられるの。だから、余計に広がったのよ。ほんの少しの隙間だってすり抜けられるからね。”


「あっ、あのっ、わっ、わたしはっ!!」

「うひょぉぉぉぉぉぉっ!!!! 血、龍族の血だぁっ!!!!」


小さなコウモリはコハルちゃんに集り、一斉に嚙みついた。


「………………。」

『………………?』


”どう? 龍族の血の味は。”


「…………いったぁぁぁぁぁあああああああああああいっ!!!!!!!!!!」


”ユーリアちゃん並みの大声を出すのね。”


あたしって、こんな耳の穴同士を貫通するような声出してるの?

……ちょっと悔い改めよう。


「なっ、何なのだ、この硬さはっ!! たっ、確かに皮膚を……傷一つ入ってないっ!?」

『少しでも傷入ってたら、全員ミキサーにぶち込んでぶん回すからね。絶対に許さないよ。』


”コハルちゃんはね、オルビスなの。あっ、言っても分からないか。ロボットなの。皮膚もだけど、その下も硬いわよ。”


「ぐぬぁぁぁっ!!!! 牙にヒビがぁっ!!!!!!」


”ヒビ程度で済んで良かったわね。今度からはトマトジュースで我慢するのよ。”


「あっ、あの、てっ、手当をっ!!」


”コハルちゃん、駄目、この人は闇の者。あなたの闇無き不完全な治癒魔法ではそれこそ焼き尽くして牙の一本残らないわよ。”


「そうなのですか……申し訳ありません。骨の接合によく効くお薬を……あっ!」


”あっ、と思っても、あれはダメよ。臭豆腐やシュールストレミングどころでないぐらいの臭いだから、死人が出るわ。”


『コハルさま、駄目です。あのエキスはあんな下賤な者に飲ませてはなりません。それよりも、わたくしにお使い下さい。今なら無敵状態の間にあの変態をミンチにして差し上げます。』

「テルミナさま、駄目ですよ。もう少し穏便になってください。まだお話の通じる方ですし……。」


話が通じそうにないんだけど……いや、コメットさんなら……あれ、そういえばどこ行ったんだろ。あの人の意見も聞きたいのに。


”……ルーナディアさま、わたくしは棒です。天井と冷蔵庫を繋ぐ、つっかえ棒です。転倒防止のつっかえ棒です。非戦闘員です。無視していただけると幸いです。”


声のする方を見ると、冷蔵庫の上に直立した白い棒、いや、コメットさんが。つっかえ棒と言うには無理があるぐらい天井に先が付いてない。


”わたくしはアンテナです。冷蔵庫を遠隔制御し、異常は無いか、庫内の温度や風量が適正であるかを監視するための装置のアンテナです。”


…………あの吸血鬼に腹いせで折られても困るのでそっとしておこう。


「血にありつけると思ったらこの有様だ。」

「あなた、コハルちゃんの血、吸おうとしたのねぇ。」


”ジーナちゃん。来るの遅いわよ。”


「だって遠いし、強いテルミナちゃんが先動いてくれてたし、あたい、疲れてるし、精神的にもキてるし。あたいって、要るの?」


”……要らないかも。瘴気だけ無駄に禍々しくて実態はこんな感じだったから。他には魔物は居ないのよね?”


「見回りは別料金よ?」


”あんたじゃなくてお前。”


「……チッ、居ねぇよ。本当は下の弟のリアージュが居るんだが、出て行っちまった。」


”リアージュ……夜にだけ見かけるあの酒場の吸血鬼はあんたの弟だったのっ!?”


……酒場……?

もしかして、教会横の集落に吸血鬼が混ざってるの?


「あぁそうだ。俺に似てないだろ? フッ、あいつは行方不明の上の弟、ヒキニーツと同じで血を欲さない妙な奴だ。」

『ヒキニーツ……引きこもりニートみたいな名前ね……。』

「フンッ、若気の至りでサキュバスの血を引いてしまった故に、あいつ等は吸血鬼では無くなったのだ。父も弟も、キモータル家の恥さらしよ。」


”……それ本当の話? いや、だって、サキュバスって……幻魔族、もしくは夢魔族のことでしょう? あの種族って超が付くほど特殊だから、絶対に交わるわけないはずなんだけど……。絶対に他の何か似た魔族との間違いよ。珍しいから自称してたんじゃない? というか、現世で交配する夢魔族なんて聞いたことないわ。”


サキュバス……物語ではよく聞く種族だけど、そんなのが現実にいたのか…………それにしても何だか濃い話になってきたような。そろそろ、いいかな?

早くここを調査したいんだけど。ここ、あたしの持ち物なんだけど。


『あっ!!』

「どうなされたのですか?」

『吸血鬼はニンニクを嫌うって話、よくパパに聞かされてたんだ。ニンニク無いから、このクサ豆腐で試しちゃおう。』


”あの、テルミナさま、お止め下さい。そのお話は匂いだけではなく、ニンニクの非常に強い殺菌効果があってのものです。それ以前に、ガラスが割れているとはいえ、ここは密室です。何度も申し上げますが、お止め下さい。”


『えーっ、そうなの?』

「ほう、そこの不自然な棒、喋るのか。しかしよく知っておるものだ。我等吸血鬼の一族は揃ってニンニクや玉ねぎを始めとしたそういうものが食べれぬのだ。」


コメットさん、棒のふりをしてたのに、喋って良かったのか?


”………………出しゃばってしまった以上は…………先ほどよりもより精細に精密に、棒のふりをさせて頂きますっ!!”


ナナフシかな?


「しかし、お主から…………忌々しい気が……………ッ!!!?」


吸血鬼はガクガクを震えだし、見える皮膚全てからだらだらと汗を垂れ流す。


「ヒッ、ヒィィィァァァァアアアッ!!!! とっ、兎族っ!!!!!!!」


トゾク?

吸血鬼は何を見たのか、慌ただしくその場から逃げ出した。


”兎族がどうしたのかしらねぇ。面白そうだから追いかけてみましょう。あなたたちはジーナちゃんと一緒に気を付けて外に出るのよ。あぁ、面白そう♪”


ローリエさんもノリノリで吸血鬼の後を追っている。あの人のことだから煽り倒して虐め倒して……どうするんだろうかな。まっ、変なヤツが逃げちゃったから良かった。


『あっ!!!!』

『師匠、どうしたのですか?』

『一階が下水まみれ…………。』

「それでしたら、わたくしが責任を持って清掃をさせて頂きます。」

『わたくしも責任を持ってっ!!!! あっ、やっぱりやめよう。コハルさまだけとは限らないし。』

「あの、もし可能でしたら手伝って頂ければ助かります。」

『はいっ!! コハルさま、わたくしも手伝いますっ!!!!』


……このガラス片も……せめて錬金術で玉にでもしておこう。危ないし。


「あの……あたいはもう帰っていい? 寝たいんだけど。クタクタなんだけど。」

『う~ん……役に立たなさそうだから行ってヨシッ!!』

「ひっど…………じゃあ、帰るね。ふわぁ~……眠た。」


酷い言い方だなぁ。でも、この異常体は……早く目の前から消えて欲しい……。

………………消えて欲しい……じゃない……こんなことしてる暇じゃない……早く元の世界に戻って、全てを止めなければならないのに…………何だか、居心地が……。


”あの人、単純な戦闘用ロボットではありませんね。魂がエルフのそれと言いますか……。”


『あの人はジーナさん。説明に時間が掛かるけど……、あの人も恋人も祖国もあのロボットに殺されたの……。』


”………………そうですか。この話はまた今度、お伺いしましょう。こちらも心構えが必要ですので。”


◇◇◇◇◇


吸血鬼は階段室に逃げ込み、息を切らす。


”あら、どうしたの? もう息切れ?”


「ひっ、ひぃぃぃぃ……ととととととととと兎族が兎族がぁっ!!!!」


”あなた達吸血鬼が唯一、兎族だけには敵わなかった、兎族は月を象徴する種族、夜の帝王を自称するお前たちのことは全てお見通し。それなのにねぇ……。”


「ひぇぁぁあああああっ!!!!!!」


”……そもそも、あの棒を見て兎族と思ったのでしょ? あれは兎族ですらないのにねぇ。”


…………いや、正確には、あの魔力の気は兎族で合っている。


兎族は古代から非常に高度な文明を持っていた。だが、独自の魔術を横取りしようとした人間に迫害され、更に、新たな月の象徴となろうとしたルナティカ人に、同じく月の象徴の狼族と共に狩られ、大きく数を減らした。

西方諸国の厳重な監視下の個体以外は、あの魔王様が統治するメテオリティスや、狼族でも特に魔力に長けて争いを好まない月狼族の国であるプリマヴェールに保護されたごく僅かな数しか残っていない。


あれは一体どこの兎族だ?


同じ兎族でも、この大陸の二国の者ならまだしも、西方諸国の個体は飼いならされ、スパイとして利用されている者の可能性もある。最悪は現役のアサシンの可能性も…………。

彼らは非常に賢く、そして非常に高度な魔力を扱う。電脳空間を自由に行き来し、様々な電子機械を己の思うがままに動かすこともできるとは言うし、そうならばあの棒のようなデバイスの中に入っているということで……。

どうにかして引っ張り出せないものか。


……誰かが上の階から降りてくるような音がする。まさか、今このタイミングでパロマちゃんが帰ってきたの?

……パロマちゃんならやれるかも。あの時間停止魔法の異常さ、本当に目を疑うわ。あのクソバトなら腹立つけど、あの子なら許せるわ。


「あっ、その辺をよく飛んでるう〇こムシじゃん。つーか、何このオッサン。アタイの実験室で何してんのさ?」


違った。この裏ぐらいにある実験室の持ち主、アコニちゃんだ。丁度いいとこに来たわ。

でも念話が出来ない。だけど近くに寄ればこの子の念話に必要なチャンネルの解析も捗るわ。


「お……オッサン……だと? 誰に向かって口を利いているのだ?」


……こっちが先か。


”こいつが第一次下水まみれ事件の原因のアコニよ。”


「なん…………だと……? お前がこの前の下水の原因かっ!?」

「えっ、アタイが一体何をしたというの? それよりも、あなたはリアージュと同じ吸血鬼?」

「おっ、弟を…………ぐっ……血が足りぬ…………罰としてお前のそのダークエルフの血を貰う。」

「えっ、マジ? この人、見た目通りに吸血鬼なの? ちょっ、ちょっと待ったっ!!」

「待たぬ。とりあえず血だ。我は疲れている。そして血に飢えている。」


大人しく一回ぐらい血を吸われてほしい。集落の人々に例の再生肉を食わせてるし。こいつ、色々と能力が気持ち悪いから危険な肉体改造をしてる可能性もあるし。


「ちょーっち待って。血ぐらいアタイの錬金術と水魔法で作ってあげるわ。」

「あぁ? 血を作るだと? フッ、妙なこと言う野郎だ。」

「丁度このシャッターの向こうがアタイの研究室だから来なよ。」


あっ、ちょっと、まだ解析が終わってないのにっ!!


◇◇◇◇◇


アコニちゃんはシャッターとその奥のドアを開ける。その先はさっきの錬金ルームだった。

……まだ大便臭い。まさかあの再生肉を追加で作ったんじゃないわよね?

…………不穏な肉がたんまり入った樽が置いてある。本当に追加で作ってやがった。


「まさか我の家にこのようなものを置くとは。とんだ不届き者だ。」


不法滞在はあんたもよ。それで、アコニちゃんはどんな魔法を見せてくれるのかな?


「血の成分があればいいのよね? じゃあ、この肉と――――」


マジで言ってるの? こいつ。


「肉は血よね?」


いや、そういうことじゃない。そういうことじゃないわ。


「我は人間の形をした生物の血しか吸わんぞ。」


……まぁ、こいつの為の血だからいいか。クソ再生肉のどのクソよりも汚い血を吸うが良いわ。


「待ってて。アタイの水魔法と錬金術を用いれば……。」


アコニちゃんはコップにクソ肉を入れ、錬金台に置く。さぁ、見せてみなさい。

あなたの渾身の作をっ!!


「この術式に水魔法の術式を混ぜて、あっ、ちょっと土魔法があった方がいいわね。」

「ほう、土魔法か。あれがあれば、壁面にヒビが入っても直せるから便利よな。」


……こいつ、土魔法も使うの?


「これで、コップに入った肉をちょちょいのちょいで…………。」

「ほう、血になったな。」


クソ肉が光り、コップの底から泉のように赤い液体が湧き出し、満たされる。見た目はまるでトマトジュースのよう。気持ち悪ッ。もうトマトジュースは飲めないわ。


「ふむ。香りも人間の血だな。それも健康な血だ。」

「飲んでみて。良かったら、アタイの常連になって欲しいわ。」


……こいつ、吸血鬼からもカネを請求する気なの?


「うぬ。では一杯…………うぬっ!?」

「どう?」

「………………いけるではないかっ!!!!」


……わたしには分かんないわ。関わらないでおこう。どちらとも。


「だがしかし、我には稼ぐ能力が無いぞ。我は父上の庇護下で吸血鬼としてやってきた。」


…………。


「あぁ、いいよ。ここはゴミ拾いでもカネになるしさ。名前教えてよ。」

「我は誇り高きキモータル家の嫡男、ヒフニートと申す。」


庇護下……被扶養…………ニート…………あ、そういうこと。

……あっ、いや、バックに父が居たとはいえ、吸血鬼やってたみたいだし、ニートじゃないわよね。寧ろイフリートから取ったと思えばいいわね。うん。

それにしても変な名前の家系ねぇ……。


「じゃあ、お金は後払いでいいからさ、また宜しくね。」

「うぬ。ではもう一杯構わぬか。」

「いいよ。待ってて。」


……こいつ、価格を提示しないけど、後で吹っ掛けるつもりか、それとも、余りに不気味だからやり過ごす体でこうなのか……。まぁ、わたしには関係無いわね。


それにしても、アコニちゃんとの念話に必要なチャンネルが分からない。ルピナスちゃんもあれだけ近くに居て中々解析出来なくて、あの事件の時、半ばごり押しで開通出来たけど、この子はどうやっても出来そうにない。


人と人の間には見えないし触れられない壁があって、それがあるから心の声なんて分からない。だが僅かに開いた穴があれば別。その小さな小さな穴が一つでもあれば、もしくは開けてしまえば声を通すことが出来る。ルピナスちゃんの場合は薄い場所に穴を開けてしまった、そういう感じ。この壁は魔力に感する耐性にも関連しているので小さい穴一つでも本当はダメなんだけど。


…………ただ、ノアちゃんは最初からそういう壁が無かったというか……ごく稀に聞く話だけど、その場合は間違いなく様々な病魔に罹患してまともな人生を送れないんだけど、寧ろ逆に元気だし……。

あと、ユーリアちゃんは多重核で、球体状の壁が中空層を伴って幾つも並ぶような構造になってたわね。穴だらけだったから楽だったけど、無かったら一列一直線にぶち抜く芸当でも出来ないと無理だったわ。本当に妙な子が多いわねぇ……。

アコニちゃんはユーリアちゃんタイプの穴無しバージョンかしら。


「旨い、旨いぞっ!!!!」

「じゃあ、アタイのしもべになりなさい。」


ドストレートに言うわね。こういう剛胆な子は好きだけど大抵短命に終わるのよね……。この子は例外かもしれないけど。


「フッ………………構わぬぞ。」


……今、テイムが完了した時の気を感じたわ。吸血族なんてプライドが高い種族がテイムされるなんて……無数の槍でも炎に包まれた飛行機でも何でも降ってくるんじゃないかしら。本当に。キモッ。こわっ。えんがちょ。えーんがちょ。


今の内に逃げ出そう。叩き潰されない内にあの子たちの下へ。


◇◇


……ぐわぁぁああああああ…………。


『この女の子三人の像、誰なの?』


1階のエントランスからカフェテリアからショップからトレーニングジムから、色んな所にめっちゃくちゃ臭い水たまりが発生してる…………。


『師匠、聞いてるぅ?』


”そっとしてあげて下さい。このような状況で心に大ダメージを受けています。”


『……あっ、本当だ。顔以外の部分が真っ白。』


”白黒なのは元からですよ。”


「どこから手を付けましょうか……とりあえず、お水を汲んできますね。」

『わたしも行くわっ!! 師匠の悩みの種、ぜーんぶ洗い流してやるっ!!』


……配管、どうなってるんだろ。本来あるべき場所に無く、本来接続されているはずの本管に接続されず、地面の中に流入して、土に吸収され切らなかった量は湧き出し、この状態……。


『どうしようもないな……。』


”逆流しなくて良かったですね……。時空魔法でも使えれば、亜空間に捨てることも出来ます。ルーナディアさまなら可能では?”


『あっ、それ。トイレから延びる配管は南北各十箇所、図面は全部頭に入ってるから、その部分に展開設置……出来るのか?』


«情報»

時空魔法のレベルが足りません。一か所であっても常設は不可能。

«以上»


余りにも無常な文言が脳内に流れる。あの空間を切り裂くような魔法は一か所が限界かぁ……。あの触手野郎の空間に盛大に流し込んでやろうと思ったのに。チッ。


「水、汲んで参りました。ですが……。」

『水、出なくなった。ごめん。』


そりゃそうだよな。給水管も切断されてるから、屋内タンクに溜まってるだけなんだし。どうせ塩素も飛んで無くなってるんだ。清掃に使ってしまおう。


『そういえば、コハルさまは洗浄魔法が使えるとお伺いしたんですけど、水、要りましたっけ?』

「…………そういえばそうでしたね。ウフフッ。あっ、う〇ちにおしっこ満載の水たまりに錬金術を掛けたらどうなるのでしょうか。気になります。」

『やってみましょうっ!!』


ちょいちょいちょいちょい、変な実験しないで欲しいんだけど?


『あの、コハルちゃ――――』

『じゃあ、あのめっちゃくちゃ臭そうな色した水溜まりで実験ですっ!!』

「やりましょうっ!!」


…………まぁ、いいか。床がどうかならなければいいわ。


”…………おっとりしてらっしゃるコハルさまのあの興奮した顔と声、本当に好きなのですね。”


『好きで済むレベルじゃないよ……。』


女神様ボディと鋼の肉体の間に変態成分がみっちり充填されてるような感じ。本当に、不思議な人だよ。


”……ところで、このお子さん三人の像は何でしょうか? 平和をモチーフにした像はショッピングモールなんかでも見ますが……。”


右てを腰に手を当て左手で天を指さす少女と、その左後ろに右手をメガネの間に指を当て右手に本を持った賢そうな縦ロールの少女、右後ろの腕組みをした凛々しい少女……それぞれ、左がシャルルちゃん、右がリリスちゃん、中央が……あたし。ちょっと似てなかったかな……。

予算オーバー気味だったからやっすい彫刻屋に頼んだけど……頼むんじゃなかった……。


”……なるほど、先ほどラップトップに保存されていた写真……なるほどなるほど、よく見れば……。しっかりと目に焼き付けておきます。しかし、今その体なのはワケアリなのです……かね?”


『それはまた今度、落ち着いたら話すよ。』


”承知しました。もう一つお伺いしたいのですが、右後ろの少女、名前はリリスでいいのですね?”


『あっ、うん。フルネームはリリス・ネーヴェルハイム。機械技師で、ハードウェアのことは全てやってもらってるんだ。』


”リリス…………人違いですか。”


『誰かを探してるの?』


”いえ、その方は先ほどのラップトップの写真にあった子ですよね?”


『そうだけど?』


”………………………似てる。”


『あの、もしだけど、教えてもらってもいい?』


”…………わたくしの……いえ、最重要行方不明者としてわたくし、コメット8000のデバイス間でも共有されている方で、アイビーという子がおりまして、見た目も目つきもそっくりでしたので。いえいえ、気にしなくても構いません。”


この世に似てる人は三人か四人か居るって話は聞いたことあるし、リリスちゃんなんかかなり可愛い系だけど案外いるのかも。


”それにしても、ルーナディアさまは非常に可愛らしい顔つきですね。これでかのような研究の世界でやっていくとは……茨の道としか思えませんが……。”


舐められるとかそういう意味だろうか。うん、舐められっ放しだよ。全身レロレロレロレロ舐めつくされてるよ。一寸先も背後も死の世界だし、あぁ、こんな世界に入るんじゃなかったよ。


”あら、あなた達は手伝わないの?”


『あっ、ローリ…………ルナクローラーさん。あの、これは……その……。』


”冗談よ。真っ白なメイドさんと世話好きなあの子に任せておけばいいわ……って、あの子たちも遊んでるわね。終わるのかしら。”


『コハルちゃんが錬金術に使いたいって。』


”…………まぁ、ユーリアちゃんじゃないから魔石なんて生成出来ないし。自由に遊ばせてあげましょ。”


魔石……そういえば、その件についてコメットさんが話を聞きたいって言ってたな。何だか……無反応だけど。


”わたくしはナナフシです。お気になさらず。”


何故…………。


”…………そこの喋る棒さん。コメット8000だったっけ。後で話があるからね。”

”…………。”


『師匠っ!! 黄金水が生成出来ましたっ!!』

『……またドストレートな名前な……。一体誰の黄金水を用いて何の黄金水が出来たの?』


«鑑定»

名称:黄金水

効能:HP小回復(最大HPの10%程度)、MP中回復(最大MPの30%程度)

«以上»


情報少なッ!!

だけど意外と悪くない効果だなぁ。絶対に使いたくないけど。


”いいわねぇ。最大MPが四桁に達するぐらいあると上級魔法を乱射出来るわよ。尊厳ってものがあるから、一部の変態さんを除いて使われないと思うけど。”


「残念ですが、匂いもしないんです…………。」


”それは朗報ね。売れるわ。全部の汚水を錬金してしまいなさい。あっ……でもこれだと再生肉を売るあの子と同じ…………いえ、あの子とは違うっ! さぁ、高値で売りさばきましょう。”


……あの子って誰? 再生肉って何?


『クソムシが生意気に命令しちゃってぇ。わたしはともかく、コハルさまにはお願いしますアンド土下座だよ?』

「了解ですっ!!」

『あっ……。』


”頑張ってね♪”


『了解ですっ!!』


……時間、かかりそうだなぁ。そういえば、あの吸血鬼はどこ行ったの?


”吸血鬼の人は面白い子にテイムされてったから心配無いわ。”


『テイムって……まさか、あいつじゃないよねっ!?』


”ルピナスちゃんは違うわ。あんまり関わりを持たない方がいい子。”


……一体誰なんだろう。あんなのテイムするってことは余程……まぁ、人のことはいいか。


”じゃあ、わたしはファストトラベル登録とワープ登録のためにこの建物を踏破してくるわ。”


『あっ、うん。でもあんまり変なとこ触らないでね。』


”大丈夫よ。ダンジョン探索もトラップなんて踏んだことないし。”


ローリエさんはシャラシャラと羽音を振りまき、天高く飛んでいった。何だか心配だなぁ。


”やっとどこかに行った……。”


『何でローリエさんを怖がるの?』


”あぁいう感じの人は苦手なんです。”


そっ、そうなんだ……。やや高圧的なとこあるけど、そんなに癖のある人じゃないけどな。

あっ、そうだ。二階にあるコントロールルームなら状況とか分かるかも。


”わたくしはルーナディアさまに付いていきますよ。”


……そうだ。コメットさんと接続できるか試してみよう。


◇◇◇◇◇


すっごく広いわね。集落の人を全員集めてもお釣りが来るわ。

流石はあの子が設計した建物ね。よく出来てるわぁ。同じような景色で、薄暗いのが気になるけど。

……そろそろ登録完了ね。この世界に於いて唯一の安全地帯、魔物を招き入れないように気を付けなければ。


あっ、忘れてた。あの子に借りた風のリングの魔力を回復してもらわないと。あの速度で飛ぶの楽しいのよ。あのためだけに魔石を解禁してもいいぐらいにね。

位置的にそう教会からは離れてないし……そういえば、あの風の魔石は誰のブツだったかしら?


フフッ、また最下層に戻らないとね。急降下っ!!


”ユーリアちゃん、居る?”


『クソムシが戻ってきた。今いいとこだから邪魔しないでよ。』

「……このう〇ちはどなたの物なのでしょうか、ほどよく熟成されたいい香りが……う~ん……香ばしいいい匂いです……♡」


……。

まぁいいわ。


”ユーリアちゃんが見えないけど、何処行ったの?”


『師匠なら……どこ行ったんだろ?』

「す~……は~…………至福です♡」


……後でいいわ。あのコメット8000も居ないし……まぁ、悪い子じゃなさそうだから問題は無いかな。


…………カフェテリアの中に何か居るわね。弱い弱い魔物の気、ゴブリンよりもバニコーンよりも弱い気……ただのスライムかしら。


”一応言っとくけど、あのガラスの向こうにスライムが居るわ。気配からしてデビル系じゃないと思うから問題ないと思うけど。”


スライムでも名前にデビルが付くスライムは似て非なる非常に凶悪な魔物で、見た瞬間に圧殺されてたり貫かれたりして非常に危険。あんなのがこの世界に湧いたら、もう人々は助からないわね。

メタルデビルやメルキーデビル、メルクリウスやゴールドデビルなどの莫大な経験値を持つものなら、狩ってあげるけど。


『あっ、本当だ。床に穴開いてるからそこから入ったのかな?』


あの子、怖いもの知らずねぇ。まぁ、大半の冒険者は単なるスライムだと思ってるし、そう思わないと駆除が進まないから別に良いんだけど。さて何のデビルだろう、ジャベリンデビルならもう串刺しだし、バスターデビルなら壁に塗り込まれてるわね。


『あー、こいつ、う〇ち食ってるっ!!!!』

「あらまぁ……。ウフフッ♡」


そりゃね、ブツを忌諱するのは人間と同じ文明を持つ者の間だけだし、動物や虫、魔物にとっては格好の栄養源。スライムなんて下水道に湧いて詰まらせるぐらいだし、そりゃそういう生物は大好きよ。


『……この見た目、この感じ、この雰囲気、嗅覚の無いわたしでもわかるこの気はもしや…………っ!!!!』


……テルミナちゃん、何かを感じ取ったわね。


『スライムの癖に生意気だぞーっ!!!!』


何を生意気に感じたのかは分からないけど、瞬時に槍を生成してスライムを突き刺した。そう、それでいいの。出くわした魔物は容赦なく狩らなければならない。そうでないと、この世界の人々は滅んでしまう。


『……こいつ、まだ動いてる。』


”ちゃんと核を壊した? 最下級のスライムは小さすぎて見えにくいけど、白い丸い粒があるから、物理攻撃でやるのなら、確実にそれを壊さないと倒せないわ。”


『そんなことクソムシなんかに言われなくても分かってるよ。あっ、う〇ちが消えたっ!!』


……急激に魔力が増加するのを感じる。あれは蛹か何かの魔物が孵化する時に似ている、爆発的な魔力の増加……。スライムに一体何が……?


『うわっ!! 下水が噴水みたいに湧き出したっ!!!!』

「おわぁっ!! なっ、何ですかっ!?」


…………あれは下水の大噴水じゃない。

あのスライムが何等かで突然変異したんだ。緑がかった茶色い液体はカフェの床一面に広がり、スライムが居た場所には大きな茶色い塊が生じていた。そして、その奥には濃い赤色に光る、不気味な模様のいびつな形をした玉が浮いている。あれはスライムの核……?

スライムの核はどんなに凶悪な種だろうが全て真珠のように綺麗な玉で、あんな禍々しい見た目はしていない。一体何がそうさせたの?

鑑定、出来るかしら?


«鑑定»

旧名称:イエロースライム

新名称:グラトニー・デビル

説明:高濃度の闇属性に穢され、再構築された最下級のスライム。下水道内でも稀に生じるが、あのようなサイズにまで成長したことには報告には無い。

ランク:G→S

保有属性:水属性(ランクG)、闇属性(ランクXS)

弱点属性:火属性、氷属性、雷属性

耐性:弱点以外のものすべて強耐性、物理攻撃無効


(中略)


«以上»


うーん……この……とんでもないスライムねぇ。もとい、デビルねぇ。ほとんどの弱点属性が塞がってるじゃないの。物理無効だなんて、とんだチートだわ。


«!警告!»

SALIGIA«鑑定レベルの不足により閲覧不能»

«以上»


ん?

今の……何? 鑑定レベル不足って――――


『やばいよやばいよっ!!!! ガラス、割れちゃうっ!!!!』

「あの、わたくしの雷魔法でよければ対応しますっ!!」


目を逸らした隙にパンパンに膨らんでカフェはコーヒー牛乳でパンパン。

滅茶苦茶臭いし、確かにコハルちゃんの雷魔法で一発蒸発だろうけど、ここで使うと大惨事ね。ついでに、テルミナちゃんの火魔法もいいけど、同じく大惨事。

一番マシなのは氷属性だけど、誰一人使い手は居ない。困ったわぁ。

せめて屋外ならねぇ……。


屋外…………どこまで大きくなるかは分からないけど、屋外まで誘導出来るかも。

時空属性も強耐性だから、ワープさせるなんて不可能だから悔しいけど、外にさえ出してしまえば、コハルちゃんの雷で瞬殺……。ヨシッ!!


『うわっ、割れたっ!!!!』

「急いで避難しましょうっ!!」


◇◇


”……あの、このコネクタが刺さってる感覚がちょっと気持ち悪いのと、わたくしの体が熱を持ってきてるのですが?”


『あとちょっと待って。カタカタ……ッターンっ!! ……駄目だなぁ、エラーが帰ってくる。今度は通信異常だって、根幹がどこかで切断されてるのかも。』


”でしたら、もう、外してもらえれば助かります。わたくしの体を用いても不可能でしたら何度やっても不可能です。”


『あぁ、ごめんごめん。でもすんごいハイスペックだね。』


”そりゃそうですとも。でも、このような使い方をする方は……数える程度ですが。”


だよね……。知ってなければやらないよ、こんなこと。


『…………あれ、何だろう、このほんのり玉ねぎのような匂いがする。』


”…………それに外が騒がしいですね。”


コントロールルームから出て細い通路を抜けてアトリウムに…………。


『えっ、何このくっさい大運河……?』


”……下水で一階が完全に水没してますね。常識的に考えても、このような下水の量は逆流してやってきたとしか思えませんし、下水にしても茶色い不透明な液体って……。”


ヤバい、昇天しそう。悪臭という意味でも精神的な意味でも。ケツの穴から魂が出そう。


『師匠っ!! 大変です、スライムが、う〇ち食った変態スライムがッッ!!!!』

「巨大化しまして、海になっちゃいましてっ!!」


”とにかく、この下水はみんな突然変異したスライムの体。”


一番落ち着いてるローリエさんの話を取るとして、突然変異したスライムって…………またあのライヤーの野郎が作り出した魔物の所為か。あんの野郎……。


”水位が上がってきています。皆さんは上へ避難しましょう。”


『師匠、コハルさま、上へ逃げましょうっ!!』


…………この忌々しい魔物を上に行かせたくない……。一体どうすれば……。

…………そうだ。例のアレ……常設しなくていいし、一瞬だけ開けばいいんだ。


”フフッ、この感じだと、いい案があるみたいね。”


『ルナクローラーさん、みんなを上に逃がしてもらってもいいでしょうか?』


”構わないわ。各所へ繋がるワープゲートを設置したとこだし、下水がこないとこまで逃がしてあげる。ちなみに、あのスライムの弱点は雷属性。あなたの十八番でしょう?”


雷属性か。ここではあんまり使いたくないけど、もし亜空間に入りきらなければ使わざるを得ないか。


”亜空間……時空属性でもこういうものは軽々しく使わない方がいいけど、この際は仕方ないわね。”


ローリエさん、何であたしが時空属性を覚えたのを知ってるの……?


”全て、お見通しよ。さぁ、早くやっちゃって頂戴っ!!”


ローリエさんと二人は消え、あたしとコメットさんが残された。

あたしはともかく、何でコメットさんも残るの?


”行きましょう。わたくしはコメット8000、皆を大空の旅へと導く魔法の箒、魔道機関は最新のDeltaシリーズのD51β型、馬力は82psで最高速は時速400キロメートルッ!!”


待って、死ぬ。400キロも出されたら死ぬ。後頭部をぶち抜いて取り残された目玉しか残らない。


”魔力変換効率は99.9999%、バランサーは最新鋭のM-Vector4000、快適な空の旅を提供いたします。さぁ、柄をしっかりとお握り下さい。”


『いっ、いや、飛べるから必要ない。』


“当然ながら、空には危険がいっぱいです。敵国の戦闘機に出くわすかもしれませんし、戦闘機なんて一口で食べてしまうドラゴンに出くわすかもしれません。”


あっ、ヤバい。早くしないと下水がもう二階に入って来ちゃうっ!!!!


“なのでわたくしには強力な迎撃システムを備えます。お乗りにならないのであれば、ただいまからスライムを標的としたデモンストレーションを行います。しっかりと見ていて下さい。”


『コメットさんっ!!?』


横になり、一人勝手に飛び出す。アトリウムの上に行くと、下水からは触手のようなものが幾つか飛び出し、コメットさんをはじき落そうとする。

……触手のある魔物、多いなぁ……。


“当たりませんよ。喰らいなさい。”


触手を躱し、水面から放たれる水弾を躱し、棒の先に青緑色魔法陣のようなものが描かれる。


“弱点は火属性と雷属性と氷属性でしたよね? では、わたくしの氷魔法を食らいなさいっ!!”


棒の先からはめちゃくちゃ大きな氷柱が生成され、触手に向かって発射された。突き刺さった部分はたちまち凍り付き、触手はボロボロに崩れ去った。


“どうです。風魔法で二酸化炭素を発生、圧縮し、氷属性に乗せて発射しました。如何ですか? もう一発…………必要なようですね。”


……待って、密室でドライアイスなんて使わないでよ。


“小細工無しで一斉に凍らせましょう。喰らいなさい、兎族の魔力に乗せて全てを、夜空の下、全ての穢れた魔物を凍らせますっ!!”


やばい、寒い、めっちゃくちゃ寒いっ!!!! 大運河めっちゃくちゃに凍ってるっ!!!!

ってか、こんなめっちゃくちゃな魔力が西洋のデバイスには搭載されてんのっ!?


“これで手も足も出せないでしょう。ここに居るのはわたくしだけではありません。風属性と氷属性は相性抜群なのですが敢えて載せませんでした。主役はわたくしではありませんからね。ですが、凍った状態では対処が困難でしょう。奥の手ですっ!!”


……何をするの…………っ!!!!?


“わたくしの雷魔法で砕いてみせますっ!!!!”


凄まじい閃光と轟音と共に刺激臭を伴う空気が舞う。ちょっと待って、雷魔法っ!!!!


“ほら、美味しいですか? もう上げる触手もないのですか? もう一発要ります?”


『待って待って待ってぇっ!!!! 雷魔法を使わないでっ!!!! 色々と壊れるっ!!!!!』


“…………あっ………………やってしまいました……。”


『やってしまいましたじゃねーってのっ!!!!!!』


こいつも対外、テルミナちゃんと同じで一度ノったら止まらない戦闘狂だわ……。つーか、人を運ぶデバイスが戦闘狂って、どういうことなの?


“ビーッ、ビーッ、ビーッ エマージェンシー、エマージェンシー、レベル5以上の魔力を検知。建物内で戦闘が発生。厳戒態勢に入ります。”


『ヤバい、これはヤバいぞっ!!』


“何だか……危険な香りがしますね。”


建物内は赤い照明に照らされ、不気味な警報音が響く。こうなってしまったら、このアトリウム内の全てのシャッターが閉止して誰も外に出られなくなる。解除はさっきのコントロールルームにある装置か、ラボにある装置から遠隔操作するしかない。

この雷でシステムが壊れてなければいいんだけど……。


“下水スライムが……縮んでいきます。”


一応、さっきので倒したのか。ハハハッ、これ以上被害が広がらないことを考えたらまぁ……。


“はー……この棒きれ、要らんことしてくれたわねぇ。”


『師匠、すっごい雷が落ちたんだけど、あれは師匠がやったの?』


“いいえ。ユーリアちゃんじゃない。この子なら弁えてるから、こんなことはしないわ。ところで、コメット8000、後で追加で話があるわ。”

“……………重々承知しております……。”


「あの……凄まじく禍々しい気が下から。」

『うわっ、まだコアと薄いスライムが残ってるっ!!』


見るも無残な状態になった一階をのぞき込むと、巨大なコアに薄っすらと茶色い液体が付着しただけのスライムが辛うじて生き残っていた。凄まじい紫色のガスのようなものを漂わせながら、それは宙に浮いた。


“浮遊までするの。あんな状態になったら、もう何も出来ないと思うけど、もしかして、残った闇属性を凝縮させて、わたしたちの前で?”


『何があってもコハルさまと師匠は護りますっ!!!!』


“いいえ、多分、自爆……大爆発すると思うから、思いっきり逃げた方がいいわね。”


ちょっ、大爆発されたら何もかも崩れ落ちちゃうっ!!!!


“…………氷魔法が弱点でしたね。最後もわたくしが締めさせて頂きます。”


スライムのコアがまき散らした黒い弾はガラスというガラスを割り、着弾した場所から鼻の奥を突くようなキツい刺激臭を放つ。


「きゃっ!!」

『コハルさまっ!? このぉ、こんのう〇こスライムッ!!!! もうぷっつーんと来た。ぷっつーん。燃やしてやるぞーっ!!!!』

『ちょっ、テルミナちゃんっ!?』


“こんな雑なばら撒き、当たりませんよっ!! 食らいなさい、兎族の氷属性と雷のサンディ必殺の雷属性の競演をっ!!!!”


『ちょっ!! ちょっと待ってっ!!!! 何で雷属性を追加するのっ!!!?』

『喰らえっ!!!! テルミナちゃん特製のスーパーヒートバスターッ!!!!』


“フフンッ、見事なトライアタックね。あぁ、怖い怖い。戦闘マニア二人揃うと手が付けられないわね。”


三属性が合わさり大爆発。凄まじい爆風でほぼ全てのガラスが割れたのか、上階からガラスの雨が降り注ぐ。


『コハルちゃん、大丈夫っ!!?』

「いえ、わたくしの体は頑丈ですのでどうともありません。しかし建物が滅茶苦茶に……。」

『……もう、諦めたよ。』


どーせ、こうなる運命だもん。あたしへの罰の一つとして受け止めるわ……。


“ガラスが割れたのと若干の崩落以外に被害が無いのはいいけど、これじゃ集落の受け入れには使えないわね。”


『師匠、やりましたよっ!! コアも見事に粉々ですっ!!!!』


“ルーナディアさまっ!! 倒しましたっ!!”


……もう彼等には言う事もない。いや、


人の言う事を聞いてくれ……。



・2026.03.01 一部設定変更のため修正。(サキュバスのあたり)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ