1-14-9 それぞれの旅(9)
う~ん…………あなたねぇ……執務が大変なのは分かるけどねぇ……少しはあの子の面倒を…………?
…………。
……いけない、久々にあいつの夢を見てしまった。
この体にされてもうどのぐらい経ったかしら。もう、戻れないところまで行ってしまってるのかもね……。
…………あら?
あの子たち、ユーリアちゃんたちの声が聞こえる。近い所に居るのね。
ユーリアちゃんとコハルちゃんとテルミナちゃん……あら、もう一人居るわね。
……兎族の……ような独特の気配。また新たに仲間が増えたのかしら。
でも何だろう、素直に受け入れられるような感じがしない……。寧ろ嫌な予感がする。杞憂であって欲しいけど……今すぐに気配の位置を掴んで接触しなきゃ。
…………ここから西へ250メートル程、位置はやや上方向。ここは集落の東にある谷の中腹、位置的に教会の地下ぐらいかしら。
でも、気配が少しずつ下へ降りてきている。テルミナちゃんはもっと下に、この位置と同じぐらいの場所に居る。あの教会にこれ以上深い場所なんてあったかしら?
…………あの子の研究所が地面に埋まってたって言ってたわよね。ここも、もしかして何等かの巨大な地下施設の一部なのかもね。瞬間移動は出来ても目の前の壁は超えられない。この機械室の奥へ繋がる大扉を乗り越えるには……あら、良い感じの抜け道があるじゃない。あのダクトを入っちゃおう。
あぁ、便利な体ねぇ。ガラリの隙間だって通れるし、ダンパーがあっても開いていたら通れちゃうし。ファンがブンブン回ってたら……多分肉片だけど。あら、ゴキブリンの足が落ちてる。不潔ねぇ。
ふふん♪ この映画みたいなこと、一度やってみたかったのよ。あぁ、楽しい。
開口部発見。この体だとのぞき込むのは大変だから一旦降りてみましょう。
………………?
………………また物凄いものが地下に……。
アトリウムというのかしら、ショッピングモールのような大きな吹き抜けとその周りの広い通路、左右にガラス張りの部屋がいくつかあるけど、ショッピングモールにしては飾り物が無さ過ぎるし、企業本社か何かかしら。
不気味なぐらい静かだけど、魔物はどこだって潜んでいる。細心の注意を払って探索しなきゃ。
『やったっ!! ここ開いてるわっ!!』
対岸からテルミナちゃんらしき声が聞こえる。あの子もユーリアちゃんもよく通る声ねぇ。羨ましいわ。それよりも、こういう所は大声を出しては――――
……下方から禍々しい気が上がってくる。声に反応して潜んでいた魔物が動き出したかっ!!
何の障壁も無いここからなら、多少無理すれば連続瞬間移動で直ぐにでも到達できる。多少寿命が縮んででも、あの子たちに気を付けるよう言いに行かなきゃ。
だけど…………今日はこれ以上無理をすると体がもたないかも……。
「なっ、何だここは……?」
あら、近くの出入り口からあの子が……丁度いいわ。あの異常なまでの時空魔法の使い手、この子の手を借りましょう。それなら、伝えに行かなくても先手を打てる。
「げっ、クソムシ……何でこんなとこに居やがるっ?」
“居て悪いかしら? それよりも少し手を貸して頂けるかしら。”
◇◇◇
「あの……やってみます。」
「出来るだけ壊さずに開けてくれよ。もし魔物か何かが出てきて、閉められないんじゃ危険だからな。」
とはいえ、あの馬鹿力じゃ、少なくともドアノブは無事じゃ済まないわな。アタシたちで開けられないんなら、間違いなく施錠されている。中開けてヤバかったら岩壁を崩して埋めるかどうかしなければならない。
「…………っ!! 開きました。」
「開いたって……ドアノブが上がってるし……。しかも壊れてないし……。」
「鍵は、開いていたようです。」
即ち、中でガッチガチに固着していて、非力なアタシたちでは開かなかったと。バルバールや、元騎士のリチャード、元ヘビー級ファイターのヘンドリックの筋肉をもってしても開かなかったのに……。
「やったぜ姐さんっ!!!!」
「やるな、お嬢っ!!!!」
あの鉄骨粉砕にしても本当に、本当にこいつ、何なんだ?
マジでこれ、本当に獣人ってだけじゃないだろ。
「あの、開けましょうか?」
「あっ、あぁ、頼む。」
開かずの扉と思っていたものが、いとも簡単に開かれた。中は洞窟ではなく、人工物の……機械室かここは。幾つか並んでる銀色の鉄の大きな……ダクトが付いてるからか空調機か?
「これは、恐らく空調機です。非常に大型の……。」
そこから出たダクトは奥の壁に差さっている。その奥にまだ何かがあるのだろうけど一台が軽く一戸建てぐらいありそうな空調機が何台もある感じは、相当に広大な空間があるんだろうな。何の地下施設だよ一体……。
「うっひょーっ!! そとのオンボロハウスよりも居心地いいじゃねーかっ!!」
「バネ出てるけど、良い感じのソファーもありますぜ。」
「マジか、このタバコ、まだ中身入ってやがる。」
「おいこら、そのタバコを寄越せ。」
「これ、ゴミ置き場のつもりか? こいつ、綺麗だぞ。まだ使えんじゃねーのか?」
「このベッド、よく跳ねやがる。おもしれ―っ!!」
…………。
「おいこらっ!!!! あんたたち、勝手に部屋のモン触んじゃねぇっ!! アイビーのいう事をよく聞くんだよっ!!!!」
「へっ、へい、お頭。こら、お前たちっ!! お頭とお嬢のいう事を聞けっ!!!!」
「イエスッ、マムッ!!!!」
ったく、コイツ等は面白いもの見つけたら直ぐ手出しやがる。あんまり下手に手だして、ヤバいもん触れたら大変だ。
「……いえす、まむ??」
「あぁ、イエス・サーの女バージョンだ。お前は力を見せつけ、コイツ等は服従した。これからよろしく頼むぞ。」
「あっ、えっ…………はっ、いっ……いっ、イエス、マムッ!!」
「あっ、いや……アタシには使わなくていい。はい、の二文字でいい。」
「はっ、はいっ!!」
アイビーはその力だけでなく、よく物を知っている。だから、安全かどうか調べさせてから、それから整理させて部屋として使おう。
「アイビー、あいつ等が触る前にお前が安全かどうか調べてくれないか?」
「あっ、あの、具体的にどうすれば……?」
「まっ、まぁ、無いとは思うが爆弾とか銃火器とか毒物とか危ないものが落ちてないかとか……かな。機械の類は危険だから奥のゴミが捨てられてる部分を部屋にしたいんだが、その辺を重点的に頼む。」
「わっ、分かりました。」
「お前が興味を持ったものは弄っても構わないが、変なものは触らないようにな。警報とか鳴ってヤバいのが出てきたら洒落にならん。」
「分かりました。」
「あと、食べられそうな食料があったら確保してくれ。あいつ等の世話も頼む。」
「あの、何処へ行かれるんですか?」
ついさっき見つけた誘導灯が付いたドアを指さす。
「探索に行く。あいつ等が居ると余計なこと仕出かすかもしれんから置いていく。」
「あっ、あの、お気をつけくださいね。」
「あぁ、分かってる。」
あいつ等が騒いでる内に行こう。というか、このドア、開くのか?
やや不安になりながらもノブに手をかけると何の抵抗もなく下がり、押せばすんなり開いた。
……ここは階段室か?
踊り場なのか上方向にも下方向にも行けるが、正面にはシャッターが下りた出入口がついている。横のシャッターの操作盤らしきものには厳戒態勢につき閉鎖中と書かれた赤い表示が出ている。開きそうにないな。それなら上か下かか。とりあえず一階層降りてみるか。
二階層分ほど降りて再び出入口。今度はシャッターは閉まっていなかった。操作盤には同様の文字が出ているから動作不良だろうか。とにかく、中を覗いてみよう。
「………………なっ、何だここは……?」
目の前に広がる、ショッピングモールのような広大な空間。なんつーものが地下にありやがるんだ?
……何だか聞き覚えのある不思議な音がする。
「げっ、クソムシ……何でこんなとこに居やがるっ?」
音のする方を見ると、クソムシが羽を広げてホバリングしていた。何で閉鎖された空間に居やがるんだ?
まさか、他にも出入り口があるのか?
“居て悪いかしら? それよりも少し手を貸して頂けるかしら。”
……待て、嫌な予感がする。
“嫌な予感がするのはこっちも同じ。ほら、底を見なさい。”
「毎度毎度、人の心の声を勝手に読むんじゃねぇよ……。」
“聞こえるんだから仕方ないじゃない。ほら、底の方に禍々しい気が。”
……魔物が居るんじゃないだろうな? 居たら、急いで戻ってあいつ等を外に放り出して閉めなおさないと。
“戻る暇は……あるかしらね。”
◇◇
この階段、この意匠、見覚えが……。
『やったっ!! ここ開いてるわっ!!』
一階層ほど下からテルミナちゃんの声がする。頼むから大声出さないようにしてほしい。何が潜んでるか分からないし。
『すっごーい、なにこれ……。王城の吹き抜けが鼻くそに見えるぐらいヤバい。』
“大きな企業のオフィスでしょうか。アネモエンターテイメント社の本社ビルには到底敵いませんが、ここもスマートで素晴らしい意匠です。”
『テルミナちゃん、あんまり大声は――――』
ちょっと待って。この広大なアトリウム、左右のガラス張りのオフィスやブース、見覚えがあるどころかこれ――――
『待って、ちょっと待って、ここ、あたしのラボの福利厚生施設……マジ、マジ、マジで?』
“…………素晴らしい意匠です。アネモエンターテイメント社の本社ビルなんか立派な鼻くそですねっ!!”
『これ、師匠のお城なの? すっごーい、女王様じゃん。改めて忠誠を誓います、女王様。』
『い、いや、いつもの呼び名でいいけど、ってか女王様じゃないし。』
あんまり大声は出せないけど、お腹の中で絶叫が大暴れして爆発しそう。あぁ、声に出したい、出したい、出したい…………。
「よいしょっと……やっと追いつきました。あら、あらら、良い眺めですねぇ……。」
『師匠っ!! ここ開いてますっ!!』
『あっ、そんな大声出さないの。あと防犯装置が作動するかもしれないから勝手に開けないでっ!!』
“騒がしい方々です。それにしても、ここはルーナディアさまの持ち物でしたか……。後でゆっくりとお話を聞かなけれななりません。魔石の件も。”
◇◇◇◇◇
あの子たち、動き始めたわね。もう禍々しい気配に動きは無いけど、睨んでないと急に底から飛び出して来たら対処できない。あの子たちの傍に行きたいけど、ここで監視してないと危ないかも。
「それで、アタシに底の様子を見てこいってか?」
“いや、もう構わない。だけど、気付かれた以上はいつ飛び出してくるかは分からないわ。だから、少しの間、わたしとここに居てほしいの。”
「……チッ、厄介な所に足を踏み込んじまったな。十分も居ないぞ。ある程度したら戻るからな。」
“構わないわ。だけど、離れるなら言ってね。対岸に居る子に警戒させるから。”
「向こうに誰か居るのか?」
“えぇ。三人と、見知らぬ子が一人ね。”
◇◇
“ところで、最近のオフィスビルはもっと豪勢といいますか、ここは全体的に灰色っぽくて色味が少ないように感じます。”
『あっ、それなんだけど、吹き抜けの天井は空を模した立体モニターで、昼は青空、夜は星空、他にも空調や音響と連動して色々と天候を再現できるんだ。』
“そうなのですか。よく、考えられて作られてるのですね。”
雨や雪は降らせられないけど、概ね好評だった。
流石にこの状況だと止まってるなぁ……動かしてみたいけど、動くのかなぁ……。
それにしても、見た感じ、ラボのように斜めになってないみたいだし、このまま改良すれば人々が住めるようになるかも。ここ以外はどうなってるのか分からないけど。
さっきの通り、吹き抜けの縁に広い通路があり、その途中で階段やエレベーターで上階や下階へ接続されている。その通路沿いにはいくつものオフィスやスペースがあって、思うがままに情報機器を置いて自由な体勢で事務作業や会議が出来るようになっている。食事も自由で、昼寝も自由。我ながらよくここまで整えたもんだよ。
もう、何もかも全部、土の中だけどねッ!!!!
……はぁぁぁ…………。
“……溜息をついてどうしたのですか?”
『あっ、いや、何でもないよ。気にしないで。』
……一応、状況確認をしとこうか。
アトリウムを左回りに巡って最初の扉。通路沿いのガラスは一切割れていない。少々埃っぽいけど、虫も一切発生していないし状態がいい。そのまま使えるかも。
そういえば、あたし管轄の建物なのにこのブースには入ったことなかったな。
『散らかってるわね。』
……確かに散らかってるね。誰だよ、食うだけ食ってゴミを放置した奴は。
『散らかってるだけで、何も無いね。』
『何も無いね……。』
「誰も居ませんね。」
『居たら怖いね……。』
そういえば、ここに飛ばされる時って、中にいた研究員や職員はどうしたんだろう。まさかとは思うけど、中にいるのにそのまま飛ばされて、それからずっとここに閉じ込められてるってことは無いよね。絶対に無いよね?
『よしっ、隣ッ!! 師匠、隣の部屋に行くよっ!!』
アトリウムに戻って直ぐ隣の部屋。この部屋は少し乱雑で本が縦積みになったり幾つかの情報機器がほったらかしにされていた。
『こんなところに魔導書が落ちてる。』
“これは魔導書ではありません。似て非なる科学技術の本です。”
「難しい本ですね……難解な数式に英数字の羅列に……これを理解できるユーリアさまたちは凄いです。」
実はいうと、よく使うもの以外全然覚えてない。あたしたちは雰囲気でやっている。
それで、このノートパソコンは一体誰のかなぁ? 所長権限で見ちゃおう。こんなところにほったらかしにするなど許せん。情報が洩れたらどうケジメつけるんじゃ、どついたるぞ、えぇっ!?
“ラップトップPCが残されてますね。誰のでしょう?”
『うん、ちょっと調べてみる。』
さて、パソコンをパカァ、電源をオーンッ!!
…………おっと、安定の無反応っ!! ウルトラスーパーハイスペックノートパソコンにありがちな、バッテリー切れかっ!?
おおっと、何処のご家庭にもある、ECセルを四つ使う超大容量の電源装置が偶然にもこの部屋に転がってるじゃないか。それを空になっている充電式の電池が搭載された情報機器に接続ゥゥ!! そして電源をイーンッ!!
“インじゃありません、オンです。”
ぬおおーっとっ!! まず電源をブッ込んで最初のパスワードが設定されていない、生体認証も設定されてないしサインインに使うIDと同じ文字をパスワード欄に試しに打ってみたらそのままデスクットップ画面に直ッ行ッ便ッッ!!
“あの、ルーナディアさま、なぜそんなに興奮なさるのですか?”
『師匠、何やってるんですか? わたしにも見せてください。』
なんとなんと、あたしの研究室のマル秘極秘社外秘な情報がびっしりだッ!!
そー・れー・もー、卑猥な女体の写真がババーンと貼られたデスクトップ上にっ!!
『うわーっ、裸の写真が出てきたぁっ!! エッチなのはいけないと思いますっ!!!!』
「あらあらあらあら……ウフフフッ♡」
“教育に悪いですね……。下賤な輩が使っていたのですね、碌でもないで…………あっ!! ……いえ、なんでもありません。”
フゥーッフーッ情報漏れ漏れ帝王ブチギレ帝国ぶっ飛び領民血祭り天神様へ大昇天ッッッ!!!! シェケナッ!!!!
ヨーッヨーッ!!
フッフーッ!!
ふぅ……………誰だよ、旋盤に取り付けてブン回してやんぞッッ!!! 刃でグリグリゾリゾリしてコケシにすんぞチクショーッッッッッッ!!!!!!!
「あのー、触手をくねくねとさせて陽気に踊ったり急に床を叩いたり……どうかされましたか?」
『今の踊り、面白いからもう一回やってっ!!』
『……ちょっと部下への教育が足りなかったから、嘆いてるんだよ。帝国の技術が少しでも外部に漏れでもしたら皇帝陛下が大爆発して領民が消し飛んじゃう……。』
まっ、あたしが忍んでこの体に入って思いっきり外部で行動してるし、研究室だって福利厚生施設だってこのザマなんだから今更よねッ!!!!
でもちょうど良かった。ここに使える端末があるんだ。電源のECセルだって残量はまだまだあるし、この館内にアクセスして生きてる防犯装置を手中に収めてこうなった顛末を調べましょ。
…………本当に、みんなどこへ消えたの……?
『師匠、そのエッチなマシン、ぶっ壊しちゃいましょう。』
“駄目です。ルーナディアさまの大切な情報機器なんですから。”
『ぬあーっ!!!! これ、師匠のマシンなのっ!!!?』
なんだか思いっきり誤解されてるが……まぁいいか。
さて、まずその壁とこの機器をペアリングして……よし、生きてる。それで数千年間配列が変わらない伝統的なQWERTY配列のキーボードをポチポチポチポチーっと…………
っと……………?
………………えっ、嘘?
…………一旦全消しして…………。
………………。
「あっ、あのー……さっきから手を左から右に何度も擦ってますが……。」
“PCを取り扱う上での儀式です。お気になさらずに。”
…………この手、先っぽが丸く窄んでるだけで指がある訳でないし、超やりにくい。くぁwせdrftgyふじこlpだって出来やしないじゃないの、この無能触手め。この無能触手めッ!! ふじこちゃんに謝れッッッ!!!!
『ふじこちゃんに謝れぇっ!!!!!!』
「どっ、どうされたのですか?」『うわぁ、びっくりした。ふじこちゃんって誰? あ゛ーっ!!!! 師匠のオンナなのね、そうなのでしょっ!!!? ……この手で叩き潰す……。』
『ふじこちゃんっ!!!!!! ふーじこちゃーんっ!!!!!!!!』
『ふじこちゃん許すまじっ!!!! ぼっこぼこにしてやんよっ!!!!』
“二人揃って大声を出さないでください。ここは今や未知のダンジョンなのですからね。”
『あっ、ごめん。あたしの手があまりにも不器用だったから、ちょっと……ね。』
油断したらお腹に溜まりに溜まった絶叫が出てしまう。気合を入れて封じないと。
『はぁ~…………封ッ印ッ!!!!』
『封ッ印ッ!!!!』
「ウフフフッ、見ていて飽きませんね。」
“賑やかな方々です。”
…………よし。
さて続きを、この端末をポチポチポチポチ…………
ポチポチポチポチポチポチポチポチ…………
ポチポチポチポチポチポチポチポチ…………
ポチポチポチポチポチポチポチポチ…………
ポチポチポチポチポチポチポチポチ…………ッターン!!
あぁ、ッターン!!!!!! だけは出来る。特に今回はやり遂げた感が満載だ。最ッ高ッ!!!!
「ウフフッ、ユーリアさまはリアクションが豊富で、元気を与えてくれます。」
『…………そんなにじろじろ見ないでよ。』
リアクションについては自覚している。ハードウェア担当のリリスにはよく突っ込まれるし。でも、元気を与えてくれるか……何だか恥ずかしいけど、嬉しい。
“ところで、これは何をしている途中なのですか?”
『館内のサーバーにアクセスするんだ。様々な設備を管理してるサーバーで、それに繋がってる防犯装置ならこうなった顛末が記録されてるかなって。』
端末の画面に戻る。文字列端の棒のような物体がクルクルと回り、同時に現在の状態をパーセンテージで表示している。数値は順調に上がって行き、63パーセントになった所で上昇しなくなった。そこから数分放置すると棒のような物体も動きが硬くなり、そして回らなくなった。
“この感じ、フリーズしてますね。”
『畜生、固着しやがったか。』
“……この場合は恐らく固着ではなく膠着です。”
『うーん、だけど、まだ防犯装置のリスト化と各々の装置の状態を見る程度で、全然防犯装置のハックを開始する段階でもないし、この程度で?』
更に数分放置するとコマンド入力画面が落ちて、エラー内容を記載したダイアログ画面がペンッという音と共に表示された。
Fatal Error!!!!:Address 0x0000000af0
”致命的なエラーと出ていますが、何のエラーでしょうか?”
…………これは……アフォエラーで有名な、全体的にクソ過ぎたら出るエラーだ。恐らくメモリ不足とかCPU雑魚過ぎだとか本体過熱とかその辺。即ち、低スぺの極み。
おうおうおうおう、マジか。うぉーい、こらぁ、この野郎、マジかぁ。そんなに低スぺじゃねぇだろーが、メモリも民間用のハイエンドなんか目じゃないぐらい積んでるだろーが。あぁん? あぁーん?
…………そういえばあたしを含むラボのトップ数人は潤沢な設備が整っていて、いいマシンを使ってるけど、あたしの部下までは気にしてなかったな。えっと、細々とした物品や雑費は、帝国の中枢から出向してきてる財務管理部の連中が管理しているはずだけど…………。
…………。
ちょっと、タスク割り込みで、スペックを……ぐっ…………最優先で動作するはずが、これも重い…………。あたしの研究室だと最低でもアッパーミドルのInterのThundie Generator v9か、ADDのBlitz Road R3000もしくはハイエンドのLightning………
…………あっ、出た。えーっと………………
アッ、まさかのクソスぺ♡
クソ、ゴミ、うー〇ち、排泄物♡
全部あたしの監督責任だわ。結果出せないあたしが悪いのっ!!!!!!!!
『師匠っ!! 不埒なマシンは、もっと強く叩いて破壊しましょうっ!!』
「あっ、あの、ユーリアさま、おっ、落ち着いて下さいっ!」
“ルーナディアさま、乱暴はおやめください。壊れます。”
無意識にキーボードを手でガンガン叩いてしまった。キートップが幾つか外れて転がっている。
『ごめん、あたしの悪い癖だよ……。』
キートップを拾い、元あった場所に埋め込んだ。はぁ、壊れてなくてよかった。
それで、一旦強制終了させて、目に悪い卑猥な壁紙を当たり障りのない壁紙に変更して…………何だこの写真?
壁紙一覧の写真に他にも写真があって、その中に見覚えのある黒髪おかっぱでやや目つきの悪い女の子が映っている。
見覚えがあるどころかこいつリリスじゃないの。他にもシャルルの写真とか、案の定あたしの写真とか…………
“……………………えっ!?”
「可愛らしい女の子ばかりですねっ!! それにその黒髪の子、顔とか目つきとかとてもルピナスさまに似ています。まるで姉妹みたいですね…………。」
『あっ、あいつにっ!?』
あー…………でも似てる気がするなぁ。髪の色とか髪型とか瞳の色変えたら、もうね……そっくりかも。いや、あいつの方がまだ静かだな。
“………………いえ、違いますね。絶対にありえません。”
『……何が?』
“いえ、知人に似ていたもので。人違いです。お気になさらず。”
しかし、うーん…………これらの写真は全て撮られた記憶が無いんだけどなぁ。
もしかすると…………盗撮っ!?
…………キーボードクラッシャーを引き起こしかねない程の怒りが満ち溢れてくるけど、ぐっと堪える。まだ必要な情報を掘らなければならない。掘って掘って、掘り返して金鉱脈を見つけなければならないっ!!
ずっとずっと下へ下へと下がって行くと、小さいながらもスタイルが良かったシャルルちゃんの着替えの写真になり、そしてどう撮ったのかスカートの中の写真になり……そして服の色とパンツの模様からしてあたしのものであろうスカートの中が撮影された写真が一枚、二枚、三枚…………。
『いっけーっ!! 破壊しちゃえっ!!!!』
“乱暴は駄目ですっ!!”
気付けば端末を長い腕でグルグル巻きにしてまさに地面に叩きつけようとしていた。我に返り、そっと机の上に置き、腕を解いた。冷静になろう。物に当たるのはよくない。冷静に、冷静に……………………ぷっちーん。
この盗撮野郎、見つけたら溶鉱炉に沈めてやるからな、親指立てて待ってろっ!!!!
それに、何であたしの着替えの写真が無いんじゃぁぁあああああああっっ!!!!!! 寸胴だからか、寸胴だからかぁぁあああああああっっっっっっ!!!!!!!!!!!?
「えーっと、ところで、この機械はどうやって使うのでしょう? ……あっ、動きました。たくさんのお写真がありますね。」
『うぉわっ!!!? 見ちゃ駄目っ!!!!』
コハルちゃんから強奪するように端末を取り上げ、高速でスクロールさせ、当たり障りのない風景写真を選び、設定をポチッと押す。風景写真も撮影したのだろうか、見たことのない荘厳な山々と、その頂上に立つ尖ったような屋根が特徴の大きな黒い城とその周辺の、如何にも魔女が住んでそうな見た目の城下町が映った写真だった。何処だろう、ここ。
“……………………………。あっ、ぜっ、絶景ですね。”
「…………メテオリティス城……。」
『コハルちゃん……?』『コハルちゃん、どうしたの?』
…………?
「ほぇっ? わっ、わたし、何かおっしゃりましたか?」
『あっ、いや、これをメテオリティス城だって。』
「ほぇ…………そうなのですか?」
……もしかして、一瞬だけイルミーネスさんに戻ったのか?
それにしてもメテオリティス城か。あそこは禁足地に指定されてるから見たことないんだよな。魔族の地だけど……何だか引き込まれるような美しさだな……。行ってみたいかも。
「あっ。」
『コハルちゃん、どうしたの?』
「あの、ちょっと……おトイレに行きたいと思いまして……。」
『師匠っ!!!! わたしが付き添いで参りますっ!!!!』
『……嫌な予感しかしないから全員で行こう。全員女だし。』
『師匠っ!!!? 嫌な予感って何なんですかっ!!? どういうことですかっ!!!?』
“大声を出さないでください。自らのレベルを遥かに上回る魔物が居た場合、大変なことになりますよ。”
声からしてコメットさんも設定は女性……なんだろうか?
◇◇◇◇◇
ったく、あの子たちはのんびり冒険なんてしている暇なんて無いのになぁ。あんな大声を何度も出して……。この子に任せて一瞬だけ注意しに行こうかしら。
「おい、いつまで吹き抜けの底を睨んでりゃいいんだ? もう三十分ぐらい経ってんじゃねーか。」
“もう暫くお願い。”
「ちっ、あいつ等が誰だか知らねぇが、あんなキンキン声で叫ばれても動きすらしないんだから放置していいだろ?」
……もしかして、敵意のある魔物じゃない……もしくは、強者にありがちな余裕?
いずれにしても、いずれの魔物でも生物でもない、全くの未知の気配だから気持ちが悪い。
「おい、クソムシ。アタシはもう戻るぞ。上にアイビーと子分たちを残してるんだ。」
“……そう。でも、その感じだと調査に来たんでしょ?”
「そうだが、こんな状況じゃ碌に物資も探せない。また今度、時間に余裕が出来てからだな。んじゃ、帰る。」
あの子はスタスタと歩いて階段室へ入っていった。
…………まぁ、そうよね。あの子は、あの谷の山賊集団を抱えるお頭だもんね。急に現れた時は集落の人々のケツに火を点けるためのカンフル剤になるかと思ったけど、それは一人の荒くれだけで、後はみーんな彼女がまとめ上げて大人しくさせてるし……本当によくやってるわ。
…………それにしても、あの子は何処から入ってきたのかしら。
いや、もしかして、あの大扉が開いたの? どうして?
……何だか嫌な予感もするわ。何かこう、凄まじい怒りの塊が近づいてきているような…………。もうウン十年も生きてきての勘だけど、何だか…………でも、見張りを、底に居る魔物の気配が…………
…………見張りそっちのけで見に行かないと後悔するような…………。




