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1-14-8 それぞれの旅(8)

やーっとここまで戻ってこれたわ。あんのクソバトの所為かしらね、この工場一帯のファストトラベル情報を全消しされたわ。


困ったわね。せっかくユーリアちゃんから風属性のリングを貰ったのに、調子に乗って集落の上空をハエみたいに長時間飛び回っちゃったからガス欠しちゃったみたい。

あぁ、この小さな体じゃあ遠いわねぇ。


はぁ……人の姿なら馬でもバイクでも使って一瞬なのに。


あともう一息、ちゃっちゃと正面玄関の前まで行きましょう。


正面玄関の前に着く。

当然というか、バリアが張り直されていてあって入れない。しかも見事なドーム状。どこにも穴なんて無い。


それに何なの?

あの黒い巨人のおかげで崩れ去ったボナコンが元通りになってる。あのクソバトが局地的に時間を巻き戻して元通りにしたっていうのかしら?

……だめ、憶測ばかりじゃだめ。


インターホン一つ無いし、誰も呼び出せないから……いっそ巨大なクレーターにしてしまいましょうか。


『ポーッポッポッポッポッ、来たようですね。』


血管という血管がビキビキ鳴るこのイラっとする声は……。


『ご無沙汰してますねぇ。』


出てきやがった。殺す。絶対に殺す。


『目を真っ赤にして何を思ってるのか理解しかねますが、概ね、絶対に殺す、でしょうか。』


こいつのチャンネルが分からない。だが、察しが良い。話は早い。スクラップにして差し上げましょう。


『ほう、四次元魔法陣ですか。いいですねぇ。』


一言一言が癪に障る。さぁ、焼き尽くしなさい、ルナティカエクスプローダーよ。まとめて灰燼と化すがいいっ!!


『龍戦争の遺産ですか。 ……確か遠き宇宙の果てから襲来した龍の群れに対抗するために作られた、月そのものに術式を仕込んだで作られた兵器ですかね。ですが……龍に対して効きもせず、挙句、人間との間に核に替わる兵器に使われて世界はバラバラになり……ポーッポポポポッ、皮肉なもんですねぇ。結果、人間が絶滅寸前まで減り、代わりに人間に虐げられた亜人種が台頭した……と。それは立派な劣化品ですかね?』


――――ッ!!!?

おっ、お前、まさかっ!?


『三次元魔法陣の極致ですね。その極致を8個、立体的な十字架のように並べれば、なんと四次元魔法陣に大変身ッ!! ポーッポポポポ、まぁ、でも、完全な四次元ではないのですけどね。』


答えなさいっ!! わたしの声が聞こえているのっ!?


『これぐらい時空の大大大賢者からしてみれば朝飯前です。でもまぁ、朝飯はほしいですね。そろそろ戻りますよ。要件が無いのならお帰り下さい。転がす糞も直ぐに準備出来ますよ。まぁ、白黒の糞塊ですけどね。』


答えろっ!!!! こんのクソバトめッ!!!!

アッ……ちょっと我慢の限界………………。


…………。


――――――ッ


キィィィィェェェェェェエエエアアアアアアアアッ!!!!!!

腹立つ腹立つ腹立つ腹立つ腹立つッ!!!!!!


『ヒステリックですねぇ。あと、無駄ですよ。そのような玩具では壊せません。魔力の無駄遣いです。では。』


クソックソックソッ、ファァアアアアッ○ッ!!!!!


『荒野の真ん中とはいえ、誰が聞いているか分かりませんから、排泄物の連呼やFワードは特にやめておいた方がいいですよ。』


ぴぎゃぁぁぁああああああああああッッ!!!!!!


『やれやれ、ヒステリーの押し売りでしたら間に合ってますよ。あの人のご機嫌取りだけでも大変ですのに……では、さようなら。』


おぎゃぁぁあああああああああああああっ!!!!!!!!


うっ――――


…………。


年甲斐もなく叫び過ぎて心臓に来ちゃったわ。ユーリアちゃんの気持ち、分かった気がする。

……それにしても、この世界にさえ居れば微かに気配でも感じるのに、何処行っちゃったのかしら。ユーリアちゃんにコハルちゃん、テルミナちゃん……。


◇◇◇◇◇


あのクソバトのことを考えると頭に血が登って血管が破裂しそうだから考えないでおこう。


…………チッ、フンコロガシの特性かどうかしらないけど、あのクソバトの顔が脳裏に焼き付いてやがるわ。あいつの顔は星座や天の川なの?

あぁ、クソッ。焼き付いた脳みそをパージしたい気分だわっ!!


……普段とは違う道を通って気分転換しましょ。集落横の谷、ジーナちゃんが見てくれてるとは思うけど、久しぶりにわたしの目で見とかなきゃね。


「おっカネー、おっカネー、金銀大枚ザックザク~♪」


……あら、谷の下にある謎のドアの前であの子、何してるのかしら。この子、異常な能力値以外にも、どこに居ても気配を感じ取れないから怖いのよ。


「ふんふーん。えーっと鍵は……よし解錠。あの振動でアタイの研究室がめちゃくちゃになってなかったらいいけど。」


鍵を開けて入ったわね。この手足だから開けられないし、気になってたけど、パロマちゃんの秘密基地にあるあの大扉と同じで、あの小さなドアも施錠されてたからお手上げだった。

何でこの子が鍵を持ってるのかしらね。


思い切って近づいてみる。

…………この子が持っていた大きな桶から何だか芳醇な香りがするわね。コハルちゃんでもないのに、あんなものどうするのかしら?


「ぐぇっ、臭い。これはあいつの糞も混ざってるな。でも我慢するしかない。集落のためにも、アタイのポケットのためにもっ!!」


しかし相変わらず独り言の多い子ね。それよりも、わたしのポケットのため?

何をするのかしらねぇ……。跡を付けてみよう。


◇◇◇◇◇


「よし。ふぅ……換気扇が欲しいわね。」


崖の扉の中に人工物?

鉄骨の柱にコンクリートの壁、天井にはダクト、壁には配管……。まるで機械室ね。壁沿いには状態の良い作業服の掛かったロッカーがあるし、そのロッカーも錆びず無傷で、つい最近までだれか使ってた?


「よーし、分解完了。」


分解?

気になるわね。羽音で気付かれないように、壁を這いながら見える場所に近づく……この体本当に重いわね。壁を登るのも辛いわ。


「さーて、魔石は先に回収して、それから……。」


魔石?


ちょっと待って、魔石?

もっとよく見える位置に移動する。作業台の上には白っぽい何かの山と、砂の山に分けられていた。その砂の山を袋に移し替えている。


「今日も砂みたいになっちゃったわ。中々上手く粒になってくれないのよねぇ。」


魔石の粉末…………なにこれ、下手したら魔石の塊よりも危険物よ。僅かな衝撃でも爆発するだけでなく、複数の属性が混ざり合ってたら、それこそ大惨事。風属性と火属性や氷属性の合わせ技は、見ての通りだわ。

いや、問題はそこじゃない。


「これは後で金庫に移して、このリサイクル肉をより肉っぽくなるように……。」


リサイクル肉…………?

それって…………さっきまで大便だったやつよね?


……待って、本当に待って。わたしとあろうものが滅茶苦茶に混乱している。魔石を取り出す時点でユーリアちゃんと同じ、錬金術の頂点を往く者の特権。ものの変換は出来ても分解は同じく特権。大便肉もヤバいんだけど、2つもの特権を持っていることが異常過ぎて頭の中でグルグルしてる。


何コイツ、キモい。


「こねてこねて……ぺたぺたと色付けてはい完成。後は焼いてそれっぽい風味を付けるだけ。」


キモすぎて脳内がぐーるぐーる……………。

ぐーるぐーるぐーるぐーる……………。


……一旦冷静になろう。


…………あれを誰に食わせるんだ?


「よし、酒場で売るぞ。」


うわーっ!!

ちょっと待って、あれを集落の人々にっ!?

気持ち悪ぅっ!!!!

きったねぇっ!!!!

えんがちょ、えーんがちょっ!!!!


「あの子もねぇ、最近炊き出しに来るのが遅いからこれがいいんだわ。ンフフッ♡ おっと、アタイの水で酒も造らないとね。」


あたいのみず?

待って、本当に待って。集落の肥溜めから肉の次は……。


「えーっと、えーっと、タンク、タンクは……。あった。」


機械室の隅からステンレス製のタンクを取り出す。何が入ってたんだろう。


「よーし。入れるぞ。」


タンクの下に水色の字で魔法陣が描かれる。あぁ、水属性の魔法か。良かった。

タンクがベコンッと音を放ち、上部の穴から水しぶきが上がった。同時に周囲に脳に来るような、強い酒気を感じる。


「うーん、我ながら良い出来。さて、使う分だけ取り分けて持っていこう。もうじき日も暮れるしね。」


……水属性で酒の生成って、これも頂点を往く者のみに与えられるユニークスキル……。

脳みそがぐわんぐわんするわ。本当に脳みそをパージしたい気分。


……これは、もう、寝るしかないわね。

あの鉄骨の上で一眠りして脳をリセットしましょ。



……居ないなぁ。


“気配が全くないのよね。残り香も大穴付近でスパッと消えてるというか、代わりに邪悪なド変態の気がムワッとしているというか……。”


トイレ裏に置き去りになっていたリアカーは恐ろしいものを見た犬みたいな声しか出さないし、庭にはコハルさんの薙刀が転がってるし……何だか事件性を感じるんだよな……。


地下も書庫のドアは開きっぱなしで、中も棚が動かされて、あの時気になったドアが顕わになってたけど、開けたらあの大穴の中に出るだけで誰も居ないし……。

あの井戸と繋がってたのも謎だが、あの井戸も何であんな大穴になっちまったんだ?


クソッ、肝心な時にルナクローラーも居ないし、あの野郎……。


……そういえば、この地下室のあの細い通路の向こうって何処に繋がってるんだ?


通路を突き当りまで行って右へ曲がるとすぐに瓦礫の山が道を塞いでいた。


“隙間一つないぐらい埋まってるわね。でも、天井は崩れたような感じは無いし、何だかこの先に行かせまいと人為的に塞いだみたいな。奥に何かあるのかな?”


いや、小さな隙間が開いている。ただ、ユーリアですら通り抜けられないような小さい穴、ここから向こうに行ったとは考えられない。隙間を覗くと、直ぐ目の前に扉がある。それ以外に……いや、左側にも扉がある。一体何の部屋なんだ?

この瓦礫、そこまで大きくないから抜いたら通れるかも……。


“崩れかねないから下手に触らない方がいいわ。”


そうだよな。

まぁ、お宝なんて無いだろうし、むしろ碌でもないものしか無さそう。一旦集落に戻るか。あいつ等に探索を妨害されてそれっきりだし。



ノアを連れて集落へ戻る。

相変わらずどんよりとした空気が広がっている。放っといたらコハルさんでも手に負えないような感染症が広がるんじゃないのか?


「うー……さけ、くれ…………。」


飲んだくれた若者が道端で倒れこみ、凄まじい酒気を放っている。つーか、酒なんてどこで手に入れてるんだ?


「うぬ、お主ら、また会ったの。」


この髭の長い爺さんはさっきあのジャングルの大木の前に居た、あのアデューの人か。


“どうでもいいけど、アデューはエーテルランド王都で使われてる言葉でさようならって意味だからね。”


そうなのか。あぁ、成程ね。あんな遥か西方の国に縁なんて無いから、本当にどうでもいい。


「ふぉっふぉっふぉっ、ちと、ワシの家に寄っていかんか。ここは酒臭くていかん。」

「そういえば、どこで酒なんか手に入れてんだ?」

「酒か。ふぬ、あの嬢ちゃんも困ったもんじゃ。全く、あやつはこの世界に落とされてもカネに執着するとは……好きにすれば良いのじゃが、風紀は乱してほしくはないの、まったく。」


嬢ちゃん、カネ……あぁ、あいつか。確かにあれだけの薬が作れるのなら、酒だって作れそうだな。

そう考えたら、顧客なんてほぼ居ないここに来る前はさぞかし儲かってたんだろうな。


「さぁさぁ、こっちへいらっしゃい。横の眠そうなお嬢ちゃんも、あまーい梨を用意しておるぞ。ほら、来なさい。」


◇◇


『師匠、開いたよっ!!』

『よっしゃぁぁああああっ!!!!』


“素晴らしいです、ルーナディアさま。”


『ちっがーうっ!!!! これはわたしが開けたのっ!!!!』


“それは、確かにそうですね。”


『もう、別に師匠のお手柄でもいいんだよ。でも、わたしの功績も褒めてほしいなぁ。』


真っ白でのっぺらぼうな顔の頬が少し膨らんでいる。ちょっと……可愛いかも。


『この鍵はわたしの家宝にしーようっと。あっ、でもバッグとか持ってないや。やっぱ、いーらない。この変な置物に刺しとこう。』


鍵をハニワのような置物の目の穴にぶっ刺す。

気が変わるの早いなぁ……。


『あっ、こんなところに良い感じの白いバッグが落ちてるっ!!』

『白いバッグ?』


戦闘の際に倒れた棚に下敷きになったバッグが一つ。色艶からして高そうだが、なんでこんな牢獄のような部屋に置いてあるんだろう?


『もーらおっと。えいっ!!』


倒れた棚を蹴り飛ばして破壊し、バッグを引っ張り出した。傷一つ付きそうなもんだけど無傷で、防護魔法が織り込まれてる最高級品だろうか。


『うわっ、これメルじゃん。貰っちゃおう。』

『メル? なにそれ、ブランドモノ?』

『あれ、そうなの? メルクリウスっていう超有名なブランドバッグだよ。うわぁ、欲しかったんだ。でも、騎士だしメイドだから買えないの。』


“作られなくなってから世界的スターから富豪からコレクターから、色んな人の間で取り合いになって枯渇したかと思われてましたが、まだ残存していたのですね。”


『えーっ? まだ作られてるよ?』


“いえ、もう五十年近く作られておりません。錬金術が確立してからもう随分経ちますし、魔法の類を使わず、手で何かを作る職人の人数は年々減るばかりでしたからね。”


『……よく分からないけど、これは大事にしよう。えーっと、中はどんな状態…………?』

『どうしたの?』

『中身、真っ黒というか、真っ暗というか……。』


中身をのぞき込む。本当に真っ暗だ。光を吸い込んでるというか……というか、これ、あいつが持ってたバッグと同じやつじゃんっ!!


“見事な収納魔法です。”


『しゅーのーまほう?』


“収納魔法、またはストレージ魔法。術者の力量次第ですが、大量の物を収納することが出来ます。千年以上全世界で愛されている、とある伝説のアニメから四次元バッグともいいますね。”


『すっごーいっ!!!! 青ダヌキのポケットじゃんっ!!!! 手突っ込んでみーよう。あっ、本当だ。底が無ーいっ!!』


……ということは、あいつが居なくてもあたしが逃げ込めるシェルターが手に入ったということ……?


…………よっっっしゃぁあああああああっ!!!!!!!!


『あの鍵とー、あっ、この筆とかいいじゃん。サフィーちゃん絵上手だったから喜ぶかも。あっ、面白そうな本が落ちてる。ラピちゃん変な本集めるの趣味だから入れとこう。あっ、これ売ったら高そうかも。これも――――』


…………あたしの入る隙があるのか?


“ゴミ屋敷になるタイプの子ですね。”


『よし、行こうっ!!』

『うっ、うん。そうだね。』


“ルーナディアさま、変なもの持ち帰らないように注意してあげてくださいね。この世には、処分に困ったブツを投棄する人も居られます。それを拾ってしまうと大抵の場合はとんでもないトラブルに見舞われますので。あと、呪物や魔剣の類も――――”


『わっ、分かったよ……。』


保護者かな?


◇◇


何とか鉄の大扉は開かれ、廊下に出ることが出来た。

だが、コハルちゃんは深い眠りに就いているため、まだ暫くは足止め状態。

こればかりは仕方ない。


『師匠、この感じ、見覚えがあります。』

『見覚え……感じが教会の地下に似てるけど……。』


この部屋も廊下も照明も鉄の扉も、教会の地下の造りと似ている。そして、何だか少し……臭い。

廊下は瓦礫で埋もれ、その僅かな隙間から嗅ぎ覚えのある臭気が流れ込んできている。

隙間は狭すぎて、あたしのこの体でも通り抜けることができない。この向こうには何があるのだろう。


『火属性と風属性と土属性三つぶつけてぶっ壊します?』


“やめて下さい。皆さん丸コゲになりますよ。”


『えー? 部屋に引っ込んでたらいいじゃん。仕方ないなぁ。』


テルミナちゃん、意識がちょっと一般常識から外れたとこに居るから誰かが止めないと大変。

だけど、瓦礫の反対側は鉄の扉で封鎖されてる。テルミナちゃんがノブを回すも、全く動く気配が無い。


『また鍵穴なの? またマッピングしてみよう。』


あぁ、土属性は便利だなぁ。


”ルーナディアさま、どうされました?”


あの細長い棒が縦になり、ゆらゆらと部屋から出てきた。見た目の所為で不気味だなぁ……。


『あの瓦礫の山の狭い隙間って抜けられる?』


”申し訳ありませんが、不可能です。確かに、棒である部分は通り抜けられますが、ブースターの部分がつっかえて通り抜けが出来ません。”


ブースター?


『質問だけど、あなたは一体何なの?』


”自己紹介が遅れましたね。わたくしは箒型飛行デバイス、エーテルランド国アネモ・エンターテイメント社製のコメット8000と申します。今後ともよろしくお願いいたします。”


『箒型飛行デバイス……? アネモ…………って、あのAE社っ!!!! まさか、あの超高級品の飛行デバイス……?』


”はい、その通りです。”


待って、何でこんなものをあの触手からドロップしたんだ?

あまりにも関係が無さ過ぎて想像がつかないんだけど。


『あのさ、気持ち悪ゥい極太の触手を倒したら、あなた、コメットさんをドロップしたんだけど、覚えは……ある?』


”…………断じてございません。魔物を倒した際のドロップアイテムは、その魔物の種族やランクに応じてドロップテーブルがあり、そのテーブルの中からランダムで決定されます。相当位の高いボスクラスの魔物でなければ固定ドロップは稀です。”


『あぁ……えっと……つまりはコメットさんを落とす可能性のある魔物を倒して、偶然あなたをドロップしたということでいいかな?』


”概ねその通りです。わたくし自身はどの種の、どのランクの魔物を倒せばドロップするのかは分かりません。運命の出会いということでしょう。”


デバイスなのにロマンチックなこと言う……。いいねっ!!

だけど、気持ちわるゥい触手を倒してドロップするだなんて……心境は如何に。


『師匠っ!! この鍵、開いてるっ!!』

『あ…………単純に錆びついてるんだ。』


”こればかりは、コハルさまのお力をお借りしなければ困難と思われます。”


……コハルちゃんの目覚めを待つか。

…………待って、コハルちゃんも自己紹介なんてしていないのに、何で名前を知ってるの?


「んんっ…………ふわぁ〜…………あら、ここは何処なのでしょう?」

『あっ、コハルさまがお目覚めにっ!! コハルさまっ!! お体の調子はどうでしょうかっ!?』

「あっ、えっ? えーっと、わたくしは一体何をしていたのでしょうか……?」


”お目覚めになりましたね。バイタルチェックを行います。”


流石は超高級デバイス、搭乗者の健康管理機能もちゃんと付いてる。


「あら、とっても細長ーい方が居られます。夢でも見ているのでしょうか?」

『コハルさま、これは人ではありません。人語を喋る細長い魑魅魍魎です。』


”ちっ、魑魅魍魎……。”


コメットさんの心境や如何に。そういえば、テルミナちゃんはエーテルランド出身みたいな話してたけど、全世界的に有名なはずのAE社の存在は知らないのだろうか?


『ねぇ、テルミナちゃんはアネモ・エンターテイメント社って企業、知らないの?』

『えっ? なにそれ? そんなアネモネみたいな名前したとこ、知らないよ。』


顔のパーツが無いから表情は窺い知ることは出来ないけど、言葉の感じからして、本当に知らないのだろう。マジか。良いことも悪いこともいろんな評判が立ってるおかげで、百人に訊けば百人が知ってるという

世界的な企業。それがアネモ・エンターテイメント社。


『……うん? そういえば……?』

『思い出したの?』

『お兄ちゃんの日記を読んだ時に書いてあったのを見たんだけど、修行が終わってこの家を出たら会社を立ち上げるんだーって、それで立ち上げるんなら今の内に名前を考えておこうかなって、それで箇条書きしてた名前の中に似たような名前があったような……。』


”テルミナさま、あなたのファミリーネームはサーマイトでしたよね?”


『そうだけど?』


”もしかして、アーロン・ウォルフラム・サーマイトという方でしょうか?”


『なんでお兄ちゃんの名前を知ってるのっ!?』


”やはり…………あなたはどの時代からタイムスリップしてきたのかは分かりませんが、あなたのお兄様は今、会長の席に着かれております。 ……かなりのご高齢ですが。”


『…………よっ、よく分からないけど、お兄ちゃんすっごーいっ!!!!』


理解が追いつかない。

まず最初に……この世界に迷い込んで来る人は、それぞれ年代が違うの?

……………ふと思い出したけど、あの時、あいつは、ふ……フレ…………なんだっけ? そんな名前の物語の話をしてた。あいつはあんな有名な物語を何で知らないのかと怪訝そうに話してたけど、帝国の中では検閲が緩い電気街のメルカなら、そこまで有名なものは間違いなく置いてあるし、検閲が厳しい遥か北方の帝都でも、物好きな貴族が裏ルートで仕入れる場合もあるから耳にはするはず。


だが、それが無かった。


もし、元居た時代が異なるのならそれも説明出来る。あいつが居た時代とあたしが居た時代が異なるのなら……。でも、ここに来るまでのルートが根本的に異なる。あいつは知らないけど、テルミナちゃんはワームホール経由で来たのと、あたしのようにネットワーク経由でここに辿り着いたのでは仕組みが大きく異なってしまう。ワームホールは魔法的なもの。ネットワーク回線は物理的なもの。物理的な…………それって関係あるのか?


……もしかして、そういうの関係無い?


『……あっ、そうか。わたし、ずっとずっと未来に来たんだね………………。まっ、いっか。』


立ち直るの早いな……。あたしなら戻れる可能性があるけど、この子は全くない。その上、本来の姿かたちが異なるし、仮に戻れたとして、少なくとも何にもない顔がそのままなら仮に戻れたとしても魔物扱いだ。本人は前向きだが、恵まれているあたしからは、かける言葉も無い。


”バイタルチェック完了しました。結果は良好です。”


「あっ、あの、えーっと、わたくしは元気いっぱいということでいいのですね?」


”はい。体内に不安定な闇属性の魔力が渦巻いておりますが、問題はありません。”


体内の闇属性は結構大問題なんだけどな……。


『あの、元気いっぱいでしたら、あの扉を破壊してくれると助かります。』

「扉の破壊……ですか?」


”無理はなさらないで下さいね。”


起床早々とんでもない役回りだなぁ……。コハルさんにとって、朝飯前なんだろうけど。


「あの……とりあえず、ドアノブを回してみますね。」


コハルちゃんはドアノブに手を掛け、握りしめる。


「いきます。フンッ!!」


ギィィィィィィィッ!!!!!!!!


『うわー……すっごーい…………。』


“……………。”


ギギギギギ…………バキッ!!!!


『あっ、中で何かが壊れた音がした。』


平和的解決をしようとしても、結局は破壊してしまうトンデモ腕力。怒らせて雑巾みたいに絞られて紐にならないよう、気をつけなければ。いや、コハルちゃんのヒモなら……なりたいかも。


”…………この力、やはり…………。”


「ドアノブが取れました。」

『取れちゃったね。』

「……穴に指を入れて引いてみましょう。」

『ううん、このドアは押す方。』

「そうなのですか。では押してみましょう。」


コハルちゃんはドアを力いっぱい押した。ドアは部品を撒き散らし、そのままゆっくりと奥へ……ビターンッ……。


「うわわわわ…………。」

『ドアが完全に壊れちゃった。』

「どうしましょう…………。」

『ダンジョンのドアなんて壊してもまた生えてくるよ。』

「はっ、生えてくるのですかっ!?」

『うん。ある日突然ピュイッと生えてくるの。』

「ピュイッとですか……。」


結局ドアを完全に破壊してしまった。くわばらくわばら。


”何でしょうか、この洞窟……。”


『すっごく青白い。魔石の採掘場みたいな洞窟ね。』

「……何だか幻想的です。」


この洞窟、あのボルトの中に広がってた忌々しいあの洞窟と同じ……。でも様相が異なるな。

ここは天井から青白い光と灯す発光素子がちょんちょんとぶら下がっていて、あそこのようないろんなとこから生えた培養カプセルが光ってるとかそういう不気味なことは無い。


『あっ、洞窟の先にドアが付いてるよ。』

「この扉は壊してしまいましたが、あちらは無傷で開けて差し上げますっ!!」


”これ……壁は土ですが、ゴミのようなものが混ざっています。”


ここは何処だか分からないけど、もしあの広大な産廃処分場のような場所だったら……地盤は大丈夫なんだろうか?


『師匠、先行きますよっ!?』

『あっ、危ないから気をつけてねっ!!』


洞窟は五十メートルほどで端に辿り着いた。終点はあそこから見えていた扉があるのみ。

この扉は同じく金属製で白く塗装されており、さっきの鉄の扉よりは遥かに状態が良い。


『これって……もしかしてわたしでも開きそう?』


可能ならテルミナちゃんの手で開けてほしい。コハルちゃんだと衝撃で洞窟にダメージを入れそうで怖い。


『あっ、ドアノブ回った。』


そのまま扉を引くと何の異音もなく開いた。


『何だか急に人工的な洞窟になったわね。』


“洞窟じゃなくて、どこかの建物ですね。”


……階段室の最上部みたいだけど、この感じどこかで……?


『非常口って書いてある。どうみても非常口じゃないじゃんっ!!』

「どこかは分かりませんが、照明が点いていますね。」


日本語と呼ばれる言語は全世界共通語だけど、西部諸国、エーテルランドのように地殻変動後も原住民が多く残る地は現地語を優先して使っている。ということは、文字からしてアルカ大陸他、東部諸国のどこかの建物だな……。降りてみる?


『よーし、降りてみようっ!!』


“あっ、待ってくださいっ!! せめてマッピングしてから――――”


「行ってしまわれました。」

『あたしたちも行こう。危なくても、このメンバーなら大丈夫だしね。』

「ウフフッ、そうですね。では、ゆっくり参りましょう。」



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