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1-14-2 それぞれの旅(2)

あの洞窟のあった場所付近から丘の上へ登り、周辺の地理を再確認する。西は何にもない。北も海岸しかない、南も何にもない。東に大きな工場が一つ。目を凝らしても本当になーんにもない。この鷹の目にも限度がある。何か双眼鏡か何かが……?


ちょっと離れた所にあるウサギの像の所に白いそれっぽいものが落ちている。

近づくと、ウサギのマークの入った双眼鏡だった。状態もいい。

メーカーを見たら某国の宇宙開発を主に手掛けている非常に有名な企業のもので三十万エルは下らない超高級品だった。貰っておこう。


拾った双眼鏡を持ち、西の方角を見る。倍率最大にすると何だか薄っすらと工場のようなものが見える。東よりも遥かに通そうだが、あれも探索対象に入れるか。次に北の方角を見る…………何も無い。

東の方角を見る。あっちは工場以外に何も見えない。その左右を見ても何も無い。

最後に南の方角。教会の直ぐ南に小さな密林、そのずっと遠くに丸い何かが……目をよく凝らすと歯車のような……観覧車? 下に幾つか建物があって、変わったタワーのような建築物もある。その直ぐ近くに小さな山もある。街か何かだろうか。西の工場と距離が変わらなさそうだが、あそこも探索対象に入れよう。


よしっ、これで粗方の目星は付いたが……付いたのだが、足はどうしようか。

流石にあんな距離歩くのは骨が折れるぞ。ノアに頼むのもなぁ……。


……まぁ、先ずは近場のあの密林と集落の調査か。



教会の前に戻り、東側の壁沿いをそーっと南へ抜ける。

ちらっと窓から寝室を覗くと、ノアが目覚めたのか、頬をパンパンに膨らませた不機嫌そうな顔でベッドに腰かけている。

……ノアには悪いことをしたか。でも、ここはわたし一人でやらなければ。

ノアを連れ回すのは安全を確保した後だ。


“あら、あなた、ノアちゃん起きたわよ? 正確には起きてテルミナちゃんをぶん殴ってちょっとだけ寝てまた起きたの。どうすんの?”


「あっ、悪い……まだ調べたいことがあるから、黙っててくれ。」


“……何度も言った気がするけど、あんまり一人で抱え込まないの。ノアちゃんはあなたよりも何百倍も強いから、多少の危険も吹っ飛ばしちゃうし、ノアちゃんにぐいぐい引っ張られて色んなとこに行っていいのよ。”


「いや……それは……何だか心配でね……。」


“もう……まぁいいわ。でも、絶対に帰ってきなさいよ。”


分かってるよ、そんなことぐらい。



教会の南から密林の方を見る。すぐ傍にトイレ下に繋がる井戸があるからか嫌な臭気が漂う。その井戸からはインチコガネが六本足で暗黒物質を掴み、翅を広げ、羽音を響かせて飛び出し南へと飛び去った。

……まさか、あの密林が巣なんかじゃないだろうな?


幸いにもインチコガネは密林を逸れ、南西の方へ飛んでいった。もし、あの密林が巣だったら……近づけねぇな。


さて、あの密林にはどんな木の実がなってるのだろうか。出口の捜索は一旦置いといて密林の探索だ。



◇◇◇


「おい爺さん、どうでもいい用しかねぇんなら帰るぞ。」


あいつらの住居になるような所をやっとのこさ見つけたってのに、この爺さん、毎日毎日碌に用もないのに呼びつけやがって……。


「お前に丁度いい仕事がある。」

「何だ?」

「ここの発電容量が減ってきている。入れ替えが必要だ。炉の清掃を頼みたい。」

「あぁ? ざけんな。こんなカビだらけ錆びだらけのとこの清掃だ? お前、アタシ等の肺を潰す気かてめぇ?」


炉は恐らくここの隣の錆びに覆われたドラムのことなんだろうが、何度頭ん中を巡らせても嫌な予感しかしない。まずここは、帝国の処刑台であるボナコンという名の炉によく似ている。機械も生身も一緒くたにして生きたまま押し潰してドロドロに溶かす悪趣味な処刑装置。それを改造して発電機の燃料として使用してるのだろう。そしてこの周辺は独特の異臭も漂っている。どうせ中身も未消化で残っているのだろう。触りたくもない。


「ハンッ、鳩でも出来る作業だ。子分どもを連れてやれ。」

「チッ……おい、お前、アタシ等をこの妙な荒野へ拉致したのは雑用のためなのか?」

「フンッ、お前は黙って役を熟せばいい。どうせ、ここへ連れて来なければお前はタラスクの餌だったのだろう?」


このクソジジイが……確かに、子分等揃って処刑寸前だったのは間違いはない……確かに、子分を守ってくれたことは感謝するに価するが……。


「早く行け。発電容量が足らなければ例のアレは暴走してしまうからな。こうなれば誰も手にも負えん。それに、監視装置も機能しなくなる。」


何のことか分からんが……拒否権は無いのだろう。ヨボヨボのジジイであっても凄まじい程の時空の魔力を感じる。下手に反抗すれば子分どもに何をされるか分からない。アタシはいいんだ、幾らでも重荷を背負ってやる。だが、子分どもには絶対に手出しさせねぇ。


◇◇◇


はぁ、本当に何もないな。

ここはかなり高いところにある。この広い荒野を一望できるんだが、重い灰色の雲とこげ茶色の砂しかない。遠くに緑豊かな山々があるわけでも、どこぞの大都市があるわけでもない。

クソが、ここだと食い物一つ探すのに苦労するし、どうやって子分どもを養えってんだ。


…………あのクソムシ、またバリアの前で何かやってやがんな。あいつだけ何だか変わってて、あいつからも妙に強い魔力を、どう見ても単なる虫の癖に時空属性と闇属性のレアな二属性を感じるし、魔物だったら危ないから風魔法で追い返すか。


つづら折りの坂を降りてクソムシに近づく。クソムシはクソムシらしからぬ美しい羽音を放ちながら宙に浮いている。何なんだこの虫は、単なる虫、いや、魔物なのか?

……正体がなんであれ排除が先だ。手を翳し、手に魔力を集中させて、風を巻き起こす。名も無きクソムシ、世界の果てまでブッ飛べ。


“無駄よ。”


クソムシが喋った……?


“クソムシじゃなくてフンチュウ。それにしても冷静な子ね、虫が人語を喋っても驚いたり取り乱したりしないって、あなた、こういうの慣れてるの?”


……いや、正確には喋ってない。というか、声に方向性が無い。ただ、間違いなくこの虫が発している。


“…………あなたとは敵対しないわ。ところで、そこの灰色サイドテールで猛禽類のような目をした地味な色の服を着た子……あぁ、パロマちゃんって言うのね。”


「その名前で呼ぶなっ!!」


虫相手に声が出てしまった。クソッ、この名前で呼ばれたくない……というか、何でアタシの名前を知ってるんだ?


“だったら何て呼べばいいの? ハト苦手?”


あぁ、ハトは嫌いだよ。生きたままスクラップしたいぐらい嫌いだよ。クソが。

……子分は姐さんとかねぇさんとか呼んでるが、こいつは…………アサシンの時のコードネームは使いたくねぇし、あぁクソッ!!


「…………チッ、好きに呼べ。つーか、クソムシが何の用だ?」


“ここを開けて。あのボナコンに用があるの。”


「転がす糞でも探しにきたのか? 開けるわけねーだろ。クソムシはその辺の糞でも転がしてろ。」


この障壁はあのジジィが張ったもの。勝手に壊したらマズい。


“ふーん。まぁいいわ。こんな複雑な術式、さぞかし高名な魔道士なのでしょうね。でも、いい加減顔を出さないと……強制代執行も辞さないわよ?”


「他に誰か連れて来るってんのか?」


“いいや、わたしがやるわ。”


クソムシの足にはさっきまで無かった水晶玉が六本足でしっかりと握られている。水晶玉は徐々に赤く染まり、同時に天を覆う雲までも薄っすらと赤く染まる。


「おい、一体何をするつもりだっ!?」


“衛星レーザー砲。対ドラゴン用特攻兵器と言えば分かるかしら。ルナティカ・エクスプローダーでもいいのかもしれないわね。それよりは出来が悪いかもしれないけど、それを参考にした時空属性と闇属性の混合魔法はわたしの自慢の攻撃魔法……あなたもトキサダさんも消し飛んでもいいのかしら?”


冷たい風が鳥肌を誘う。このクソムシ……一体ナニモンだ?


「分かった、やめろ、やめてくれ。開けてはやれねぇが、やめてくれっ!!」


“冗談よ。また出直すわ。でも急ぎの用なのよねぇ、あの子があの炉の中から人の声がしたって、わたしにこんなXS級の特級錬金物まで貸してくれるぐらいだし……ジーナでも連れてきてぶった切ってもらおうかしら。”


「おっ、おい、人の声がしたって…………?」


クソムシは聞く耳も持たず、集落のある方に向かって飛んでいった。


「おい、無視かよっ!!」


“虫だけにね。後でまた来るから、中の確認やっといてね。”


こんのクソムシが。

いや、待てよ……っ!?

どういうことだっ!? そもそも何でアタシの名前を知ってやがるっ!?

…………おいおい、こんな世界でまでアタシの名前が知れ渡ってやがるのか……?


◇◇◇


はぁぁ……何で爺さんとあの謎のクソムシ女に命令されなきゃならんのだ。


あぁクソ、はぁ、無視だ。あんなの放っておこう。それよりもボナコンのハッチは……これか。


「うわっ、くっせっ!!!!」


ドラムの横に付いている点検用のハッチを開けた途端、猛烈な腐敗臭が鼻の中に飛び込んだ。中の空気が薄っすら黄色っぽいし、これ換気せずに入ると間違いなく死ぬ。


「ゲホゲホッ…………クッソ、これをあいつ等にやらせるわけには……ガハッ……」


アサシン時代に得たスキルを引っ張り出してきて、何とか呼吸を整える。

アタシの風魔法で換気をしたいが、もう一箇所ハッチを開けないと内圧で炉をぶっ飛ばしかねない。面倒だが反対側も開けに行くか。


アタシには何故か妖精のような羽が出せる。アタシを作った奴に何でこんなものを付けたのか問い質したいが…………便利だから、まぁどうでもいいんだが、

せめてもっと鳥に近い感じの大きな翼が欲しかった。何だか可愛らしくて恥ずかしい。


妖精のような細い羽を左右に二つずつ、計四つ出し宙に浮く。本当に便利でいいなこれ。光ってるから目立つけどな。


……これで前後のハッチがフルオープンか。よし、風をブッ込むぞ。

風はボナコンの胃腸を突き抜け、ドラムの反対側から濃い黄色い明らかに有毒そうな霧が立ち上る。こっちに来ないように広範囲に強風を吹かせて…………だんだんと黄色いガスも薄くなってきたな。もうそろそろか。


五分ぐらい吹かせ続けて、もう黄色い霧も出なくなったが、今度は炉の中が真っ暗だな。何も見えない。クソッ、ライト一つありやがらないし、点検用の照明も無いんだろうし、光魔法なんて使えねぇしな。仮に清掃するにしてもどうしろってんだ。


“お困りの様ね。”


あぁ…………?


「お前…………おい、クソムシ、どうやって入ってきやがったっ!?」


“トキサダさん、前より少しバリアの範囲を広げた?”


「あ……あぁ、少しずつ広げて領土を広げてるとかなんとか言ってたな。試験場が要るとかなんとかで……。」


“わたしね、一度でも通った所はファストトラベルで行けるのよ。障壁なんて関係無い。”


そういうことか……。その座標で管理されてるからバリアの向こうだろうが関係無いんだ。あのジジィ、そういう所抜けてやがるな。つーか、クソムシのくせにファストトラベルとかいう高度な魔術を使いやがって、一体何なんだっ!?


“時空魔法使いの特権ね。あなたも出来るんでしょ?”


「出来ねぇことはないが……ここは時空が歪んでて座標があっても大抵バグっちまうから思うように…………って、お前、何でアタシが時空属性が使えるだなんて分かったんだ? さっきのアタシの名前もだが、お前、一体何で知ってやがるっ!?」


“鑑定。あなたの名前も属性も職歴も過去にやったこともぜーんぶお見通し。”


あぁ、そういうことか……。こんのクソムシが…………。クソムシの癖にファストトラベルか使えやがると思ったら、更に鑑定だなんて高尚なことやりやがって……。

こいつ、クソムシだからって侮ったら弱み全部握られて死ぬまで甚振られ続けられるやつだな。出遭った時点で負け確定のクソ野郎だ。あぁもう、最悪かよクソが。


“賢明な子でいいわぁ。クソクソ言っちゃう癖はちょっとアレだけどね。”


クソ相手にクソと言って何が悪い。


“ところで、闇属性も灯火魔法が使えるの。ちょっと青白くて不気味だけど、問題無く照らせるわ。”


「あぁそうかい。なら、中の確認を頼めるか? アタシは灯火魔法は使えない。アタシは子分の所に戻る。」


“なぁに言ってんの、あなたも来なさい。そもそもあなたの仕事でしょう? それに、あなたは強いんだし。”


「はぁ? 何でアタシも――――」


灰のかき出しに強さなんて関係あるのか?


“はぁーい、誰か居るー?”


「おぉいっ!! 待てよこのクソムシがっ!!!!」



5分ほど歩き、密林に到着。

コハルちゃん曰く、例のクソポーションを廃棄する場所として使ってたら色んな植物が生えてきたという生ごみが集う場所。

鼻を突く匂いが周囲に漂っているが我慢するしかない。実っている実はさぞ立派なものなのだろう。


目立つのは大きなバナナの木で、実こそなっていないが、わたしの背丈以上にある葉が行く手を遮る。

……集落の子供が描いたのだろうか、柔らかいバナナの木に尖った何かでウサギの顔が描かれている。縁起でもない。


「――――――っ!!!!」


早速遠くから可愛らしい女の子の声がする。この声には聞き覚えがあるんだが?


「ルピィちゃーんっ!!!!」


マジか。


「ぐふっ!!!!」


背中に砲弾のようなものが直撃し、ウサギの顔が描かれたバナナの木に顔面を打ち付け、衝撃で木を倒してしまった。弾丸のように飛んできたのはノアだった。あのクソムシ、ノアに居場所を教えたなっ!?


“教えてないわよ。ノアちゃんの愛で自力で見つけたのでしょうね。ウフフッ。”


「おい、何処に居るっ!?」


“楽しいから集落の上ぐるぐる回っちゃってるけど、もうそろそろ離れないとね。じゃあね。”


……あいつ、どこからでも聞き耳を立ててやがるから迂闊なこと言えやしない。

まぁいいか。今後一切、ノアからは離れられないということか。

ノアはわたしに抱き着き、顔を擦りつける。

……はぁ、デートじゃねぇんだぞ……。

まぁ、依頼を遂行しているわけでないし、ここは食べ物を確保するために来たから、一緒でもいいか。


「だれかいるー。」

「誰か居る?」


…………密林入ってちょっと進んだ所に汚れた灰色の作業服を来たお爺さんが立っている。ゴミでも捨てに来たのだろうか?

ただ、顔は非常に特徴的で、こけた頬に大きな尖った鼻、やや奥目でやや逆三角形のような輪郭。これで耳が尖っていて肌が緑系統の色なら、トゥリシア近郊でもよく見かけるゴブリンだな。


「なんだ、新入りか?」

「……まぁ、そうだな。」


開口一番にテメェ新入りかって、わたしは盗賊かアサシンか何かか?

ゴブリン顔のお爺さんはフンッと鼻息を立てる。


「お前さん等は、あれと同じ不穏分子じゃなかろうな?」


不穏分子?

何だそれ、全く身に覚えがない。というか意味が分からない。こんな腐り果てた土地に乱すに値する秩序なんてあるのか?

それとも、この爺さんの中にだけある世界なのか?


「フンッ、お前さんもどうせ、意図せずこの地に迷い込んだんだろう。そして横のハイカラな嬢ちゃんも、何者かの手でこの地に飛ばされたと。」


ノアはわたしの背後に隠れるように首元からじっと様子を伺っている。

わたしだけに聞こえるぐらいの小声で自分の名前を呟いた。


「ハンッ、ワシが怖いのか。それも仕方ないだろうな。見えるもんには見える。見えんもんには見えん。嬢ちゃんには見えて、お前さんには見えん。」


実際、わたしにはただの特徴的な顔のお爺さんにしか見えない。

……しかし、さっきから言ってることがよく分からん。


「だからどうしたってんだ? 何が言いたいんだ?」

「ジジィの妄言だ。だが、くれぐれも、この時空の監獄をこじ開けようとせんことだな。」


時空の監獄?


「後の話は、また別の機会に話そう。」

「いや、待てよ、時空の監獄とは何なんだ?」

「フンッ。東の地で待っとるからの。」


爺さんは消えるように居なくなった。本当に何だったんだ?

要らんことはペラペラ喋って、必要なことは説明もせず。ボケてんのか?

東の地って、東って言ったらあの巨大な工場だよな。双眼鏡で見た感じ、それ以外に何も無かったが、そこよりもまだ先に何かあるのだろうか。

いずれにしても、その五文字の詳細を訊きにあんな遠くへは辛いな。間違いなくあの魔物に出くわす。それも一匹二匹では済まないのだろう。


「ノア、大丈夫だよ。もう消えたから。」

「おじいちゃん、ふにゃふにゃだった。」

「えっ? ふにゃふにゃって、わたしにはちょっとだけ腰の曲がった爺さんにしか見えなかったけどな。」

「ふにゃふにゃしてて、こうバーッてなってて、それでめちゃくちゃ。」


ノアが言うことを整理するに、所謂映像にノイズが乗ってたりバグってたりで、スライスされて左右にブレてるような状態だったらしい。


全然分からない。


「……ノア、見なかったことにしようか。」

「うん、わかった。」


わたしも忘れよう。もう、ここは何だっていい。出口さえ見つければいいんだ。



大きな大きな葉を掻き分けつつ、木の間をすり抜け、ノアと一緒に探索……冒険ごっこみたいだな……。


「わぁ、おおきなはっぱっ!!」

「うん、大きな葉っぱだね。この葉は殺菌作用があってね、肉とかを――あれ、ノア?」


わたしの横にべったり張り付くように寄り添っていたノアがいない。目線を外したこの一瞬で消えやがった。


「とれないーっ!」


声のする方を見ると、ノアは葉っぱを掴んで引きちぎろうとしていた。

少女の力には無理だろう……いや、ノアはこう見えて力が強かったな。ノアが無理ならわたしにも無理だ。


待てよ、ノアは風属性の魔法が使える。そうでなくとも妖精の羽の双剣で…………いや、子供に刃物は危険だから、一旦わたしのナイフで切り取るか。うん、そうしよう。


「とれたっ!!!!」


…………。

力、強いな。


「わーいっ!!!!」


ノアは大きな葉っぱを持って走りだした。ノアは大きなバナナの葉に夢中になり、葉柄を持ち、葉を靡かせながら密林を突き抜け、荒野を走る。転んだら危ないからあまり走らないで欲しいけど、大人の声は子供の耳には届かない。


ノアから目を離さないように、じっと遊ぶ姿を見ていると孤児院の子たちを思い出す。アンやクリスたちは元気だろうか。


…………ある程度走った所で飽きたのか、途端に走るのをやめ、葉っぱを引きずり、歩いてわたしの元に戻って来た。


「あきた。」

「うん、そうだね。」


さて、今度こそ密林と化したゴミ捨て場を探索しようか、そう思ったら、またノアが付いてこない。


「こらーっ、ノア、行くよ。」


今度は大きな葉っぱを折り畳んで何かを作っている。静止して、ブロックパズルを何度も何度も完成させてる時のように集中している。


「もう、ノアったら……。」


ノアから目を離さないように、じっと見つめる。何作ってるのか分からないけど、器用なもんだ。あぁ、クソム……ルナクローラーでもユーリアでも監視役が一人欲しいな。


……反応が無いから行っちまったか。中身は立派な大人なんだろうけど……何とも自由気ままな野郎だ。

たったままボーっとするのは性に合わない。加えてちょっと寝足りない所為で立ったままうつらうつら、バランスを崩して咄嗟に足で踏ん張ったおかげで目が覚めた。


「できたっ!!」

「何が出来たんだ?」

「うちゅうっ!!」

「えっ……?」


ノアは手のひらサイズのダリアのような花を作っていた。子供の作品とは思えない精巧な作り。あの葉っぱが本当にこれになったのか?


≪鑑定≫

名称:うちゅう

説明:ノアの手により作られた非常に精巧な折り紙。元は地に含まれる魔力と共に進化を続けた巨大種パッション・バナーナの葉。この葉はどのような状態であろうと、魔力を供給することで現在の状態を保つことができる。


能力:LCK+100≪要装備»

≪以上≫


何故か知らないけど冒険者ギルドで言うLCKの項目……運が尋常ではないレベルで上がる。どういうことかな?

…………鑑定が正しければ国宝級のアイテムに付くようなステータス上昇量じゃん。なにこれ。


ノアは期待の眼差しでじっとこちらを見ている。その目はそれを付けてくれといいたそうだけど、ピンも無いし紐も無いし、それに髪に付けようにも葉柄は短いし、カンザシのように棒が付いているわけでもないしゴムは無いし……さてどうしよう。どうしようかな?


「わぁ、ちょうちょっ!!」


妖光蝶がヒラヒラと舞っている。昨日まで着いてきていた、わたしが緑魔法でテイムした個体だろう。監視役としては頼りないが…………まぁ、楽しそうだからいいか。


“あら、頼りないってのは聞き捨てならないわね。”


急に誰のものでもない若い女性のような、テルミナに近いような明るい子の声が耳に入った。誰だ?


“あらら、あたしが見えないのー? こーこ。ノアちゃんの頭の上。”


ノアの頭の上には妖光蝶が留まり、ゆっくりと羽を開いたり閉じたりを繰り返している。


「……あんたもクソムシと同じく喋れんのか?」


“そりゃもう、あたしもあの人も今や幻獣なんだから喋れたり人の考えてることが読めたりするのはとーぜんの話よ。チャンネル調整が超大変なんだけどねぇ。蝶だけに。”


蝶だけに……。


“細かいことはいいわ。ノアちゃんはあたしが預かるから、あなたは安心してあ探し物をしなさい。”


蝶まで喋るだなんて…………世も末だな。もう今更か。後でこいつから色々と話を聞くこともあるし。


“ほーら、ノアちゃん、捕まえてみなさい。”


「まてーっ!!」


……今の内に宇宙と名のついた飾りをバッグにやさしく入れ、密林の中で紐となるものを探す。あの洞窟で見つけたウサギのキーホルダーみたいに流用できるものが落ちてたらいいんだけどな……。

縁起、超悪いけど。



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