1-01-1 星屑の荒野
第1章:星屑の荒野
第1話
壊れた橋を渡り、辿り着いた見渡す限り茶色い砂漠。
どこまも続く茶色い世界。よく見るとそれは砂ではなく鉄屑を砕いたような砂鉄。磁石を持ち込もうならば一瞬で塊と化すだろう。
……もしや、ここはトゥリシアのゴミ処理場だろうか?
ということは、おそらくさっきのゴミ収集車もここに来たのだろう。何処行ったのか知らないけど……。
いくつかあるゴミの丘の上で周囲を見渡す。可視範囲は十分で、ゴミの山以外何もない。だけど一箇所だけ明らかにおかしな場所がある。重いの空に穴が開き、煌々と日光が降り注ぐ場所がある。神秘的なそれは少し遠いが、行ってみる価値はある。体力が持てばの話だが。
それにしてもあの白ウサギは何処にも居ない。あのウサギ、こんな荒野で暮らせるのだろうか?
見る方向を替えると、何と先ほどの自動運転のゴミ収集車が元気に走り回っていて、先ほどの壊れた橋に差し掛かろうとしていた。
よく見れば、車両の正面の上部にウサギの耳のようなアンテナが付いている。あれまでもウサギなのか……?
その自動運転のゴミ収集車は止まらず橋を渡ろうとする。もしや、あれに乗ればまたトゥリシアに戻れるのか?
でも橋は壊れたままでどうやって渡るんだろうか、空間が捻じれてワープするとでもいうのか。
そう思った矢先、ウサ耳のゴミ収集車はポロっと海に落ちて、お手本のような立派な水柱と共に海に消えた。
◇
見渡す限りゴミクズの荒野。こんな環境では生物などいないのだろう。完全なる死の世界。
分厚いブーツが駄目になりそうなぐらいに鋭利なゴミが底に刺さってる気がする。これでは座れないし休みも出来ない。何も突き刺さらない硬い鋼鉄の身体と精神が欲しかった。
少し歩くとゴミクズが砂のように細かくなり、錆びの粉みたいになってきた。湿気ているので粉は舞わない。ここなら座れそうだけど座りたくない。
生物未満の機械のくせに何言ってるのかと自分に言い聞かせても身体が拒否する。そういえばわたしも破傷風に罹るんだっけ。
神秘的なエンジェルラダーが示すポイントももう少しなので歩く。あの丘を登った所から見えるかもしれない。
視線を横にやると、黒基調のややカラフルな山が一つ。破砕されていないゴミの山だろうか。
死の荒野にも何かいるかもしれない、そっとナイフを構えて近づく。
そろりそろりとゴミの山に接近して廃棄物の内容を確かめる。それは街のゴミ捨て場を大きくした程度で本当にゴミの山だった。
だけど所々使えそうなものがそのまま捨てられている。勿体ないな。
手を付けようと思ったが、こういう場所もスラムも同じ。野盗や知能の高い魔物などが罠として置いている可能性もある。街の外は衛兵も警備兵も少なく、冒険者も居るとは限らないので非常に危険であり、故に出てくるそれらのレベルは非常に高い。手にした瞬間、背後から無数のそれに襲われて骨一本も残らない程に毟り取られる。だから見て見ぬふりを……。
見て見ぬふり……。
見て見ぬ……。
チラッと横目で見る。
何と、ほぼ新品同然のレーザー銃が2丁捨てられていた。周囲をよく窺い、それらを拝借する。ついでにECセル数本と使い古されたレーザーライフル1丁、おそらくそれから外れたであろうバヨネット1本、そして太古のこの国に存在したと思われる汚れた刀のようなもの1本……この小ぶりの刀は綺麗だけど……何だか触った時の感覚が変。
アヤメさんが言う妖刀かもしれないから持っていこう。
ガサッ
ゴミの山の奥から不審な音が聞こえた途端に背を見せず瞬時に後退する。
クソッ、この場に及んで罠だったかっ!!
レーザー銃は勿体ないのでレーザーライフルを構える。ライフルは使った事はあるけど大き過ぎるので数える程度しかない。使い慣れない武器よりは魔法の方が良さそうだと思ったその瞬間、黒く大きなカニのハサミがゴミの山から突き出る。
明らかにカニの大きさではない異質なそれを見た瞬間にライフルを背にやった。
腰に刀、背にライフル、服の内側に銃二丁とポケットに複数のECセルと若干重い。捨てるにしても貧乏性が邪魔をする。
手を天に掲げ、10メートルほど上空に出現させた火球に全魔力を集中させチャージする。
ゴミの山の魔物は手のハサミをカチカチとさせ、獲物が居ないと感じ取ったのか、ハサミの表面が途端に真っ赤になり、ゴミの山を吹き飛ばして全身を露わにする。それはカニでも何でも無くとても大きなサソリであった。威嚇だろうか、真っ赤な尾で周囲の地面をブスブスと突き刺している。
魔物も人間と同じで、本気でキレると真っ赤になるんだろうか。
巨大なサソリとはいえ、よく他の冒険者と共に戦ったことはある。同じガンナーのコンラッドが急所をぶち抜き、あと少しってところで大剣二刀流のグレソの奴が調子に乗っていい所を全部持って行っちゃうんだよな。
……わたしって一体何やったんだ?
向こうもヤる気満々だ。わたしは銃だけじゃない。直径3メートル程にフルチャージした火球を投げつけよう。
火球は上空で発破して全方位に小さな火球を撒き散らしたり、火球を直接投げつけたり、風魔法と合わせて発破に指向性を持たせた散弾火球にする事もできる。また、魔力が非常に高ければ太陽のように全てを吸い込む芸当も出来る。生憎、そんな多芸じゃないので投げつけるか発破するか程度だが。
「わたしはイラついてんの。」
右手を天高く上げ、火球をチャージする。火球は徐々に大きくなり、周囲を橙色に照らす。余り大きいものをぶつけると、魔物が蒸発して素材やアイテムが消えてなくなるからやめろと、周囲からよく釘を刺されていたので小さいものしか使っていなかったが、今はそんな時ではない。可能な限り巨大な火球をぶつけて蒸発させるっ!!
キシャアアアアアッ!!!!
巨大サソリは尾を振り上げ、ハサミを全開にして両腕を左右に広げる。火球に反応して威嚇から攻撃態勢に入ったか。させるかっ!!
太陽のように成長しきった火球を巨大サソリに向かって投げつける。
轟音と共に巨大な火球は巨大サソリに迫る。ゴミが霧化する程の爆熱火球は直撃し、天から反響する程の鈍い轟音を発して巨大なもの同士は融合する。
凄まじい熱風と共に大量の金属ヒュームが漂い、わたしは顔を覆い隠す。風が北の川に向かって流れており、すぐさまにそれは消え失せた。
フンッ、これが暫定Bランクの実力だっ!!
砂鉄の埃が徐々に薄まる。
仕留めているだろうか?
いいや、確実に仕留めている。あんな火球に勝てるわけがない。勝てるわけが……?
ギィィィ…………。
は?
薄くなった霧に巨大サソリらしきシルエットが浮かぶ。
何度も目を擦り、その方向を凝視する。霧が晴れると巨大サソリは原型とあの赤さを留めたまま裏返っていた。
「こんなバカなこと…………。」
再び手を上げるが、魔法にはMPと呼ばれる専用のエネルギーが必要で、休憩をとるか眠るか専用の薬を摂取する以外に回復手段の無いそれは可能な限り温存しなければいけない。あれで消滅しなかったこれ相手には心許ないが、距離を取り例のライフルを構える。
巨大サソリの手足と尾は完全に動きを止めて力が抜けたかのように垂れている。あれ以来そいつの声はしない。死んでいるのか……?
それよりも、あの熱量を以てして蒸発しない生物が他にも潜んでいる可能性がある。
もしかしてまだあのサソリは生きているのかもしれない。
震えるを天に掲げるも激しい眩暈に襲われた。MPを急激に消費させると身体全体が魔力を捻出しようと働き、身体がそう強くない者は何等かの異常を来す。直ぐに手を下ろしてその場に膝から座り込んだ。
≪情報≫
・MPの過剰消費を確認。MP過剰消費の際に生じるショックの軽減機能を追加します。MPの最大値が増加します。
≪以上≫
…………?
何だ? 文字列が脳内に……?
うっ…………。




