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1-13-3 錬金術(3)

あぁ、めっちゃくちゃ疲れた。

次から次から色んな魔物が出て来やがってふざけんな、マジで。


“ねぇ、あんな三桁も消費する巨大な火球撃っちゃって、MPはもうあと一桁だけど、体はどうもないの?”


「いや、何ともないが……そもそもだが、あんな巨大な火球なんて知らないぞ。普段はあれの10分の1ぐらいが限界だ。あれは何なんだ?」


“あれが意図しないものなら、単純に魔力暴走、言ってみればクリティカルヒットね。”


意図しないものでそんなに消費MPが膨れ上がるって……迂闊に撃てないんだが?


“魔力暴走には体質に応じて1型と2型があって、1型は暴走しても消費MPが変わらないタイプ、2型は暴走すると消費MPも増えるタイプ。あなたは2型。”


「なんだそれ、大損じゃねぇか。」


“とにかく説明を聞きなさい。1型は体にある属性と、それを形にして放出する術式がマッチして、MPというリソースを無駄なく最大限に使用される、いわば会心の出来という感じね。”


1型、良すぎるだろ。消費したMPが無駄なく変換されるなんて、いざという時打てなければそのまま死に直結する、とにかく安定性が重要なガンナーにとってこれ以上のものはない。


“2型は本来必要なMPだけ術式の方にチャージされた後、本来は途切れるはずの魔力供給ラインが途切れず接続されっ放しになるの。そこで暴走が起こると体にある魔力が吸われて、魔法側が限界に達するまで吸われっ放しになる。だから増加する。その代わり威力も段違い。1型なら3倍ダメージ、2型は魔法防御力無視の3倍ダメージぐらいの差はあるわね。”


「……魔法に関する理論とか全然知らんし分からん全て感覚でやってるから供給ライン云々すらも知らんけど、とにかく、2型はMPの消費量も威力も馬鹿みたいに高くなるでいいんだな?」


隠密行動が絶対であり、現場で所持出来るリソースは最小限、最小のエネルギー最小の騒音での確殺が理想であるガンナーにとってオーバーキルは言うまでもなく避けるべきであるが……。


“気になるんなら初級魔法でいいじゃない。魔法のランクに合わせて騒音も演出も消費MPも小さくもなるしね。だけどあなたにとって悪いことばかりじゃない。最大MPの伸ばす際にとっても有利なの。”


「あぁ? ……具体的にどうやるんだよ?」


“とっても簡単。枯渇するまで使ってぶっ倒れて、寝て、起きてまた枯渇させてを続ければ増えるわ。”


筋トレかな?

…………そんなんで増えるのか?


“一気に使用する量が多い程より増えるわ。思い立ったら吉日よ。”


『あの、あたしは1型か2型か分かりますか?』


“さぁ、暴走させてみないと分からないわ。でも、わたしが見る感じでは……いや、やってみた方がいいわね。”


なにその含みのある言い方。

でも、あの雷魔法の数々が暴走したら、特にあの電磁加熱が暴走したらわたしを含む周囲の電子機器まで巻き込まれかねないし、あの火球どころの話では済まない。かと言って雷魔法を使わせないと単なるお荷物だし……。

しかし、今まで何百何千と撃ってきて初めてのことだったけど、そういうものがあると知ると少し怖いな。


『すごい……ここだけ雲が無い……。主さま、ここは何処ですか?』


ようやくあの畑まで辿り着いた。疲れた。


「ルピナスでいいよ。言葉遣いもいつも通りでいい。」

『……プッ…………犬の名前…………フフフッ……。』


ユーリア……後で石膏と一緒に壁に塗り込んでやるからな。覚えてろ。


『じゃあ……ルピナス、ここって何処か分かる?』


急に砕けた物言いになったな。まぁ、その方が話しやすい。


「わたしにも分からん。ただ、ここは何処でも無い異世界だろうな。ほら、ここは何処までも曇天の続く荒野。何にも無い。」


テルミナは額に手を翳し、遠くを見るように周囲を伺う。

……こういう人間っぽさはとても強いのに、シルエットこそ長いツインテールとウサ耳を携えたスリムな可愛らしい女性でも顔が無いのっぺらぼうなのは不気味だな。後で顔を書いてやるか。


『……でも何だか退屈な場所だわね。ふわぁ、欠伸が出そう。』

「昨日から今にかけて意味の分からん魔物が押し寄せてるから退屈はしないぞ。あっ、そうだ。そういう魔物からここを守ってくれ。」

『了解っ!!』


魔物という二文字を聞いて手を握りしめ、押し寄せると聞いて腕を天に掲げ、元気よく返事する。体の性質は変わっても、とんでもねぇ戦闘狂なのは変わらないな。頼もしいっちゃ頼もしいが……。

それにしてもコハルさんはどこに行ったのだろう。


“あの子ならあの焼いた芋の根を届けに集落に言ったわよ。治療とか無ければそろそろ戻ってくるかも。”


「相当大音量でドンパチしてたのに集落は正常運転なのか?」


“急に変なとこに飛ばされて消沈してるのもあるし、兎に角あぁいう魔物が発生するから慣れてるのよ。あら、この音……。”


……遠くで金属が軋む音がする。


『なっ、なにっ!? めっちゃくちゃ大きいマンドラゴラを引っこ抜いたような声がするんだけどっ!?』


ギャァァァァァァァッ!!!! ギィゴゴゴゴゴゴッ!!!!!


『マンドラゴラって、あんな声出すの……?』

『相当年季の入ったハイレベルなマンドラゴラね。錬金に使える部位を残して倒すのは難しいのよっ!!』


テルミナは右手を広げると、地面の土が手に向かって流れるように集まり、それはやがて焼き物の大剣となった。土属性の特性だろうか。便利だな。


『来るなら来いっ!! 受けて立つっ!!』


“構えなくても、あれはマンドラゴラや体調管理を怠ったデュラハンでもないわ。”


グォァァァァァァッ!!!! ギッ!!!! バキッ!!!!


何かが折れた音と共に軋む音そのものが途絶えた。


「……壊れたな。」

『えっ!?』

『錆びついた車輪は限界を超えてヘブン状態に……しがらみ無き車軸は加速し続け、やがて光へと……。ギュイーン。』

「ユーリア、バカな事言ってないで見に行くぞ。」

『ギュィィィン……。』


見に行くまでもなかった。コハルさんは両手でリアカーを持ち上げて畑まで持ってきた。


「あら、戻ってきてたのですね。あの、リアカーが動かなくなりまして、どうしましょうか?」

『あっ、本当だ……。魔物じゃない、とっても美しい方……王女様みたい。』


握られていた大剣がさらさらと崩れて砂の山と化した。なんだ、その場限りか。でも、武器が壊れても困らないからこれはこれで便利。土属性、欲しいな。


『うーん、車輪が斜めになってるから折れてるね。買い替えるにしても店も無いから、材料を探すか……いや、あたしの錬金術で何とかなるかも。』

『……これ、荷台も鉄製なのね。身長はあっても全体的にすらっとしてるのに、こんな重い物持ち上げられわね。』


あの屑鉄の塊を上げる程の怪力のテルミナも、その見た目が転生前のものと同一なら相当すらっとしてるのだが。お互いその体のどこに高密度の筋肉が隠されてるのか。


「あら、真っ白なウサギさんですね。何処かで小麦粉でも被ったのでしょうか……?」

『えっ!? ウサギさん……? あっ、可愛いの比喩表現ね。』

「色々あってこんな姿だけど別に何でもないよ。」

「そうなのですね。ルピナスさまがおっしゃるのであれば、そうなのですね。」


うっかりしてたけど、常人なら悲鳴を上げて逃げてるな。そういうとこ気にしないコハルさんで良かった。


『わたしの姿を見て驚かないのね。肝の据わったお嬢さん、そういうの大好きよ。わたしはテルミナ、よろしくね。』

「コハルと申します。よろしくお願いします、テルミナさま。」


テルミナの体がプルっと震える。


『あっ、ううん、王妃様と重ねちゃって。いや、それだけじゃないかも……。コハルさんの背後から、王城に出た蒼天龍と対峙した時に似た凄まじいほどの威厳を感じるわ。騎士みーんな圧倒されて立ってるの誰一人居ないのはいい思い出ね。』


“最下位の茶色いドラゴンでも消し炭にされるというのに、その色ドラゴンでも上から数えたら一瞬の位置にいる蒼天龍だなんて、人間がどれだけ束になっても勝てないでしょ。同じ龍族や天敵のエルフならまだしも。”


『うん。わたしもライトエルフと人間のハーフだけど人間の血が強くて駄目だったわ。全員で土下座したら帰ってったわ。』


“へぇ、ライトエルフなんて珍しいわね。あっ、でも遥か西方の地、エーテルランドの北の方の変な形した半島に確か国があったわね。あるという話だけで名前は知らないけど。”


『お母さんがライトエルフだけどそういえば、国の名前も聞いたことないね。……こんな体になって、こんな所に来てしまったからもう会えないなぁ……。』


俯き、寂しそうな声を出す。

……そうだな、帰れる手立てはまだ未知だがら諦めるのには早いが、真っ白ながらもウサ耳以外のその髪型やその衣装こそ生前のものだろうけど、その何も無い顔じゃ魔物扱いされるだろうな。


“あら、ユーリアちゃん、錬金術で治すにしても錬金台とか要らないの?”


『うん、効率をよくするための媒体だから、無くても問題無いよ。』


ユーリアはその辺に落ちてた尖った石を触手の先で器用に持って地面に何やら魔法陣のようなものを書いている。


「あの、錬金用の魔法陣は、やはり書いた方がよろしいのでしょうか?」

『いや、無くてもいいよ。あった方が精度も上がるし、成功率も上がるからあった方がいいなぁって。リアカーは一台しかないしね。』


こいつも、こういう時は頼もしいな。テルミナもじっと見ているけど興味あるのだろうか?


『うーん、こういう理論的なものはぜーんぜん分からないわ。素材狩りは姫様の騎士となる前はよく素材狩りをやってたから素材は集められるわよ。』

「そういえば、あのゴミの山から正確にミスリルシャフトを探り当てたな。」

『土属性使いの特権ね。ある程度ランクが上がると何処に何が使われてたりとか、採掘する前からここに何があるかも分かるんだ。まだサーチ範囲は狭いし精度も甘いけどね。』


おい、マジか。とんでもなく便利だな。土属性、いままで地味なイメージしかなかったけど本当にいいな。欲しい。

ユーリアも手を止めて、片方の触手を口元らしき部分に置いてじっとテルミナの方を見てるし、欲しいんだろうな。


“ユーリアちゃん、リアカーを直すんでしょ?”


『そ、そうだねっ!』

『ところで、さっきから気になってたけど、何でクソムシが喋ってるの? 脳内に語り掛けてるような声だから、脳みそがグワングワンして気持ち悪いんだけど。』


“クソムシじゃなくてフンチュウ。それよりも、その謎セラミックの体の何処に脳みそがあるのよ?”


『さぁ、一応入ってるんじゃない? それよりもあなた、一体何者なの?』


“ひ・み・つ ♡ 人のことは詮索しないのが身の為よ。”


『ふーん。魔物だったらここでダンゴみたいに串刺しにしてやるのに。』


退屈なのか不満そうな声を出す。単純で助かるな。こいつ、本気出したら衛星レーザーのような魔法を使ってくれるし、流石にその体でも一撃で粉々だろう。


“衛星レーザーか。懐かしいわね。ずっとずっと西の方の国が調子に乗って、これ使って国を滅ぼしてやるぞーとか、滅ぼされたくなければ属国になれーとか言ってくるもんだから、アレがまだ隕石を降らす魔法だった頃に破壊してやったことがあったわね。本当に、人間が魔物のようなものを使役したら碌な事がないわ。”


……あぁ、ゼッペルの武器屋が核戦争前の話をしてた時にそんなことも言ってたな。こいつ、本当に――――

いや、そんな話はやめよう。


『この畑は耕している途中なの?』

「はい。つい先日、大きなサソリさんに踏み荒らされまして、植え直しのついでに面積を増やそうと広げている途中なのです。」

『なら、わたしが土属性の魔法で一瞬だからやるわね。』

「あらら、大丈夫ですよ。わたしがやりますので。」


テルミナは膝を着き、地面に手のひらを置く。


『面積指定……大体あの辺の横列を三列ほど……。』


地面が一瞬ほんの少し縦に揺れ、三列分が綺麗に耕されていた。


『よしっ、うまく行った。』『あ˝っ。』

「うわぁ、素晴らしいですっ!! では、肥料の準備をしましょう。」


ユーリアは変な声を出して固まった。


「ユーリア、どうした?」

『魔法陣がバッチバチになった。土属性が干渉しちゃった。』


書いていた魔法陣がノイズがかった画像みたいに横にブレてぐちゃぐちゃになっている。振動か何かで崩れて使い物にならなくなってしまっていたのだろう。


“いや、理由は他にあるけど、長くなっちゃうから説明はまた今度にするわ。”


なんだそれ。


『あっ、ごめん。』

『うん、魔法陣なくていいやっ!! コハルちゃん、肥料を取りに行く前にリアカーを裏返しにしてもらってもいい?』

「あっ、はい。勿論です。」


リアカーを軽々と持ち上げ、裏返しにする。この乾燥した環境だからか、真っ黒なシャフトは見た感じ錆びてなさそうだが、真ん中付近で真っ二つに折れていた。二つの車輪がシャフトに固定されて、両端に一個ずつベアリングがある簡易な構造だが、これだと仮に片方が固着するともっと端の方で折れそうな気もするんだが。


『……全体的に黒いのは硫化かな? というか、軋音が生じるほど錆びていて、こんな砂地で何で車輪が回るの?』

「さぁ……?」


“…………もしかして、デュラハンの荷台?”


テルミナの手に再び大剣が握られる。

そして同時に裏返しになったリアカーの車輪が回転を始める。


『おわぁっ!!!! 動力も無いのに回り出したっ!!!!』

『うわ、キモッ。クソムシの言う通り魔物だったのね。』


……さっきから口悪いなぁ。


『うわっ、危ないっ!!』


リアカーは飛び跳ね、三回目で宙返りを決めて裏返り、ふら付きながら畑を疾走する。


≪情報≫

魔物名:デュラハンの荷台

ランク:G

領主の霊馬に付属していた荷台。小型の霊馬であったため荷台も小さく、運搬能力も低い。主から切り離された荷台であるため、戦闘力も無く、行動力も無く無害である。

≪以上≫


「やっぱり魔物か……。」

『あれ単体でも動いてたってことか。恐るべき魔動アシスト台車……。』


鑑定の通りならランクが最低で、あの状態では無害だ。何だかもう、もう放置してもいいのではと思う。コハルさんが使ってるし。


『フフフフフッ、魔物め、成敗してくれよう……。んにゃあぁあああああッ!!!!』


あっ、ヤバい、こいつを止めないとっ!

雄たけび? ……と共に生成されたテルミナの土の剣は陽炎のように揺らめく。そして一気に燃え上がった。


“血の気が多いのをどうにかしないと、妙なトラブルを引っ張り込みかねないわね。あと、人様をクソムシなんて呼ぶその言葉遣いもね。”


『わたしの真骨頂は火と風、そして土ッ!! どんなに離れていようとも火の刃からは逃れられないっ!! 成敗っ!!』

「駄目です。」


コハルさんは刃物付きの物干し竿を両手で握り、振り下ろされようとした燃える大剣を受け止めた。剣の炎は宿った魔力が棒に吸われたかのように消えて無くなり、土の大剣も元の砂へと還る。


『えっ…………? 嘘……? 受け止めた……? 消えた……?』

「全てが悪者ではないでしょう?」


テルミナは呆然とし、立ち尽くす。

コハルさんは、教会の角から僅かに持ち手を出す魔物荷台に向かって歩き始める。


「もう大丈夫です。ごめんなさい、あなたに気付いてあげられなくて無理をさせちゃったみたいですね。」


荷台は手負いの子犬のようにふら付きながら、コハルさんの元にやってくる。

コハルさんは右手の指先に小さな白い光を宿し、荷台に触れる。


いや……何か……?

何か引っかかる……。


いや待て、魔物の場合、その体は闇属性の領域だと思うんだが、そうだとすると逆にぶっ壊しかねないぞっ!?


“あれね、コハルちゃんの手で握ってた所為だと思うんだけど、じわりじわりとコハルちゃんの凄まじいほどの光の魔力を取り込んでてね、荷台そのものが光で祝福されて、すっかりこっちの者になってるの。あと魔物だからって体は闇属性なんてことは無いわ。あの荷台はデュラハンの物だから元は闇属性だけど世界には色々いるのよ。”


『あっ…………あっ……凄い魔力、光の魔力……治癒魔法?』


“あなたも見ておきなさい。これがコハルちゃんよ。あなたはこれからコハルちゃんに仕えるの。ルピナスちゃん、あなたもそのつもりよね?”


まぁ、そうだけど……妖光蝶にしてもテルミナにしてもテイムはわたしなのに、何だかわたしの傍には留まらないな。何でなんだ?


「はい、もう大丈夫です。本当にごめんなさい、無理させてしまって。」


荷台は元気よく飛び跳ねその場でグルグル回る。


「本当に犬みたいだな……。」

『コハルちゃん、犬を引き摺って散歩させる人みたいになってたってこと……?』

「そりゃ足もぶっ壊れるわな。」


テルミナはコハルさんの元へ駆け寄り、跪く。


「あっ、あの、どうか致しましたか?」

『こっ、この度は、たっ、度重なる御無礼を……。』

「いいえ、わたくしを守ってくれようとしたのですね。」

『あっ、いや……それは……。』


違う。


“コハルちゃん、テルミナちゃんはあなたを守る騎士になりたいんだって。”


『あわわわわわ…………。まだ心の準備が出来てないのに、何てこと言うのクソムシッ!! 便所ムシッ!!! ウ〇コムシ!!!!』


“罵詈雑言甚だしいわね……。まぁ、言い方が可愛いから許すけど。”


可愛くなかったらどうなるんだ一体……。


「そっ、そうなのですかっ!? あの、えーっと……騎士様は一体何をされる方なのでしょうか?」

『わわわわっ、わたしはコハルさまをお守りし、コハルさまの身の回りのお世話をし、えーっと、えーっと、何でもできますっ!! 何なりとお申し付け下さいっ!!!!』

「ウフフッ、頼もしいですね。ですが、身の回りのことは全て出来ますし、不審な方は来ませんので……。」


コハルさん、几帳面過ぎて動作が遅いから家事とかやってもらった方が良い気もする。だが、メイドは確かEランクだけど……大丈夫なのか?



あれやこれやあって結局何時間が経ったのだろうか?

もう空も暗いし結局また1日が終わってしまった。コハルさんに命名権を譲られたユーリアによってスーパーポチと名付けられた犬荷台は定位置に戻り、皆は教会に戻る。

今日だけでどれだけの魔物と相手したのだろうか。まさか夜中も明日も魔物が押し寄せるんじゃないだろうな?


『見たことも無い様式の教会ですね。』

「申し訳ありません、掃除が行き届かなくて……。」

『いいんです。この程度の埃なら、わたしがお掃除致しますっ!』


土属性の魔法だろうか、テルミナの右手に部屋中の塵が集まり、塵は一本の大きな箒と化した。


「…………綺麗になりましたね。」


意気込んでいたテルミナはプルプル震える。

……正直、全く綺麗になっていない。乱雑に掃くもんだから塵が思いっきり宙を舞い、壁やカーテンに付着してしまっている。端の方なんか全然綺麗になってない。これがEランク……まだ下にFがあるんだろうし、アルカ大陸のように国や地域によってはGもあるし……。


「いえいえ、まだ奥の部屋がございますので、そちらを宜しくお願い致します。」

『そっ、そうね。では今すぐにっ!!』


箒を両手で握り、廊下へ飛び出す。部屋と廊下とトイレを合計しても講堂より狭いから秒で終わりそうな気がする。精度は言うまでもないが。


『あのっ!! ちょっと狭……とてもコンパクトな建物みたいで、直ぐ終わりそうなのですが……。あっ、そこの大量の食器の洗浄を致しますっ!!』

「あっ、それならお水が必要ですね。少々お待ちください。」


瓦礫の山にでもなりそう。

コハルさんは外に出る。恐らくあの水瓶を持ってくるのだろう。水属性の魔法が欲しいな。


「よいしょ。」

『え˝っ!?』


“コハルちゃんはねぇ、1トン以上はありそうなものを軽々と持ち上げらるの。”


「よいしょ。ウフフッ、この水をお使い下さい。」

『この水を……あの、これ、水瓶だけでも百キロ、水を入れると……』


“コハルちゃんに持ち上げられないものは無いわ。”


顔のパーツが無く、表情は読み取れないが呆気に取られてるのだろう。少々身長が高いぐらいで、他にそんな感じがしないこの見た目でこんなバ怪力、他に誰がいるのか。


「ウフフッ、力仕事以外でも何かございましたら何なりとお申し付け下さい。」

『あっ、ああああ……はいっ!! よろしくお願いします、ご主人様っ!!』

「ごっ、ご主人様……。」


“どっちがメイドさんなのか分からなくなるわね。あっ、もうこんな時間。行かなきゃ。”


「ケプリさま、行ってらっしゃいませ。」

「何処に行くんだ?」


“ひ・み・つ……よ。まぁ、さっきまでみたいなザコならいいけど、そうでなかったら早めに手を打たなければ一瞬で蹂躙されて滅びるわ。だから、そのためのパトロール。だけど、あのイカの件もあるし、ジョンさんにも声を掛けようかしら。”


「その、ジョンさんって?」


“ジョン・スミスさん。気になるのなら会ってみなさい。その強さから魔王と恐れられてきたほどの力の持ち主よ……。じゃあね、また明日。”


何なんだここは、元魔王まで連れてこられるのかよ……。でも、あのイカの時もそんな雰囲気の人は居なかったな。魔王だからそういう感じの人なんだろうか。いや、それならあいつが実力を認めるようなこと言わなさそうだが……。


「そういえばユーリアさまのお姿が見えませんね。」

「外で空でも見てるんじゃないか?」


あいつ、天体の本をボロボロになるほど読んでたもんな。そういうの好きなんだろう。


『ご主人様、あの、シンクの下からこのような液体が出てきたのですが。』

「あっ、それは……。」

『何やら腐敗しているような色ですし、底から小さな気泡が上がっております。破裂する惧れがありますので、捨てておきましょうか?』

「いっ、いえ、それは腐ってはないのです。これは……。」


あっ、ヤバい。


『こんな澄んだ空、初めて見たよ。ルピナスも見なよ……あれ、何してんの?』


ユーリアが寝室の壁穴から入り、ここまでやってきた。タイミングが良すぎる。


「あっ、ユーリア。わたしとノアはベッドで横になってるから後はよろしくっ!!」

『えっ?』


眠そうなノアを連れて寝室の壁の穴から外に飛び出す。


『爆発したら危険ですので蓋を開けてみましょう。』

『えっ? 何の?』

「あっ、ちょっとここでは……。」

『ふんっ、スッポーンと。』

「あっ。」

『えっ? ぐわぁぁあぁぁぁぁぁ――――――ッ!!!!!!!』


ユーリアの絶叫が響く。許せ。

ほとぼりが冷めたら中に戻ろう。はぁ、空が綺麗だな、本当に。



◇◇


……はっ!?

あれ……ここは……?


「ゲホゴホッ!!」

『えっ? これ……何なのですか? 魂を食らう冥界の牛がひり放った屁みたいな絶叫を上げて黄色いガスがブワァって出て泡だらけになったのですが……。』


何だか臭い。いや、臭いってレベルじゃねぇ……。

あっ、生暖かい液体のようなものが体に……っ!!!!!?


『くっさぁぁああああああああああああああああっ!!!!!!!!!』

『うわっ!!? びっくりしたー。』

「ユーリアさまがう〇ちのちからに浸かっちゃってますっ!!」

『えっ? う〇ち…………?』


あ~……黄色い泉、黄色い泉ぃ~……あたしは泉に投げ込まれ、コハルちゃんににた女神様に金色の体に替えてもらうんだ~♪

フッフーッ、そしたらあたしの価値は1エルから10億エルに値上げ~♪ 値ッ上げ~♪ フッフーッ♪

……待って、すっぴんのあたし、そんなに価値低いの? 今時1エルじゃ、ゴミしか買えないじゃん。あたし、ゴミじゃん。う〇こ臭いゴミじゃーんっ♪


『チッキショ―――――――――ッ!!!!!!!!』

『うわぁっ!! あ˝ー、びっくりした。ユーリアちゃん、声デカい。』

「しょっ、少々お待ちください、今すぐに洗浄を致しますので……。」

『目指せ、遥か北西のエルドラド…………ぐふっ。』

『あの、ご主人様、先ほどう〇ちのちからと申しましたが、あの、原材料は何の糞なのでしょうか?』


コハルちゃんの真っ白な魔法で事なきを得た。

そういえば、この子あの猛烈な臭いを感じてなさそうだったな。もしや、顔のパーツが無くて匂いも何も感じないんだろうか。

コハルちゃんは頬を赤らめ、目を瞑り、聖母様のようなほほ笑みを浮かべ会釈する。


『えっ?』


わたしです。そう、わたしです。いえ、実のところ真相はわかりませんが、わたしです。兎にも角にも、わたしです。美しく、優しく、全人類を抱擁するコハルちゃんの笑顔が太陽のようにビカァァァ…………。


「はい。」

『えっ?』


笑顔がビッカァァァ…………。ドン引きだろうなぁ、きったないなぁ、手を執拗に洗うんだろうなぁ……ん?

……テルミナちゃんは瓶の口を頭上に持ち上げる。一体何を……っ!?


「あっ、あの……?」

『これは、ご主人様の…………いただきますっ!!!!』

『ちょっ…………おわぁっ!!!!』


瓶に残ったブツを脳天にぶっ掛けた。黄土色の液体が頬を垂れ、真っ白な体を黄色く染める。


『……ご主人様の……液体……えへっ、うへへへっ……♡』


駄目だ、壊れた。テルミナちゃんが壊れたぁっ!!!!!!

うっ、くっせぇ…………。


「あああっ、あっ、あの、ご、ご悦のところ申し訳ありませんが、床掃除をお願いいたします……染みつくと取れませんので…………。」

『喜んでっ!! この身の全てを使い、このくすんだ床の光沢を取り戻しますっ!!』


テルミナちゃんはあろうことか液体が垂れる床に横になり、ごろごろと転がる。


『一滴も残しませんっ!! コハルさまの垢とともに一滴も残らず啜りとりますっ!!』


テルミナちゃんの体は珪藻土かな?


「だめです。普通にお掃除してください。」


明らかに声色の違うコハルちゃんの声でピタッと動きが止まる。一体どんな顔をしたのか、朧気な意識の中ではよく分からなかったが、テルミナちゃんは立ち上がって、小走りで講堂の方に消えていった。講堂のも吸うつもりか。


「ウフフッ、愉快な方です。」

『アレはちゃんと施錠保管した方がいいよ。勝手に開けられてとんでもないことになっちゃいそうだよ。』

「そうですね。全て地下に保管しましょう。」

『地下あるの?』

「はい。錬金ルーム兼倉庫で少々散らかっておりますが。」


錬金ルーム……そそられるなぁ。


『あのさ、後で見せて貰ってもいいかな?』

「構いませんよ。」


やったっ!! コハルちゃんはどんな手法でやってるんだろうなぁ。見てみたいなぁ。


◇◇◇◇


困ったわね、また成果無しだわ。ヘリックは確実にここに飛ばされてきている。彼から放たれる魔力を確実に捉えてはいるけれど、出所が分からない。怪しい場所は一通り見たけど……いいや、東にあるあの工場らしき場所は障壁が張られていて入れてないわ。コハルちゃんなら破れるんだろうけど、あんな危険地帯に連れてはいけないし……。


はぁ、教会の北の丘の上から望む荒野もいいわね。丘の上もあの子の研究施設の残骸とマギサ草が相まっていい感じに味出してるし。


……あら、教会の前に白い置物か何かがある。何かしら?

あっ、動いた。何あれ、ウサ耳生えた人型の石像……もしかして魔物? それはマズいわ。早く行かなきゃ。


『あら、何かしら……?』

「っと。あら、のっぺらぼうさんね。ねぇ、ウサちゃん。あなた、ここで何しているの?」

『ハッ、こいつはまさか、デーツの機械兵ッ!?』


何者かは分からないけど、魔物の二文字を言った途端に凄まじい殺気を感じるようになった。これはヤらざるを得ない。何だろうねぇここ最近、妙な魔物が増えすぎだなのよ。



◇◇


そういえば、ルピナスの野郎、逃げるように出て行ったけど、連戦で疲れ果ててるはずなのに何処行きやがった? 

……まぁいいか。あいつにべっとり引っ付いてるノアちゃんは元気そうだったし。


「この四角い蓋の下が地下です。」


ハッチが持ち上げられ、その下は薄っすらとオレンジ色の光が灯っていた。壁に打ち付けられたタラップを降りる。


「正面の扉が錬金ルームです。」


湿気たレンガ作りの地下室は、左奥に廊下が続いている以外は真四角で、正面と左右にそれぞれ重そうな鉄の扉が付いている。

……何だか右の扉の方が臭い。めっちゃう〇この臭いがする。方向からしてそっちはトイレだから、それに関するものがあるのか?


コハルちゃんは重そうな鉄の扉に手を付ける。軋む音と共に扉は開かれた。


「ここが錬金ルームです。」


部屋は広く、何かの儀式に使われたのだろう、奥の壁の中央に大きな女神像が佇み、左右の壁にはその女神像を崇める群衆の絵が描かれている。女神像の顔は慈愛に満ちて、優しく部屋の真ん中を見下ろしている。その真ん中には大きな錬金台らしき机と六芒星の書かれたマットが敷かれていて、周囲は黄金のオーブのような電球色の光の球体が幾つかふわふわと浮いている。

ここは教会でいう何のための部屋なんだろう?


「では、何からお見せ致しましょうか?」

『あっ、うん。えっと、普段はどんなもの錬金しているのか、見せてもらっていい?』

「構いませんよ。少々お待ちください。」


コハルちゃんは錬金ルームから出ていった。一体何処へ行くのだろう?

……それにしても結構な数の本が縦積みにされてるなぁ。これは錬金術じゃなくて医学書だ。これは帝国で書かれたものだけど、物凄い量の付箋が挟んである。勉強熱心なんだなぁ。あっ、この薬学の本も、トゥリシアの医学書も……あっ、フォの国の医学書もある。海を挟んですぐ西の大陸のフォの国は言語が違うだけでなく医学や薬学に関する解釈も異なっていて、独自のものが多いから難しいだろうに。

……何だか臭い。扉の隙間から臭気が入ってくる。


「お待たせいたしました。」

『んぐっ!!!!?』


笑顔のコハルちゃんが持つ桶の中から凄まじいう〇この臭いが放たれている。まさか……?


「では、わたくしの錬金術をお見せ致します。」


えっ、ちょっ待って、ちょっと待って。


「ウフフフフフフフッ♡」


待ってぇぇぇえええええっ!!!?


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