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1-13-1 錬金術

第13話


イカの化け物との戦いから一時間、集落から来たであろう屈強な男どもとコハルさんの働きで雨のように降ったイカの肉片は何とか片付きつつある。

肉片が小さければ力になれるのだが、一塊が大きく、吸盤一つですら持ち上がらない。


「よいしょっと。」

「ごめんね、力になれなくてさ。」

「いいのですよ。ルピナスさまは長旅から帰ってこられたばかりなのです。ノアさまもご一緒にお体をお休め下さい。」


長旅……確かにそう感じるが、一日程度では遠征ですらもない。ただ、こんなに長かった一日は初めてだ。


「コハルさーん、これここでえぇんですかっ?」

「あっ、はーい。それは肥料として使いますのでそこに置いておいて構いません。お手伝い感謝致しますっ!」


ちょっと待て、それを、その色とりどりの肉片を肥料として使うのか?

いや、確かにそれでいいのかもしれないが、これはライヤーってやつが作り出した改造生物で、一体何食わしてるか分からんぞ?

…………そう考えたら触るのも憚られる。体液一つですら何が含まれてるかも分からない。気持ち悪い……体を洗いたい……。


“ねぇ、暇ならこの降り注いだ砂鉄をどうにかしなさい。畑も屋根も茶色い砂鉄でびっしりよ。”


「……あのさ、これ、庭の石畳にうっすら積もってるとかいうレベルじゃねーぞ。これこそユーリアの雷属性が要るだろ?」


“あら、それならユーリアちゃんに頼むわ。”


なら最初からそうしろ。火属性や光属性では何にもできないのに、何でわたしに頼む?

ルナクローラーはシャラシャラと羽音を振りまきながら畑の方に回る。そういえばあいつ、何処に居るんだ?


ルナクローラーに付いていくと、畑の真ん中であの時レールガンを撃った時のように触手を前方向に伸ばして浮いていた。その触手の先は青白い光が灯り、火花がバチバチと音を立てている。


“あら、雷魔法の練習中? 精が出るわねぇ。”


『精が…………出る?』


青白い光の玉は破裂音を伴い消滅した。その触手の先からは青白い煙が上がり、鼻につくほどの強いオゾン臭が漂う。


“あらら、ごめんなさいね、集中力を乱して。”


『灰色に染まった世界に新たな生命を宿す白き泉、それはまだ見ぬ新たな世界へ繋がるたった一つの光輝く星を望む幼き魂たち。彼らの星を巡る生死を賭けた戦いが今、火蓋を――――』


“あらあらあら、ごめんなさいねぇ、ウフフッ……。”


ユーリアの性格を考えるとわざとな気がしてならない。まぁ、それは置いといて…………やること無いな。肉片の焼却なら出来るんだが。



ノアと共に教会の中に戻って壁にもたれ掛かり座ってからもう数十分、あぁ、空腹だ。

あの肉片を焼いて喰う気にはなれない。かと言って食べるものはない。どうするべきか。

……わたしは一応冒険者、無いものは自力で何とかするしかない。この世界に来てしまったのは完全に想定外だが、冒険者はどんな想定外に備えて行動しなければならない。コンバットレーションの一つ持ってないのはわたしのミスだ。


……そうだ、コハルさんが言っていた果樹園に行ってみるか。


ふら付く足に鞭を打ち、立ちあがって窓際に寄る。コハルさんは畑仕事を、ユーリアは一人魔法の練習をしている。みんな凄いなぁ……あんな元気なんて無いわ。


“ウフフッ、あなたなら、あなたなりに出来る事があるんじゃないかしら?”


振り返るとルナクローラーが細い白い物体を大量に抱えて浮いていた。


“お腹が空いたのならこれを食べればいいでしょ。あなたは火属性の使い手、これを焼く事もお手の物でしょう?”


「あぁ、マギサ草の根か。これはお前が採ってきてきてくれたのか?」


“その子の竜巻でマギサ草の茎や葉が方々に飛ばされたでしょ? それが地面に落ちて次々と根を伸ばしてるのよ。その一つが畑の近くで繁殖しちゃってて、それを抜いてきたの。”


まだそんなに時間が経ってないのにもう繁殖してるのか……。なんて雑草だ。


“う〇ちの力で祝福されたのもあるのかもしれないわね。あの子、わたしの研究チームに居たらどれだけあの研究が進んだことか……。あいつに嫁がされることも無かったのに、はぁ、自分の才能の無さを恨むわ。”


「研究……? なぁ、ユーリアも言ってたが、本当にナニモンなんだ?」


“詮索は厳禁。この呪いが鎖を引き千切ってわたしがわたしで無くなっちゃうわ。”


「あぁそうか、悪いな。」


“分かればいいのよ。それで、マギサ草の根はまだ山ほどあるし、コハルさんがあの状態だから炊き出しもままならないのよ。だから、あなたの火でいい感じに焼いて頂戴。”


あぁ、そういうことか。わたし、こういうところ本当に頭が回らないな。気が利かなさ過ぎる。


“……そうそう。砂鉄の除去を頼んだ時の解答言っていい?”


「何で今更……?」


“ノアちゃんを使えってこと。ユーリアちゃんだと一度発動した魔法の魔力の指向性は変えられないから一度上方向に飛んだらあとは落ちるだけ。ベクトルを合成する必要のある斜め方向には今は困難だし、横方向は凹凸に引っかかるからぶっ飛ばすにはかなりの魔力が必要。そも、教会も金属部品が多いから壊れちゃうわね。だからノアちゃんの風魔法で旋風を起こして一点に集めてどこか遠くへ持っていくの。”


はぁ……確かにわたしの言う事しか聞かないからな。


「だけど、ノアの風魔法じゃ教会ごとぶっ飛ばしかねないぞ?」


“何を……これほどの風属性の使い手はこの世に存在しないわ。ノアちゃんなら精密なコントロールは余裕よ。”


ノアはわたしにもたれ掛かるようにして眠っている。

この感じからと、魔法や技の一発一発の破壊力が非常に大きいところからそうは感じないが……。


“あなたは人を知ることね。よく理解して、適切に指示を与える。あっ、根から芽が出ちゃうから早く焼きなさいっ!!”


ルナクローラーが持っている根の束から緑色の芽が出て、絵に描いたような見事な双葉が顔を出していた。何て生命力だ、こいつは。

つーか……この根っこ、洗いたいな。



さて、これがマギサ草の根ですよと畑の隅に用意されていたそれは一山二山…………ちょっと待て、わたしの身長以上の、下手したらコハルさんの背丈はある山が五山ほどあるんだが?


“この砂のような土壌だとコハルちゃんの力で一気に引き抜けるから捗るわ。”


白い根同士が繋がってマットレスの中身みたいになっている。こんな状態のものなんて食えるのか?


“さぁ、焼きなさい。この状態でも成長するから、早くしないと食べられなくなるわよ。”


芋を焼く……か。火属性が得意ってったって……いや、役立たずで終わりたくなければやるしかない。火属性初級の火球で……よしっ!


“いい感じね。何だかとっても硬そうだけど。”


硬そう? あぁ、マギサ草の根のことか。そりゃ硬そうだわな。

火球はこぶし大で小さいが、植物の根は水分があるし、あの時生で食べたマギサ草の根に油分を感じなかったし、本当に中まで焼けるのだろうか。


“ウフフッ、何でもいいからやってみなさい。”


何だか含みのある言葉だなぁ。

とにかく火球を…………行けっ!!


“あらあら、やっぱり吹っ飛ばしただけね。”


根の塊に火球があたり、燃えるどころか吹っ飛んで、マットレスのバネのように跳ねて転がる。


「やっぱりって、知っててやらせたのか?」


“あなたの火球は密度が高いからねぇ。そんな硬い火球なんてそうそう見ないわ。火属性使いから見たら羨ましく思う程にね。それよりもあなた、ドラゴニックフレアとかヴォルカノブレイザーとかバーニングアッパーとか、その手の技、いけるでしょ?”


あ……えっ?

何その子供が大好きそうな名前の技……身に覚えがないが。


“炎の柱、地面経由でぶっ放せるでしょ?”


あっ、あぁ、あの時ノアを連れて虫が湧く地底から脱出しようとした時に咄嗟に思いついて使ったあの炎の壁か。そうか、それならじっくり焼けるな。


『ねぇ、何やってんの?』


“あっ、いいところに。ユーリアちゃん、雷の魔法でこのマギサ草の根をレンチンしてくれない?”


『レンチン?』

「……マイナーな歴史書でしか見ないそんな古い言葉よく知ってるな。お前、一体何さ――――」


“年齢なんて聞くもんじゃないわよ。”


声色が変わる。その円らな瞳と共に手に持った水晶玉共々真っ赤に染まる。女に年齢なんて聞くもんじゃない。


“それは置いといて、ユーリアちゃん、当然ながら電子レンジは知ってるわよね。世界三大家電の一つの、あの電子レンジ。”


『うっ、うん。当然だよ。あっ、マイクロ波加熱……。』


雷属性で重力属性のような芸当をやってのけたこいつなら……。あぁ、クソ、仕事取られちまう。

ユーリアは触手同士を触れ、円を作り根の山に向ける。


“因みにレンチンは、電子レンジで食材が温め終わったときになる音がチンッ♪ だったからそういう呼ばれ方してたのよ。チンするという言葉があるぐらい広まってたのよ。”


「……そういう音出すそれ、見たことないけどな。一体いつの製ひ――――」


ユーリアの方を向いていたルナクローラーはくるりと回ってつぶらな瞳をこちらに向ける。赤くはないものの、その丸い目からは静かな威圧を感じる。


『おいしくなーれ♪ レンレンチンチンレンチンチーン♪』


“その歌詞はどうかと思うけどね。”


うん。どうかと思う。本当に。


『あっ、香ばしい香りがする。もうそろそろかな?』


“うん、あと少しね。”


チッ、旨そうな匂いしてやがるなぁ……。


『あっ、いい感じ。』


“もう良いんじゃない? これ以上やったら焦げるわよ。”


『チーンッ♪』


“いい感じねぇ。でも繋がってるわねぇ。マギサ草の根は焼いても硬いのよ。”


『そればかりはどうにもならないなぁ。』

「美味しそうな香りがしますね。あら、マギサ草の根を焼いたのですか?」


“あら、コハルちゃんもいい所に来たわね。この根を引き千切ってくれない?”


「構いませんよ。あっ、その前に畑仕事の後ですのでお手を洗ってからにしますね。」


空腹の限界だ。余りにも美味しそうな香りで…………。


“あら、誰かお腹の虫が鳴ったわね。”


『あら、ウフフフフフッ…………ルピナスぅ? あなた、これ欲しいのぉ?』


欲しいが、欲しいんだが……己のプライドが施しを拒む。


『もう、強情なんだからぁ、ほら、ほらぁ、欲しいなら毟って食べなさいよ。ほらほら。』


ユーリアはわたしの周囲を巨大なハエのように飛び回りながら小馬鹿にするような口調で挑発する。叩き落としてやろうかと思ったけど、今はそんな元気すらもない。


“ところで、ノアちゃんも食べる?”


「たべる?」


ノアは首を傾げる。

そういえば、あの地の底からここに至るまで何も食べていない。オルビスは無駄に精巧に作られているから必ず食べなければならないし、出さなければならない。


“ふーん、ノアちゃん、エルフェイム系統のエルフのようにかなり省エネ仕様に作られてるみたいだから、まだ必要としないのね。”


「そんなことも……なぁ、正確に鑑定できるのならノアについて教えてくれないか?」


“駄目よ。教えられない。自力で向かい合えるようにしなさい。”


「チッ、またかよ。なぁ、ノア、こいつからお前のこと教えてもらってもいいか?」

「うーん?」


ノアは首を傾げる。


“ほら、ノアちゃんも分かんないって。”


…………まぁいいか。自力で……自力でどうにかなるのか?


“さぁさぁ、早くしないと根から芽が出るわ。丁度五つ根の塊があるから、どちらが多く焼けるか競争ね。”


「はぁ? ちょ待てよっ!」

『よーしっ!! ルピナスには負けないぞっ!!』


……チッ、まだ何も食べてないのに……。

役立たずで終わりたくないし、勝負に乗ってやるか。


「あの、お手を洗ってまいりました。」


“あっ、競争は根を全て千切って解くのものも含んでるからね。”


クソッ、マジか。

……ノアに任せてみようか。


“ルピナスちゃんは吹っ飛ばした根の塊をここに戻すことから始めてね。ここ以外で調理するのは失格だから。”


「ちょ……ふざけんなっ!」

『ルピナスぅ?』


……ユーリアにちょっとイラッと来たのもあるが、ちょっといいことを思いついたので、大人しく根の塊を取りに行く。


根がバネとなり、100メートルほど先まで吹っ飛んでいた。小走りで根の所まで行き、試しに持ち上げようとしたが重くて辿り着くころには負けている。だが、ここまで吹っ飛んだ原因、わたしの高密度らしい火魔法でもう一度吹っ飛ばして元の位置に戻す。ついでに…………。


まずはコハルさんの観察。しゃがみ込みゆっくりゆっくりと根っこをブチブチと千切っている。これなら当たりはしないか。

よしっ、やるぞっ!!


転がってる根の塊に火球をぶつけ、あの時のように吹っ飛ばす。


「ユーリアさま、大きさはこのぐらいで大丈夫でしょうか?」

『えっ? ……うん。多分それぐらいで大丈夫だと思うよ。でも、集落の人の歯とか顎の力とか大丈夫なのかな?』

「あっ、ユーリアさまっ!! 前ですっ、前っ!!」

『前?』


根の塊はユーリアの方に向かって一直線に飛ぶ。


『えっ? ――――――ぐふぉぁっ!!!!!!!』

「ユーリアさまっ!!」


ものの見事に直撃し、勢いは衰えることなく吹っ飛んだ。畑の隅ぐらいまで跳び、根の塊は大きく跳ねてどこかへ飛んでいってしまった。これであの金庫の件を含めてあと30ぐらいか。よし走って戻ろう。


「ごめん、火力調整をミスった。」

「もう、ルピナスさま。ユーリアさまに当たったじゃないですか。」

「ほんとうにごめん。」

「謝るのならユーリアさまにですよっ! もう……。」


コハルさんの怒った姿を初めて見た気がする。いや、ついさっきユーリアに対してやり過ぎて声色が変わってたな。

……本気で怒らせないように気を付けなければならない……。


“ねぇ、それ本当? わざとじゃないのぉ?”


「わっ、態とじゃねぇわっ!」


“嘘。全部聞こえてたわ。”


……こいつの心の声を聴くときの聴力、範囲は一体どこまでなんだ?


『ルーピーナースぅ~?』


背後からユーリアの声がする。そして頬に何かほんのり温かい細い何かが触れる。咄嗟に感じ、振り解こうとするも奴は振り解く隙を与えない。


「いっ!!!!」


左右の頬を中心に電撃が走る。人工筋肉は痙攣し、どこか分からない部位がガタガタと震える。


“ユーリアちゃん、出力を最小まで抑えてるんだから温情と思いなさい。”


『電流はマイクロオーダー、でも電圧は10万ボルト……どこまで耐えられるかなぁ?』


いや、無理。無理。無理無理無理むりむりむりむりむりむりっ!!!!


「あっ、あの、これ以外に何かあったのでしょうから、何も知らないわたしに言う資格は無いと思いますが、あの、もういいんじゃないでしょうか?」


ユーリアの電撃はピタッと止み、わたしは膝から崩れ落ちた。ノアは珍しそうな何かを見る目でわたしの頬を指で触れる。痛いからやめて欲しい。


『そっ、そうだね。やり過ぎちゃったらコハルちゃんの雷を悪用しちゃったことになるね。ごめん。』


“もう、何がなんだか……。だけど二個焼けてるけど三個目も焼いちゃう?”


『あっ、早く焼かないと芽に栄養を取られちゃうっ!!』


“ルピナスちゃんはちゃんと吹っ飛んだ根の山を回収して来なさいよ。それともその状態だからリタイヤしちゃう?”


畜生、もう何もやる元気なんて残ってない。

わたしは横にぶっ倒れ、指を交差させて無理であるという意を示す。そしてそのまま意識を失った。



◇◇


ルピナスはぶっ倒れて、コハルちゃんに運ばれて教会の中に連れて行かれた。世話の焼ける子だなぁ、全く。


“まぁ、あなたもだけどね。さぁ残り二つを焼いてしまいなさい。”


残りも電磁誘導加熱魔法で焼こう。でも電磁誘導加熱なんて長いな。インダクションヒーティング…………IH魔法にしよう。そうしよう。


“IHか、昔あったわね。電子レンジこそ魔法での代替は限られるけど、IHはガスコンロのようにそのまま火魔法でどうにでもなるし、そも電力をかなり食うから完全に廃れたわねぇ。”


『えっ?』


“独り言よ。間違っても年齢なんて聞くんじゃないよ。早く焼きなさい。”


いや、年齢なんて聞こうとも思ってないけど。だけどIHコンロなんて歴史書でも核戦争前までの歴史にしか出て来ないから個人的に興味があるだけなんだけど?


“あんまり人様を詮索するものでは無いわ。ね?”


ローリエさんのまぁるい目から、もんのすんごい圧を感じるので大人しく根を美味しく焼く。


『………………アイエイチ、アイエイチ、アイエッチ、あたしはエッチふんふ~ん……♪』


“何その下品な歌? というかアムが足りなくない?”


何だか顔が熱くなる。IH魔法を使い過ぎたかもしれない。冷却をしなければ。つーて風も吹いていない。空気は生暖かい。顔は熱くなり続ける。あっ♡ ヤバい、爆発しちゃうぅ♡


“単純に変な歌聞かれて恥ずかしくなっただけでしょ? はい、四つ目。”


『…………うん。』


四つ目が焼き終わった頃、コハルちゃんが教会から出てきた。あいつめ、コハルちゃんに世話掛けさせて、もう…………。


「遅くなり申し訳ございません。」

『ううん、今焼き終わったからゆっくりやろう。』


とはいえ、あたしにはこれを引き千切るほどの力は無い。それ以前にこの不器用な触手で根を握って千切ろうとしたら、根が触手に食い込んでとんでもなく痛い。元の体も非力だけど、ハサミが使えるし力になることはできる。でも、そうするとここから離脱しなければならないから無理だ。何とかして力になってあげたいな……。


“雷属性でどうにでもなるわよ。雷魔法で砂鉄を集めて刃物のように薄くして発射するかそのまま切ればいいし、砂鉄を集めて、電磁力で噴射してカッターのように切ってもいいし、その辺に落ちてる包丁を電磁力で持ち上げてとか……色々と応用が効くわ。雷魔法は万能と謂われる所以ね。”


あっ、あぁそうか……あれが出来たのならそういう事も出来るのか。そのサンドブラストのように射出しても強そうだな……。

……今まで得た知識を総動員させれば何でも出来そう。


『コハルちゃん、ちょっとあたしから離れてて。』

「あの、何をするのですか?」


触手同士を近づけて小さな円盤をイメージする。周囲から砂鉄が集まり、そして銀河のように渦巻き、禍々しいほどのドス黒い銀河……高速回転する円盤が生成された。これを根に向けて…………発射っ!!


「わぁ……すっぱり切れましたね。」


“確かに切れたけど範囲が狭いわね。あと、それなら回転のこぎりみたいにそのまま切ってしまった方が再生成に時間を取られないからいいと思うわ。”


ローリエさんの言う通り、可能な限り大きく生成して、高速回転する円盤を焼けた根に押し付けてスパスパと切り飛ばした。この触手、とっても便利っ!!


「あらまぁ、ウフフッ、わたくしの出番はありませんね。」

『ふぅ、雷属性は色んな使い方が出来るんだね。』


“でも残りMPには気を付けてね。本当はそれが数値化されて見れるほどの鑑定レベルがあればいいんだけど、まぁでも、その都度コハルちゃんの例のブツを摂取すれば全回復だから問題は無いわね。”


コハルちゃんのブツ……待って、それは……。


「ウフフッ、たーくさんありますよ♪」


やめてくれーっ!!!! 聖天使様の笑顔も眩しっ!!!! ぐわーっ!! 目が、目がぁぁああああっ!!!!

……いや、待てよ。そのう〇ちのちからって、錬金術で作ってるとは聞いたけど…………作ってる現場も見てみたいな。コハルちゃんの錬金術、興味あるかも。


“ねぇ、コハルちゃん。ユーリアちゃんがう〇ちのちから作ってるとこ見たいって。”


『あっ、いや……これを集落に届けなければいけないから大変そうだし、また今度でいいよ。本当に。』


あの生のブツも使うみたいだし、生成物はあの有様だし、見るだけでも相当な心構えが要る。


「構いませんよ。わたくしもユーリアさまにご教示頂きたいことがあります。ですが、やはりこの根を集落へお届けになってからで構いませんでしょうか?」


“そんなの集落のクソニートどもを呼びつけて持っていかせればいいじゃない。”


クソニート…………。そういえば、あのフーリッシュって人、何処行ったんだろう。さっきまで手伝ってくれてた人の中にその姿は無かったし、あの後一人で逃げちゃったんだろうか。


「いいえ、わたくしの手でお運びいたします。」


“そういうとこ頑固ねぇ。本当に。あの腑抜けどもの為にならないし。”


コハルちゃんは教会の裏手の方に向かう。歩く速度が遅いし距離があるのでかなり掛かりそう。


“トイレの裏付近にリアカーが置いてあるの。ただ、かなり錆びついててコハルちゃんじゃないと動かせないわ。”


そのトイレの裏からインチコガネが、黒い何かを抱えて翅を羽ばたかせ何処か遠くへ飛んでいく。あんな所に置いてて臭くならないんだろうか?

……そういえばその近くの壁に大穴が開いてるけど防犯的にどうなんだろうな。直してあげようか。


“あの穴は寝室に繋がってるわ。昨日遠くに行ってる間にあれと同じサソリの襲撃にあったみたいでね、その時に壊されたの。まぁでも、それはコハルちゃんが直すからいいわ。”


……そんなに悠長でいいの?



ギィィィィィイイイイイッ!!!!


「んおわっ!? なっ、何だっ!?」


ンギィィィィッ!!!! ガガッギギッ!!!!


クソッ、寝てる間に機械系の魔物が奇襲しに来やがったかっ!?

今日一日だけで一体何難あるんだっ!!!?

レーザー銃は…………あぁ、クソ、ストレージバッグの奥底に入っちまって届かねぇっ!!

ほっ、本当に何なんだっ!?


「うーん……動きが少し悪いですね……。」


ん?

聞き覚えのある女性の柔らかい声がする。つーか、ここは何処だ?

狭い部屋にベッドが一つ、横には熟睡しているノア、ベッドの直ぐ横に机と椅子がワンセット、散ったレンガと謎の壁の大穴……。あっ、そうだ。ここは教会だ。

……あいつに電撃を貰ってから頭が変だな。わたしはあの後どうやってここまで来たんだろう?


「後で直しましょう。ふんっ!!」


ギギィィィイイイイイッ!!!!!!


ベッドから立ち上がり、出入口ほどの大きさのある大穴から畑を望む。

……音の正体はコハルさんが引いているリアカーか。コハルさんは難なく引いてるが、見ただけでも車輪が回るだけでも奇跡的としか言いようがないぐらいに錆び切っている。

コハルさんの行く先にはユーリアとルナクローラーらしき浮遊した小さな物体が見える。わたしの出る幕は……いや、あるか。


………………何だろう、急にムワッとした湿気に鼻に突く何かが腐ったような匂いが、コハルさんの行く先とは逆方向の何も無い荒野の方から漂ってくる。

手で口と鼻を押さえ、その方向を向き目を凝らす。


「……渦巻?」


かなり離れた所に上空に平たい黒い渦巻のような何かが二つ生じていた。

片方は大きく広がり、中から何かがボタボタと落ちてくる。同時に腐敗臭のような異臭が強さを増す。

暫くしてもう片方も広がり、中から重そうなものがガラガラと大量に何かが地上に落ちる。

ここは色んなところがゴミ捨て場として利用しているみたいだから、あれがそうなのだろうか。

……あれって、場所とか決まっているのだろうか。決まってなければ、場所を問わず落ちてくるということで大災害だぞ?


…………ん?

何か光るものが硬そうなゴミに混ざって落ちてきたぞ。ECセルなら拾いに行きたいが、この臭いの感じから生ごみが近くに山になってるんだろうし、近づきたくはないな。チッ、迷惑だな本当に……。


一旦ベッドに座る。そうだ、今の内にあの二丁のレーザー銃の点検をしておこう。えっと、バッグを振ったら出てくるかな……。

あった。あっ、クソッ。バッグからレーザー銃を出した時に例のライトブレードも一緒に転がり出てベッドの下に入ってしまった。

砂だらけの床に四つん這いになり、ベッドの下を見ると、奥の方に青緑色に淡く光る物体が一つ転がっているのが見える。これは紛れもなくECセルだ。それにセルの中のクリスタルの大きさからして新品だ。やった、これで勝つ――――っ!?


ベッド下のECセルが動いた。


「ちょっ……ちょっとっ!? 何なんだっ!!?」


ベッドの下からECセルとライトブレードの柄が飛び出し、一瞬の間を置いて飛び出した白い何かがライトブレードを弾き飛ばし、ECセルを掴む。


「チッ、てめぇかっ!!」


ECセルを大事そうに掴むあの白いウサギだ。こいつめ、散々わたしを振り回しやがってっ!!!!


銃を構え、レーザーを照射する。そのコンマ何秒の間にクソウサギは壁の大穴から外に飛び出していった。ウサギはあのゴミの山の方へ向かって猛スピードで飛び跳ねる。あんな所へ持っていかれたら近づきも出来ない。あんのクソウサギが。つーか、何でわたしが寝ていたベッドの下に居んだよっ!?


“あら、もう体の方は大丈夫なの?”


ルナクローラーが大穴から中に入ってきた。


「まっ、まぁ、あの程度なら何も問題無いが……。」


“ウフフッ、あの程度ねぇ……。コハルちゃんのことだから、差し詰め、治癒魔法で回復させてくれたんだと思うけどね。”


えっ……あっ……そういうことか。


“お礼、言っときなさいよ。あなた、雷属性は弱点の一つなんだから気を付けときなさい。”


そうだな……というか、サラっと言ったが、雷属性はかなり珍しいし、ガンナーで後衛職だし、食らった記憶は無いけど弱点なんだな。気を付けておこう。


「そうだ、畑のずっと南の方角にブラックホールみたいな渦が出来て、そこからゴミが落ちて来たんだけど、あれって外界からのゴミ?」


“あっ、何だか臭いと思ったら、また落ちてきたのね。そう、その通りよ。あれは愚かな人間が出したゴミ。”


「愚かなって……あれって、落ちる場所は決まってるのか? それともランダムだったりする?」


“残念だけどランダムね。あれは魔物化することもあるから、わたしはあの落下地点の調査もしているけど、残念ながら、何の規則性もない。”


「ちょっと待って、魔物化するってどういうことだ? ライヤーって奴の失敗作も含んでるのか?」


“ライヤーって鬼畜の存在を知ったのは昨日の話だから知らないけど、でも、そうじゃない可能性もある。その魔物はゴーレム系。ゴーレムは魔術により生み出させる人造の使い魔、もしくはその地域が持つ瘴気などの澱んだ魔力により生成される魔物。こんな土地だから何が生じてもおかしくはないから後者の可能性もある。”


要するに、ライヤー産でもなければ、その他の帝国兵器でもない、何処にでも出るただの魔物か。


“…………もしかしてここは……?”


「どうしたんだ?」


“いいえ、ここに十年以上居て今更ふと思ったけど、ここって、ワンフロアだけの広大な――――”


突然、地面が激しく揺れる。天井からは砂粒がポロポロと落ち、床に落ちたままのライトブレードの柄はコロコロ転がる。


“ゴミの山が魔物に化けたわね。この揺れはジャンカゴーレムかしら?”


ゴーレムは泥のクレイゴーレムや岩のロックゴーレム、鉄製のスチーラゴーレムぐらいでジャンカゴーレムなんて聞いたことも無い。


“ジャンカゴーレムは大量の金属屑を用いて生成されるし、要求される材料は最大級だから余程体裁の悪い産廃処分場でもなければ見ないわ。巨大だから地響きの威力も最大級よ。”


クソッ、最悪かよ。あんなのどうやって駆除するんだ?


“あら、この感じ……ジャンカゴーレムの他にダスタゴーレムも発生したのね。困ったわねぇ。あっ、ダスタゴーレムは生ごみとかの可燃物で生成したゴーレムで、これは要求量は全ゴーレムで最大だから、余程の――――”


「それはいいから、どう駆除するんだ?」


“ジャンクゴーレムは火属性と雷属性が、ダスタゴーレムは火属性と緑属性が弱点だから、あなた、ノアちゃんとユーリアちゃんを共に狩りなさい。レベル上げに最適よ。”


『ぎゃあああああああっ!!!!!! 何かめっちゃくちゃデカいのがこっちに来るっ!!!!!!』


外からユーリアの絶叫が響く。クソが、サソリにしてもイカにしても、何でこんなに客が多いんだ?


「……コハルさん、あの時やさっきみたいにやってくれないかな……?」


“駄目よ。コハルちゃんのレベルは240あるからね。”


は?

にひゃくよんじゅう?


“あの子だとダスタゴーレムですら一撃だから経験値を全部吸われてコハルちゃんの糧になっちゃうわ。”


「じゃなくて、レベルの最大は100では?」


“それは人間での話でしょ。人間基準での尺度だから、魔族や龍族は100を超えて上がるわ。人間なんてそれらから見れば鼻糞程度なのよ。魔族の血が入るわたしだって190なんだから。あっ、言っちゃった。”


「あっ……えっ? ちょ、待てよっ!!」


“まぁ、頑張りなさい。あなたは30を目指して。ノアちゃんは3だから20以上に、ユーリアちゃんは大学時代の戦闘訓練とかもあって30あるから35ね。”


えっ、わたしはユーリア未満かよ。つーか、ノアはあの能力で3かっ!?


“わたしがあの花畑で見た時は2だったけどね。”


『おい、ルピナスッ、起きてるなら出てこいっ!!!!』

「あぁ、糞が。戦えってかっ!!」


床に転がるライトブレードの柄を拾い、壁の割れ目から外に飛び出した。



外に出る。南の方角には雲に僅かに届かないぐらいの巨大な何かが二体、黒い人型をした何かがそこに立っている。左側の顔の真ん中に大きな赤色の光の丸が一つ、そいつよりも大きい右側には黄色い光の丸が二つ左右に並んでいる。あれは目だろうか。

それは三つともこちらに向いている。

遠くて体表が確認出来ない分、より一層不気味さが増す。あれを倒せ……だと?


「あらまぁ、今日はより一層大きな巨人さまですね。」

『コハルちゃんっ!! 危ないから逃げてっ!!!!』


“大丈夫よ、あの子はあんなザコにはやられないわ。因みに赤い単眼がジャンカゴーレムで黄色い双眼がダスタゴーレム。間違ってダストに雷をぶち込んでも回復することは無いから安心して。”


『えっ、待ってっ!? あれと戦うのっ!!!?』


“パーティメンバーはルピナスちゃんがリーダーでノアちゃんはルピナスちゃんを抱えて飛行、ユーリアちゃんは浮遊出来るから雷属性で赤い単眼を攻撃して。ゴーレムにはコアがあるから……いや、答えを教えるわけにはいかないわね。行きなさい。”


再び何もかもが激しく揺れる。巨人の一歩は大きい、あんまり猶予は無い。

……待てよ、今までにも発生したんなら、一体誰が戦ったんだ? いや、サイクロプスとタメ張れるあのジーナが居るし、共通の弱点は何処にでもいる火属性だから集落に魔道士ぐらい一人はいるか。


それにしても、こんな巨大な魔物、わたし等で倒せるのか?


“大丈夫、余裕よ。さぁ、さっさと倒して己の糧にしなさい。”


『いや、待って、さっきのイカのウン十倍あるじゃんっ!!!!』


“大体9倍ぐらいね。ツギハギだらけだから堅そうに見えても防御はクレイゴーレム並みよ。行きなさい。何もかも踏みつぶされるわよ。”


その言葉を信じてノアを起こす。


「うーん……どうしたの?」

「ノア、空、飛べるか?」

「そら…………うんっ!!」


ノアはベッドから飛び起き、両腕でわたしをしっかりと抱える。いや、まだ寝室の中だ。ここで飛ぶと天井を突き破ってしまう。

ノアを外に引きずり出してこっちを見下ろす巨人を望む。


「ノア、行くぞっ!」

「うんっ!!」



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