1-12-2 雷の魔法(2)
扉の隙間から外を見る。そこには、最早クリーチャーとしか言いようの無い巨大なイカに似た謎の生物が、例の洞窟の穴付近で鎮座していた。
目が胴体にも無数にあり、非常に気持ち悪い姿をしている。関わりたくはないが……。
一難去ってまた一難……ふざけんな、このクソが。
……集落の男だろうか、数人が剣を持ち戦おうとしている。とても勇敢な男たちだが、慣れていないのかイカの触手に弾かれ次々と吹っ飛ばされる。冒険者もこのイカのような規格外の超大型魔物と戦うこともあるが、やはり慣れていないと似たような目に遭う。
クソッ、早くどうにかしないと集落も何も無くなってしまうっ!!
『あっ、あれ…………間違いなくライヤーが作り出したブツだ。半年ぐらい前に企画書を見たけど……。』
「またライヤーか……。今度は一体何なんだ?」
『文面を見た感じ、本人はイカのつもりで作ったらしいけど、多少潰れても機能するようにと目玉は多いし、水陸両用にするために触手に隠れてるけど下に巨人の足があるし、例の如く自爆装置は付いてるしで……。』
ばっかじゃねーのか、そのライヤーって野郎は。
……まぁ、兵器としては機能するんだけど、機能はするんだろうけどっ!!
クッソ迷惑だっ!!!!
“イギャァァァァアアアアアアッ!!!!!!!”
「……イカって、あんな鳴き方するのか?」
『そもそも鳴くわけないでしょっ!!』
イカらしきものは咆哮を上げるのと同時に胴体が大きく膨らみ、そして一気に萎む。地面全体に黒い靄のものが湧き始め、湖底から発生する泡のように黒い泡のようなものが天に向かって次々と噴き出した。
『わわわわわわっ!! 危ないっ!!!!』
「こら、暴れるなっ!!」
幸いにもここは範囲外かここまでは来ないみたいだが、確実に他に技を持っているはずだし、今見つかるのは危険だ。
「はわわ……吹っ飛ばされてしまいました……。」
「あんな巨大な魔物に立ち向かうんだ、技術は無くてもそれなりに屈強な奴だろ。」
そう思いたいがな。しかし、あんなもの一体何処から湧いて出てきたんだ?
「俺だ、フーリッシュだっ!! おいっ!! 誰か居るのかっ!?」
腕組みをして考えていると若い男性の声が響いた。間違っても飛び出してはいけない、ノアとコハルさん以外は皆後衛。慎重にならなければならない。
慎重に…………。
「誰か居るのかっ!?」
突然扉が開いた。心臓が止まるかと思った。
『ぎゃあっ!!!!!!!!』
「このクソ野郎、開けんじゃねぇっ!!!!」
「誰だ、このガキとイカみたいな物体は。あっ、美しい踊り子……まぁいい、コハルさん、あのバカイカに見つかる前に逃げるぞ。」
「いっ、いえ、あの…………。」
「バカかっ!!!! あのイカはこの扉の正面、間違いなく既に見つかってるぞっ!!!!」
イカの方を見たら胴体についた無数の目は全てこちらの方を向いている。
全て地についていた触手も浮かせてウネウネとしてるし、捕らえる気満々だ。
「退け、バカっ!!」
「誰がバカだ……グフッ!!」
バカ男の股を蹴飛ばす。わたしが囮になってコハルさん雷魔法を撃ってもらおう。
「このイカ野郎、捕まえれるものなら捕まえてみろっ!!」
あんなデカブツに下手な攻撃は逆に怒りを買うだけ、目を潰すにしても多すぎる。いっそ、光魔法で一時的にでも目を潰すか、それとも火魔法で……いや、ライヤーって野郎が外道以外の何物かは分からないし、火属性に強くなるように設定しているかもしれない。鑑定出来なければ何も分からないっ!!
≪鑑定≫
魔物名:F1097-59UID(失敗作1097)
海洋生物に様々な生物をブレンドした失敗作。巨人と合成したことにより足が生え、陸上へ進軍が可能となるが、巨人が持つ凶暴性が仇となり、制御不能となり廃棄された。元々オスであったためか、美しい女性を好み、また元々の特性であるためか、同族を排除しようとする。
弱点:雷属性、重力属性(特効)
耐性:火属性(無効)、氷属性、緑属性、闇属性、時空属性(無効)、物理攻撃(強耐性)
≪以上≫
この野郎、火属性効かねぇし。ふざけんな。ライヤーって野郎、火属性に並々ならぬ執念があるようだな。クソめ。
『どっ、どうするんだよっ!?』
「……お前はバッグの中に引っ込んでた方がいいわ。コハルさん、あの時の雷なんだけど、撃てる?」
「かっ、雷ですかっ? やっ、やってみます。」
コハルさんは薙刀を両手でしっかりと握り、教会の外へ出る。
いや、準備するだけなら中でも出来るだろ?
遠隔攻撃だし、そもそもドアの隙間から相手を見ながら撃てるだろっ?
あのクソイカは美しい女性が好みだとか書いてあったし…………。
『あいつ、目ん玉全部がコハルさんの方向いたけど……。』
あっ、ヤバい。
「コハ――――」
「あらっ?」
イカの巨大な触手の内の二本が鞭のように振るわれ、リボンで物を掴むようにコハルさんを絡め取り空高くへ持ち上げられた。
「あらあらあらあらあらあら、なっ、何ですかーっ!?」
『こっ、コハルちゃーんっ!!!?』
そのまま触手であれやこれやされるかと思ったが、いじめっ子が他人から玩具を奪った時みたいに天高く持ち上げて左右に振っている程度で済んでいる。
コハルさんも一般的な女性のように甲高い悲鳴を上げないので刺激せずに済んでるし、本来なら攻撃のチャンスなんだが……その主砲がコハルさんなんだからどうにもならない。あぁ、何もかもうまく行かねぇ……。
『ねぇ、火属性が駄目ならノアちゃんのキューブパズルでどうにかならない?』
「駄目だ。威力が足らなければ逆効果だ。今はただアレを怒らせるな。」
クソッ、どうするべきか……何もかもが足らないっ!!
「あー、イカさんだー。」
『ノアちゃん、出ちゃ駄目っ!!』
出入口を塞いでるつもりだったが、考え込んでいる内に横をすり抜けて外に出ていた。目だらけのイカの上半分は持ち上げているコハルさんの方を、下半分の目はノアの方を向いている。このままだとまたあの触手が――――
『ノアちゃんっ!!!! 危ないっ!!!!!!』
ユーリアが飛び出し、自らの触手でノアを弾き飛ばしたつもりがビクともせず、飛んできたイカの触手をノアは華麗なステップで躱し、代わりにユーリアが触手に絡み取られ持っていかれた。
……勇気は認めるが、ノアのあの体幹、お前の力で揺らぐわけないだろ。
『おぎゃあああああああああああああっ!!!!!!!!!!』
「クソッ、叫ぶんじゃねぇよ、刺激したらどうなるか……。」
間髪入れずに次の触手が飛んでくる。ノアは鞭の如く振り回される触手を次々と躱す。
『痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いぃっ!!!!!!!!!!!!!!!』
「ゆっ、ユーリアさまっ!!!!」
ノアは大丈夫そうだが、ユーリアは何度も地面に叩きつけられている。あの見た目の所為で同族と見做されて、叩きつけて殺そうとしているのだろうな。
「ノアっ、さっきみたいに剣を出してあの触手を斬り飛ばせるか?」
「うんっ!!」
ノアの背中にあの妖精の羽が二対、手にライトブレードのような粒子状の剣が左右一対、エルフィンフォーム展開か。コハルさんは無事そうでもユーリアがヤバいし、かなりの魔力を消費するから手早く済ませたい。
ノアは迫りくる触手を居合の如く斬り飛ばす。このイカは物理耐性があると鑑定結果にあったが、そんなものノアの攻撃力に掛かれば耐性だろうが何だろうが障害でも何でも無いのだろう。
“ヌギャァアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!!!!!!!!”
最早イカとは思えぬ絶叫は、ユーリアのものとは違ったベクトルで耳に突き刺さる。
……こうなればもう時間の問題だ。今は怯んでいるが、直に大暴れするだろう。クソッ、無力なわたしが憎い……。
「ノア、斬って斬って斬りまくれっ!!」
「うんっ!!」
ノアはその場で剣を振るう。その軌道に沿った三日月型の残像がイカの触手に向かって一直線に飛び、触手の根本に当たる。だが、直接当てなければ威力が足りないのか、斧で切れ目を入れた樹木のように完全に切れていない。
イカはブチギレたか、触手や動体はみるみる内に赤くなり、最早ゆでだこのように真っ赤に。触手もコハルさんの方は変わらないが、ユーリアの方はきつく締まり、だらんと垂れた細い触手が僅かに見えるのみ。
イカの胴体から黒い液体のようなものが汗のように流れ出し、それは胴体から剥がれて棘のようになり、ノアに向かってマシンガンのように撃ち出された。
触手を使わないのは斬られてしまう為だろうか。それにしてもノアはステップの他にバク転や側転で美しく躱しきる。何て運動神経してるんだ、本当に。
“苦戦してるようね。”
シャラシャラと羽音を立て、ルナクローラーは上空から降りてくる。
“大事な用があって遠くに出てる時に限って、こんな厄介なのに出くわすとはねぇ。”
「お前の力でどうにかならないのか?」
“わたしは時空属性を中心に緑属性と土属性、そして闇属性を持っている。土属性が効くかなぁって程度で後は見事に耐性あり。それに加えてあいつの魔法防御力なんか馬鹿げた数値してるし、巨人なんか取り入れてるから直ぐにバーサークモードに移行するし、あんな体質だから物理攻撃もノアちゃんの斬撃が通る程度だし、無駄に再生能力を持ってるからしばらくすれば元通りだし……今の帝国はこの地球上の全生命を滅ぼしたいのかしら?”
これ以上ない程の殺戮性を持った生物兵器なのに、制御不能にしてしまうとかライヤーとかいうやつ、よく研究者なんてしてられるな。バカじゃないの?
“あなたの思っている通り、あんなの帝国内で暴れられたら、それこそ帝都も周辺の街も一瞬で芥の山だわ。ライヤーって人、あいつの次ぐらいの汚点だわね。さて、どうしたものかしら?”
あれを超える汚点って……一体誰なんだ?
“ノアちゃん、凄いわねぇ。”
ノアはイカが放つ黒い矢も黒いミサイルみたいな爆発する弾も、さっき使った地面から突き上げる黒い火柱みたいなものも全て躱しきる。魔力残量はまだ大丈夫なんだろうか?
“……そうね、あの闇属性の技はどれも物理攻撃力が乗ってるから、闇属性完全耐性でも吹っ飛ばされるし突き刺さるわ。巻き込みが発生するけど、そろそろ決着をつけた方がいいわね。”
「巻き込み? まさか、ノアにも攻撃が当たるんじゃないだろうな?」
“ノアちゃんには当たらないわ。ユーリアちゃんはもろに食らうわね。”
「ユーリアか……ならいいや。」
“…………あなたも非情ね。さて……、コハルちゃーんっ!!!! あなたの渾身の雷をそこのバカイカにぶち込みなさいっ!! これは命令よっ!!!!”
こいつが時々口にする命令の二文字はただの口癖じゃないのだろう。この二文字はルナクローラーが口にすると女王様から命令されたかのように体が動く。
「かっ、雷ですかっ!?」
そういえば、コハルさんはあの薙刀を持っていない。掴まれた時に何処かに落としたのだろう。
“あんな妖刀は発動には不要、精々避雷針程度だわ。あんなデカブツに避雷針なんて不要よ。コハルちゃん、早くしなさいっ!!!!”
「はっ、はいっ!!」
コハルさんは両手を組む。ぽっかり穴の開いた雲のその上に暗雲が立ち込め、それは渦を巻く。
“コハルちゃんはね、本来は天候をも操れるのよ。まるで本当のドラゴンのようにね。今はスキルが欠けてるから似たようなことしか出来ないけど。あっ、そろそろ落ちるわ。目を瞑りなさい。”
目を閉じた瞬間、閃光と同時に轟音が響き渡り、周囲のものをガタガタを揺らす。いやもう、あの時もだけど何なんだこの威力は。
“チッ、外したわね。雷属性は扱いが難しいのは分かるけど、よりによってその触手に当たるのかしら。でも……。”
目を開けると、ユーリアが握られていたであろう触手の半分ほどが無くなり、切れ目が焼け焦げていた。いや、待て、ユーリアはっ!?
「えっ…………ユーリアさまっ!!!?」
≪情報≫
無属性の特性により、新たな属性をインストールします。
インストール:雷属性
ランク:XS
高ランクのため、インストールには数分を要します。
≪インストール中≫
えっ、ちょっと、わたしにっ!?
“それは無属性の能力ね。でも、これは多分、あなたではなくユーリアちゃんね。インストール、またはラーニングは魔力に濁りがなく限りなく純粋で、それでもってXSまたは最上のXYZランクの魔法に直撃した場合にも得られることがあるの。得られるランクは本人の能力次第だけど、XSランクもの属性が得られるなんてあの子…………フフッ、やはりフンコロガシになってもわたしの目に狂いは無いわね。”
≪インストール完了≫
雷属性追加によりMP最大値300パーセント増加。雷属性の魔法直撃時のHPへの変換能力追加。
≪以上≫
“うわぁ、MPが3倍になるの? フザけてるわね。”
本当にふざけてる。雷属性なんて実質的に無効じゃないの。
『うおわぁぁぁあああああああああッ!!!!!!』
何かが地面の中から土を巻き上げロケットのように飛び出した。煤だらけになったユーリアだった。
「ユーリアさまっ!! ご無事でしたのねっ!!」
“良かった、雷属性の吸収は後から得たから死んだかと思ったけど生きてたわね。”
『はぁ……はぁ……ルピナス、あんた後で覚えてなさい……。』
「何でわたしの所為なんだ?」
“ユーリアちゃん、そこのバカイカまだ生きてるし、竜のお姫様はまだ捕らわれたままだわ。あなたの雷でやっつけてみなさいっ!!”
『かっ、雷…………っ!?』
“イメージしなさいっ!! 今の見えたでしょっ!?”
『うっ、うん……やってみる。』
ユーリアは触手を左右並行になるように伸ばす。あんなので雷を落とせるのか? あいつは一体何をするつもりだ?
“この芥の山なら幾らでも媒体はあるけど、威力には欠けるわね。まぁ、でも、見たい気持ちはあるわ。このままやりなさい。”
一体何を……。
触手の間にバチバチと激しく火花を散らす眩しく輝く物体が一つ浮いている。砂鉄のような黒い砂を吸収しながら徐々に大型化し、輝きも増す。
“ふぅん、雷の弾というか雷の元そのものをねぇ……あれの威力は見た目以上にあるわね。コントロールできる雷、最高じゃないの。”
『……レールガン、喰らえッ!!!!!!』
落雷に近い音と共に発射され、それは胴体の右上とコハルさんを握る触手の真ん中付近を消し飛ばして斜面に突っ込み、目の前で落雷したような閃光を放って大爆発した。
イカの悲鳴と共に砂が舞い、そしてコハルさんも宙を舞う。その体からは触手が離れ、クッションになるものも何もない。高さも重力加速度もコハルさんの質量も全てひっくるめても受け取れ切れないし、どうしようもない。ユーリアもレールガンとやらを撃ってかなり魔力を消費したか、その反動で触手をだらんと垂らしたままボーっとしている。
“コハルちゃん、オルビスでもかなり詰まってる方だから、質量というか体重というか、かなり重いから持ち上げるのも困難ね。でも大丈夫、あの子の体力と防御力と魔法防御力は屈強な龍族の男性も泣いて逃げるほどハチャメチャで滅茶苦茶に高いから、そのまま落としても大丈夫よ。”
「落として大丈夫って、大丈夫なわけないだろっ!?」
「わぁぁぁぁ~…………」
『…………はっ!! コハルちゃんっ!!!!』
ユーリアは気が付いたか、そのまま触手を再び前に向ける。今度は体が妙に軽くなり、上方向の重力魔法を食らったような感覚になる。
“あの子、雷属性で重力属性と似たものをやろうとしているわね。中身はもろに金属だから落下速度を相殺できるかもしれないわ。”
わたしは少し浮き、地面の砂鉄も浮き上がってるように感じる。ユーリアは触手を一気に上に向けると、それらは天地を逆転させたかのように砂鉄が雨のように天に向かい飛ぶ。同時にわたしもノアも飛ぶ。
“砂鉄の雨が痛いわね。あの子、雷属性をあんな使い方出来るのなら、魔力にしっかりと指向性を持たせる方法を教えないといけないわ。あぁ、金属の体じゃなくてよかった。”
状況からして手段は選べないのは理解できるが、どうにかならんのか?
「ルピィちゃーんっ!!」
エルフィンフォームを解除していなかったノアは疑似反重力状態の中、こちらに向かって飛び、天に落ちるわたしを抱きしめて流されないように滞空する。雷属性にかなりの耐性が無いと出来そうにない芸当なんだが……。
“とっても有能な子ね。大切にしなさい。”
あぁ、大切にするよ。でも、どう育てていこうかな……。
電磁力による疑似反重力は徐々に緩み、体の感覚は元に戻る。ノアは重力の変動に対応し切れているのか、滞空をし続けている……。いや、待て、空に向かって飛んでいった砂鉄や屑鉄は……?
“あら、砂鉄の雨と屑鉄の雹が……。”
「わぁ、あめだー。」
「ノアっ!! 目に入るから上見るなッ!!!! 目閉じろっ!!!!」
ドザァと黒い雨が降る。重力属性のように上方向の後に反動で下方向に重力が掛かってたら地面に叩きつけられてたけど、これは単純に効果が切れただけなので大したダメージにはならなかった。だが滅茶苦茶痛い。
……あいつ、覚えてろよ。
コハルさんは地面に降りていた。あれで吹っ飛ばされなかったのか?
“コハルちゃんは雷属性を吸収するけど完全じゃないから、それがいい塩梅だったのね。すーっと降りてきたわ。”
ユーリアも今度こそ反動で呆けてしまったか、スーッと地面に落ちる。
コハルちゃんはユーリアを拾い上げ、ぎゅっと抱きしめる。そのクリオネ型のボディが小さすぎて、大きすぎず小さくもない美しいサイズの胸と胸の間に埋もれていた。
『んんんん~……苦しい……』
「わっ、ごめんなさいっ!」
そういえば、あの体の何処に呼吸する所があるんだろう。
『ふぅ……体、大丈夫?』
「わたくしは大丈夫ですが、本当にごめんなさい、雷を落としてしまって……。」
『ううん、平気だよ。それに、コハルちゃんの雷を少し貰っちゃった。お礼を言わなきゃね。』
“ぷぎぃぃぃぃぃ………………。”
『いけない、あいつ、まだ生きてるっ!!』
“胴体あれだけ失って生きてるってどうなのよ……。雷属性が効くのは変わらないわ、ぶち抜きなさいっ!!”
ユーリアが再び触手でレールを作ろうとした時、イカは触手に隠されていた巨人の二本脚で立ち上がり、しゃがみ込んで北方向にミサイルのように跳び上がった。逃げるつもりかっ!?
「ハッハッハッハッ!!!! 真打ち登ッ場ッ!!!!!!」
聞き覚えのある声が響き渡り、何か黒い人型の何かがイカに勝るとも劣らない勢いで遥か北の丘の上から跳び上がる。それは同じく跳び上がるイカと重なり、そしてイカは天頂から股の間に掛けて裂け、左右に分離した。
『えっ、えっ!?』
「この声は…………。」
“あら、美味しい所持っていったわね、あの子。”
イカは空中で大爆発し、周囲に吸盤の付いた白い肉片や毛の生えた赤い肉片、目玉や内臓などの破片が悍ましいほど降り注ぐ。
そして、その黒い何か、というかジーナは何度か回転してスマートに着地を決めた。
「ジーナさまっ!!」
「ドンパチ鳴ってるから来てみたら、何よこの気持ち悪ぅい魔物……でも無事で良かったわね。」
ユーリアは弾丸のようにこっちへ飛んできてバッグに収まった。
「あら、そのデバイス、あんなバカみたいな大魔法使ってたし、何なの?」
“魔石が埋め込まれたデバイスよ。最近西の大陸で流行ってるの。”
「あらあら、魔石だなんて、爆発したら大陸一つ消し飛ぶじゃないの。」
“そうならないように工夫ぐらいしてるでしょ。それよりも、あなたも色んなとこ跳びまわってるのなら、こういう妙な魔物見かけないの?”
「見ないわねぇ。もしかして見てない内に転送されてきたのかもしれないわ。」
“やっぱりね。ランダムならタチが悪いけど、一応集落の人々から目撃情報を集めてポイントを絞った方がいいわ。”
「分かったわ。あたいはまた警備に出るけど、何かあったら情報をお願い。」
“分かったわ。”
ジーナは手をこちらに向けて振る。そして再び飛び上がって丘の向こうへ消えて行った。
いやいやいやいや、待てよ、あの写真、何なんだよっ!!!!
『……あいつ、行った?』
「クソッ、やり損ねたっ!! あいつ、今度遭ったら顔をレーザー銃でシャワーヘッドにしてやるっ!!!!」
“ウフフッ、あの写真は永久保存版ね。”
「おいこら、その写真返せっ!!」
“やーだー。あっ、そうそう。ユーリアちゃん、その雷属性、絶対に悪用しちゃ駄目、約束して。”
『えっ? そっ、そりゃあもう、コハルちゃんから貰ったものだもん、そんな悪用だなんて出来ないよ。』
ユーリアはじっとコハルさんの方を見る。
「えぇ、わたくしからも。ウフフッ、でも凄いです、新たに属性を得るだなんて初めて聞きました。」
わたしも欲しいなぁ。欲しいよなぁ……クソが。
火属性も、低ランク光属性も緑属性も地道に上げるしかないよな。どうせわたしの体は火属性以外は中々慣れないし、無属性を含めてその四つを大切にしよう。




