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1-09-3 脱出(3)

狭い通路を小走りで進むと直ぐに階段室に行き着いた。階段は上階以外に下階へも続いているが、降りて直ぐの所から下は完全に水没してしまっている。そしてもう一つ、階段室には一枚の重そうな扉があり、またしてもウサギのシールが貼られた誘導標識は、この階段の先ではなくその扉の方を向いている。


『そういえば、この鉄扉の奥は確かボルトエリアね。』

「ボルト? 部品でも置いてるのか?」

『VAULTでボ・ル・トっ!! まぁ、クソデカ金庫って意味よ。』


巨大な金庫……ここの事なので考えるまでもなく、試作品ではない実際に運用される鉄の塊が大量に保管された金庫だろう。金庫と言えば鍵がかかっている。そのコードはユーリアが知っている。どうせユーリアは止めるんだろうから、脱出と称して鍵だけ開けさせて、鉄の塊が停止している間に一体残らず破壊してやろう。

でも、焼き尽くすにしても、わたしのMPは尽きている。では、どうやって?


『ここにはね、プレディカドールたちが保管されているの。』

「だろうね。」

『ここが無事なら、まだ立ち直れるわ…………フフンッ、見せてあげるわ。ここを開けなさい。』


硬いグレモンハンドルを力いっぱい持ち上げ、扉を開く。中は狭い通路の続きで、長い階段を降り少し進むとウサギの絵のラッピングが貼られたフォークリフトや、同じくウサギマークのロゴが入った装甲車が何台か放置された広大な空間と、これまた十メートルはあろうかという大きなウサギのマークが描かれた巨大なシャッター、そしてその正面に同じく巨大な丸いハンドルの付いた恐らく金庫室の扉があった。こんな巨大な金庫の扉なんて見たことが無い。

これで金品の山が入ってたら最高なのに、あの鉄の塊だなんて、萎える。


『やったっ!!!! 無事みたいねっ!!!!』


バッグからユーリアが飛び出し、この小扉の近くにある大型のコンソールに触れた。二本の長い触手で画面に触れる。


『えーっとまず管理者レベルの更新で……って、何でこんなところにウサギみたいな形したマットが敷いてあるのよ?』

「あっ、そうだ。さっきから色んなところでウサギの絵とかマークとか見るんだが、ほら、あのフォークリフトとか。お前、そんなにウサギが好きなのか?」

『えっ!? あっ、いや、ウサギは好きだけどさ、あんなラッピングとか知らないし。いや、本当に誰だよ、あたしの知らないとこでこんなに描きまくったり貼りまくったりしたの誰よっ!?』


……意図的じゃないのなら猶更不気味だな。あの夥しい数のウサギにさっきのウサギの縫いぐるみやら落書きやら……。一体誰が何のために……?


『まぁいいわ。とりあえず中の確認を……ちょっとこっち見ないでよ、これは帝国の軍事機密なんだからね。 』

「見てないわよ。」


わたしは首を横に向ける。ノアは渡した5×5のブロックパズルに夢中なので大丈夫だろう。


『管理者レベル1を9へと変更っと……えーっとパスは……”13841469519415116094330572703657595919530921861173819326117931051”』

「よくそんなに長い数字覚えられるな。」

『これはね、円周率の……って耳塞げっ!!』


耳を塞ぐポーズをして聞き耳を立てる。


『それで、ここはアレとコレとソレを同時押しして“289589933”で、次にコレを13回連打して”32582657”で……


……こんなの、到底覚えられない。


『”44945570212853“と入力してOPENと表示されて10秒待ってから押す。これで待たなかったり、12秒を超えてから押すと最初からやり直しだからね。』

「お前、見るなつって独り言で全部答え言ってんじゃねーか。」


コンソールの画面を覗き見る。ウサギの絵が“OPEN”と書かれたプレートを持っていた。これのGUIにもウサギが居んのかよ。


『よし、オープンっと。』


けたたましい程のサイレンが鳴り響く。例のキャノンボットのように壁が裏返り出てきた黄色い回転灯がグルグルと回っている。よく見たらウサギの耳のような特徴的な突起が付いていた。

金庫の大扉はプシュプシュと音を立て、ロックだろうか鉄の杭のようなものが何本も動き、巨大な丸いハンドルが何周も回って大きな扉は開かれた。


『よし、開いたぞ。』


開かれた大扉の裏側に回る。大扉の裏にはやはりというか、大きなウサギのような金属製のプレートが埋め込まれていた。今はそんなことよりも金庫の中を見る。


…………何だか思ってたのと違うな。


『えっ……?』


金庫の中とは思えない空間、先ほどのゴミの洞窟と同じ構造の全面ゴミ仕様の横穴だった。ただ、あの傾斜路と違ってとても広い。

中は薄明るく、青白い光で満たされている。光源がさっきのそれとは打って変わって大きなシリンダーの何かが培養されてるようなカプセルが所々壁から突き出して、それが妖しく青白く光っていた。


『うそ……何よこれっっ!!!!!!!!』


ユーリアは絶叫し、猛スピードで金庫だった場所に突入する。光源は入口だけだろうか、ゴミの洞窟の奥は真っ暗で先が見えない。

付いていく義理もないので、わたしはここで待機する。どうせ抜け道があったとして、脱走した所であんな体では何も出来ないだろう。ましてやあんな性格である。



十分経過。帰ってこない。

わたしは誘導標識の差す方、当然金庫の方ではなく巨大なシャッターでもない、もう一つの扉を開いてみた。そこは通路ですらなく、さっきのゴミが詰まった壁だった。そしてゴミの中にウサギの縫いぐるみがめり込んでいる。閉めようと思ったら閉まらなくなったので半開きで放置する。まさかとは思うが、他の非常口も同じように塞がってるのでは……。

……こういうのは絶望しかないので考えないようにしたい。


二十分経過。帰ってこない。

あのブリゴークがいないとも限らないし、巨大サソリでも侵入しているかもしれない。ブリゴークなら鉄をも齧るし、ヴリゴキーヌの件でまだ敵意を持っているかもしれない。


三十分経過。帰ってこない。

コンソールに触れてみる。画面には体に“CLOSE”と書かれたウサギの絵が表示が付いている。時々“Touch me!!”と表示が出るので多分押すと閉まるんだろうけど、放置したまま閉めるのも忍びない。まだあいつが何処に居るのか聞いてないし、あれやこれややりたい拷問が残っている。


「ノア、ここに残っててくれるか?」

「やだーっ!! ノアもいくっ!!」


頬をぷくーっと膨らませてポコポコ叩く。その左手にブロックパズルを持ったままなので普通に痛かった。



せっかくノアに貰ったMPを温存するためレーザー銃を構える。

ノアには引き続き5×5のブロックパズルを持たせておく。もしかしたら、あの6エレメントキューブが強化されるかもしれないからだ。でも、もうノアの事だから数百回は完成させてるかもしれない。


青白く輝くゴミの洞窟をただひたすら歩く。所々壁から突き出たガラスのカプセルには何が入ってるんだろうか、妖しく光る透明な液体だけが入っている。


ひたすら歩く。意外なことにウサギに関する物体には一つも出会えていない。

ここは順路ではないというのか?

振り返えってみると、さっきの部屋の明かりがとても小さく見えた。遠くまでやってきたみたいだけど、これ以上は危険だ。


……だけど、もう少しだけ進んでみよう。



ここから更に数百メートル、何だか両足の踝に違和感を感じる。今日はもう歩き過ぎたか。

ただひたすらに歩き、次第にゴミの空間ではなく、岩肌の洞窟へと変化してゆく。そしてあのドーム状の空間に行き着いた。まさかとは思うが、ここも例の岩屋なんだろうか?


しかし、あの岩屋とは違い、明るく光るものが無いので全体的に暗いけど、代わりに地面にびっしりと生えたあのマギサ草が淡く青く神秘的に光っている。立ったままボーっと見ていたいぐらい美しい。もう吸われるMPも無いので大の字になりたいけど、何処にどんな敵が居るのか分かったもんじゃないのでぐっと堪える。


花畑を少し進んだところで、ユーリアは二本の触手を大きく伸ばして、人型で言えば大の字になって天を見ている。


「あんた、何のんきに寝てんのよ。」

『あーはははははっ……なーんにも無くなっちゃってる……はぁ……。』

「………………帰るわよ。」

『分かったわよ……。うん? あんたその足……』


二本の触手で触れようとするわたしの足を見る。

血の気が抜けた。


『あんた、マギサ草に寄生されてるじゃないの。』


気付かなかったがブーツを突き破ってツタのような植物が這い出ている。それは肌が露出している膝から下の部分まで小さな芽がポツポツと生えていた。それも両足。

最悪だ、あの巨大ブリゴークの黒炎を食らった時だ。


「なんだろう、これー。」


ノアがしゃがんで足に生えたマギサ草を触る。神経がそれと同化してるのか、草を触られると全身がゾワゾワする。今でこそ足の感覚もあるけど、もし無くなれば歩けなくなる。早く戻ろう。


「ノア、そんなもの触ってないで帰るぞ。」

「うんっ。」


ユーリアをバッグに押し込んでこの不気味な洞窟を出ようとした。


パリンッ


背後、ずっと遠くでガラスが割れるような音がした。同時にマギサ草は淡い光を失う。振り返るとドームの中央付近に向かって紫色の明かりが集まって行くのが見える。


“オギャァ……”


「ユーリア、何か喋ったか?」

『あんなダミ声の赤子みたいな声出すわけないでしょ。』


“オギャァ……オギャァ……”


ドーム内を赤子のような声がこだましている。

こんな場所で?

というか、ガラスが割れたような音は何だ?

何故、マギサ草は光りを失った?


『ねぇ、あれは罠よ。何でこんな地底の密閉された空間に赤子なんているのよ。いても魔物よ。そういう方向に頭の回る狡猾な魔物だっているの。』


無意識に声のする方へ歩みを寄せる。

ギルドでの依頼で占拠された施設などでの赤子の保護はよくあった。わたしはこんな子供みたいな見た目だから、そういう依頼の指名もあった。アンも辺境の地にある教会が山賊に占拠された際に救出して……それから……孤児院で預かって育てている。

わたしは本当は人が嫌いだ。だけど、何だか、刷り込まれているような、放っておけないというか……

何だかあのユーリアが入る前の白黒のクリオネが言ってた事を思い出す。オルビスは強い願いによって生み出される。


“オギャァッ!! オギャァッ!!”


はっとした瞬間にはもうドームの中央付近まで来ていた。地面には割れたシリンダー状のカプセルが刺さっていて、赤子が地面を這っていた。

触れようとした瞬間、目が合った。血の気が引いた。


”アウゥ……“


左右の目以外に額にも大きな目が一つ、更にその額の左右に前へ突き出た尖った角、肌はよく見れば濃い紫色、その肌も太い血管が浮き上がっている。


「くっ、魔物か……!!」


レーザー銃を突きつける。けれどトリガーが引けない。

魔物だって分かっている。けれど指が動かない。


“ウフー?“


その恐らくギガース系の魔物の赤子はわたしの足に生えたマギサ草に触れる。知らず知らずの内にマギサ草は薄い紫色の花を咲かせている。


「うっ……ぐっ!!!!」


触られた途端、胸倉を掴まれたように意識が強く引っ張られた。その魔物の赤子は忽ち急成長し、三メートルを超える筋骨隆々のギガースへと成長した。その両腕には固定式のトンファーのような大きな突起があり、先には大きな穴が開いている。

銀髪混じりの黒髪は長く、色が反転したその魔物の三つの瞳はこちらを向いている。


『おい、逃げろっ!! そいつはレッドギガースだっ!! 帝国が培養したSS級の魔物だっ!!!!!』


逃げろって言われても腰が抜けて動けない。それに足の感覚も無くなりつつある。それに培養って……まさかと思うが道中のあの突き出たカプセルももしかしてそれか?


『グウウウウ……』


ユーリアの大声に反応したのか、唸り声をあげ、全身の筋肉が盛り上がる。顔は顰め、三つの目はずっと遠くを見ている。足の筋肉が大きく盛り上がり、強い風と共に目の前から姿を消した。その途端


『うわっ!!!!! 危ねぇっ!!!!!!』


左耳から右耳へ突き抜けるような爆発音が何度も鳴り響く。わたしは足を引きずるように何とか動く触られなかった左足で後ろを向くと、あのギガースは腕から生えた銃砲のような棒の先から属性の分からない魔力弾を何度も発射してユーリアを追いかけて行った。


『うわぁぁあああああああっ!!!! こっち来んなっっ!!!!!!!!』


ユーリアには悪いが、ターゲットになってもらうか。


「ノアっ! 危ないからこっちに来てなさいっ!!」

「はーいっ!!」


だけどどうしよう、足が本当に動かない。触られてからも花は増え続けている。わたしの何を吸っているのだろうか、花は淡く紫色に輝いている。


≪情報≫


無属性の特性により、新たな属性をインストールします。

インストール:緑属性

ランク:E

……………………インストール完了。

緑属性追加によりMP最大値10パーセント増加。


・緑属性追加により魔物のテイムが可能になります。術者が持つ属性などに応じて生物を使役することが出来ます。


≪以上≫


またか。この岩屋は緑属性に対応した精霊の加護があるのか。

緑属性を得たのと同時に足に生えてた植物は引っ込んだ。足から全身に吸収して消えて行ったような感覚。ランクは低いが緑属性、また一つ芸が増えたぞ。


それよりもテイムだ。聖獣や神獣を契約したり手懐ける召喚士とは違って、主に魔物や動物などを手懐けるのがテイマー……ワクワク感が体の奥底で渦巻いている。


いや、そんな暢気なこと思ってる場合じゃない。ここから出ないと、離れないと。


「むしさんだー。」

「はぁ? えっ、どこ?」

「そこ。」


ノアが指さす先はあのマギサ草の大きな紫色の花。よく誰かの魔力を吸って一際大きく咲いたそれに薄い緑色に輝く蝶が蜜を吸っている。確かこれは夜光蝶か。夜光蝶は夜行性の蝶であって発光するものの総称だけど、この個体は知らない。逃げ去ったあいつなら知ってるんだろうけど……。


ノアが興味深そうな顔してるし、試しに指に乗せてみようか。夜光蝶は基本的に人馴れしていないので近づいただけでヒラヒラと逃げる。案の定、指を近づけただけで空を舞った。


何となくだけど、敵意が無いことを脳内で念じながらヒラヒラ舞う蝶を見つめてみる。


…………


蝶はUターンし、わたしの方へヒラヒラと飛んでくる。人差し指を立てるとそこに蝶が留まった。


ノアに見せようとした時、既にキューブパズルに夢中になり興味は失せてしまっていた。何だよ、もう。


≪鑑定≫

名称:妖光蝶

種族:虫

ランク:S

性別:メス

説明:極めて珍しい蝶。マギサ草を好み、産卵から成虫まで全てマギサ草に依存し成長する。体内には魔力が濃縮され、夜間には淡く輝く。オスとメスで発光色が違い、オスは濃く青く光り、メスは淡い緑色に光る。群れず、単独でいる事が多い。


保有属性:緑属性(ランクC)、風属性(ランクS)、闇属性(使用不可)


≪以上≫


……虫なのにランクS?

緑属性も風属性も持ってやがるし。つーか、風属性のランク……何だよ、ここは。単なる虫ですらわたしを遥かに上回ってるじゃねぇか……。


≪テイム≫

必要属性:緑属性

必要レベル:エレノアの現在値を使用する。

妖光蝶をテイムしますか?

≪応答待ち≫


「えっ!?」


何か、魔物と戦い、その戦いの中で心を通わせて、手を翳して何か必要な契約を結んで、それで向こうが応答すればテイム完了みたいなのかと思ったら、何だか物凄くあっさりしてる……。

というか、必要レベルの欄がよく分からない。ノアのレベルを使用するということなんだけど、何でわたしじゃないの?


≪テイム≫

妖光蝶をテイムしますか?

≪応答待ち≫


「うっ…………うん、テイムする。一応。」


≪テイム≫

妖光蝶:テイム完了。

≪以上≫


……これでいいのかな?

本当にあっさりしている。もっと、こう……情に満ちた物語みたいなのかなと思ってたからなんだかなぁ……。


蝶は何故かノアの頭の上に留まる。ノアが気付いて触れようとするとヒラヒラと舞って、またノアの頭上に留まる。


「ノア、触らないの。鱗粉が取れると弱っちゃうからだめ。」

「はーいっ。」


何故ノアなんだろうと思うがそれは後だ。

わたしもマギサ草が消えて何とか動けるようになったので、さっさとこのドームから出ようか。


「グォォオオオッ!!!!」


ギガースの声がゴミのトンネルの方から響く。

その直後、それは猛スピードで洞窟から飛び出してきた。ユーリアに振り切られたのか、それとも…………?


どちらにせよ、ギガースはじっとこちらを見ている。いつ襲われるか分かったもんでない。


「ノア、魔力は大丈夫か?」

「だいじょーぶだよっ!!」


ノアは言いたいことを察知したか、わたしに抱き着き、あの六本の羽根を出して宙を舞った。

ギガースも逃げ失せることを察知したのか、逃がすまいと同時にトンネルに突入した。


「うっ…………」

「ルピィちゃん、だいじょーぶ?」

「あっ、あぁ大丈夫だ。そのまま全力前進で突き抜けて。」


ギガースとすれ違った途端、激しい眩暈が襲った。脳内を吸い取られるような、身体で覚えてるものを全部吸い取られるような……変な感じ。


「グオオッ……マ……マテ…………。」

「……えっ、言葉を喋った。」


そう言えばそうだ。ユーリアの時は両腕のトンファー型のキャノン砲から弾をガンガン撃ちまくってたのが、わたしの時だと全く撃とうとしない。

こいつは本当に敵意があるのか?


≪テイム≫

必要属性:火属性

条件:無し

レッドギガースをテイムしますか?

≪応答待ち≫


「はぁっ!?」


見ようと思ったけどノアの飛ぶ速度が速くてもう見えない。つーか、何で…………?


ゴゴゴゴゴゴ……


空振を伴う何かが転がるような音がする。

もしかしてあの野郎、わたし達を置いて扉を閉めようとしてるなっ!!


≪テイム≫

レッドギガースをテイムしますか?

≪応答待ち≫


「クッソ、なっ、何でだよっ!?」


ゴゴゴゴゴゴゴ…………


迷ってる間にもあの金庫の扉が閉まろうとしている。閉められたら終わりだっ!!


≪テイム≫

レッドギガースをテイムしますか?

≪応答待ち≫


「ごっ、ごめん、拒否する。」


≪テイム≫

テイム中断。テイムに失敗しました。

≪以上≫


「………………ノア、全力だ。」

「おっけーっ!!」


背後から強い風を感じる。前をよく見ると、蝶はわたしから離れてノア以上の速度で飛んでいる。先行する蝶は薄緑色のオーラを放っていた。あのオーラは風属性の色。背後から風を吹かせ、飛行速度をより上昇させようとしている。


「いっくよーっ!!」


つむじ風は突き抜ける。あまりの速度で目を開けてると涙が止まらない。

洞窟の塵を巻上げつつ、ただ一直線に洞窟を突き進む。

強い光が迫る。まだ、まだ、あの扉は開いている……っ!!


ドゴーンッ!!!!


風は閉じる寸前の隙間をぶち抜け、整った広い広い空間を優雅に舞う。

蝶と共にヒラヒラと舞い、地上に着地した。そして重い重い金庫の扉は閉じられた。


『あ、あんた等……無事だったんだな……ウッ、ソニックブームで耳やられたかも……』


正直、足がガクガクして歩きにくい。つーか、作り物の体でなければ潰れてたわ……。


「あ……アンタ、よくもわたし達を見捨てて……」

『ご、誤解だっ!! 後で、ほとぼりが冷めた後で開くつもりだったんだっ!!!!』


ガクガクする足で何とかあれが居るコンソールの前に辿り着く。あれも覚悟が出来ているのか知らないが、まごまごして逃げない。

あの触手を掴もうとすると同時に触手は縮もうとしたが遅い。両手で二本の触手を掴み、思いっきり引っ張った。


『痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いッッッ!!!!!!!!!!!!!』


限界まで引っ張った所で、ピッチ方向にぶん回す。


『うわああああああああああああああああああっっっ!!!!!!!!!!』


ゴムのように触手に蓄勢され、逆方向に回り始める。

そして更に蓄勢させ、正方向に回り、蓄勢されて逆方向に回り……。

そして最後に壁にビターンッ!!


「ざまぁ見ろ。」


いや、まだ足りないな。色んな物事が体の底から湧き上がる。今まで犠牲になった冒険者のことを考えると到底足りない。光属性の魔法を一発ぶつけるか。


『おっ、おおおおおおお、おいっ、お前、なっ、何を……?』


ユーリアは震える触手を伸ばして拒否しようとしてくる。


……光の魔法……レーザー? いや、光の玉を……一体何をイメージする?


『おっ、おいっ!! 聞こえてるのかっ!?』


光の玉、浄化の宝玉……コハルさんのあの雷の……光だけ……っ!!


わたしは天井高く右手を翳し、天井の大きな丸い照明と重ねる。


「食らえ、クソが。」

『ぬわーっ!!!!!!!!!!!!』


天井から床にかけて、ユーリアを貫通するように真っ白な雷のような光の筋が音も無く突っ切る。

ユーリアは吹っ飛び、二本の触手は完全に伸びきり、体はぐったりとして時折痙攣している。わたしの魔力では殺せはしないが、そのまま気絶してしまったようだ。まだ少し足りない気がする。目の前に象がいたら肛門に突っ込んでやるのに。


はぁ、何だか疲れた。もう不気味な振動もないし、暫くは安心か。こいつが目覚めるまで休憩とするか。


≪情報≫

氏名:ユーリア・ロトス

スキル:ルナティカルエクスプローラー(ランク:XS)

スキルに損傷を確認。


【!注意!】

スキル改変防止のための保護機能が破損しました。この件により、スキルに劣化が生じる惧れがあります。

≪以上≫


スキル損傷? スキル改変防止のための保護機能? スキルの劣化?

スキルは職から得たり、生まれつき持っていたりする特殊能力のことだが、そのどれも聞いたことがない。アンドロイドみたいに作られたものならまだしも、改変するもなにも生物であれば改変なんて不可能だ。損傷と劣化なんて……分からない。

そもそも、ルナティカルエクスプローラーって何だ?

全く聞いたこともないし、その横文字からそれが何なのか想像も付かない。

……まさか、わたしが放ったあの光属性の魔法の所為か?

…………まぁ、スキルが一つ破損した程度で済んで良かったな。



わたしはじっとあの金庫の扉を見る。あのギガースは害意があったのか、ユーリアの大声に反応して敵として認識しただけで本当は害意なんて無かったのだろうか。そう思うが、もう閉まってしまったので知る術はない。

わたしでは開けられないし、ノアでも壊せないと思うし、ユーリアは絶対に開けてくれないだろう。もう諦めよう。


あぁ、クソが。ユーリアが閉めようとしなければ考える時間があったのに。


あいつは起きないけど、一呼吸終えたので、あの階段を上ってみようか。



先ほどの階段室へと戻る。あのブリゴークが居た大広間へのシャッターは壊されてないので恐らく状況は変わっていない。

踊り場の壁には大きく7の数字があるのでここは7階なんだろう。一応下へ下る階段もついているが、照明は点いておらず真っ暗。いうまでもなく、ここは既に地面の下。出口なんてあるわけがない。


階段を上る。


7、8、9…………踊り場に大きなウサギの絵がある。今度はあの空間で見た落書きのようだった。


10、11、12…………一段一段に小さなウサギの置物が一個ずつ並べられている。そして踊り場には大きなウサギの縫いぐるみが一つと、ウサギに似た花弁を付ける花束が一つ。ここで誰か死んだのか?


13、14、15…………ここは何も無い。


16、17…………クソ、そろそろ足が……。階段一本一本が長ぇんだよ……。どこまで続くのかこの階段は。

……あぁ、なんて涼しい顔してやがんだ、ノアは。同じオルビスなのに元気だよなぁ……まぁ、いいや。

しかし、踊り場の隅にウサギの縫いぐるみがあるが、手に持ったプレートには、書き殴ったような字体で“Hurry up!!”と書かれている。急げ……? まさか、ローチどもが壁貫通して登ってきてやがるのかっ!?


18、19……………20…………まだ上がありやがるが、その上の踊り場にはRと書かれている。Rがルーフの意味なら屋上だ。屋上でもなんでもいい、外出られるのなら何でもいいっ!!

……ここまで来て、まだ土の中というオチだったら許さねぇからな。


最後の階段を上る。そこはただ一つ扉があるだけの空間。

あぁ、膝が大爆笑。震える足を抑えきれず、壁にもたれ掛かる。痙攣もなにもせず平然としているノアが羨ましい。

ガクつく体に鞭を打ち、壁沿いにドアまで向かい、ノブを握る。

あれでさっきみたいにゴミの壁だったら…………上に向かって掘るか。


恐る恐るノブを回す。ノブは錆びていないのか、思ったよりも軽く、クルッと回った。そして扉を引く。

扉の隙間から薄っすらと光の筋が差し込み、鉄臭い生暖かい風が吹き込む。


「外……か?」


全開にして外に飛び出す。床は地面で、先までずっと地続き。ここはやはり荒野でも最も高い場所なのか、ほぼ全ての場所が見下ろせる。

見覚えのある重い重い雲にどこまでも続く荒野。あぁ、何時間ぶりの外だろう。ノアにとっては初めての屋外、興味深そうに周囲を伺っている。


『ここが、研究室ごと飛ばされた場所……木々一本見当たらない、酷い景色ね。』


ユーリアはようやく目を覚ました。


『……ごめん。何だろう、心を雁字搦めにしてた鎖が緩くなった気がする。』

「……一体どうしたんだ?」

『…………。』


ユーリアはこちらに背を向け、ボーっと景色を眺めている。

あのスキルが壊れてからだろうか、明らかに雰囲気が違う。ルナティカルエクスプローラーって一体何なんだったのだろうか。


……もうここには用は無い。コハルさんの家に帰ろう。



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