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1-09-2 脱出(2)

ユーリアの研究室から走り出て、水没した廊下を駆け抜ける。姿かたちは見てないが、クソデカローチで確実だろう。あの六本足を水に突っ込む時の足音が一切途切れない、連射性能に全振りしたガトリング式のレーザー砲を撃った時のような音。


天井にぶら下がる非常口への誘導標識に従い、右に左に曲がる。

暫く走った所で誘導表示は黒と黄色のストライプで縁取られた大扉の方を差す……。ちょっと待て、この大扉にも左右一匹ずつ大きなウサギの絵が描かれてるぞ。今度はスプレーで描いたのではなく、ちゃんとした塗装だ。左側のウサギの手には、“Welcome!!”と書かれたプレートが、右側は“Exit”と書かれた誘導標識風のプレートを抱えてる。


『あんたねぇ、追ってきてないわよ。怖いの?』

「うるさいっ、黙ってろっ!!」


バッグから勝手に出てきて、二本の触手で口と思われる部分を抑えゲラゲラ笑いながらわたしの周りをハエのようにグルグル回る。腹が立つので両手で押し潰すように叩いたら大人しくなった。


『あっ、あんたねぇ……これがこの体でなかったら実が出てるわよ。少しは加減しなさい……。』

「あんたが五月蠅いのが悪いんだろうが。きったねぇな……。」


伸びきってピクピクと痙攣しているユーリアをバッグに押し込んだ。せめて鍵でも付けれくれりゃよかったのに。あっ、このウサギについて聞くのを忘れてた。まぁ、後でいいか。


恐る恐る振り返る。だが、そこには奴はいなかった。

召喚されて出てきたはずが敵意が無いとはどういう事だ。

でも逃げるのは今の内なので、標識に従って重い大扉を開く。


中は広い広い空間で大きな配管やダクト、何か大きな装置と配線。床は網のキャットウォークで奈落の底がよく見える。落ちたらタダでは済まないんだろうな……。


「むしさんいっぱいいるね。」

「うぉわぁっ!!!?」


さっきのよりはやや小ぶりだけど、両手では数え足りない程のローチが縦に横に、そして天井に。そいつ等は一心不乱に配管などに齧りついている。


『ウフフッ、ビビってんの。ざーこざーこ♡』

「黙れ。」


叩き潰してなおバッグから顔を出して煽ってくるので押し込もうとした。


『…………ん? ちょっと待って。あれって…………。』

「何だ、どうした?」

『…………この子たちは森の中で枯れ葉を分解したり、廃墟の瓦礫を分解したり…………廃墟の瓦礫を分解したり…………廃墟の……が……れ……き…………ぎにゃぁあああああああああああああああああああああっっ!!!!!!!!』


ユーリアの突然の絶叫で魂がこの器から抜けかけた。こいつの絶叫、本当に心臓に悪い。

その余りの大声で目に見える範囲の数十匹のローチが混乱したかのようにガサガサと右往左往している。気持ち悪いなぁ……。


少し離れた所にあるローチが半分以上齧って折れかけだった配管をローチが踏み抜き、共に奈落の底へと落下した。そして数秒遅れで轟音が響く。

……もしかして建物が食われる前に抜けないと、あの巨大サソリを斃さない限りは出られないやつでは。


『ぎゃあああああああああああっ!!!!! 壊さないでぇ!!!!!!』

「お前はもう黙ってろ。」


バッグに押し込んだ。もう何回目だこれ。

それにしてもこんなにローチがいて、それでまだ食い始めたぐらいなんだから、これらもあの召喚術式が記載された紙から召喚されたのか。召喚術式一つに対して一匹かと思ったら違うんだな。これから金庫や宝箱とか漁るときは気を付けないと。


そうこうしている内にどんどん建物を食いつくされる。機器も配線も配管も鉄骨も奴等に齧られ、軋轢音を放ち傾き、次々と奈落の底へと消える。


張り付いているローチを剥がすため、レーザー銃を構え、触覚の付け根を狙う………………いや待てよ、これ本当に効くのか?

効かなくて怒らせでもしたら襲われる。あれを食えるという事はわたし達も当然食べ物という事だ。


≪鑑定≫

魔物名:魔蟲ブリゴーク

約2億年前から地球上に存在する虫が人の手により変化し、更に人の手が加わり魔物化したもの。

この個体は■■■■により使役されている。≪能力不足により鑑定不能≫


それは88匹で1グループとなり、召喚される場合は88匹召喚される。

主に人工物を食い荒らし、重要施設をも破壊する。満足するまで食べ尽くしたら、消化した人工物を糞として撒き散らし、周囲を豊かな緑の土地へと還す。彼等は翅を広げ、集団で新天地を求め旅立つ。


【備考】

人々との長年の付き合いにより、全ての毒、打撃、そして召喚士の手により時空魔法による時間操作等に関する耐性を得ている。火属性以外に有効打と言えるものは存在しないが、倒しきれなかった場合、火が付いたまま動き回り、二次被害が出るといった報告も上がっている。


≪以上≫


あぁ、成程。88匹で1グループだからこんなにも…………でもこれ幸い、わたしの得意な魔法がよく効く。ここから見える全てを焼き尽くしてやる。


『いや、というか、召喚術式で適当に召喚されたそれじゃなくて、こいつ等、誰かが使役してるのっ!?』


ユーリアがバッグの中からミサイルのように真上に向かって飛び出す。咄嗟に顔を傾けて躱したが、顎にあたったら歯が抜けかねんからやめてくれ。


「……召喚士ってそういう職なんだし、そうなんだろう?」


でも、盗み出すのならそんな手の込んだ罠は不要だし、証拠隠滅なら……どういうトリックか分からないが、この世界に転移させるだけでいい。

……何だろう…………あの2つのパスコードを突破出来る人はユーリアか、その関係者ぐらいだし、破壊するにしてもあんな鉄の塊はどんな戦士でも困難……そもそもあの術式はいつからあった?

ここに飛ばされてくる直前、またはその後……いずれにしても、ここにユーリアが来ることを予想して設置して、そして開けさせることを目的として置いた……暗殺目的か?


いや、そんなこと今はどうでもいい。今はブリゴークの駆除が優先だ。


さて、あの大火球を投げてしまうと通路に被害が出かねない。

……あのファイアーウォールの改造版をここで試してみようか。巧く行くだろうか。


一心不乱に齧りつくブリゴークの位置を把握し、地面に右手を付ける。

大きな火柱……ぶっ壊れた消火栓から噴き出す噴水……いや、公園の噴水ぐらいか、それを炎に置き換えたものをイメージする。


「よしっ、行けっ!!」


ブリゴークの腹付近が赤くなり、轟音と共に火柱が上がる。約20匹のそれが炎により剥がされ、何匹かは炎に包まれながら奈落の底へと落下していった。


「よしっ、うまくいったっ!!」

「ルピィちゃん、すごーいっ!!」


突然の強烈なハグ。左手にブロックパズルを持ったままハグしてくれたので背中に角が刺さって痛い。


『いいなぁ……。』

「えっ、何か言った?」

『……早く行きなさいよっ!!!! あぁもうっ!!!! こんなに食いつくしやがってっ!!!!!!』


バッグから顔を出して耳に突き刺さるような声を出すユーリアを以下省略。

天井にぶら下がる誘導標識を目で追い、道順を覚える。

直進し、最初の曲がり角を右へ曲がり直進、少し先を左に曲がり、そこから見えない。途中にあるまだ安全そうな所まで走ることにした。



薄暗い電灯で僅かに照らされた灰色の暗い空間、張り巡らされた配管や機械の類はブリゴークに食い荒らされ、見るも無残な姿を曝す。今にも崩れ落ちそうな足場には細心の注意を払わなければならない。


「そこ、崩れるぞっ!!」

「うんっ!!」


ノアは相変わらずの運動神経で、床が抜けても配管が天井から落下してきても、ネコ科の動物のような滑らかな身のこなしで回避する。わたしなんて天井からの落下物に注意するので精一杯だ。無い物強請りかもしれないが、わたしもあんな運動神経が欲しい。


『すごいなー、すごいなー……あたしもこんな子、作りたーい……費用も無いし研究所もこんなだから無理だけどねっ!!!! 畜生ッッ!!!!!!』


ユーリアをバッグに押し込みつつ、崩れる足場を走り抜ける。

こんなに激しいアクションを決めたこと、今までの冒険者人生でどれだけあっただろうか。


「あっ、ヤバ…………。」


これから通り抜ける予定の足場に大きな金属配管が落下しようとしている。

あれが落ちて足場を巻き込めばノアもわたしも奈落の底だ。クソ野郎、滑りこめるか?


「むーっ!! じゃまっ!!!!」


ノアは一瞬の内に四本の羽根を出し、二本のライトブレードのような光る剣を構え跳び上がる。まさか、あの配管を粉微塵にするつもりか?

今度は鑑定で情報表示も出なかったが、MPの方は大丈夫なんだろうか?


「えいっ!!」


余りにも速すぎて剣の軌道は大きな繭のような楕円形の塊になり、同時に巨大な配管は粉末と化して消滅してしまった。

ノアは浮いたままこちらを振り返り、今にも飛びつきそうな満面の笑みを浮かべている。


「のっ、ノア、ここはもうすぐ崩れるから後にして、なっ?」

「むー。」


ノアは頬を膨らまし、不満そうな顔をする。こんな状況なんだから仕方が無いだろ?


何とか最初の安全地帯と思われる場所に辿り着く。来た道は崩れて無くなってしまった。もう後戻りは出来ない。


「ここからは慎重に行こうか。」

「ほめてっ!!」


ノアは弾丸のような勢いで抱き着く。それでも手心を加えたか、仰け反って尻もちを着く程では無かった。

はぁ……あんまりゆっくりしている暇は無いんだが、こればかりは仕方がないか。


……大きな足場の横の大きな機械は無残にも齧られ、中の配線が剥き出しになっている。その剥き出しの配線も時折火花が散っていて危険だ。ここも時期に崩れ落ちるかもな。


「ねぇねぇ、むしさんたくさんいるよ?」


ここから先は電灯までも食いつくされ何も見えない。わたしには虫の存在は全く確認出来ないが、ノアのその緑色の瞳には見えているのだろう。実際に金属を引き千切ってるような音や、大きな部品が落下するような音がする。もう足場すらも現存してないかもしれない。


天井からぶら下げられたウサギのシールが貼られた誘導標識は真っ暗闇の方向と、奈落の底へと架けられた梯子がある方向の二方向。この場所までは食いつくされる前に駆除したので下方向だろうけど、底の方には電灯は無く完全なる闇だ。ブリゴークやゴキカブリで溢れかえってるかもしれないし、また別の魔物もいるかもしれない。

光属性を習得して、それもイメージでそれなりに形に出来たので自由に使えるので造作も無いが長時間は使えない。


兎にも角にもここから先は照らす他にない。

さっきみたいにノアの笑顔を思い浮かべる。他に何かあるだろうと思うが、本当に光っている電球や太陽なんかを思い浮かべると強くなり過ぎる恐れがある。今強い物を出して消耗すると危険だ。


昼白色の小さな発光体が宙に浮く。照らす範囲は十メートルも無い。今のところこれが限界だ。


「ノア、さっきみたいに指突っ込んだら駄目だよ。さっきのでもかなりのMPを消費してるんだから。」

「むーっ!」


頬を膨らますだけで指は突っ込まない。自身の魔力量を把握しているんだろうか。だけど光属性を持たないノアが指を突っ込んで巨大化したのなら、わたしが指を突っ込んで、光属性ではない魔力を送り込むとどうなるんだろう。


右手の人差し指を発光体に突っ込んでみる。何だか生暖かくて気持ち悪い。

得意の火属性の魔力を送り込む。火属性なら極大火葬火球程でなければ眩暈を起こす程にはならない。


『あぁぁ……あぁ……崩壊が始まっちゃった……何であたしがこんな目にぃ…………』


背後で次々と大きな鉄骨が落ちる音がする。ここも今は落ちてないだけで振動で折れて落ちてくるかもしれない。急がなければ。


発光体はどんどん大きくなり、熱を帯びる。ノアの場合は闇属性だと打ち消し合って消えそうだし、あれは闇属性じゃなくて風属性だろうか。風属性は一部の属性を増幅させる効果があって、持っているだけで炎や氷などの威力を数倍、いや数十倍に高められる最強の一角だ。ただ、光属性を増幅するのは聞いたことが無い。

球だから膨らませて膨張させたのだろうか? それとも粒子状に拡散させて球体として再構築した?

あぁ、いずれにしても風属性は欲しいな。炎と風は最高の組み合わせだ。

……いや、今はそれどころではない、ないけど、光と風の組み合わせはとても気になる。


『おっ、おい、お前、よそ見すんな、目の前のものよく見ろっ!!!!』

「えっ……わっ!!」


考え事をしている内に目を瞑っていた。瞼越しでも分かるほどの強い光と皮膚に感じる強い熱に、ユーリアに言われて初めて気付いた。

球体は太陽そのもののように大きく白く輝いていた。わたしの極大火球ほどの熱量は無いが、明るさはその比ではない。コハルさんのあの異常なまでの明るさには負けるが。


目がやられるし熱いので遠くに離す。少し暗闇の方に向けただけでも遠くを照らし、残り約68体かそこらの黒光りするブリゴークが露わになる。照らされて混乱してるのか、一心不乱に齧りついてたであろう持ち場から離れ、天井近くへ集まる。それは太陽のような発光体から逃げているのか、それとも……?

いや、今がチャンスだ。おそらく遠くに見える黄色と黒のラインテープで囲まれた通路が出口で、そこに至る一本道もやせ細ってはいるものの落ちてはいない。


「あの出口らしき所まで慎重に行くよ。」

「うんっ!!」


極力飛び跳ねず、極力走らず、床に余計な重量を掛けないように慎重に。

幸いにもわたしもノアも非常に軽い。戦闘にさえならなければ……


「あーっ、おっきなむしさんだー。」


本日何度目かの虫さんという単語。ノアがわたしの背後を指さす。

もうさっきから何度もローチを見ていて慣れたので直ぐに振り返った。


振り返ればヤツがいた。


黒い大きなゴキカブリ、ブリゴーク。ただ、ノアが感じた通り、とても大きかった。

大きかったで済むレベルではない。恐怖で血の気が下がるぐらい大きかった。


その巨大ブリゴークは先ほど通ってきた崩れ落ちた足場のあった所から顔を出し、とても太く長い触覚と、その付け根の部分を出している。何故か右の触覚の根元にピンクのリボンが巻かれてるが、誰か巻いたのか。


黒光りするそれは崖から這い上がり、戦車のような巨体を露わにする。その目は真っ赤に光り、怒りを露わにしているようにも感じる。

通常のゴキカブリが体長5センチとして、ブリゴークは体長2メートルから3メートル、そしてコイツは確認できる横幅だけでも5メートルは超えている。

わたしはその方向を向いたまま、大きく後ろに飛び跳ね距離を取った。


≪鑑定≫

魔物名:魔蟲女王ヴリゴキーヌ

ブリゴークの集団の中で3~4匹選りすぐられ、幼少期から特別な栄養を与えられ、王として育った個体がヴリゴキーヌとなる。統率力に優れ、侵入者に対し女王が怒れば他のブリゴークも呼応し狂暴化する。基本的にブリゴーク共々非好戦的なため、縄張りから離れると追ってくることはない。


【備考】

ブリゴークと同様に状態異常は完全に無効。更に炎にも耐性を得ている。しかし、王になるための栄養の接種により闇属性を得ているため対となる光属性が弱点となる。光属性がまともに使えなければ逃げる他にない。巨大化したことで重量が遥かに増し、速度が大幅に低下しているため逃げることは容易だが、狭い所で出くわした時などはその限りではない。良き人生を。


≪以上≫


『良き人生を………………悪しき人生だよ、このクソムシッ!!!!!!』

「黙れ。」


ヴリゴキーヌと目が合うと、早々に突進を仕掛けてきた。この足場は横20メートル程度に推定だが、縦30メートル程。問題無く躱せる距離ではあるが、とにかく速い。あの質量とその速度は、食らうとリングアウトどころか手足は千切れ飛び、胴体すらもまともに残らない。

そのまま機械の壁に突っ込み、その壁は大破した。あれにぶつかれば粉々だ。


「ルピィちゃん、あれはわるいこ?」

「……悪い子……あぁ、そうだ。悪い子だ。」

「むーっ、ルピィちゃんはノアがまもるんだもんっ!!」


今度はノアを標的に突進する。ノアは大きく跳躍し、突進を回避した。ヴリゴキーヌは急ブレーキを掛け、V字ターンを決める。そのターンだけで地面が抉れて火花散るケーブルがむき出しになった。下手に動かすとまともに地に足が着けられなくなる。

今度はわたしの方を向く。突進かと思えば、前足で上半身を上げ、地面を思いっきり叩いた。強い振動と同時に黒に近い紫色の衝撃波が樹枝状に広がり、それは黒い炎となり地面を焼き尽くす。


「うわっ、あっちっ!!」

「ルピィちゃん!!」


ジャンプが少し遅れて両足の踝ぐらいまで黒い炎を食らってしまった。

おそらく闇属性に火属性が加わった魔法なんだろうけど、ツタのように纏わりつくような感覚。火傷はしてないようだけど触手に纏わり付かれる気持ち悪さ

が残る。着地した頃には炎は収まったが、こんな技を使われてはまともに戦えない。


『…………青臭い。これただの闇属性の炎じゃないわ。強い緑属性と土属性が混ざってる。』


焼かれて黒変した床には何処から紛れたか、真っ黒な粘土質の土のようなものが混ざっている。

こちらに気を取られてる暇はない。突進の予備動作が視野の端に見えた。ヴリゴキーヌは前のめりになり、今にも突進しそう。標的はわたしか。


「だめーっ!!」


ノアは正方形の光るものを投げつけた。ブロックキューブに似たそれはヴリゴキーヌの前に落ち、誰も振れてないのにガチャガチャを回り始め、卓上ベルを鳴らした時の音と共に停止する。


≪情報≫

特殊技能追加:6エレメントキューブ

レベル1の取得条件

・3×3ブロックキューブを完成まで1秒未満且つ30回連続で成功すること。

・光属性または闇属性のどちらか1つ以上所持し、且つその属性のランクがB以上の者。


上を向いている色に応じた属性魔法が発動する。

白は光属性、橙は火属性、黄色は雷属性、青は氷属性、緑は緑属性を示す。

下級レベルの魔法が発動し、赤色は物理属性で大爆発する。

能力次第ではダイス程度に収まるが、見た一瞬で脳内で完成させられる程だと任意の属性を発動させることが可能。

なお、5秒を過ぎても完成していない場合は自爆する。


≪以上≫


「なんだそりゃ…………。」『何よそれ……?』


脳内で説明が流れる。最小の魔力で風属性とレア属性以外が使えるのは心強い。属性があっても魔術として行使するには正確なイメージ力とか呪文とかが必要なのにそれすらも要らない。

キューブパズルに夢中で大人しかったので、多分その間に覚えたのだろう。


『……待って、1秒台ならもしかして…………あぁ、この不器用な手なのが恨めしい……。』

「……おい、来るぞ、黙ってろ。」


ヴリゴキーヌは急ブレーキを掛け、6本脚で跳躍した瞬間に6エレメントキューブは真っ白に光り、ヴリゴキーヌの腹部の真下で大爆発した。


『ピギィィィィィイイイッ!!!!』

『うぉっしゃああああああああっ!!!!!!』


恐らく光属性の爆発だろう、大ダメージを受けたか、甲高い鳴き声を立てて裏返ってしまった。

その鳴き声の瞬間、地面から濃い緑色の植物が生え、床一面を覆う。そして小さな蕾を付け、薄い紫色の花を咲かせた。


『これはマギサ草だな。つーか、何でこんなもの生えてきたんだ?』

「クソッ、マジか……。」


別名“魔女の草”と言って、何でもかんでも寄生して魔力を吸う危険植物だ。寄生どころか近づく者の魔力を吸ってしまうぐらいには害悪だが、吸った魔力は養分として変換されて地面に還元されるし、根っこは芋のような地下茎が生じるため食料としても重宝される。


裏返ったヴリゴキーヌは足をじたばたさせて戻ろうとする。

戻る前に出口に突っ走ろうと振り返った時、この広い足場に足を付けているブリゴークと目が合った。目は真っ赤……怒りは頂点に達しているということだろうか。


「くっ、焼き払うしかないかっ!!」

『おっ、お前、手加減しろよっ!? 下手にぶっ放したら生き埋めだぞっ!? ……ちょっ、お前、聞いてんのかっ!?』


お得意の極大火球で目の前の全てを焼き殺すかと、右手を天に掲げ、燦々と輝く真夏の太陽をイメージする。


「…………あれ?」


イメージするんだが、出ない。出力を下げてただの火球程度にまで下げても出ない。指先に火を灯そうとしても出ない。

もしかして、火球を出す分の魔力をマギサ草に吸われてしまったか。

ある一点から急激に吸われようものなら眩暈の一つもするが、無数のマギサ草に複数並列で少量ずつ吸われると多分気付かない。やってしまった。


「なぁ、ユーリア。」

『なっ、何よ、名前呼んでくれちゃって。』

「魔力切れた。」

『…………はぁぁああああ!!!!!? どうすんのよっ!!!!!?』

「この草食ったら回復するか?」

『知らないわよっ!!!! いや……薬師ならMP用のポーションの一本二本ぐらい……って、あたしは錬金術は使えても薬師は専門外だしなぁ……』

「へぇ、あんた錬金術使えるの。」

『フフンッ、レベルは最大だわ。帝国でロボティクスの博士号を修得する時にその課程でマスターさせられたし……って、後ろ後ろ後ろうしろぉぉぉぉおおおおおおおっっ!!!!!!』


太い針金のようなものが首に当たる。振り返れば奴がいた。

黒光りする奴は非力ながらも物量で圧倒し、ブリゴークの上にブリゴークが重なるように積み重なり丘のようになっている。ヴリゴキーヌは知らないが、ブリゴークは人工物を主食とする。死を覚悟した。


「ルピィちゃん、もってて。」


ブロックパズルを預ける。わたしは預かり、バッグから顔半分出して絶叫するユーリアと共に押し込んだ。


ノアはそのままわたしに抱き着いた。


「ちょっ、今抱き着かなくても……?」

「いくよーっ!!」


あの時のように背中から青白く透明な羽を六本出す。同時に魔力が体の奥底から湧き出ているように感じる。


≪情報≫

特殊能力:暗黒樹の吸精

・特殊条件下でMP回復:鉱石や植物などに蓄えられた魔力を自分のものとする。

・魔力は任意の誰かに与えることができる。

≪以上≫


『……はぁ、もう見飽きたわ、何でも来やがれってんだ………………ッ!!?』


何を思ったか、ノアはわたしを抱きかかえたまま飛び上がった。

ノアとわたしは空を飛ぶ。鳥からすれば閉所だけど、わたしからすれば随分と広い。下を向けばブリゴークがゴキカブリ並みに小さく見える。


『うぉわぁああああああああああああっ!!!!!! とっ、飛んでるぅぅぅうううううっ!!!!!!!』

「ねぇ、ノア。あの下の方の、あの黄色と黒の所に降りてくれる?」

「うんっ、わかったっ!!」


≪情報≫

エレノア

現在のMP:442/1083

≪以上≫


『最大値も現在値もすっげぇ…………。』


今初めて見えた情報なので、飛行で秒間幾ら使うのか判らない分、これが余裕のある数値なのかどうかも分からない。鑑定魔法、仕事してくれ。


『すっ、すっげぇぇ…………飛んだ……飛んだっ!!!! あっ、あの子、パロマちゃんには搭載したけど……こっ、こんなに出来の良いフェザーなんて……誰に作られた子か知らないけど、完敗だよ……。』

「おい、舌噛むぞ。」


1分ほど飛び続け、出口と思われる所にゆっくりと降下した。


ブリゴークもそれに気付いたのか、赤い目の群れがこちらに進行する。

わらわらと狭い通路に殺到し、そのまま奈落の底へと落ちるものもいるが、着実にこちらに向かっている。もしこの先が行き止まりであれば、本当に死を覚悟しなければならない。


「ノアがまもるのっ!!」


ノアは例の6エレメントキューブを出し、やせ細った通路に投げる。着弾したキューブはガチャガチャと組まれ、チーンッと音が鳴る。

それは真っ赤に光り、それは耳を劈く程の大爆発を引き起こした。

やせ細った通路は大破し、その衝撃で弱っていた鉄骨や配管などが次々と崩落を起こす。


『わわわわわっ、崩れるぅぅぅううううっ!!!!!!』

「ノア、走るぞ。何があっても止まるなっ!!」

「うんっ!!」


通路に入った途端、周囲にサイレンが鳴り響いて通路の分厚いシャッターが閉止してしまった。間一髪だった。もう、安全なんだろうか。

……このシャッターにもウサギの絵が描かれている。何なんだ一体。


『畜生め、こんな大技使ってまで飛ばした野郎も、召喚士とやらも許さねぇぞっ!!!!』


名も知らぬ召喚士、ユーリアを暗殺しようとしたのは確かだ。だが、それは帝国の人間なのか、それとも……?

そもそも何のために? あの鉄の塊に苦しめられていて、それで暗殺命令を下すぐらいなら生け捕りにするだろう。

まさか、その召喚士がここに潜んでいる? 発動して追い詰められたコイツを捉えるためとか……?

はぁ、幾らでも考えられてしまう。脳みそはいざという時の為に休めておこう。

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