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1-08-2 光の魔法(2)

白い卵型の物体から外に出ようと真っ白な廊下を歩く。

…………外に出たところで、この岩屋からどうやって出りゃいいんだ?


……そういえば、ここは岩屋だな。ここも光の精霊によって維持されてるとは言うし、もしかして何かしら修行を積めば光属性を得られるのだろうか。


…………あれこれ思考しながら歩いている間、ノアはわたしの周りをクルクル回る。興味深そうにわたしの前や横や後ろをその碧眼で観る。とても歩きにくい。


「ノア、歩きにくいから、わたしの横に付いてて。」

「うんっ!!」


満面の笑みでわたしの左側に回り、わたしの左腕とノアの右腕を絡ませ、べっとりと引っ付き、頬を擦り寄せてくる。違う、そうじゃない。

何でこう、スキンシップが激しいんだ。それにしてもノアは誰が何を願って作られたんだ…………?


何を願って…………?


何を願って…………


わたしは何を願って作られたんだろう?


「ルピィちゃん、だいすきっ!!」

「あっ、あぁ大好きだよ。だから、離れて。」


“はーいっ!”と元気いっぱいに返事をして擦り寄せてた頬を離し、絡ませてた腕を離す。でも肩と肩の距離は非常に近い。


卵型の物体から外に出ると同時に扉は閉じられ、役目を終えたように少しずつ少しずつ縮んでゆく。

最終的には小鳥の卵ぐらいのサイズまで縮んでしまった。うっかりしていたけど、光源であったこれが縮んでしまうと真っ暗闇になってしまう。出口も無いし、一生暗黒の世界で暮らせとでもいうのか?


かすかに白く光る程度まで暗くなり、宙に浮いた卵はわたしの胸元にフヨフヨと寄ってくる。わたしにこれをどうしろと言うのか。


手に取れと言わんばかりに卵はわたしの胸に何度も軽く体当たりする。何だか生暖かくて全身に鳥肌が立つ。

恐る恐る宙に浮いた生暖かい卵を手にした。


≪情報≫

無属性の特性により、新たな属性をインストールします。

インストール:光属性

ランク:C

……………………インストール完了。

光属性追加によりMPの最大値の50パーセント分を追加します。

≪以上≫


卵の生暖かさが手にした右手から全身に回る。全身に鳥肌が立つ。傷んでんのか知らないが一瞬だけ硫化水素のような臭いがした気がする。臭い。


同時に頭の中を鑑定のような文字列が走る。インストールはあの時の無属性の追加特性か……これはいいな。

だけど、光属性をインストールって、岩屋で何も修行を積んでないのにいいのかな。でも、火魔法以外にも使えるようになったのなら素直に嬉しい。


わたしは嬉しさの余り真っ暗闇で頭を抱えて俯き、首を横に振る。火属性と多少の銃スキル以外に何の取り柄も無いわたしの将来に少しばかり希望が見えてきたぞ。


「ルピィちゃん、あたまいたいの?」

「うぇっ……えっと、ごめん、何でもない……。」


夜目の利くわたしですら何も見えないぐらいに真っ暗闇なのに、彼女は無言で狂喜乱舞するわたしの姿が見えていたらしい。顔が熱い。二回深呼吸して整える。……よし、整った。

得た光属性の魔法を使ってみよう。コハルさんが使ってたあの照明の魔法……えーっと確か……呪文は……?


忘れた。頭を抱えて縦に何度も勢いよく振る。

……そうだ、火属性のように普通にイメージすればいいんだ。あの時、滅茶苦茶に光ってたコハルさんとか、あの時アンと見た月とか……。


「いたいのいたいのとんでいけっ!」

「うわっ!!」


ノアのものと思われる暖かい右腕がわたしの左腕に絡む。サラサラした髪がわたしの頬に触れる。心臓がドクンドクンと鼓動する。いや、心臓は真っ暗闇の中で考え事をしているわたしに急に声を掛けられたからであって、そういう事ではない。いや、男も大概苦手なのに女同士だぞ、あり得るかっ!!


いや、誰と話してるんだ。この顔をあの鉄の塊に見られたら一生ネタにされ続けられるだろう。

クソッ、とにかくこの空間から出たいっ!!


「えぇい、明るくなれっ!!」


咄嗟に浮かんだのが、何故かあのノアの太陽のような笑顔だった。

目の前に昼白色の丸い球体が浮かぶ。淡い光を放ち、何とかノアを照らす程度だった。やはりコハルさんは特別だ。無詠唱で出たのはいいが、得たばかりではこの程度だろうか。


「わぁ、きれいっ!!」

「直視しちゃ駄目。」


生まれたての恒星のような球体は淡く光り続ける。興味津々なノアの瞳は爛々と輝いていた。


「ノアもやるーっ!!」


ノアは何を思ったか、その光る球体に左手の指を突っ込んだ。照らすための魔法だが、指を突っ込んでも大丈夫なのか?


「ちょっ、危ないから放しなさいっ!」

「やだーっ!!」


頬をむぐーっと膨らます。子供の危険な好奇心を押さえるのは大変だ。

しかし指を突っ込んでから徐々に放つ光が強くなってる気がする。


「んんーっ!!」


魔力を送り込んでるのだろうか、初めとは比べ物にならないぐらい光度が強まる。何だか悔しいぐらいに明るい。でも何だか、発光体が青紫色っぽくなったような……。


「わぁいっ!!」


この小さな恒星に負けない太陽のような笑みを浮かべる。そしてそのままわたしに抱き着いた。

ノアに頬をすりすりされながら周囲を伺う。やはり出口になりそうなのはあの壁から溢れたゴミの山か。ノアに離れて欲しい事を伝え、離れてもらう。


わたしは内ポケットを探り、レーザー銃を取り出す。幸いにも二丁共に無事だった。鉄の塊から聞いた名前が何だったか忘れた二つの銃を構え、ゴミの山を的に左右交互に撃ってみる。

やはり反動は一切無く、再充填速度も速く、精度も完璧で威力も申し分なく一丁でも完璧なのに二丁だとマシンガンのようで楽しい。ピュンピュン撃てて癖になりそう。


しかしゴミの山は少し崩れる程度で穴が開く気配が全くない。ECセルもあれだけ一丁でボットをバカスカ撃ち落としてなお半分は残ってるしもう一丁は満タンだけど温存しておいた方がいいだろう。これだけ静かな高威力の武器は、ゴミの傾斜路のような不安定な場所で戦闘になったときに必須だ。


仕方がない、火魔法で力づくで突破しよう。ここなら岩盤は堅そうだけど……いや、奥の傾斜路が崩れてしまうか。


……。


光魔法って、こう、太いレーザービームとか撃てないんだろうか?


……疑問形で終わらせるのではなく、やってみよう。イメージでなら思いつきでいい。身近なレーザービーム……あのゼッペル砂漠の灼熱の太陽でもいいのだろうか?


「ノアちゃんは後ろ向いてて。あっ、その光る球も見ないでね。」

「はーいっ!!」


こんなもの直視したら失明しかねない。こういう気を遣いもあるから集団は苦手だ。


右手を前に突き出し、とんでも無く大きな燦々とした太陽と、ついでにあの鉄の塊が発するレーザーをイメージする。

手のひらが熱くなる。得たばかりの光の魔力が集中してるのを感じる。


……もうそろそろ撃ち時か。


パウゥン


間抜けな音に真っ白な一条の光線が発射される。その音とは裏腹に、ゴミの山に当たった瞬間に大きな爆発音が起こり、金属が焼けたような匂いを乗せた強い熱風が吹き煙が舞い上がる。


「ゲホゴホッ、のっ……ノアちゃんは口を押えててっ!」


ノアは口をぷくーと膨らませていた。少し面白かったので笑いそうになった。ここで笑って咽ると多分死ぬ。

わたしはノアを連れてまだ空気が綺麗な後方へと下がった。



後方で息を吸い、ゴミの山の方を見る。煙は既に散り、融けたような黒い塊が生じ、大きな穴が開いていた。

ノアとわたしはゴミの山に駆け寄り、穴の状態を確認する。

穴は貫通し、幸いにも滑り降りてきた傾斜路へと通じていたが、あの巨大サソリの所為か、所々崩れて狭くなっている。この程度なら掘ればいいが、あの巨大サソリは何処に行ったのだろうか。


所々傾斜路にぶら下がっていた照明は何故だか暗くなっていたので、指先に先ほどの小さな球体を発生させ、その僅かな光を頼りに坂を登る。地面は相変わらず砂地だが、無事登り切れるのだろうか?


「ノア、行くぞ。」

「ルピィちゃん、ねぇねぇ、あそこ、むしさんいっぱーいいるよ?」


一気に語彙が増えたな……虫さん?


ノアはあの大穴の方を指さす。浮かせておいた大きな光源に照らされるは穴から湧き続ける無数の黒い物体。

よく見えないけど……よく見えないけど……あぁ、ノアの言う通り、虫の大群だろう。いや、虫の大群だ。


無数の黒い物体がゾワゾワと地面から湧き出ている。


虫には耐性はあるが、あんなに大量に来られると意識が飛ぶ。あんなのに埋もれたらヤバい、例の虫なら食いつくされる。ここに来るまでに食い止めないとっ!!


「ノア、わたしの背後に!」

「うんっ!」


大穴からここまで距離があるが、黒い虫の走る速度がとても速く、もう近くまで寄ってきている。まだまだ湧き続ける感じは、目の前の虫の大群を焼き殺しても焼け石に水ってところか。


イメージする。火属性または光属性で行える障壁……


わたしは傾斜路入り口の地面に右手を付き、地面に魔力を注ぐ。


わたしを中心に大穴の方向数メートル先の地面から炎が噴き出す。吹き出した炎は円を描き、傾斜路に入らせるまいと入口をとり囲んだ。炎はわたしの低い身長を裕に超え、2メートル、3メートルと巨大化する。

炎の壁は虫を焼いたのだろう、ほんのり、エビが焼けたような漂う。そしてもう何日も食べ物が入ってないお腹が鳴った。


流石に虫は食べたくない……。

虫を主食にするか否かの議論が始まり数千年、いまだに虫食は流行っていない。どんなに貧困に陥ろうとも人間は正直だ。

いや、それどころではない。突破されると最悪だ。この虫がその例の虫、ゴキカブリとかいう耐性の塊だと炎の壁を突破してくる事さえありうる。炎を纏って暴れ回られると危険だ。


わたしとノアは横に並び、両手両足で傾斜路を駆け上った。


ノアは片手で大きめの鉄骨を掴んだらそのまま腕の力でピョンピョン飛び跳ねてどんどん登ってゆく。その細腕の何処にそんな力があるのか。

わたしはあんな力も運動神経もないので両手両足でゆっくりと登ることしかできない。狭くなったところでノアは止まり待っててくれている。何から何まで情けない気持ちでいっぱいだ。


「よし、ノア。その隙間抜けたら、そのゴミの堆積物を下に落とすよ。」

「うんっ、わかったっ!!」


ノアは“んにぃーっ”と変な声を出して幼女一人通れるぐらいの隙間を抜ける。ノアとわたしは体型がほぼ一緒なので細身のノアが抜けれるのならわたしも抜けられる。猫が狭い隙間に入って行くようにすり抜け、少し傾斜路を登った所にあった鉄骨に載り、二丁のレーザー銃を構える。

左右の手の人差し指を交互に引き、乱射して堆積物を叩き落とした。


「ルピィちゃん、すっごーいっ!!」

「えっ……あぁ……うん。」


的となるものが大きい上にどこ当ててもいいんだから凄くも何もない。

強いて言うならこの銃の異様な精巧さと、音で周囲の脆い地形に影響を与えない静音さかな。でも、なんだか顔が熱い。こんな顔でノアの眩しい笑顔を直視できない。

傾斜路の方を見る。堆積物はガラガラと音を立てながら傾斜路を転がり落ちてくる。まだ足りないか。

虫などが上がってくる感じは無いので上を目指そう。



傾斜路を登り続け、勝手が分かってきてノアに少し負ける程度までは速度を上げたものの、もう20分ぐらい登っている。不安定な足場を手足でゆっくりと登っているが、手の方はもう限界が近い。もう何があっても銃は握れない。


しかし、傾斜路の先を見てもまだ何も見えない…………よくこんな長距離転がり落ちて無事だったな……。


天井から生えている様々な形の照明器具のようなものが時折暗くなって点滅する。何だか嫌な予感がする。


「ルピィちゃん、あれなーに?」


ノアはある程度登った所でわたしの方を向いて待機していた。ノアの横まで上り詰めた所で下を見た。

傾斜路下方のずっと先、光る赤い点々が見える。その赤い点々は動いている。

ぞわぞわと赤い点々が動いているっ!


間違いなくゴキカブリだ。


わたしは咄嗟に地面に右手を付け、炎の壁をイメージした。

……待てよ、ここで炎の壁を出すと煙に巻かれて死んでしまうし、そもそもこの四方八方がゴミで形成された洞窟には油を含んだものもあるかもしれない。引火するとやはり焼け死ぬ。

わたしは光の壁をイメージする。光の壁、一体何があるんだ?


光の壁、光……レーザー……壁状のレーザー?

単純な計測器や飾りでのレーザーで幅広のものは知っているが、威力のあるほど高出力で幅広のものは知らない。細くても急所を貫けばいいので何十倍ものエネルギーを使って幅を広げる必要もない。

仮に幅が要るのなら台数を増やす……台数を増やす…………そうか、設置型のトラップか。網のような格子状の、だれも通れなくするためのレーザートラップだ。


数メートル先の地面の真ん中から天井を貫くような一条のレーザーが照射される。そして左右に一本一本増えて行き、刑務所の鉄格子のようになった。縦だけじゃ足りない。地面に魔力を注ぎ続け、左の壁から右へ突き抜けるようなレーザーを敷き詰め、網のようなレーザー壁を作り出した。

まだまだ、密度が足りない。ゴキカブリは薄く僅かな隙間でも突き抜ける。ゴキカブリは猛毒を持つため、絶対に通してはならない。

わたしは地面により強く魔力を注ごうとした。


「あっ…………。」


眩暈がする。慣れない属性に力を注ぎ過ぎた。わたしはバランスを崩した。


「ルピィちゃんっ!!」


美しい小麦色の細い腕はわたしを抱え込む。小さい体ながらにわたしを片手で抱え、もう片方の腕で細い鉄骨を掴んで耐えていた。


「あっ…………あっ……ありがとう。」

「うんっ!!」


まだまだ語彙が少ないノアも、その太陽のような笑顔で“どういたしまして”と言っているようだった。その笑顔を直視できない。


「いこう、ルピィちゃんっ!」

「う……うん、行こう。」


まだ目が粗い格子状のレーザー壁を残して上へ上へと駆け上がった。



更に5分ほど登った所で例の破壊された壁、研究所の入り口が見えてきた。もうすっかりウサギに関する物体は下方に流されて無くなっていた。

わたしは一体何十分落ち続けたんだろうか。

ここからだともう数分もしない内に地上だ。もう流石にあの巨大サソリも居ないだろう……と思うのだが。


研究所との隙間まであと少しというところまで登り、一息付く。心做しか、研究所への壁の穴が横に広がってる気がする。そして穴の形が何となくウサギの顔を正面から見たような形に……。やめてくれ、気持ち悪い。


外から研究所の中を見ると、あの一つ目の巨人の所為か知らないが壁は大きくひび割れて照明も点滅している。

放置したジーナのことも気になるけど、今はそれどころでなはい。

下を見れば、格子状のレーザー壁の周りで黒い点が蠢いているのが見える。やはり突破されてしまった。


上へ、外へ駆け上がるしかない。もう振り返れない。


「ノアっ、一気に駆け上が――――」


地面がグラグラと揺れる。吊り電灯の明かりはフッと消え、大きく左右に揺れている。天井からはパラパラとゴミが落ちてくる。それは徐々に大きく、大きく、強く、強く……そして大きな何かが崩れる音が響いた。

傾斜路の上で大きな崩落が起こった。大量のゴミが傾斜路を転げ落ちてくる。


「右だっ!! ノア、その壁の穴に入るんだっ!!」

「うん、わかったっ!」


飛び込むように壁の穴を二つ越え、研究室の廊下へ入った。凄まじい振動と共に傾斜路は大量のゴミの雪崩が起き、底へ向かって崩れ落ちる。やがて雪崩は収まり、閉じ込められることも無く何とかやり過ごした。


「ちょっと様子を見てくるから、ノアはここから動かないで。」

「うんっ!」


埃舞う傾斜路をそーっと覗く。下方向は埃の濃度が高くて設置したレーザー壁

の光りすらも見えない。もしかしてゴミの雪崩で消えてしまったのだろうか。そうだとすると、ゴキカブリが登ってきてしまう。もう一発設置するにも魔力が足りるかどうか……?


「あっ、おおきなむしさんだー。」

『ギィィィィ…………』

「大きな虫さん……?」


ノアが指さす方をそーっと見る。


『ギチャア…………』


大きな赤い塊、二対の黒い目、甲殻類のような大きなハサミ……


「ぎゃぁぁあああああああああああああっ!!!!」

『キシャァァァアアアッ!!!!』


泡吹いて倒れそうになるのを小麦色の細腕が抱える。わたしは何とか呼吸を整え、意識を現世に繋ぎとめた。わたしは手を離れ、フラフラと後退し壁にもたれ掛かった。


「おもしろいかおー。」

『ピギィィィイイイッ!!!!!!』


あんな巨大なサソリ相手に怖気づかず、寧ろ興味深そうに見ている。しかも目の片方を指で触ろうとする。

目をブスブス触られる巨大サソリは耳を劈くような高い声を出している。多分、もんの凄く痛いのだろう。


「やっ、やめろ、そいつすっごく汚いから触らないの。」

「んーっ? やだ。」


珍しく反抗する。指で巨大サソリの目ん玉をブスブス触れながら“何で?”っていう顔でこっちを見る。少なくともそいつは敵だから、攻撃してる最中に目を逸らしてはいけない。


巨大サソリは痛みでフニャフニャに垂れていた右腕をそーっと持ち上げ、鋭いハサミを開きノアの首元に寄せた。


「ノア、こっちへっ!!」

「えっ?」


指示がコンマ数秒遅れた。震え気味の身に鞭を打ち、右手にレーザー銃を構え、巨大サソリの右腕を迎撃する。


『プギィッ!!!!』


薄緑色のレーザーが右腕に当たり弾ける。少しエビの香ばしい匂いがした気がした。

そして手のハサミは仰け反り、一瞬の隙が生まれた。

今度はわたしが救う番。小さな小麦色の体を抱え、持前の素早さで研究所の中へ引き込む。幸いにも体が非常に軽く、わたしの無い力でも最大限の脚力を出し切れた。


「ルピィちゃん、ありがとう!」

「えっ……えへへ……どういたしまして……わっ!!」


ノアはわたしに抱き着いて頬にキスをした。わたしは顔が熱くなった。

小麦色の細腕を解き、二・三回深呼吸して状況の整理をする。

助かったのはいいが、全く安心できない状況だ。巨大サソリは一枚目の割れた壁に全身をねじり込み、黒かった目までも真っ赤にしてこっちを見ている。


「むしさんのめんたま まっかっか。」

「駄目、触らないの。」


あのレーザー銃では表面を少し焼く事しか出来ない。やはり仕留めるには魔法が必要。だけど、わたしの得意な火魔法は狭い場所では使えない。使えてもさっき咄嗟に捻り出したファイアーウォールぐらいだろう。

けど、やはり燃焼時の煙でこちらに被害が出る。この研究所だってどれだけ崩れてるか分からないし、そもそも出口が他にあるとは思えない。

光魔法は今のわたしの魔力では限界だ。もう一つの無属性魔法は使い方が全く分からないし、今のところはインストールのような補助的なものだけだろうし……


うん、巨大サソリも挟まって身動きが取れてないし、出口があろうが無かろうが研究所へ引っ込むしかない。


「ノア、来なさい。」

「うんっ!!」


わたしは、あの一つ目の巨人が現れた部屋とは逆方向の、あのキャノンボットの部屋へ走った。



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