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9、種明かし

ミステリー風味の解決編です。宝石商のダージリンの推理が披露されます。

 ダージリンはティーカップの紅茶を一口飲んだ。


「リゼの相手が誰であるかは明らかでした。但し、状況証拠を積み重ねる必要もありました。海に沈んだ獲物を逃さないよう囲いを作るために」


 ベルガモットが眉を寄せて尋ねた。


「証拠とは何? どうして彼だと突き止めたの?」

「まずはリゼの唇からワインの味がした事です。彼女は酒を飲まないのはテーブルセットから明らかでしたから、男が酒を嗜むと推測できました」

「そう」


 もちろんリゼの部屋を訪ねた時に酒瓶やグラスがないかキャビネットも年のため確認していた。


「それにリゼは『婚約前に例外的に部屋に入れる男性がいる』と暗に私に話しました。私は安全確保と言ってリゼの部屋のドレッサーをか確認しました」


 キャビネットの上には宝飾品を入れるような箱は置かれていなかった。そこでダージリンはドレッサーを開いた。

 

「相手が貴族の男ならそれ相応の贈り物があるはず。しかしそれらしき贈り物は何もありませんでした」


「貴方は宝石商だから宝石を見れば贈り物かどうか見分けがつくのね?」


 ダージリンは微かに頷いた。女性が自分に選ぶ宝石と男性から女性に贈る宝石は微妙に違う。大体男性は宝石商に相談するから、宝石店が売りたい物が贈り物になる事が圧倒的に多い。ライバル店の売り出しの品はダージリンも当然把握していた。


「さらにある時からリゼの部屋に花が飾られるようになりました。これはお茶や食事の前に、彼女から香水とは違う花の香りがしたので分かりました」

「貴方が私に花を贈ったか聞いたのはその為?」

「ええ。貴方で無ければ男が花を贈ったと思ったからです。花は家族か男が贈るのが相場ですからね」

「そうね……でもアッサムだと決定づけたのは何故?男性使用人であれば、コックも御者もいるわ」


 ダージリンが不敵な笑みを浮かべた。


「簡単です。唇のワインの味が、ステーキと一緒に出されたワインと一緒だったからですよ。執事なら晩餐前にワインをティスティングしますし、未婚のリゼの部屋に入り、花を贈ることも簡単にできます。なにより、リゼから彼の整髪剤の香りがした」


 ベルガモットが濃紺の瞳を細めた。


「貴方は犬のようね」

「レディ・ベルガモット。これで私は貴方の犬だと証明できましたか?」


 ベルガモットが視線をそらし咳払いした。


「……嗅覚が鋭いという意味で言ったのよ」


 ダージリンは組んでいた足を解き、背筋を伸ばした。


「ベルガモット。貴方とアッサム、神に誓って言います。私はあの晩の口づけ以降、リゼに一切触れていません」


 アッサムもすかさず頷き、主人を見つめた。ベルガモットがソファーにもたれた。


「分かっているわ。アッサムそう言っているのだから疑いません。だけど……」

「だけど、何ですか?」


 ベルガモットが両手を握りしめた。


「だけど、あんなに疑われて当然みたいな振る舞いをしなくても良かったじゃない!……貴方の言葉が私の心をどんなに引き裂いたか理解してないわ!」


 ダージリンは両手を最愛に向けて広げた。アッサムが側にいなければ抱きついてしまいそうだった。


「感激です。マイ・レディ。貴方がそこまで私を想っていて下さったのが確認できて良かった」


 ベルガモットは感激に潤む紅い瞳を見返した。


「か、確認の為にあんな言い方したわけ?」


 ダージリンが真剣な表情で続けた。


「ビジネスにおいて確認は非常に重要なんです。少しでも間違えると後々取り返しのつかない事になります……特に本気の時は」


「わ、私をビジネスに例えないでいただきたいわ。それにアッサムとリゼの事も子供ができるまで徹底して煽らなくても良いでしょう?」


 広げていた両手を膝に戻して、ソファーに座り直し、ダージリンはローテーブルに身を乗り出した。 

 視線を使い、アッサムを示すとベルガモットも執事に視線が誘導された。


「彼はとても優秀な執事でした」


 すかさず女主人が訂正する。


「今もよ」

「もちろんそうです。貴方が彼に託した婚約破棄の証書を応接室に留まっていた私の所へ持ってきました。その時に私からアッサムにこう言ったのです」

「何を言ったの?」

「『君は男を見せる必要があると私は思いますよ』とね」

「アッサム……」


 アッサムは頭を深く下ろし、固まっている。ダージリンに男であることを焚き付けられ、リゼに男気を見せ、優秀な執事を色欲の海に溺れさせたのだ。

 誠実な紳士に見えて執事のスーツの下に男が隠されていたことを改めて女主人は認識した。ダージリンが続ける。 


「レディ。もう一つ申し上げても良いですか?」

「何?」

「誘ったのはリゼです。むしろアッサムは頑なに関係を拒否しようとしていました」


 アッサムはまだ頭を下げている。ダージリンは同性として未来の主人としてそれを言う必要があった。すかさず天真爛漫な妹を信じる姉が叫んだ。


「どうして、そんな事を言えるの!」

「未来の主人として、男同士腹を割って話したからですよ」


 実際、ダージリンが直接アッサムから聞きつけたわけではないが、そう言うのがこの場では相応しい。多少事実を演出するのはダージリンの得意技だ。

 案の定ベルガモットが視線を泳がせた。


「リゼが?……信じられないわ」

「………詳しくは直接妹さんと話された方が良いでしょう。でも彼女の本棚にあるロマンス小説はほとんど執事とメイドの恋愛がテーマの物語です」


 宝石は恋と切りか離せない。そこでダージリンは空いた時間をロマンス小説を読む事に当てていた。顧客の好みを知るには流行りの恋物語を読むのも無駄にはならない。一通りのタイトルと内容を彼は把握している。


「あれは『物語』よ。おとぎ話みたいなもの」


 ベルガモットが信じたくない、とでも言うように眉をひそめた。あとひと押しだとダージリンは近づく勝利を確信しだしていた。ここは自分の経験が生きる。


「レディ・ベルガモット。物語は時に現実を超えて、現実は時に物語のようになります。黒真珠で財産を築き爵位まで勝ち取った時、最初は私だって『夢物語』だと思っていましたよ」


 ベルガモッドがひそめた眉をとき、ダージリンを見つめた。

 事実はどのような物語より説得力がある。ダージリンが自ら掴み取った格言だった。

お読み頂きありあがとうございます。

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物語はまだ続きます。ダージリンの思惑をベルガモットがどう受け取るのか…おたのしみ下さい。



最終話まで連続投稿します。

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