第9話:トルタニア王国の侵攻
王宮地下・獄舎―――。
「おれの仕事を増やすんじゃねー。おまえのせいで、報告書を書く羽目になっただろーが」
ユトは、かがり火に揺られながら、ぐったり石畳に寝転ぶローレンスの背中に向かって言った。手元に、黄色み帯びる紙と、鉛筆を持っている。
「ユトさん・・・?」
ローレンスは、ゆっくり寝返りをうつ。鉄格子をはさんで、小さな椅子に座っているユトの姿が見えた。足を組み、壁にもたれながら、まるで、あふれたごみを見るような目でこちらを見ている。すぐそばに、くしゃくしゃになった見覚えのある団長服と、剣が放り投げられていた。
「なんで、真っ昼間の、みんながいる、中庭のど真ん中で、コールマン団長に楯突くようなマネをした!」
ユトは、鉛筆を構え、粛々と自分の仕事をする。ローレンスは、ユトの声を聞きながら、また寝返りをうって背中を向けた。まるで、首を折られ、羽をもがれた白鳥が、湖の淵でただ死を待つように横たわる。ほこりまみれの白いシャツが大きくはだけ、裾をベルトから出しっぱなしにしていた。
「おれは、なにも悪いことしてない」
ローレンスに、自分のぬるい息が、カビの匂いと混じって石畳から跳ね返る。
「秩序を乱したんだよ! 騎士団の規則を破ったんだ!」
ユトは、報告書を書くために、ローレンスにキーワードを与えるように言った。
「ふん、知るもんか。そんなこと」
そう言ってローレンスは、額を石畳にうずめる。口を一文字にして、空気をほっぺたにため込み、一点を見つめて動かなくなった。
「まあ、おまえがなにを思って、どうしようと勝手だが・・・。よかったな。ロイドさんが間に合って。あの人が押さえ込んでくれてなかったら、いまごろクリスさんからもっと痛い目にあわされてたんだぞ」
ユトは、ため息をつきながら言った。
「・・・別に、それでもよかった」
ローレンスは、目を落として、蚊が鳴くような声で答える。
「・・・ったく。クリスさんにそんなことさせるんじゃねーって言ってんの!」
ユトは、鉛筆を置いて報告書から目を切る。そして、ローレンスに小石を投げつけるように話しはじめた。
「おれにおまえの気持ちは一切わからねーし、わかろうとも思わねー。なぜなら、おれは、故郷の村にいる家族を食わせるために騎士をやってるからだ。クリスさんに言われることを、ただ楽しんでやってるおまえと違ってな。親類まで、なに不自由なく暮らせるんだぜ? おれは、この騎士団の中では、ただのひとつの駒だが、村に帰れば英雄だ」
ローレンスは、とうとうピクリとも動かなくなった白鳥のようになって、横たわり続ける。
「だから、なんとしてでもいまの職にかじりつくし、戦場でも自分が生き残る手を一番に考える。どうだ、だれかの身代わりになるとか、次から次に怪我できるおまえにはわかんねーことだろ?」
そう言ってユトは、立ち上がって鉄格子に近づいた。
「聞きたくなきゃ、耳でもふさげ。でもな、おまえがクリスさんをかばって怪我するたびに、クリスさん自身がダメージくらってたの、おまえ知らないだろ」
ローレンスの心臓がドクッと音を立てる。
「特に、おまえがバーリンに撃たれたときの乱れようは、あとにも先にも見たことない。あの『氷の悪魔』って呼ばれるくらい冷徹な人が、“おまえを絶対に死なせない”って必死になってたんだ」
ローレンスの鼓動が速まり、一点を見つめて固まった。
「ほんとは、わかってんだろ?」
ユトは、錆が鼻につきそうなくらい鉄格子に近づき、今度は、虫ケラを見るような目でローレンスを見下ろす。
「クリスさんは、おまえのことが好きで、大事に思ってて、どこまでも信頼してるんだ」
ローレンスののどに、小さなトゲが一斉に刺さるような痛みが走り、ゴクリと生唾をのみ込んだ。
「もう・・・遅い」
ローレンスは、半分目を閉じながら、自分で鉄格子の鍵を締め直すように言った。
「・・・ったく! ほんとにおまえってやつは! 剣術はピカイチなのに、気持ちになると三流以下だな! いいか? 遅くないの! 今度クリスさんに会ったら、ほんとに伝えたかったこと伝えろ! そして、あやまれ! わかったな!」
ユトは、肩を碇のように尖らせてそのまま振り返ることなく去って行った。歩くブーツの音の振動が、冷んやりした空気を伝ってローレンスの全身に響く。
ローレンスの意識は、そのまま遠のいていった。
王の御殿・サミットまで2週間―――。
「はぁ⁉︎ サミットが中止になった⁉︎」
ケイト団長は、国王の前で叫んだ。
その日、ローレンスは不在のまま、先日会議に出席した顔ぶれが、急遽、国王に召集されていた。
「陛下、どういうことですか?」
コールマン団長は、国王の前で直立し、落ち着いた口調で言った。
「西のガーネット王国と、東のトルタニア王国に亀裂が入ってな。共同で開拓していた土地に、画期的な鉱石が発掘された。そして、両者がその主導権の争奪を目論んでいる」
国王は、いつものように、手を顔の前で組んで話す。
「そして、立地上、両国に挟まれた我々は、トルタニアから争奪戦の協力を依頼された。3日以内に返事がほしいとのことだ」
「・・・断ると、どうなるのですか?」
ケイト団長は、じわりと額に汗をにじませて言った。
「我々は敵とみなされ、侵略を余儀なくされるだろう」
国王は、あたりまえのように返答する。
「そんな・・・」
ケイト団長の顔が青ざめ、身の毛がよだつ。
「陛下は、どのような返事をするおつもりで?」
コールマン団長は、話の先を急ぐように言った。
「我がコルネイユ王国は、あくまでも中立の立場とし、民の命を最優先とする」
そう言って国王は、鋭い目つきで、5人の団長をまっすぐ見つめた。ロイド団長は、コールマン団長とバイロン団長の間で、眉間にシワを寄せながら、国王の言葉を噛み砕く。生唾をのみ込むスミス団長の横で、バイロン団長は、口を一文字にして静かに目を閉じていた。
「では、山村地域に、避難民の一時受け入れ要請を通達し、戦場になる王宮周辺の町や東の集落に避難命令を出します。ケイト団長、これを警備団に頼めるか?」
コールマン団長は、国王の意向を川の流れに乗せるように言った。
「問題ない。このあとすぐに、それぞれの地域を管轄する貴族たちに、指示を出して手配する」
ケイト団長は、横にいるコールマン団長を見上げて言った。
「避難時は、ユトに先導させるといい。ルートに詳しいから使ってくれ。わたしの方からも話しておく」
「わかった」
ケイト団長はうなずき、国王の方に注目する。
しばらく、部屋全体が、逃げ場のない静寂に包まれる―――。
「クリス、どう戦う?」
バイロン団長は、はばからず一石を投じた。
コールマン団長は、眼光の照射を一斉に浴びる。そして、静かに一呼吸し、まっすぐ国王を見て話しはじめる。
「わたしの統率の下、第1から第3騎士団は、トルタニアを前線で迎え撃ちます。スミス団長の救護団は後方で、都度、救援、救護をお願いします。バイロン団長の第4騎士団は、王宮内外壁を死守。ロイドは警備団と連携をとって、終始、陛下とケイト王女の護衛を頼む」
コールマン団長は、考察より先に言葉を出すように、なめらかに言い切った。
「おい待てクリス! おれが前線に行く。おまえが陛下とケイト王女を護衛しろ!」
ロイド団長は、嵐にのまれる船舶のように、心を揺らしながら反論する。
コールマン団長は、ロイド団長に視線を静かに移す。すると、ケイト団長がその線を断ち切るように口を挟んだ。
「クリス。わたしは警備団団長として、陛下の護衛につく」
ケイト団長は、ツンと澄ました顔で言った。
「ふっ。ケイト、君はこの国の第3王女だ。守られる立場にある。そして、ロイド、いまの我々にできることは―――」
「付き合ってられんな」
そう言ってバイロン団長は、コールマン団長の言葉を遮り、身を削ぐような鋭い視線を飛ばす。
コールマン団長は、横顔だけでバイロン団長を突くように見返す。
ふたりに挟まれたロイド団長は、高圧な電流を避けるように、無意識にからだを反らした。
「最前線はエドワード団長の下、第2騎士団に行かせればいい。その援護で第1と第3を配備するのが定石だろ」
バイロン団長は、毛が逆立ったタイガーのように威圧的に言った。そして、そのまま国王に視線を切り替えて続ける。
「陛下。わたしは、エドワード騎士の処分を一時保留し、総力を上げて対応するのが、合理的だと考えます。いかがでしょう?」
国王は、顔の前で組んでいた手をほどき、団長たちを遠目で見た。
「エドワード騎士の処遇については、好きにするがよい。あとは任せる」
「・・・・・・」
バイロン団長は、鋭い目つきのまま、静かに国王を見つめるに留まった。
団長たちは王の御殿から退出する―――。
ロイド団長は苦い顔をして、ケイト団長と共に、警備団屋舎へ向かった。
「クリス、これを!」
ケイト団長は、騎士団屋舎に戻るコールマン団長を、背後から呼び止めるように言った。
なにか、黒っぽい小さなかたまりが宙に浮いて向かってくる―――。
コールマン団長は、振り向きざまに、顔の前でそれをつかむ。手の中が冷んやりとした。
「ローレンスの牢の鍵だ。おまえに預ける!」
そう言ってケイト団長は、ロイド団長のあとを追うようにして、警備団屋舎の方へ走り去っていった。
コールマン団長は、人肌になった鉄のかたまりを見つめ、ケイト団長のふわっとしたうしろ髪に視線を移す。
「ケイト、君も絶対に死なせない」
コールマン団長は、手の中でしっかり鍵を握りしめて言った。
「クリス、わたしをがっかりさせるなよ」
バイロン団長は、カーテンを引くように、コールマン団長の横に立ち止まって言った。
「先ほどから、らしくないですね。どうしました?」
コールマン団長は、薄氷の笑みを見せて言った。
「本当は、なにを考えている?」
バイロン団長は、半目で鼻から息を出して言った。
「ふっ。考えるもなにも、これまで通り、陛下のご意向に沿って動くまでですよ」
コールマン団長は、目を閉じて、したたかに答える。
「ふん。前線は、もってどれくらいだ?」
バイロン団長は、そのまま前を向いて言った。
「2日が限界でしょう」
コールマン団長は、即答した。
「わかった。そのつもりでいる」
そう言ってバイロン団長は、コールマン団長に目を合わせることなく去っていった。
「ウィル。至急、ユトをわたしの部屋に呼んでくれ。おまえも同席してほしい」
コールマン団長は、通路の陰で待機していたウィリアムに言った。
「わかりました」
そう言ってウィリアムは、すぐに姿を消した。
王宮地下・獄舎―――。
その日、ローレンスは、何度、日の出入りがあったかわからないまま、ゆっくりからだを起こした。バァ―――ン、ドォ―――ンという音が鳴り響き、湿った石畳から、お尻や太ももを伝って、細かい振動が上がってくる。
「なんだろ・・・。ずっと続いてるな。銃声・・・でもない?」
薄暗い通路のかがり火は、丸一日、放ったらかしにされたように消えかかっていた。
「・・・腹減った。そういえば、ずいぶん長い間、だれも見張りに来てない気がする」
ローレンスは、おもむろに立ち上がり、錆びた鉄格子から、地上につながる階段の方をのぞく。
「うわ・・・っ!」
ローレンスは、手とひざをついて、通路側にこけた。
「へ? 鍵・・・開いてる?」
四つん這いになったまま、上半身が鉄格子から通路に飛び出しているのを見て言った。一方、止まないとどろきは、内臓をビリビリと刺激する。
「・・・・・・」
団長服が丁寧にたたまれている。その横に、自分の剣が壁にもたれて、こちらを見ていた。ローレンスは、しばらく剣と目を合わせ、それに手を伸ばす。
周りを警戒しながら階段を上がり、だれもいない小部屋を通過する。不自然な静けさが漂う警備団屋舎の1階は、ローレンスの歩く足音だけが響き渡っていた。裏の井戸で乾き切ったのどをうるおす。久しぶりに浴びる日の光は、血流が大波となってまぶたに押し寄せるようにまぶしい。おでこの中が叩き起こされたように目覚め、全身の細胞が息を吹き返す。そして、王宮の東門付近で兵士らしき姿を見つけた。
「バイロン団長!」
ローレンスは、うしろ姿のバイロン団長に向かって叫んだ。その近くにいた第4騎士団兵は、一斉にローレンスに視線を送る。いつもより無造作になったライトブラウンの髪の毛に、ほこりまみれで、はだけ放題の白いシャツは、厳粛な第2騎士団団長の面影を一切なくしていた。腕まくりをして、剣を腰に差して走ってくるローレンスと、振り向きもしない直立不動のバイロン団長が合致する瞬間を、団兵たちは目をこらして見届ける。
「バイロン団長、なにが起こってるんですか⁉︎」
ローレンスは、単刀直入に言った。
「遅い」
バイロン団長は、瞳を閉じたまま、微動だにせず言った。
「へ?」
ローレンスは、周囲の団兵から向けられる不快な視線を受け止めながら、バイロン団長の言葉の解釈をする。
「ローレンス! 昨日から、東のトルタニア王国が攻めてきてるんだ!」
ふたりの様子を見かねたジュドが声を上げる。
「へ?」
ローレンスのうぶ毛が逆立った。
「おれたち第4以外は、前線で応戦してる! でも、今日になって、やつら、大砲を使って攻めてるみたいなんだ!」
ジュドは、静寂なバイロン団長の横で、鐘を鳴らすように言葉を打つ。
「・・・っ! バイロン団長、じゃあ、コールマン団長は⁉︎」
ローレンスは、胸を詰まらせながら言った。
「最前線で指揮をとっている」
バイロン団長は、細く鋭い目を、鈍く光らせて言った。
「クリスさん・・・っ!」
ローレンスは、大砲の音が聞こえる方に、顔を投げるようにして向けた。
「言っておくが、おまえへの命令は、なにも出されていない」
バイロン団長は、ぶっきらぼうに言った。
「・・・・・・っ!」
ローレンスは、後退りするように、じりじりとバイロン団長から離れていく。
「直接クリスに聞きたいのなら聞け。あいつに言われることしかしないんだろ?」
そう言ってバイロン団長は、目を閉じて、直立不動の姿勢に戻った。
次の瞬間、ローレンスは、王宮に背を向けて、脇目も振らずスタートを切った―――。
「エドワード団長! 馬、持ってきました! 使ってください!」
ローレンスの後方から、ひとりの団兵が、走る馬を押し出すようにして差し出した。
ローレンスは、走りながら馬に飛び乗り、東門を駆け抜ける。立て髪に鼻がつきそうなくらい低い姿勢になり、コルネイユの丘を東に向かって風を切った。途中、スミス団長が率いる救護団員の横を通過する。木陰に沿って陣地を確保し、懸命の救護が行われていた。まっすぐ前を向くヘーゼルの瞳と、力強い馬の走行は、思わず救護団員の手を止める。
「スミス団長! いまのって・・・っ!」
「はぁ・・・。鎧も装着せず戦場に向かうのは、この王国でひとりしかいないでしょう」
スミス団長は、肩を落とし、首を左右に振りながら言った。
「は、はい・・・エドワード団長ですね」
救護団員は、愚問をわびるように言った。
王宮東門―――。
「バイロン団長、おかしいですね。エドワード団長が王宮を出てから、大砲の音が聞こえてきません」
ジュドは、仁王立ちするバイロン団長に言った。
「もし、これが、やつらの作戦なら・・・そろそろ潮時だな」
バイロン団長は、薄目を開けて、門を超えた空を見上げてつぶやいた。
「バイロン団長・・・?」
ジュドは、普段では見られないバイロン団長の様子に、じわりと額に汗をにじませる。
前線―――。
ローレンスは、馬のスピードをゆるめず、ごった返しになっている戦場に突き進んでいった。
「エドワード団長!」
後方にいたホセが、切羽詰まりながらも、跳ねる声を上げる。
「ホセ! 状況は⁉︎」
ローレンスは、馬にまたがったまま、ホセを見下ろして言った。すぐそこにいるホセの声は、無数の甲高い刃物の音に巻かれて聞こえない。
「コールマン団長は、どこにいる⁉︎」
ローレンスは、構わずホセに叫んだ。ホセが指をさす敵兵の波打ち際で、白銀の髪と、深海のような青みがかったコールマン団長の鎧が見えた。ローレンスは、ホセから目を切って馬を走らせる。同時に、地表でうごめく騎士団兵たちの動きを観察した。
「・・・こちらが優勢? だったら一気に・・・っ!」
そう言ってローレンスは、方向転換し、密集する戦場の際を大回りしていく。
王宮東門―――。
「バイロン団長、やつらの作戦・・・ってどういうことですか?」
ジュドは、速まる心臓の鼓動を抑えながら言った。
「砲撃を止めて、歩兵を投入し、しばらく死闘を繰り広げる。だが実際は、砲弾がきっちり当たる距離まで引き寄せるのが目的だ。だが、そんなことは、クリスもわかっている」
バイロン団長は、静かな王宮の空を見上げながら言った。ジュドは、バイロン団長を見上げながら、毛根に汗をにじませる。
「この戦は、どこまでも民の命を最優先とするもの。避難の時間を稼ぎ、且つ、東が一方的に攻めていることを他国に魅せる茶番劇・・・。そんなことも、あいつはわかっている」
そう言ってバイロン団長は、鼻から息を出して続ける。
「全兵、いつでも迎え撃てるようにしておけ」
バイロン団長は、ジュドの目をまっすぐ見て言った。
「は、はい!」
ジュドは、胃が握りつぶされるような顔をして返事をした。
前線―――。
「おまえは、ここまででいい」
そう言ってローレンスは、馬上で立ち上がり、地上に飛び降りた。そして、まるで、地面をえぐりながら駆ける閃光のように、敵の真横から飛び込んでいった。体勢を低くし、シャープな身のこなしで、押し寄せる敵のウェーブを粉砕していく。周りのコルネイユの団兵たちは、ローレンスの舞に触発され、力がみなぎってくる。
コールマン団長が、戦場のエネルギーの変化に気づく―――。
すぐさま、その根源を突き止めるように、神経を尖らせて周囲を見渡した。妙に高まる騎士団兵の士気と、加速する進攻スピードが、コールマン団長に悪寒をもたらす。
「おいっ! いまより前に出るんじゃない!」
コールマン団長は、状況をのみ込めないまま周囲に叫んだ。
なにかに取り憑かれ、なだれ込むように前へ出ていく団兵に、コールマン団長の声は、かき消される。まるで、しめやかな引き潮が、団兵の命を深い海の底に引きずり込んでいくかように、戦況はコールマン団長をあざ笑う。
「・・・っ! そういうことか!」
コールマン団長は、前方にいるローレンスの姿をとらえて言った。そして、もう、制御できない騎士団兵の流れを見限るように、無言で敵味方が入り乱れた中に身を投じる。
次の瞬間、大地もろとも引き裂くような爆音が響き渡った―――。
王宮東門―――。
「バイロン団長! この音は・・・っ!」
地面を伝ってとどろく音が、ジュドの全神経を震撼させる。
「全兵、戦闘配置につけ」
バイロン団長は、ジュドの口をふさぐように、右手で空気を横に切りながら言った。




