9話 地獄
エリックとローエンは砂の都を目指して歩き始めた。視認できるのだからそんなに遠い距離ではない。じきに着くだろう。二人は歩きながらお互いのことを話していた。エリックは皇帝の棺を探す動機をローエンに説明していた。必ずクスハを治してみせると。
「ふむ……」
ローエンはエリックの話を聞いてなにか思うところがある様子だった。
「夢物語だと笑うか?それでも俺はクスハを助ける」
「いや、笑いません。恋人を助けたいと思う気持ちは本当のものです。ただ、時間制限があるというのが気になりました。そのクスハさんがいつまで持つのかわからない」
「そうだ。だからクスハが生きているうちに……」
「地獄と向き合う覚悟はあるのですか?」
「地獄?」
「皇帝の棺です。私は金のために皇帝の棺を探している。しかし皇帝の棺が簡単には見つからないことは百も承知。発見されれば大騒ぎでしょうから。だがそうなってはいない。見つかっていないからです。見つからない皇帝の棺を探して時間を失う。皇帝の棺の存在そのものが人間から時間を奪う呪いかもしれない。皇帝の棺を探すのは間違っているのかもしれない」
ローエンの言葉をエリックは静かに聞いた。確かにそうだ。見つからない皇帝の棺を探し続けて時間が経過してクスハが死んでしまうかもしれない。
だがそれでも可能性があるなら。見つけなければならないのだ。
「砂の都ノーバイドに手がかりがあると村の賢者が言っていたんです。それに優秀な薬師もいるかもしれない。だから無駄ではないと信じている」
エリックはローエンに対してではなく自分に言い聞かせるかのようにいった。
ローエンは不思議に思ったが黙っていた。薬師はわかる。しかし、砂の都に手がかりがあると言った賢者……?
「必ず砂の都で手がかりを見つけてみせる」
ローエンの静寂を横にエリックは力強くいった。その力強さは真剣だったが、どこか呪われたような雰囲気だった。