49話 天に舞う
エリック達は洞窟を進んでいった。先程の敵襲もあり進軍は慎重だった。先頭はエリック。先の暗い洞窟。敵の姿は見えない。
「俺たちがやってきたことはアルジャーノも把握しているだろうな」
エリックは小さな声でいった。
「そうでしょうね。敵は一人逃げましたから……戦えなくてごめんなさい。アトラクシアに着いたらペガサスの姿になって頑張ります。ごめんなさい」
「誰もラウエスを責めてはいない。謝らないでくれ」
現在のエリック達の戦力は四人だ。クアミルはほぼ戦えないので実質三人である。当然ながらその戦力には不安が残る。相手はアトラクシアの侵攻に成功しているのだ。三人で解決するのだろうか?
洞窟を歩いていくエリック達。先程のように空間は広かったが、多数あった石の柱はない。奇襲はされずに済みそうだった。
だが、ガタガタという物音が前方から聞こえてきた。そして僅かに光が前方から漏れている。
「音がするな」
エリックは剣に手を当てた。
「光です。アトラクシアに出れるはずです。しかしこの音は……」
「誰かが戦ってるんじゃないのか?」
シノがいった。彼女は最後尾である。
「そうかもしれません!まだ、アトラクシアの民が抵抗を続けているのかもしれません!」
ラウエスは早足になっている。
「慌てるなラウエス。無闇に単独行動するのは危険だ。俺が先頭に出る」
「あ、はい……ごめんなさい。仲間が生きているのかと思うと……」
「気持ちはわかる。だが慎重に行こう」
そのエリックの言葉を聞きながらシノとクアミルは後ろを見た。後方に敵影無し。
「いきなり囲まれないように静かにアトラクシアに入ろう」
みんなで光の差す方へ向かう。最後の戦いに挑むために。
エリック達は洞窟を抜けてアトラクシアへの一歩を踏み出した。
目の前に広がる光景は綺麗であり、そして悲惨だった。正面中央に円錐状の建物が浮いている。とても大きい。
空を渡る階段があちこちに見える。まるで空中の要塞だ。何故これほど目立つ天空の建物が周りから視認されないのだろうか。
悲惨だったのは幻獣や魔物の死体が周囲に転がっていたからである。人間の姿ではない。普通の人間なら一生見ることのない生き物達。
そして、空中の建物へ向かう階段を次々と登っていく人間たちの姿が見えた。もっとも、それは既に生命の無い人間。アルジャーノの手駒である。現状がどれほど不利なのかエリックには判断できなかった。しかし人間に襲いかかっている狼のような生き物の姿も見える。
「ラウエス、この状況は不利なのか?アトラクシアは敵に制圧されているのか?」
「いえ、まだアトラクシアは落ちてはいません!仲間が戦っています。中央に浮遊する建物に我らが長、オルベン様がいるはずです。中央の建物に向かいましょう」
「しかしラウエスには一人しか乗ることが出来ない。別れて行動しなければならないぞ」
「オルベン様が無事でいてくれるなら、確実に皆の闘志は途切れません。オルベン様を助けに行くべきだと思います。分断されてでも」
ラウエスは街の中央の建物を見つめている。とても心配そうな瞳で。
「確かにリーダーを助けに行くというのは大事かもしれないな。ラウエスの気持ちもあるだろう……しかし問題は誰がラウエスに乗るかだ」
エリックは考え込んでいる。絶対に判断を間違えてはいけない状況。
「僕かエリックじゃないのか?戦えないクアミルはカウントされないぞ」
「いや……オルベンというリーダーが致命傷を負っている可能性もある。その場合一番行かなければならないのはクアミルになる。この空中の街ならラウエスが戦えるだろう」
「クアミルから預かっている薬を僕達が使えば良いんじゃないか?それでも治らなかったら諦めるしかない。戦闘要員を送り込むべきだ。敵だってリーダーを殺そうと動いているはずだ。クアミルがラウエスに乗って飛んでいったとして、治療も行えない戦況じゃ話にならない。早く決めようエリック。時間がない」
エリックはシノの話に耳を傾けていた。そして言っていることが最もだと理解出来た。
「正しい。俺がラウエスに乗ってオルベンの所まで行く。シノはクアミルと一緒にゆっくりと進軍してくれ。仲間がいれば影渡りの強さも増すだろう」
「了解。雑魚から蹴散らしていく。アルジャーノを見つけたら速攻で仕留める」
「頼んだ。行こうラウエス!オルベンはきっと生きている」
それはエリックの励ましだった。仲間や大事なリーダーを置いてきたラウエスへの気遣いだった。
ラウエスは深く頷き、美しいペガサスの姿に変身した。相変わらず綺麗な羽が生えている。
エリックはそれに飛び乗った。
「行こう!」
その言葉を聞きラウエスが空高く舞った。背中にはエリック。空中に浮かぶ階段や建物を突っ切って進むラウエス。
シノとクアミルはその様子を見送った。




