表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アトラクシアの死闘  作者: 夜乃 凛
終章 幻想の街アトラクシア
48/52

48話 信じているからこそ

「ローエンの傷は治ります。今後動けるようにもなるでしょう。しかし自然治癒力を上げる薬を飲んだからには、一時間も経てば内臓の痛みがくるでしょう。そうなると動くことは出来ません。どうしますか?」


 クアミルはローエンの手当をしながらみんなに問いかけた。手は動かし続けている。並列作業が得意なのだろう。


「ローエンを連れて引き返すか、ラウエスにローエンを任せるか、ローエンを置いて先に進むか。この辺りか?」


 エリックは顎に手を当てている。


「引き返すことのメリットとデメリット」


 シノは呟いた。


「引き返せばローエンが無事に休める。これがメリットだよね。ただ、引き返した場合は時間を消耗して、僕達がアトラクシアに向かっているのがバレてしまう。そうなれば敵も警戒する。これがデメリットか……どうする?エリック」


「先に進んでください」


 返事をしたのはエリックではなくローエンだった。ローエンの状態は良さそうだ。クアミルが手を動かし続けて治療を続けている。


「この洞窟に敵が二人しかいなかったのがそもそも奇跡です。おそらく念の為に部下を置いておく程度の認識だったのでしょう。アルジャーノにとっては。隙を突く最大のチャンスです。敵がアトラクシアの攻略に手間取っているという可能性もある。今こそ先に進むべきです。私は大丈夫。岩陰にでも隠れています」


 そこでローエンは咳き込んだ。


「一人だけでもローエンの側に残るべきじゃないか?クアミルに残ってもらったほうがいいんじゃないか?」


 シノは咳き込むローエンを見ながらいった。心のなかでは『置いていけないよ』という言葉が浮かんでいた。


「クアミルは貴重な回復要員です。全員の全力を出さなければ勝てない相手でしょう。私は本当に大丈夫です。現に、あれだけの傷を受けましたがクアミルの薬と治療で喋れるようにまでなっている。行きなさい。アルジャーノを倒すのです」


 全員が静かになった。シノが何か言いたそうにしている中、エリックは決断した。


「先に進もう。クアミル、処置は?」


「順調です。血も止まっていますし薬も効いています。あと一時間程で内臓が痛み始めるかもしれませんがそれは薬の効果です。ローエンは無事です」


「よし。ローエン、お前はここで待っていてくれ。必ずアルジャーノを倒して戻ってくる。約束は守る。必ず倒してくる」


「旅の終わりを祈っています」


 ローエンは微笑んだ。みんなを見守るように。


「ありがとう。行ってくる。みんな、行こう」


 エリックは意を決して歩き出した。ローエンを置いていくことに不安がなかったわけではない。しかしエリックは進むことを選んだ。ローエンがそれを望み、またエリックも先に進まなければならないとわかっていたからだ。

 進軍しようとするエリック達の中、シノが心配そうにローエンの方を振り返った。ローエンは横になったままだ。

 シノは唇を噛みしめるように俯き、エリックの後ろを追った。

 無事でいてくれよ。そんな風に思いながら。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ