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アトラクシアの死闘  作者: 夜乃 凛
第六章 水の都アルカディアへ
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44話 あるいは最後の夜

「話せることはこれくらいか」


 エリックが茶をテーブルに置いた。液体の飲み干された白いカップのみが残る。


「そうでしょうね。後は目的地で判断するしかないでしょう。もう今出来ることは、休むことだと思います」


「そうだな、ローエン。明日に備えてみんな休むべきだろう。すまないラウエス。長にすぐにでも会いに行きたいだろうに」


「いいえ。私がアトラクシアから離れて少しだけ時間がありましたし……長、オルベンはきっと生きている気がするのです。希望は捨てません。明日必ずアトラクシアを救います」


 ラウエスは透き通った瞳をしながら答えた。未来を見つめる瞳。


 集まった五人の人間。その中でもエリックとラウエスの想いは強かった。

 恋人を救うため。故郷を守るため。譲れない想いがある。

 ローエンとシノ、それにクアミルにも秘めたる思いがある。

 しかし全てはアルジャーノに勝つということが必要だ。

 五人の人間は解散した。翌日の、忘れられない戦いに想いを馳せながら。



 その日の夜。エリックはベッドで上半身を起こしていた。宿屋の一室だ。エリック一人で使っている。煉瓦造りの壁に張り紙がしてある。何かのメニュー表のようだ。


 彼は眠れなかった。

 身体の調子を確認する。悪くはない。野盗に殴られたダメージが薄くて安心した。

 彼の睡眠を妨げているものは一つだった。恋人、クスハのことだ。

 前に顔を見たのはいつだっただろうか。旅に出てどれほどの時間が経ったか。

 しかしエリックはクスハの顔を鮮明に思い出せる。笑顔を思い出せる。苦しんでいた顔を思い出してしまう。

 アルジャーノさえ倒せば。倒せば未来はある。クスハと共に手を取って歩いていける。

 頼もしい仲間の顔を思い出す。最初に浮かんだのはローエンの顔だった。

 ローエンはいつだって冷静だ。いつも自分を助けてくれた。そして、皇帝の棺という幻想が消えた今でも、共に旅をしてくれている。なんの見返りもないのに。それがどれほど頼もしいことか。


 エリックはローエンが理想を叶えられると信じていた。莫大な財宝が無くても、ローエンは必ず理想の街を作り上げるのだろうという確信があった。旅の途中で感じたことだ。仲間思いで信念がある。

 その頼もしいローエンにエリックは全力で頼り気持ちだった。こんなに頼れる仲間はいない。シノにしてもそうだ。確かに砂の都ノーバイドで穏健派の手伝いはした。だが、旅の仲間にまでなる必要はないはずだ。クイナの命令とはいえ。

 シノの影渡りは必ず必要な戦力になる。それに、シノは言葉に棘があるが根は優しいのだと感じていた。


 ラウエスとクアミルもついてきてくれる。二人のことはまだほとんどわからないが、目的地は一致している。

 新しい人物と会うのが斬新だった。そして出会った人に恵まれた。ラウエスもクアミルも優しい人間だ。

 一人きりで砂の都ノーバイドへ向かっていた自分を思い出すエリック。

 皇帝の棺に囚われ、なにもわからなかったエリック。旅で出会った人たち、そして天秤の鳥がエリックを導いてくれた。


「寝ないといけないな」


 エリックは低く呟いた。寝なければならない。明日で全てが決まるのだから。

 みんなはもう眠っているだろうか。

 そんなことを思いながらエリックはベッドに横たわった。


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