40話 絆の紐
「その通りです。私は長に言われました。誰かに救いを求めてくれと。どうしたらいいかもわかりませんでしたが、アルジャーノを倒すつもりなら私も連れて行ってください。街も守りたい。そして救ってくれた恩返しをしなければなりません。あなた達は私を見捨てなかった。それが今ではどれほどありがたいことか。私は空を飛べます。必ず役に立って見せます。お願いします。私も共に」
ラウエスは深く頭を下げた。
「まずはちょっとペガサスの姿になってほしいですね」
クアミルは状況を頭の中で整理しながらいった。大前提として、ペガサスになる姿が見れなければ話の信憑性は薄い。
エリックもクイナの教えの通り情報を鵜呑みにしなかったが、ラウエスは嘘をついていないと感じていた。
「外に出よう」
エリックはそう言って最初に部屋を出た。ローエン、クアミル、ラウエス、シノが後に続く。ラウエスはもう動けるようだ。
薬師ギルドの外。時刻は夕刻でオレンジ色の空はどこか終末を感じさせた。
白煉瓦の作り建物がいくつも見える。夜が近づいており住民の数はまばらだった。
エリック達は並んでいる。
ラウエスは数歩前に出た。
「ペガサスになってください」
エリックはラウエスに声をかけた。
ラウエスは深く頷き、天を見た。
僅かな光がラウエスから発せられた。
みんなが少し眩しいと思った直後、ラウエスの姿は綺麗な白いペガサスへと姿を変えていた。
ペガサスの顔がエリック達を見る。背中には綺麗な翼が生えている。
「これは僕も驚く」
「どうやら……事実を話してくれていたようですね。まさか幻獣を目にすることになるとは思いませんでした。美しいペガサスですね」
クアミルも動揺していた。生まれてから一度も見たことがない。
「恐らく、真実を話してくれたのはよほどの覚悟があったのでしょうね。簡単に秘密を漏らしてしまってはアトラクシアを狙う者が後をたたないでしょう。我々が信用されているということでしょうかね。しかし、ペガサスとは」
ローエンは驚きと同時に、綺麗なペガサスの姿を美しいと思った。
ラウエスは再び元の人間の姿に戻った。自在に変身出来るようだ。
「これが私の真の姿です。信じて……もらえましたか……?」
「ええ」
エリックは頷いた。そして彼は先を見据えていた。アトラクシアという目指す目標が出来たからだ。
夕焼けの空。その光がみんなを照らしている。
「みんな、俺はアトラクシアに行こうと思う。アルジャーノを倒すしかない。そして居場所も突き止めた。ただ、ついてきてくれとは言わない。ラウエスの言う通りならアトラクシアには操られた人間と強力な部下がいるはずだ。幻獣と魔物が協力して戦って負けたのだから、相手はかなり手強い。みんなにまで危険を冒させるつもりはない。俺の目標のための旅だからな」
「私は行きます。戦う力は弱いですが、空を飛べることで少しは役に立てるはずです。アトラクシアまでの道案内も出来ます」
「ありがとうラウエス。ローエン、シノ、今までありがとう。一人だけの旅だと思っていた。しかし仲間が出来た。俺はお前達に受けた恩を忘れない。本当に、世話になった」
「……怒るよ?」
シノは不服そうな表情を浮かべていた。
「怒る?」
エリックは首を傾げた。
「一緒に行くに決まってるだろ!穏健派のために戦ってくれたじゃないか。今度は僕が借りを返す番なんだ。それにクイナ様に一緒に行くように言われたんだ。エリックは危なっかしくて見ていられない。強い仲間が必要だろ?僕は強いんだ。嫌がっても無理やりついていくからな」
「まったく同感ですね。エリックは危うい。仲間たちのために街を作ることが私の目標ですが、私はエリックが目標を達成するまで付き合うつもりです。この旅が終わってから街を作れば良い。私はクスハさんの喜ぶ顔が見てみたい。それに、エリックの喜ぶ顔も。戦力に数えられていないのは正直心外でしたね」
ローエンも不服そうである。
エリックは仲間たちの言葉に喉を詰まらせた。
感謝の気持ちしか浮かばなかった。
独りじゃない。
それがどうしようもなく嬉しかった。
「みんな……ありがとう」
皆の支えが頼もしかった。アトラクシアに挑みに行くのは無謀かもしれない。
しかし、この四人なら勝てるかもしれない。そう思った。




