4話 シャガール王の呪い
エリックは村で一番知識のあると噂されている賢者の家を尋ねた。木製の家で近くに滝がある。村の外れの家。その家のドアは開きっぱなしになっていた。まるでエリックが来るのをわかっていたかのように。エリックは家の中に入る境界まで近づき中に声をかけた。
すると中から声が聞こえた。入るがよい。そう聞こえた。エリックは躊躇なく家の中に入った。
中は暗い。正面の高いところの窓と入ってきた入り口からしか光が通っていない。
右手に賢者が座っていた。エリックに背中を向けている。机で何か書き物をしているように見えた。
「エリック君かな?」
「そうです。賢者様、クスハの病が治りません。何か知恵はありませんか?もう打つべき手がないのです。俺はどうしてもクスハの病を治したい。例えどんな手を使っても。どんな悪魔になっても」
「クスハ君のことはよく聞いているよ」
賢者は姿勢を変えない。
「何か知識はないのですか?クスハを治すことが出来ませんか!?なんでもします!!彼女は死ぬには早すぎる!!俺が死んでも構わない!!」
「あのアザは呪いのアザだ」
「原因を知っているのですか!?」
「そうとも」
賢者はエリックの方を向いた。皺だらけの顔。しかしその顔の紫の眼光は鋭かった。
「アザについて教えて下さい!!クスハは治るのですか!?」
「残念だが……。クスハ君は残念ながら治らない。空咳をしながら黒いアザを持った人間が治療されることはない」
「そんな馬鹿な……しかし何故治らないと断言出来るのですか?あの黒いアザはいったいなんなのですか?」
「黒いアザは初代皇帝の呪いなのだよ。シャガール王の」
「皇帝の呪い……?」
「そう。皇帝の棺を知っているかな?」
「……話だけなら」
「そうか。シャガール王は地獄から呪いを現世に撒いたのだよ。人間が不幸になるように。シャガール王は確かに大陸の覇者の皇帝だった。しかし死因は仲間に裏切られたことだと書物が教えてくれる。シャガール王は死の間際も死んだ後もこの大陸の人間を恨んだ。そのシャガール王の呪いなのだよ。誰が呪われるのかはわからない。しかしクスハ君はシャガール王の呪いを受けてしまったのだろうな」
「呪いを解除する方法は?」
「ない。しかし……皇帝の棺を見つければ、あるいは」
「実在するのですか?助かる手段があるのですか?」
「わからない。しかし私は実在するのではないかと思う。年寄りのうわ言だが……。シャガール王に関する書物がいくつかある。持っていって家で読むといい。クスハ君の病とシャガール王がどう関係しているのかしていないのか」
賢者は椅子から立ち上がり壁の本棚の中から緑色の書物を数冊取り出した。最初から決められていたかのようにスムーズな動きだった。そして書物をエリックに手渡した。
「よく調べてから自分の道を決めなさい」
賢者のよく響く声だった。
「お借りします。ありがとうございます」
賢者から書物を受け取ったエリックはそれを持って賢者の家から早足で去った。
シャガール王の呪い。
解けるのか?
何故クスハが……。
この受け取った書物から手がかりが得られるだろうか。
エリックは下を向きながら歩いた。
それを見守っていた賢者は不気味な微笑みを浮かべていた。