35話 その生命助かりうるか
枯れ木の廃墟を出たエリック。ローエンのシノの姿は見えない。
見える景色はとても綺麗なものだった。綺麗な空。視界を遮るものはない。なだらかな草原が続き、どこまでも緑が繋がっているように見えた。自然が豊かだ。川が左側に流れている。エリックの足元にタンポポが咲いている。そして、ご丁寧に道が作られている。この道を進めば水の都アルカディアにたどり着くのだろう。
エリックは走り続けた。ローエンとシノに合流しなければならないのと、解毒薬を使わないといけないためだ。
体の様子を確認。ゴードの拳をくらい吹き飛ばされた体は、まだずきずきと傷んでいた。
そして足。毒のダメージがエリックを襲いつつある。額から少し汗が出ている。しかしここで走らなければゴードの追撃を受ける可能性がある。とにかく距離を取らなければならない。エリックは道を走り続けた。
エリックが走り続けてしばらくしてから。エリックの視界に人影が映った。ローエンとシノだ。エリックは安堵した。二人に向かって走る。ローエンは女性を担いで早足で移動していた。
ローエン達も後方のエリックに気がついたようだった。敵の追撃に気を払っていたためだ。周りにはエリック達以外いない。
「エリック!」
シノがエリックに駆け寄った。
「大丈夫か?」
「ああ。すまないが解毒薬を出してくれ」
「毒を浴びたのか!?」
シノは慌てて解毒薬を取り出しエリックに手渡した。エリックはそれを受け取ると即座に飲み干した。
解毒薬が体に染みる。足の違和感はなくなった。
「ありがとう、もう大丈夫だ。しかし、野盗全員は倒していない。もしかすると追撃されるかもしれない」
「何人追いかけてくる?」
「最悪三人」
「四人は倒したのか。三人なら追撃されても大丈夫だ。ここなら影渡りだって出来る」
「しかし結構手強い相手だ。アルカディアへ急いだほうがいい。ローエン、女性の様態は?」
「よくありません。なんとか呼吸はしていますが、浅い呼吸です。呼びかけ続けてはいますが」
ローエンは女性を担いだままだ。女性の姿はひどく弱々しく見えた。
「生きているんだな。急ごう!アルカディアへ!」
エリックはローエンを追い抜いてアルカディアへの道を踏み出した。ゴードから受けたダメージは消えてはいない。しかし痛がっている場合ではない。水の都アルカディアまでたどり着けば救える命があるかもしれないからだ。女性を担ぎながら進むローエン。後方を警戒するシノ。
どこまでも綺麗な自然の中で、一つの命の灯火が消えるかもしれない状況だった。




