33話 時間制限の中
枯れ木の廃墟を進むエリック達。エリックが担いでいる緑の髪の女性の息は荒い。だがまだ生きている。解毒薬が少しでも毒の進行を抑えているのかも知れない。紫に腫れ上がった手足が痛々しい。
枯れ木の廃墟の出口に近づけば強い光が差すはずだ。鬱蒼とした廃墟を進む。枯れ木と毒沼。そして黒い植物。暗い雰囲気。
「気をしっかり持って!アルカディアはもうすぐです!」
エリックは歩きながらも女性に声をかけ続けた。女性は返事をしない。しかし、瞳に僅かに光が灯っているように見えた。
歩いているその時。外の強い光が見えた。アルカディアへと続く廃墟の出口。
見えた。エリックの歩む速度がさらに速くなる。
しかし同時に、人影が見えた。外の光に照らされた人間が立っている。数は見えている範囲では七人ほどか。
武装している。エリック達を見つめている。
エリックは女性を担いでいて戦闘態勢を取れない。ローエンとシノがエリックを守るように前に出た。
一方、相手側はエリック達の人数を把握して襲いかかろうとしていた。
野盗だ。アルカディアへ向かう旅人を待ち伏せしている。
エリックは唇を噛んだ。ここで時間を取られるわけにはいかない。誰かが野盗の相手をするしかない。
シノの特技を思い出した。影渡り。外の光があるとはいえ、まだエリック達は枯れ木の廃墟の中。人間の影は出来づらい。影渡りが効果を発揮しない。シノがここで戦うのは危険だ。パーティーの中で一番体格がいいのはローエン。
「ローエン、この女性を担いでアルカディアまで行ってくれ。シノはローエンを守ってくれ。野盗の相手は俺がする。走ってここを抜けてくれ。必ず後で合流する」
「危険だ!全員で戦うべきだ!相手は見えている範囲で七人はいるぞ!」
「ここで時間を取られるわけにはいかないんだ!」
「この女性を助けるにはそれしかありません。シノ、行きましょう。エリック、必ず無事で合流すると誓ってください」
「この剣にかけて誓う」
「わかりました。必ずアルカディアまでこの女性を送り届けます」
「頼む」
エリックはローエンに女性を預けた。ローエンが背中に女性を担ぎ込む。そして前へと。野盗に臆さず歩みだす。光る出口。立ちはだかる野盗。野盗達は皆、黒の装束を着ていた。中に鎖かたびらを仕込んでいるかもしれない。
野盗達は交渉するつもりはないようだった。武器を抜いている。脅して荷物を奪い取る野盗もいるが、この者たちはエリック達を殺して奪い取るつもりのようだった。
身軽になったエリックが剣を引き抜く。銀の剣。時の剣。ローエンとシノの前を走る。
「道を開けろ!!今逃げれば命までは取らないぞ!!」
エリックの最後の忠告。しかし野盗達は襲いかかってきた。
ローエンは出口に向かって女性を担ぎながら走った。ローエンを守るようにぴったりとシノが走る。
「俺の役目は敵の全滅と、敵の注意を引くこと」
呟くエリック。
ローエン達より速く前に進み出る。野盗が正面に一人。左右にそれぞれ三人ずつ。
まず正面の野盗へ。相手は剣を振るおうとしたが、エリックの時の剣がそれを許さない。
体を切る。振っている間に止まる時間。相手は何も出来ずに体を切られ倒れ込む。
まず一人。しかし左右から合わせて六人襲いかかってくる。
六人を一気に相手にすれば苦戦は必死だ。左右どちらかを先に潰すべき。
エリックは左を選んだ。左の三人に向けて体を跳ねる。
ローエンとシノは出口へ。誰も追ってきていない。枯れ木の廃墟を抜けられる。
シノは少し振り返った。
「死なないでくれよ」
そう呟いてローエンと共に走った。ローエンも同じ思いだった。




