31話 素直になりましょう
砂地を歩いていくエリック達。砂埃は容赦なく舞っているので目に入らないように気をつけなければならない。幸い天候はそこまで暑くなかった。心地よいとも言える。
迷わないように羅針盤を手に。枯れ木の廃墟へ一直線だ。
「ローエン、助けてくれるのは嬉しいが、お前の夢は……」
「諦めてはいません。生きていれば必ず実現できる日が来ます。例え財宝が手に入らなくても。無駄に終わるかもしれません。しかし人の意志の強さを私は信じています。この旅が終わったら、自力で少しずつでも街を作ります」
「出来るよ」
シノは目を瞑り微笑しながらいった。
「出来る」
もう一度言うシノ。
「ありがとうございます、シノ。あなたはいい子ですね」
「また子供扱い?僕は20歳だぞ」
「いえ、いい子であると伝えたかっただけです」
「そ、そうか。それならいい。応援しているからな、ローエン」
頬を染めつつローエンの肩をぽんと叩くシノ。照れ隠しである。
「ローエンは強いな」
エリックは仲間の様子が微笑ましくて笑ってしまった。
一人で旅をしていた時は笑顔などまったくなかったエリック。仲間の存在が彼を変えつつあった。
一人じゃない。
それがエリックにとってどれほど安らぎを与えたか。
エリックは運命と仲間たちに心の中で感謝した。
ありがとう。こんな俺に……。
「む、あそこに誰かいるな。行商人……かな?」
シノは手を額に添えながら視線を前に向けた。
視線の先に人間とラクダが見える。どうやら一人のようだ。
「話しかけてみようか」
エリックは人間とラクダに向かって歩いていく。どの道進行方向と同じ位置にいるので鉢合わせする形だ。
ラクダを連れた人間はエリック達に気づいた。そしてエリック達の方へと近づいてこようとした。ラクダをなんとか引っ張っている。
「こんにちは。旅の者です。あなたは?」
話しかけられる距離まで移動したエリックが話しかけてみた。
「あ、こんにちは。私は行商人です。しかしこの辺りは人通りが極端に少なくて困ったものです。あーあ。何か買っていかれますか?いや、むしろ買っていただきたい」
「僕に品物を見せて。買い物は好きなんだ」
「無駄な出資は控えるべきです」
「う」
シノは固まった。ローエンが言うと言葉の重みが違う。彼は奴隷身分から脱出するのにどれだけ苦労したことか。
「見るだけなら無料だ。品物を見せてください」
エリックはシノと同じ意見のようである。
「そこのラクダが品物を下げています。見ていってください」
行商人はラクダを指差した。ラクダは袋を下げてのんびりとした表情をしていた。
「あ、フルーツがある。バナナだ」
シノは袋の中身を覗いている。エリックとローエンも同じく袋の中身を見ている。
「ねえ、僕バナナは美味しいと思うんだ。栄養もあるし味が美味しい。携帯食料にもってこいだし買ったほうがいいと思うんだ。絶対に買ったほうが役に立つ。食べたいからって理由じゃないからな。バナナは黒ずんでいると甘いんだぞ。食べたいからじゃないからな」
「バナナを買うよりこの解毒薬を買ったほうがいいですね。解毒薬は珍しい。枯れ木の廃墟には毒沼があると聞きます」
ローエンは袋の中の解毒剤を取り出した。
「解毒薬か。それなら俺も賛成だな。旅に必要なものはあったほうがいい。毒沼のことを考えれば尚更だ。この解毒薬はいくらですか?」
「お目が高い。一個10レシルです」
「10レシル」
ローエンは目を瞑って考え込んでいるようだ。
「バナナは?」
シノがいった。
「バナナは一本2レシルです」
「解毒薬を3つください。いいだろう二人共?一人一個持てるようになる。絶対に役に立つはずだ」
エリックがローエンとシノの方を見ながら言った。ローエンは渋々頷いた。
「バナナは?」
シノは袋の中のバナナを見ている。
エリックは淡々と行商人に30レシルを手渡した。満面の笑顔の行商人。
「毎度ありがとうございます。いや、本当に客がいなくて困っていたので……少しは稼ぎになりました」
「助かりました」
エリックは解毒薬を3つ手にしながら行商人に頭を下げた。
「バナナは!?」
シノは袋をまだ見ている。エリックとローエンはもう先へ進もうとしている。
「無視するな!買うぞ!買ってしまうぞ!いいのか!」
「バナナなら水の都に行けば簡単に手に入ると思うな。置いていくぞシノ」
「そ、そうか……ごめんなバナナ……さよならバナナ……」
シノは袋の中身を見るのを止め、苦渋の表情でエリック達の後を歩きだした。
「食べたかった……」
「聞こえているぞ」
エリックは笑った。シノはエリック達に抗議した。




